『私の当たり前』
誰にだって自分の決めたルールに基づいて生活している
それは所謂、社会の暗黙の了解や法律、またはモラルなど
様々な要因から成り立つルールであり、当人の常識と言っても
差し支えないのかもしれない
そして、当人の常識とは人の数だけ解釈があるものだ
世の中には信じられないが、
自身の利益という利己的な目的の為ならば、
他者を犠牲にする事すら躊躇わない者がいる
犯罪者、非常識、無法者、こうした人間は確かに存在している
愚かしいと思うかもしれない
馬鹿馬鹿しいと内心で嘲笑うのかもしれない
理解の範疇を越えた者に対する差別と侮蔑、そして恐怖
それらを決して正そうとしてはならない
親切心かもしれない、正義感かもしれない、
けれど彼らには彼らのルールがあり、彼らの当たり前がある
その日常が壊される時、何が飛び出してくるかなど
当人以外には分かりはしないのだから
『この道の先に』
何処までも続くか細い道
道は常に闇で覆われており、その先を伺い知る事は叶わない
足を踏み出しても其処に道があるとは限らない
奈落の底へ落ちるかもしれない
かと言い、後ろを振り返ってみても
前と同じように暗く先の見えない道が続いているだけ
それが辿ってきた道であるという確証などあるはずも無く、
戻る事も進む事も出来ず、ただ其処に立ち尽くすしかない
何時からこうしているのか、何時までこうしているのか
先の見えない道、未知が蔓延したその先をただただ恐れ、
有り得もしない美しい未来を夢見る訳でもなく
過ぎ去った輝かしい過去を惜しむ訳でもなく
今この瞬間すらを逃避するべく、この道の途中で一人立ち止まる
『赤い糸』
その糸が運命の人と私を本当に結んでいるならば、
どうして他の誰かとも複雑に絡み合うのだろう?
相手が決まっているならば、
始めからその人の元へ行けば良いだけで
それ以外の人間と恋に落ちて
運命の人だと錯覚する必要なんてきっと在りはしないのに
小指に絡まる見えない糸を爪の先でピンと弾く
何処まで続いているかなんて分かりもしないこの糸の先
でもまぁ、少なくとも今の相手は
運命の相手じゃないのかなと何故かそう感じる
根拠も理由も何も無い、漠然とした意識の中でそう思っただけ
じゃあ誰がと問われてもそんな事、分かりはしない
でも、そんな私にすら分かることが一つある
それはまた別れの苦しみを味わう事になるって事
『ここでないどこか』
しんどい、辛い、苦しい、
胸の内から汲み上げる感情が溢れ出し、
今朝の朝食だったものと共に胃から逆流する
誰も居ないトイレの個室で浅い呼吸の音だけが木霊している
胃の中が空っぽになったって、
この感情も一緒に無くなる事など有り得る筈もなく、
僅かな解放感の後に、また不愉快な悪感情が心身を蝕む
口内に広がる僅かな酸の匂いと、えぐみを伴う酸味に
また胃から何かが込み上げてくるのを感じて、
それ追い出すようにしてまた便器にしがみつくようにして、
胃から戻って来たものを吐き出した
出すだけ出して、やっと立ち上がれるようになる頃には
身体中から汗が吹き出し、意識が朦朧とし始めていた
個室を後にし、手洗い場で手と口を濯ぐ
腕時計が示す時刻はとっくに一限目の授業時刻を過ぎており、
廊下は閑散としていた
いつからこうなったのか、そんな事もう思い出せもしない
ただ、昔は普通の生活を送れていたはずなのに
それがもう貴重な体験だったかのようにすら感じてしまう
行き場を失った者は何処へ向かうべきなのか
辿り着く場所は分からないけれど、
たった一つ確かな事、
それはきっと『此処では無い何処』であるという事だ
『日常』
それは、ありふれたもの
ごく普通に享受する何気の無い時間
気にも止まらぬ程、当たり前のようにそこに在る
故に、気付かなければならなかった
それが掛け替えのないものだという事に
平等に与えられた最高峰の幸福であったのだ、と
賽は投げられた
出来る事はその目を静かに見つめるのみ
大地に蒔かれた盆の水は元に戻る事は決して無い
失った「日常」は二度と戻らない