『香水』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
いつもより帰りが遅い
時計を眺めながらジャスミンティーを飲む
彼との初めてのデートで
カフェで飲んだ思い出のティーが大好き
彼が帰ってきた
ただいまもなく真っ直ぐ部屋に行く
その時嗅いだことのない香水の匂いがした
新しく買った?
いや、何か買うときはお互い言うと決めている
もともと持っていたものでもない
となると
まぁあれしかない
最近帰りが遅いし
全然話さなくなった
彼の部屋に行く
「話があるんだけど」
薄暗い電気に
ふんわりにおう嗅いだことのない香水
〈香水〉
「いい匂いだね」
「ありがと。今日、初めて使ってみたんだ」
この日から会う度に
香水がほのかに香るようになった
正直、初めは……微妙な匂いだった
いつしか慣れて
“らしさ”とさえ思えるようになっていた
飽きるくらい
知ってる香り
でも……嫌いじゃない
貴方の存在を感じるから
会えない日々も
微かに香る、貴方の気配
何年と一緒に過ごし
家に染み付いた、その香(か)
いつの間にか
当たり前になった
──貴方がいなくなっても
残り香が思い出を蘇らせる
幸せだった、その日々を──
(2023.08.30/香水)
香水
ほんのちょっぴりだけ
香水を肌に馴染ませる
顔を近づけてようやく香るほどの
微かな甘さ
それでも良かった
あの人が気づくかはわからないけれど
口に出してくれるかは
わからないけれど
それで良かった
香るか香らないかというほどの
微かな恋心
人混みの中鼻腔に届いた香り
あの人の香水と同じ
けれど、足りない
あの人の匂いが混じってない
違う、違う、似ているけれど、違う
どうしようもなく欲してしまう
あのひとの匂いが、味が、肌の感触が
足りない
(香水)
あの人の声も顔も、思い出せない。でもあの人の香水の匂いは、はっきりと覚えているの。すれ違った時に花のような香りがして心を奪われた。会えなくなって1年くらい経つね。元気にしてますか?覚えてますか?
香水
あなたの香水の匂いはすぐわかる。
最初は特別好きではなかったけど、
今はいちばん好きな香り。
お題《香水》
見慣れた町の。
見慣れたカフェの、知らない物語。
翡翠の木々が眩しいカフェテラスの一角。月を淹れたような香水瓶片手に、流暢な語り口調で、その香水の物語を聞かされる。
青いビロードのような瞳を持った、美しい陶器のような彼は、カフェで異彩を放つ。
惹かれてしまった《引かれてしまった》
町の片隅で壊れていた時に、笑顔で、その香水の香りを知ってしまったら――もう、後戻りはできないのだから。
香水
開け放たれた窓から風が吹き込む。
どこからかふわりと香る、君の香水の残り香。
君自身はこの部屋にいないのに、まるでいるように錯覚させる香り。
蘇る記憶。感情。季節。容姿。温度。声。
あまりにも突然の別れ。すぐに理解できなくて。
君の幻に声をかけそうになって、幻聴に応えようとして。
あぁ、君がいなくなったことなんて嘘なんじゃないか?
こんなにも、君の存在が僕の心に染みついているから。
君のことだから、僕のことを驚かそうとして、隠れているんじゃないか?だったら、もう出てきてくれよ。
「もういーかい?」
僕以外、誰もいない部屋でつぶやく。
まだ香る君の香水の部屋の中。
前回の君と最後に会った日の続編です。(みけねこ)
母親のつけている香水は、私の鼻にはキツイようで、いつも息を止めなければいけなかった。そんな母親は、私が寝る前に仕事に行く。その時、母親はいつも決まった言葉を囁く。お姉ちゃんだから、我慢してねと。額に柔らかいものが当たる感触とリップ音が響いた。
これが終わると母親は、私に見向きもせずに玄関へ行ってしまう。その後はガチャンという音とガチャリという音がそれぞれ1回ずつ鳴った。私は、母親の存在が家から消えたことによって、心に穴が空いたような感覚にまた襲われるのを自覚した。
母親の香水は、私のためじゃない。
お終い
「感覚とクオリア」
俺にとっての煮干しラーメンスープの香りは
脳が裏返るほど魅力的だ
あなたにとってのドルチェ&ガッバーナの香水は
脳が裏返るほど魅力的だ
もしかしたら、僕が感じた煮干しスープの香りと、
あなたが感じたドルガバの香りは、同じなのかもしれない
良い香りのイデアが存在し、イヤな香りのイデアが
存在しているのかも。
私がそう感じたのは幼児の時。
当然語彙は無いから、今しっくりきたよ。
トマトの味も同じことが言えるよ。
※香水
〔これ、受け取ってくれるかな?〕
私はそう言って、透明で小さなケースに入っている
一つの小瓶を差し出した。
楕円型の小瓶は、中に入っている鮮やかな紫色の液体を 私の部屋のライトが反射させており、輝いている。
「もちろん、喜んで。これって香水かな?」
彼女は微笑み頷いて、差し出された小瓶を受け取る。
そして、受け取った小瓶を見つめ、そう聞いてきた。
私は、少し笑いながら答えた。
〔そうだよ。この前、雑貨屋さんとか、色々巡っていた時絶対にキミに似合うと想って買ったんだ。
香りは、使ってみてからのお楽しみ。〕
すると彼女は透明なケース越しに、色々な角度から小瓶を眺めて言った。
「綺麗だね。アメジストみたいにキラキラしてる。
色から考えて見ると、王道はラベンダーかな?」
私の目を見て、楽しそうな声色で、言葉は続く。
「でも、どうして香水なの?学校には付けていけないわ。
折角アナタからの贈り物なのに。」
少し拗ねた顔をした彼女に、私は少しの胸の高鳴りを覚えた。
あざといが、とても可愛い。普段、美しいといった印象の彼女の新しい一面に、内心ドギマギとしてしまう。
私は、それを表に出さない様に彼女から目を反らし、
渡した小瓶をじっと見ながら、
〔…キザだけれど、二人っきりでまた、出かけたときに
付けて来て欲しい。〕
言ってて、恥ずかしくなった。
自分でも何て言ったか曖昧な程、小さい声になってしまった。
それでも彼女にはしっかりと届いていたらしく、
私の顔を覗き込んで、ニヤリと笑った。
そして、
「えぇ、勿論。アナタと会うとき以外は使わないわ。
アナタと私だけの、二人っきりの、ちょっと大人な秘密。」
とても同い年とは思えない程に、美しく、妖艶な雰囲気でひっそりと言った。
二人しか知らない、秘密の香り。
私達の特別で、大切な、香水。
君を抱きしめる度に
ぼくはバニラアイスが食べたくなる
『香水』
ねぇ、見える?
私貴方の好きな香水を見つけたからね付けてみたの。
……わからないか。
あ!それとね、この前持ってきてくれた花。綺麗だったよ。
私の好きなシオン。
…もう、忘れていいんだよ。
シオン花言葉『君を忘れない』『遠くにある人を思う』『追憶』
普段は、つけない。
どうにも似合わないかなぁって、思ってるから。
でも、ちょっとだけ、奮発してみたから。
御気に入りになったんだよね。
爽やかで、ちょっと苦くて、最後は優しい甘さに変わる。
そんな”香水”を見つけたから、それからずっとお気に入りなんだ。
香水
香水
自分のからだにまとわせるよりも
小物に匂いをつけて時おり楽しむ
そんな使い方がしたいかも
まあ多分
香水売場には近づくことは無い
そういう人生
いつも、彼女からは爽やかな香りがしていた。
彼女いわく、『自分の好きな香水をつけることで気分がアガる』んだそうだ。
確かに、言われてみればそうかもしれない。
気分の乗らない日も、好きな曲を脳内で流しまくって無理矢理気分を上げる、みたいな。
でも、もう彼女から爽やかな香りはしなくなった。
なんでか、って……
彼女はもう、香水をつけて気分をアゲる必要がなくなったから。
『香水』
香水をつける
それは背伸び
街にでる
背伸びしたいから
香水の香り、街にとけこむ
背が少し伸びる
入社してからあなたと初めて出逢った日
あなたからほのかに
香水の香りした
私よりも少し年上だけど
とても大人に感じた
とても素敵な人
私の好きな香り
あなたから漂う香りが
頭の中を駆け巡る
あの香りが
私の脳内にインプットされてしまった
常にあなたの香りを感じたくて
お店を回って必死に探したけど
あの香りがなかなか見つからない
あなたにはなんの香水か聞けない
あなたには既に家庭があるから
いつも忙しそうにしていて
気軽に話せるような人ではなかった
朝出社して、交わす言葉は
「おはようございます」だけ
その時すれ違いざまにあなたの香りを
いつも感じていた
ずっと探したけど見つからなかった
ある日
社内で別フロアの女性とすれ違った
その時
私の脳内から何かが思い出された
(この香り…あの人と同じ香り)
すぐに気付いて振り返ったけど
女性は綺麗な長い髪をなびかせながら
真っ直ぐ歩いて行ってしまった
あぁ、そうか…
大人で素敵な人は…私の憧れの人は…
何かがさーっと脳内から消えていった
ドールチェアんドガッバーナーのその香水のせいだよ〜
「今日家帰った後、いつものとこ集合だってさ」
幼いころから彼女は男子と遊んでいたと思う。女子の友人が全くいないという訳ではないだろうが、遊ぶ時間は確実に男子の方が長かった。
「分かった」
彼女は出会った時からそうだったから、特に違和感はなかった。あ〜今日もいるな、みたいなそんな反応だった。
けれど中学生、高校生と時が巡っていくと、段々と彼女は女子と絡むようになっていった。まぁ、それにも特に違和感はない。周りの連中も特に疑問に思っていなかったと思う。
「あいつら、元気してる? 」
「同じ学校だろ」
「そうだけどさぁ」
バス停。軽く道路を覗くが、来る気配はない。とっくに時刻はすぎているけれど、今日は特別に暑いわけでもなかったので、何とかなりそうだ。
「話しかけずらい理由あるの? 」
「ううん、別に。ただ最近はずっっと女の子と話してるからさ。なんとな〜く話しかけにくいな、って」
「話しかけて見れば? アイツらも嬉しいだろうさ」
「そうだねぇ。ま別に喧嘩した訳でもないし、それ以外何かあった訳でもないしね」
「うん」
そうやって、ほんの少しの変化を感じながらも、僕らは前に進んでいく。春、夏、秋、冬、と。
「――。帰ろうぜ」
「ああ」
あれ以来、彼女と関わることはあるけれど、やっぱり基本的には男友だちとの関わりが多かった。彼女もまたそうだ。これくらいが丁度いいんだと思う。
「課題やれそう? 」
「あ〜えっと、どれ? 」
「数学と……英語」
「ああ……無理! 」
「諦めるの早いな……」
「はは……いつもお前だよりだからな……すまん」
「もう慣れたよ」
そんな、雑談。僕は今日も日常を謳歌する。帰ったらとりあえずシャワーを浴びて、夕食までに課題を――。
「あ、あのさ」
友人との会話中、背後から声が聞こえる。
「お、――じゃん。丁度いい。一緒に帰ろうぜ」
「部活は?」
「あ、えっとその、今日はないよ」
なんだろう、この違和感。いつもの彼女とは何かが違う気がする。そんな違和感を友人も感じたのか、一瞬沈黙する。
「……じゃあ、一緒に帰ろうぜ。久しぶりにさ」
「その前に……ちょっと、用が」
心做しか、彼女の視線が一瞬こちらに向けられた気がした。もしかしたら用というのは僕になのだろうか。
「……お前なんかしたの?」
「結構な悪業だったら記憶に残ってるはずだけど……」
「……えっと……? 」
「あ、ああ、悪い。表の校門で待っとくよ」
「しばらく来なかったら、先に帰っててもいいよ」
「あいよ」
ほんの少し夕陽が差し込む教室。もう誰もいないが、先程まで確実にいただろうと思える教科書だったり、黒板に書かれた文字がある。
「用って?」
「うん……」
それから言葉を紡ぐことなく、彼女はこちらに近付いてくる。なんだろう、少し怖い。
「好きなんだ」
慎重に、不器用に、彼女は呟く。
窓外から風が入ってきて、彼女がつけただろう香水の匂いが僕の鼻に届く。
改めて彼女を認識すると、いつかのようにボーイッシュな雰囲気は無くなっていて、しっかりとした女の子……といった表現が正しいのかは分からないけれど、とにかく、いた。
「は?」
さっさと彼女がそうなっていたことに気付いていれば、もうちょっとマシに思考出来ていたかもしれない。動揺する頭でもさっさと『誰を? 』とか聞ければマシだったかもしれない。
けれど結果的に僕が言えたのは『は? 』だったわけで。
いくらかの沈黙の後、僕は何とか口を開く。
「えっと――それは……」
「貴方だよ」
先程の恥ずかしげのある態度はどこへ行ったのだろうか。……いや自分がこんなだから逆に冷静になれたのかもしれない。
「そう……そう、か」
今までそういう感情なんて向けられたことなんてないし、これまでもないだろう、なんて勝手に決めつけていたから、彼女からこうした言葉を紡がれるのは完全に予想外だった。
「―――」
彼女の名前を呼ぶ。
「……」
「……ごめん」
友だちでありたい。そんな、ありきたりな理由。多くの人間が口にしたであろう、云わばテンプレートな言葉。
その後の彼女の顔や言葉を僕はもう覚えてない。きっとこれ以上ない勇気を振り絞って言ったんだろうから、分からないなんてことはないけれど。
彼女がもし彼女でなかったら。全くの名前の違う人間であれば頷いていたかもしれない。
そう思うほどにあの時の彼女は綺麗だった。
振った側だと言うのに彼女のことがいつまでも胸に残っていて、あの香水の匂いがまた届いて来ないかと願っていた。