『風邪』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「本当に期待を裏切らないわね」
咳払い。返事をしようと口を開いたのに喉から勝手に空気が出ていった。鈴音は呆れながら俺の額にある熱さまシートを変えている。
「病院はいったの」
首を振る。
「そう」
額が氷のように冷たくなる。しかしそれもすぐに熱くなる。風邪とはこれの繰り返しだ。
「じゃあ、…今度こそ家を出るから」
ありがとう。嗄れた声でようやく言うと、鈴音は俺から顔を背けたまま荷物を持って出ていった。
風邪をひいたら人恋しいと言うけれど、
私はいつでもあなたを恋しく思ってる。
恋は病のようなものだというから、
あながち間違ってはいないのかもね。
【風邪】
まぶたにまで浮かぶ眩しい街明かり、赤い看板、青いイルミネーション、白、黄色の電光。
それら色めき立った東京に、ぽつんとちいさな公園。
団地の影に隠れ、カラフル電灯にも、月明かりにさえ照らされず、視界を助けるものはなにもない。
「すいまへん、すいません、勘弁してくらさい……ちゃうんえす……」
青縞柄のパジャマ姿の老人である。
ボタンはみんな開けられていて、かろうじて羽織っているというような様相。
額を土へへばりつけていた。
「じいちゃん、おうちいれてよおーっ」
赤いランドセルを背負った女の子が、老人のパジャマをひっぱり、叫んだ。
おさげを揺らしながら、「ねー、はやくぅ」急かすように跳ねるが、老人は変わらず「すいあせん、すみあせん……あれはとありの後藤が……」
「……もう!」
ちいさな唇を尖らせ、老人の丸まった背中を見つめる。
震える老人の手。ダラダラだらしなく染み出た汗粒。
老人の目線の方へ、首を向けてみる。
「じいちゃぁん、なにに謝ってるの?」
ブランコ。夜、東京、公園、ブランコ。
座面にはなにも乗っていない。老人から返事はない。
女の子は、顔をギュッと縮こませ、唇をとがらせ、もう片方のブランコに飛び乗った。
「風邪ひいちゃうよ……」
暗い公園の方に足を伸ばし、暗い茂みの方に足を折りたたむ。
女の子はなんとなく、老人のほうを向きながらブランコを漕いだ。
「じいちゃん。ママ、今日も帰んなかったよ」
老人が頭をあげたので、女の子はハッ、と口を開け、わずかに口角を上げた。
しかし期待とは裏腹に、老人はブランコに向かって言い訳をしはじめた。
わざとらしくムスッとして見せ、下を向きながらより深くブランコを漕ぐ。
「じいちゃんだって、だれもむかえにこなかったんでしょ。ねえ……おうちいれてよ」
女の子は鼻水をぬぐった。
風邪と言えば、まさに今12月ぐっと冷え込みだし年末から年始にかけて
風邪 ここたん
子供の頃 喘息だった私は
毎年のように風邪をひき
学校を休んだ
体が弱く家にいた祖母は
よく手絞りの
林檎ジュースとオレンジジュースを
作ってくれた
風邪をひき苦しい中
あの美味しさを今でも覚えている
大人になり私は
同じく喘息をもち
毎年風邪をひく息子に
手絞りジュースを作る
だが、
今飲んでみても
同じ味じゃない気がする
あの味は
祖母の深い愛情の味
だったのだろうか
久しぶりに風邪をひいて
普段の健康のありがたさが分かった
体は暖かくても心が寒いの
あなたも?そう、じゃあ私があたためてあげる
だからあなたもわたしをあたためて?
風邪
からだがだるいと思い、帰ってきて体温計で測ると
39度の表示。体温計壊れてるわ…と自分に何度も言い聞かせながら、お腹は空いているので簡単に晩ご飯を作る。午後から鼻水が止まらなかったし、体温もいつもより高いと思っていたが、まさか39度もあって仕事していたとは……知らないってすごいな。
手足が冷たいので、温めてから寝たいと思い、湯船に浸かるためお湯をはる。……なかなか時間がかかる。頭も洗うと乾かす間に体を冷ましてしまうかもしれないから、髪の毛は洗わずにからだだけさっと洗ってしまう方向にする。やっとお湯がたまったから、体を洗って湯船に浸かる。もう少しお湯がほしいところだが、今日はこれでいい。着替えて暖かくなった手足を冷まさないようにふとんに潜り込む。とりあえず23時にアラームを設定し仮眠のつもりが、朝まで1回も目覚めず寝ていたので、熱を下げるためにからだが頑張ってくれていたんだな、と思うのだった。
元連れ合いは体が大層丈夫な人で、病気で寝込んだ覚えがまずない、という人だった。
対して私は年に数回、数日間寝込むような風邪(気管支炎併発などあり)をひく。
そうして私が寝込んでも、
『俺の飯は!? 家事をサボるな!』
などと言わない人であったのは非常にありがたかった。
それどころか一応ちゃんと心配してくれて、
『いいよいいよ、休んでて。飯は適当に買うから。あなたの分も買っておく?』
と聞いてくれる人でもあった。
まあ良い人(出来た人)部類に入るのでしょう。
——ここまでの話なら。
その日は運悪く週末買出し前で、冷蔵庫冷凍庫ともにほぼ空っぽ状態だった。
食欲はなくとも薬を飲むのに何かお腹に入れておきたかったので、
「あっさりした物を(食べたい)。ツルンとした物(うどんなどの麺類)を……」
と、ご飯買い出しの有無を問われた際にリクエストを出してみた。
明確に言えなかったのは、喉の痛みと熱で頭がボーッとしていたせいだ。
しかしまさか。
『オッケー、買ってくるよ』
の返答一時間後に。
「海鮮丼買ってきたよ! 半額で安かったし!」
という台詞を聞くとはついぞ想像だにしていなかった。
「え゛……」
文字通り、一瞬で様々な思いが去来したけれど、その呟きで止めた自分も割と出来た人間なのではと思ってしまった、その時は。
いやだって海鮮丼だよ?
そんなん、ある!?
風邪引いて38℃の高熱出してる病人に、半額の海鮮丼、って。
嘘だろ、マジかよ、ちょ待てよ——である。
なんて言うべきなのか、とても迷った。
しかし私は礼を言うだけにとどめた。
「ありがとう。でも海鮮丼はちょっと今は……。治ってからにしようかな」
「気分じゃなかった? あっさりした物って言ってたから、これならスルッと食べられると思ったんだけど」
——すげーなオイ。
丈夫な人の思考回路は理解不能だ。お手上げだぜ。
私はもう何も考えず、寝ることにした。
海鮮丼は、
「治ってからじゃ(数日後になるだろうから)傷んじゃうから食べちゃうね。また買ってくるから」
と、当日中に元連れ合いのお腹に収まりましたので無駄にはなっていません念の為。
……待てや。アンタ、カツカレーと唐揚げ弁当買ってきてたよな。
更に食ったんかい。ほんとスゲーな。
(おデブではないけど縦横デカイ人、とはいえ……)
また、別の時期。
その時は冷凍うどんなどはあったのだけれど、動くのがとてもしんどく。
そして怠いけれどお腹はとても空いている状態だった。
やたらと品揃え豊富なコンビニ(自前店舗持ちなオーナー店である)にいるよ、とのことだったので再度リクエストしてみた。
「丼物がいいな——卵とじ系の……」
「わかったよー、買っていくね」
その時、私の脳裏には一つの品物しか浮かんでいなかった。
それはその店に大体ある商品だったし、病人なのだから当然それをチョイスしてくれるだろうと、勝手な思い込みをしてしまった。
さて何が出てきたか、というと。
「買ってきたよー! カツ丼!」
——何でだよ!!!!
いや欲しかったのは親子丼だったからニアピン賞になるのか、これは?
いやいや違うだろ、重すぎだよ。
いうなれば胃弱なのに受験前日の夜食にカツ丼出されるレベルじゃないのかこれは?
何と言うべきか、などと考える以前に。
私は笑ってしまった。
「重いよ! 親子丼選んでくれるだろうと思い込んじゃってたよ!」
「え、そっちだったかー。ちょっと迷ったんだよ? でも食欲はあるって言ってたから、カツ丼の方が元気になると思って」
……うわーちゃんと考えた上の選択だったか。
指定しなかったこっちも悪いから何も言えねーですけども。
高熱出してる病人に、カツ丼食って元気になるかぁ。
もはや思考がアートチックなセカイだよ……。
ズレてると思うかどうかはその人次第なのでしょう。
まあ面白い人ではありました。
生活習慣があまりにだらしなくて我慢できず袂を分かちましたが——
不愉快なことばかりではなかったなと、ぼんやりと思い出してみたり。
「ばかもかぜをひく」
「つまんないこというね」
掠れた風邪声で返されたけど病人に悪口を言ったことは後悔してない。
「うつるから来なくていいのに」
「うつったら学校休めるし」
「元気でも休むくせに」
布団からこっちを見上げる目が笑いに細められた。そっちもじゃん。共犯のくせに今日はこっちだけ悪いみたいな顔をして。
また寒い公園でだらだらと時間つぶそーよ。
「さしいれ」とコンビニで買ってきたプリンとプラスチックのスプーンを枕元に置いてやった。
2023/12/16風邪
tsutsu
風邪ひいたりしてないかしら…
この時期になると…
つい寒くなるし
心配になる…
元気ならそれはそれでホッとする。
風邪…どことなく憂鬱。
#風邪
小学生の頃、何か行事があったりすると
前日まで風邪を引く努力をしてみたりした。
涼しくなってきたら、お腹だして寝てみたり
寒くなってきたら、コタツで寝てみたり。
ただ報われたことは一度もなかったな。
昔から心臓以外は頑強なのだ。
それなのに大手振って学校休める冬休みに入った途端
風邪で寝込んだりする。
血が出そうな程、歯噛みしたもんだ。
「バカは風邪を引かない」なんて言うらしいが、わたし的には
「バカは引きたい時に風邪を引かない」だと思う。
(風邪)
えっちょーい!
一緒に働いてるベトナムの子がクシャミした
なんか面白いクシャミだなと思って
周りの他のベトナムの子達みたら
なんの反応もなく黙々と仕事してる
あぁ、えっちょーい!は
普通か…と納得して仕事に意識を戻した
毎朝寒いけど風邪ひかないようにね
母親になると風邪をひかくなる。
母の言葉だ。
確かに母が風邪で寝込んだり
病院に行ったりする姿など
見たことがなかった。
自営業の父の手伝いと
3人の子育てで
毎日クタクタになっていた母が
常に体調が良かったはずは、ない。
体調が悪くても
仕事と子育てを
休むわけにはいかない
と自分に言い聞かせていたのかもしれない。
そんな母の
寝込んでいる姿を初めて見たのは
末期の子宮頸ガンで入院したときだった。
享年64。
体調悪いときには
ちゃんと寝込んだり
医者に見てらうような母親なら
もっと長生きしてくれたのではないかと
母を思い出すたび
残念な気持ちと感謝の気持で
胸が詰まる。
かぜをひかないようにね
ほかのどんな病気も怪我も
できることなら
すべてこの身に受けたい
どうかあなたが
辛い思いをしませんように
「風邪」
#274
【風邪】
目を覚ますと君の寝顔があった。僕のベッドに頭を預けて、すうすうと寝息を立てている。カーテンの向こうから差し込む夕日が、室内を優しい橙色に染め上げていた。
隠していたつもりだったのに、どうして気がついたのか。いつのまにか額に貼られていた、既に生温かくなっている冷却シートを指先でなぞる。合鍵を使って勝手に家へと入り込み、一通りの看病をしてくれたらしい君の眠る姿をぼんやりと眺めた。
多少の風邪くらい、放っておいたって構わないのに。いつだって一人で耐えてきたのだから、このくらい問題ない。それなのに君の向けてくれる優しさが愛おしくて、じわりと涙が滲んだ。
(おかしいな。何でこんなに、涙もろくなっちゃったんだろ)
全部、全部、君のせいだ。君が僕に、誰かがそばにいる温もりを教えてくれたから。君が僕を、ただの人間にしてしまったから。君が僕の不調に気がついて世話を焼いてくれたことを、こんなにも嬉しいと思ってしまうんだ。
(ありがとう)
重たい腕を持ち上げて、君の頭をそっと撫でる。そうしてもう一度、穏やかな微睡みへと思考を落とした。
1年ぶりに風邪をひいた。
念願の休みな筈なのにこんなに虚しい。
何もやる気でないし、
朝から何も食べてない。
今日は友達からLINE来るかな。
「今日なんで休んだの?」「大丈夫?」って
…そんなの今まで一回も来たことないけど。
お題 : 風邪 #36
暗闇、無の中、響く叫び声。
ああ、神よ。どうか、どうか、お許しください。
悪にとって善は悪なのか。
善にとって悪は悪なのか。
ならば、その善と悪は誰が決めるのだろうか。
もし、今善と悪を知る術があるのなら
はやく、はやく知りたい。
最初から、何も見えず、恐らくネガティブな音だけが聞こえる耳。唯一頼れる感覚さえも、いつかなくなってしまった。この世界をいつか見てみたい。
医者が言うには「治しようがない」
クラスメイトが言うには「弱者」
家族が言うには「ごめんなさい」
でも、こんな弱者でも一つだけ、とても強いことがあった。それは何にでも恐れないことだった。
ネガティブな音以外が聞こえない耳を持っていたとしても、何故かそれを全く怖いと思わず、喋ることだってできた。何も聞き取れなくても、友達を作って、友達とハグだってした。何も出来なくても、何もかもを失ったと思っても、この勇気が、恐れない心だけが、僕をいつも助けてくれた。このありがとうは親に告げた。
この時、誰かが、恐らく親が泣いていた。
僕のありがとうは迷惑だったのかな。
そういえば、なんで僕は生きれているんだろう。
実は、車椅子もなんも使ってないんだ。でも、感覚がなくても、何故か足の動かし方だって、分かったらしい。そのせいで
「何が仲間だよ。お前、普通の人間だったりしてな。それで俺らを見下して笑ってるんだろ」
って、最初の無感覚の親友に言われた。
あの人が
ある日
卵酒が飲みたいと言って
自分で作って
飲んでいた
ひたすらに
日本酒が好きなひとだった
風邪。季節の変わり目は風邪をひきやすいんだったか。
体調なんて一年中悪いから風邪をひいてもわからない自信がある。
しかし風邪に限らず健康には気をつけなきゃいけない。それはわかってるけど堕落した生活を送ってしまうのだな。
それにしても昨日は暑かった。冬なのに暑くて電気毛布も必要なかったし昼間はエアコンとか扇風機をつけたくなったくらいだ。
今年の冬はやはり異常だな。こうなると環境問題について思いを馳せてしまう。特になにかする訳ではないけど。