徒然

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匂いは記憶と結びつきやすいと言う
 つまり匂いを纏うという事は、記憶を纏うという事だ。
「少し気が早いとも思ったんだけど……」
 秋の香りを纏って現れた君が言う。
 僕は「良い匂いだと思うよ」と返すと、ニコリと笑った。

 君が動く度金木犀がふわりと香る。いつかの小道で散歩した景色や、肌寒い空の下交わした言葉が蘇り消えていく。
 きっと街角で金木犀の香りを嗅ぐたびに、今日の君の事を思い出すのだろう。

「きゃっ」

 短い悲鳴が聞こえ、君はその場から僕の方へと駆け寄ってくる。
 足元を見るとひっくり返った蝉が動いていた。遠くではひぐらしが鳴いている。君からは金木犀がまた香った。
 なんとも情緒が入り乱れた空間だろう。それが面白くて、思わず笑った僕に君はむくれている。
 
「君の事を笑ったんじゃいよ」
「本当に?」
「本当さ」

 きっとこの会話も、この景色も、音も……金木犀が香るたびに思い出せるかな。
 きっと、思い出すだろう。そしてその時にまた、君と話しをしよう。
 なんて事無い日常の一欠片の思い出話を。

8/31/2023, 9:38:10 AM