『香水』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
匂いは記憶と結びつきやすいと言う
つまり匂いを纏うという事は、記憶を纏うという事だ。
「少し気が早いとも思ったんだけど……」
秋の香りを纏って現れた君が言う。
僕は「良い匂いだと思うよ」と返すと、ニコリと笑った。
君が動く度金木犀がふわりと香る。いつかの小道で散歩した景色や、肌寒い空の下交わした言葉が蘇り消えていく。
きっと街角で金木犀の香りを嗅ぐたびに、今日の君の事を思い出すのだろう。
「きゃっ」
短い悲鳴が聞こえ、君はその場から僕の方へと駆け寄ってくる。
足元を見るとひっくり返った蝉が動いていた。遠くではひぐらしが鳴いている。君からは金木犀がまた香った。
なんとも情緒が入り乱れた空間だろう。それが面白くて、思わず笑った僕に君はむくれている。
「君の事を笑ったんじゃいよ」
「本当に?」
「本当さ」
きっとこの会話も、この景色も、音も……金木犀が香るたびに思い出せるかな。
きっと、思い出すだろう。そしてその時にまた、君と話しをしよう。
なんて事無い日常の一欠片の思い出話を。
香りは記憶に直結するらしい。今し方すれ違った人のことを間違えようがないのも、言葉を交わしていないのに思い出がぶわりと呼び起こされたのも、恐らくは変わっていなかった香水のせいだ。一気に心臓を打つ痛み。知らないふりが上手に出来ず、わたしは足早にその場を立ち去るしかなかった。
プルースト効果って知ってる? ──いつの日か、その人が口にした問い。いつも同じ香りを身に纏っているのには、ちゃんと理由があるのだと。その時は面映さから笑ったものだけど、今となっては知りたくなかったとさえ思ってしまう。「いつでも君に見つけてもらえるようにだよ」
わたしはきみを忘れたいのに。脳に染み付いた香りが、いまだに消えてくれやしない。
――――――――――――――――
香水
【香水】
君と同じ匂いの香水を
僕は買おうとしたんだ
でも買えなかった
思い出せなかった
大好きだったあの匂いは
僕にはもう必要ないのかな
「香水」
そろそろ八月も終わりだというのに、太陽に焼かれそうなほどの暑さは衰えることを知らない。この炎天下の中、歩いて家に帰らないといけないなんてどうかしてる。出かけるのをもっと夕方にすればよかったな……。暑さに限界でどこか涼しいところで休もうとあたりを見渡すと、見覚えのない店が目に入った。最近できたんだろうか。ベージュ色の外観で、きれいに咲いた花の鉢植えが飾ってある、こじんまりとしていてかわいいお店。丸いショーウィンドウには色とりどりの硝子の小瓶が飾ってあった。
『本物仕立ての香水売ってます』
立て看板には丸っこい文字でこう書かれていた。どういうことだろう。香水の本場から輸入してるのかな。いったい何が本物なんだろう。興味がわいてきて、涼みがてら店に入ることにした。
店の中は柔らかい白の照明で照らされていて、机や棚に所狭しと香水の瓶が置いてあった。びんの横には小さな紙が置いてあって、香水の説明が書いてある。見てみると「焼きたてのフランスパンの香り」とか「摘みたての苺の香り」とか「お菓子屋さんを通りかかったときにするバターの香り」とか、普通の香水にはないような香りが多い。というか、焼きたてのフランスパンの香りを漂わせている人ってどうなの?嫌な香りではないけど、なんだか不思議なお店。
「いらっしゃい、可愛いお嬢さん。香水に興味がおありかい?」
店の奥から白いひげを蓄えたちいさなおじいさんが出てきた。まるで白雪姫に出てくるこびとみたい。店主だろうか。
「そこはおいしい香りのコーナーだよ。気になるのがあったらかいでみるといい」
正直どんな香りなのか気になっていたので、「摘みたての苺の香り」のテスターをかいでみた。
そっと鼻を近づけた瞬間、さわやかで甘酸っぱい苺の香りが鼻を通り抜けた。甘いだけじゃなく、うっすらと葉っぱの少し青臭い香りと土の香りもする。しかしそれが苺の香りを邪魔しているのではなく、まるでたったいま苺狩りをしていて苺を摘んだかのように感じるのだ。
「す、すごい……」
思わず声が漏れた。これが本物仕立てという意味なのか。日常の一コマからそのままもってきたような、自然の香りだ。
おじいさんが自慢げにうなずいた。
「ふふふ、そうじゃろう。私が世界各地を飛び回って見つけたとっておきの香りをつかっておるからね。他にもいろいろあるよ。これとかどうかね。若いお嬢さんにはちと地味すぎるかな」
おじいさんがさしだした瓶には「夏の森の中の香り」とある。
そっとかいでみると、木々や草、岩やかすかな水の香りがただよってくる。においをかいだだけなのに、マイナスイオンというのか体が冷えて涼しくなるように感じる。本当はそんなことないのに、今夏の森の中にたたずんでいるような気持ちだった。
感激している私を見ておじいさんがほほえむ。
「本物の香りを閉じ込めて作ってあるから、いい香りがするじゃろう。すぐ香りが消えてしまうのが玉に瑕じゃが、気分転換に使う分には問題ないよ」
「だから本物みたいな香りがするんですね」
いいながら店内を見渡すと、店の端っこに隠すようにおかれた小さな棚を見つけた。そこにもたくさんの香水がおかれている。私が小さな棚に近づくと、おじいさんは嬉しそうな顔をした。
「おお、その棚に気づいたか。そこはちょっと癖があるがいい香りが集まっておるぞ」
「古びた遺跡の香り」、「新築の香り」、「鉛筆を削ったときの香り」などなど、確かに癖が強いものが多い。嫌いな人もいるけれど、癖になってついかぎたくなっちゃう人もいるような香りたち。
試しに「古びた遺跡の香り」をかいでみたら、じめっとして土や苔の入り混じった香りがした。古い、こもったような、でも歴史を感じる重厚な香り。
店の中を一通り見た時には、私はすっかりこの店を気に入っていた。一番気に入った「夏の森の中の香り」を持ってお会計に向かった。
おじいさんは私が選んだ香水の瓶を愛し気に撫でる。
「お嬢さんはお目が高い。この香りはわたしのお気に入りだよ。世界中の森を探して手に入れたんだ。大事にしておくれよ」
「ええ、もちろんです」
深緑色の袋に入れられた香水を持って、私は微笑んだ。
「また、来ますね」
外は相変わらずうだるように暑かった。でももう嫌じゃない。暑い時にこそ、今日買った「夏の森の中の香り」の出番なんだから。明日出かけるときにはこの香水をつけていこう。憂鬱だったお出かけが少し楽しみになった。
香水
ジャンポールゴルティエが君が好きだと言ったから、買いもしないで♥︎リストに入れてある。
ただの友達。
【香水】
秘密の時間を彩るのは、かすかなオーデコロンの甘さ。
あの人に不満はないけど退屈なのだから仕方ない。
彼と会うのは長くても二時間。香りが消えるまでの約束。
だから、これは浮気なんかではなくただの遊びなの。
「おかえり。今日は遅かったね」あなたが微笑む。
淹れてくれたコーヒーを飲むと、平和だなって思う。
この穏やかな時間を守りたい気持ちは本物。
だけど少し、ほんの少しだけ刺激が足りない。
友達と遊ぶと伝えて出掛けた日、私は彼に会っていた。
オーデコロンを手首に吹きかけ、香りを確かめる。
柑橘系のすっきりとした爽やかさが鼻をくすぐる。
いつもの花の甘さもいいけど柑橘系も悪くないな。
大学生の頃から香りを纏うのが好きだった。
オーデコロンからパルファムまで、いろんな濃度を。
花や果物、ムスクにバニラなど。いろんな甘さを。
彼からのプレゼントが一つ増えても気づかれない。
「なんか、良い匂いがするね。柑橘系って珍しい」
好きな香りだと呟いて、あなたは頬をほころばせる。
他の男が選んだものだと知りもしないで嬉しそう。
「またつけるね」あなたの前ではないかもしれないけど。
永遠よりも時間に限りがあるほうが気持ちは高まる。
あの柑橘系のオーデコロンをつけるたび、彼を思い出す。
つい声を聞きたくなって、電話したのがいけなかった。
廊下で物音がして、部屋を出たらあなたがいた。
穏やかな日々に飽きてしまうのは退屈に思えるから。
そんな退屈を幸せだと思えないのは、私が悪い。
裏切りを知っても手放せないらしい。あなたは沈黙する。
何も知らない顔で、「良い香りだね」って微笑んでいる。
とても鼻が効くんだよ
室内なら、5分前にいた人の
匂いも嗅ぎ分けられると思う
だから香水なんてつけた人が
クローゼットとかベッドの下とか
隠れてもわかるから
アリバイ作りに香水は使っちゃダメだよ
荷物になると置いてきたのは
上履きだけじゃなかったみたい
二度と戻れないあの青い日々
熱気の籠った廊下に響く声
夢呟いて 待ってた
当たり前の日々は写真にはなくて
くだらない出来事さえ宝物だと
気づかなかったくらい全力だった
カウントダウンが終わるまで
忘れぬように
大人になったらあれがしたいと
それぞれの未来思い描いてた
自分の道が上手く分からず
目を逸らした先には青い空
ためらわずに 進め
当たり前の日々に名前はいらなくて
毎日が楽しいってことだけでいい
生き急いでいて大事なものを
いつの間にか見落としていた
単純でいい 焦らなくていい
昨日よりも少しだけ進んでいればいい
自分らしく 楽しめ
当たり前の日々は写真にはなくて
くだらない出来事さえ宝物だと
気づかなかいくらいに全力でいこう
カウントダウンが終わるまで
忘れぬように
【香水】
なんのにおいだろ。
なんかつけてる。でもアルコール臭くない。鼻はいいはずなんだけどな。なんか落ち着く墨みたいなにおい。
スンと鼻を鳴らすと、ちょっとびっくりしたみたいに、目を見開く。多分他の人には分からないくらい些細な反応。最近やっと分かってきた表情の変化。近くにいる自分だけの特権みたいで嬉しい。でも秘密にしてるみたいだから、気づかないフリをする。
「いいにおいがする」
「うん?」
ほら目尻が下がった。いいにおいがするから、少しくっついてみるね。
金木犀の鮮やかな香りがした。
その香りは君を思い出す。
懐かしく、でも少し寂しい気持ちになる。
#香水
お題「香水」
正直苦手
普段あまり嗅ぐことがない分
出会ってしまうと
慣れない香りは強く感じてしまう
シャンプーのあのほのかな香り
あれくらいが安心する
シトラス。
フローラル。
オリエンタル。
私が惑わしてきた香り。
私を惑わしてきた香り。
「あなたと一緒がいいから、私も買ってみたの」
「○○のために、自分もこの香水を買ったんだ」
そこに愛情なんてない。
全てはお金目当て。
そんな目的をもくらませる、刺激的な香りがもっと欲しかった。
私だけを見つめてくれるような香りが、本当は欲しかった。
〜香水〜
叔母さんが昔、海外旅行に行って買った香水を母に寄越した。
母が手首の裏に付けたのを嗅がしてくれたが
匂い云々以前に、そのキツい香りでむせてしまった。
母も余り好みではなかったようで、さてどうしようとなり
結局見た目のよさで、トイレの窓辺に飾っとくことになった。
恐るべきことに、ただそこにいるだけで匂いを放ち
芳香剤的な役割を担っているようだった。
それから半年以上経ったある日、兄夫婦が家に来た。
車で2時間以上かかる距離の為、着くなり二人とも
トイレに行った。
その後しばらくしてから私もトイレに入った。
いや、トイレの扉を開けた瞬間
「ガハッ!ゲヘッ!ゴホッ!」
兄も義姉も消臭剤と思い、大量に撒いたらしい。
トイレに飾られたのが余程不本意だったのか…
半年以上も経って、香水から恐るべき報復を受けた。
『香水』
香りを纏う。
少しの私が隠れる代わりに、私の好みを周囲に知らせる。
花の香りは益虫を呼び。
ハーブの香りは害虫避けに。
これは一つの選別なのだ。
私にとって益となる人。
私にとって害となる人。
私と嗜好が似た人を、香りを纏って惹き付けるのだ。
【香水】
満員電車の中、ふと香水の香りが鼻をかすめた。知っている匂いだ。
匂いは、簡単に記憶を引き出す、形の無い鍵のようなものだ。もう二度と開けたくなくて厳重に封をしたつもりでも、そよそよと流れてきたかと思うと、いとも簡単にその箱を開けてしまう。厄介な存在だ。
マコトは顔をしかめた。脱サラして以来、めったに満員電車には乗らない。こんなのに毎日乗って出勤していたという事が嘘のように思える。誰もが屠殺場に送られる家畜のような顔をしている。男性たちは痴漢の冤罪に怯え必死に両手を上げ、女性たちは中年男性に挟まれるとあからさまに嫌そうな顔をする。小さな子が騒ぎ、母親が肩身の狭そうな表情を浮かべる。電車でのマナーを知らない外国人が大声で会話しているのを聞くと、なぜか内心ホッとしていた。
なぜわざわざこんな時間に電車に乗っているかというと、午前中で完売してしまうというパン屋のスコーンを買いに行くところだからだ。脱サラして開いたカフェはコーヒーだけでやっていこうと思っていたが、特にバリスタの大会で賞を取ったとか、そういう「箔」がついてないと厳しいようだ。それで、何か軽食を出そうと思案、情報収集している。
(香水の匂いは苦手だな…)
それも、満員電車が嫌いな理由の一つだ。一つ一つはいい香りなのかもしれないが、複数の香りが混ざってしまうと地獄になることがある。
(しかもこの匂い…)
目を閉じると、嫌でもあの人の姿が思い浮かぶ。華奢で小柄な体つき。お嬢様育ちで世間知らず。弱くてどうしようもない人。
ちょっと胸が苦しくなりかけた時、アナウンスが聞こえた。降りる駅だ。
人混みにもまれながら電車を降り、駅を出る。目的のパン屋は徒歩10分程度だ。近くまで来ると、焼き立てのパンの匂いが辺りまで漂っている。マコトは少し立ち止まってパンの匂いを肺の底まで吸い込んでから、店内に入った。
店内にはところ狭しとパンが並べられている。今日の目的はスコーンだが、マコトは他のパンもいくつか買っていくことにした。サンドイッチにできそうなバケット、子供の頃から好きなメロンパン、イングリッシュマフィンにクロワッサンもある。店内にイートインのようなスペースはない。
パンの焼ける匂いは人間を幸福にすると思う。子供の頃、母と姉が何度か作ってくれたバターロールを思い出す。妹はまだ小さくて、いつも手をベタベタにしながら食べていたっけ。それをティッシュで拭いてあげるのはマコトの役目だった。そんな妹も今は大学生だ。
マコトは店から出て、紙袋の中を確認した。
(ちょっと買いすぎたかな)
顔がニヤけてしまう。
(近くのカフェ探してコーヒー飲んでから帰るか。)
もう、あの香水の香りを思い出すことはなかった。
「香水」
棚に香水が置いてある。
手に取る。水色とピンクの淡いグラデーション。
どうしても、欲しかった、あの香り。
君のことを、思い出した。
君は、いつも、あの香りを身にまとっていた。
歩くときも、走るときも、笑うときも。
なにもないようなときにも。
だから、あの香りが鼻をかすめば、君だ、と分かるようになっていた。
いつか、君に訊いた。
『どうして、いつもその香水を付けてるの?』
君は、ちょっと困ったように、でも、嬉しそうに答えた。
『綺麗だから』
そのまま、押さえきれないように、笑いだした。楽しそうに。
何が綺麗なのか、何が面白いのか、僕には分からなかった。
それから、君がいなくなって、どのくらいの時間がたったのだろうか。
適当にショッピングモールに入った。
前のように、同行者は居ない。
ボーッとしたまま服を見て、買い物を済ませる。
本を見て、時計を見て、カフェに入って。
でも。
なにかが足りない。
『ねぇ、次はあそこに行こうよ!』
嬉しそうに店を指し、グイグイと腕を引っ張っていった君。
笑いながら、楽しそうで。
迷惑だったけど。だけど。
でも、それが「楽しかった」と思ってしまう僕がいる。
いつの間にか、香水の店の前にいた。
なかに入り、香水を手に取る。
この中に、君の好きだった香水もあるのかも、しれない。
「どうぞお試しください」
そう看板に書かれている。
手に取った香水をワンプッシュする。
使わない、知らない香りが鼻をくぐった。
他の香水を試す。
色々な香水の香りが混じり合い、変な匂いへと変わる。
どうしても、見つけたかった。
ショッピングモールを出る。
結局、見つけることはできなかった。
君は、どこであの香水を見つけていたんだろうな。
どうして、それがほしいと思ったのかは分からない。どこで売っているのか、どの香水なのかすら、知らないのに。
ため息を吐いて、家路に入る。
もうすぐ家に着く。
ドアを空ける寸前。風が吹いた。
あの香水と同じ、香りがした。
夏が過ぎ去り、秋へと移りゆく頃の風が僕の頬を優しく撫でる。
土曜日の街角広場には、子供達が駆け回り、道行く人達の笑い声が響き、優しい陽の光が差す。
向こうから、褐色のトレンチコートに身を包んで、洒落た小ぶりのバックを肩にかた綺麗な女の人が、黒いハイヒールを鳴らして歩いくる。
上品なサイズのフープピアスは歩く度に揺れ、褪せたルージュの唇がクールでアンニュイな人。
ただすれ違うだけだった。
懐かしい香りがほのかに僕の鼻を掠めた。
その時に風さえ吹かなければ、気づかなかったかもしれないと、少しだけ風を恨みたくなる。
大好きだったあの人の香りは、今でも胸のどこかに染み込んで、忘れられない。
_香水_
【香水】
高校生にとって香るものといったら制汗剤とかハンドクリームの、ブランド物に較べたらなんだか素朴な香り。ああそれと…もう一個あった。
少し前を歩いていく君の、あまい柔軟剤の香り。
思い出しちゃうなぁ。
彼が迂闊にも送ってきた結婚式の招待状。
彼がくれた甘い香りを吹きかけて。
行ってやろうと思ってる。
馬鹿なあいつが自分の結婚相手に。
同じ香水を贈っていなきゃいいけれど。
まあ私には関係ないわよね。
【香水】
わたしは香水を付ける人がキライ。
ちまたで人気のあると謳われているものは、どれも品がなくてただきついだけ。
香るという概念を知っているのかと思うほどにおいがきつい。
ほんとうに、香水なんて大キライ。
でも。
それもこれも、すべて言い訳。
一昔前はわたしだって香水を集めていたし、ちまたで人気のものにも何本も手を出した。
蝶の飾りのあるシリーズがスキだったな。
ボトルが花の形をしている華美なデザインの季節限定のものもスキだった。
それもこれもあなたのせい。
あなたに近づきたくて、わたしは香水を集めだしたし、スキになった。
香りなんて、スキになるものじゃない。
昔誰かも歌っていたでしょう?
「街中ですれ違う香りに貴女を思い出した」なんて。
あれが痛いほどわかる。
わたしも、ムスクの香りが流れてくるたび、スキだったあなたを思い出して――吐き気がする。
/『香水』8/31
目と目で通じ合う。
別に色っぽくもないけど、少し気恥ずかしい。
だって同じ顔がそこにあるんだもの。
(あなたは今、何を思っているの?)
鏡の向こうの自分に問いかける。
/8/25『向かい合わせ』
心の健康、とは。
きっと私にとって、するすると手が動くとき。
気持ち的に落ち込んでいるときでも、こんなふうに何かしらアウトプット出来ているのなら、まだ大丈夫。ぎりぎり。
それすらも出来なくなるのなら、それはあぶないとき。
趣味を少しでも楽しめるのなら、もう少しだけ元気な証拠。
/8/13『心の健康』