『風に乗って』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
風に乗って、微かに花の香りがした。
何の花だっただろうか。ぼんやりと記憶を辿る。
仄かに甘く、それでいて澄みきった清々しい香り。思い出せそうで思い出せないもどかしさに、少しだけ眉が寄った。
視線を巡らせる。青々とした葉をつける木々のどれかに咲く花を探して目を凝らした。
「――懐かしいな」
ふと、誰かの声がした。目を瞬き後ろを振り返れば、同じ年頃に見える少年が佇んでいる。
いつからそこにいたのか。問いかけようとして、その目に浮かぶ寂しさに気づいて思わず口を噤んだ。
「花が咲き綻ぶような笑顔。白のワンピース……あの子はずっと、俺のために何も言わなかった」
泣いている。涙は見えなかったけれど、何故かそう思った。
「あの子の季節が来た。忘れてしまったものが、また帰ってくる」
風が吹き抜けた。さっきよりも強く花の香りが漂っている。
視界の端で、白が過ぎていくのが見えた。視線を向け手を伸ばすと、白の花びらが指先に絡みつく。
「梅……白梅だ」
白の花びらを見つめ、呟いた。先ほどから香っているのは、どうやら白梅だったらしい。
「その白梅は、特別なんだ」
穏やかな声がした。振り返ると、少年が立っていた場所に、男性が立っていた。
少年とよく似た面立ち。まるで少年が一瞬で成長して男性になってしまったみたいだ。
「特別で、離れたくなかった。諦めたくなくて毎日通い詰めて……そうしたら、最後には折れてくれたよ。とても嬉しかったけど信じられなくて、全部都合のいい夢なんじゃないかって怖くて……でも、娘がこれは本当なんだって、大きな声で泣いて教えてくれた」
その目にはもう、寂しさはなかった。穏やかで柔らかな微笑みは幸せを噛み締めているようで、自分のことではないのに気恥ずかしくなってしまう。
「娘はあの子にそっくりだった。笑い方も、微かに白梅の香りがするところも全部。好奇心旺盛で、お転婆で……でも真っすぐに育ってくれた」
どこか誇らしげな声と共に、また風が吹き抜けていく。
空に舞う白の花びら。甘酸っぱい匂いが広がって、白梅の木の前に立っているような気持ちになってくる。
一際強い風に、反射的に目を閉じた。ざあざあという風に揺れる葉の音に紛れて、一瞬だけ、楽しそうに笑う小さな女の子の笑い声が聞こえた気がした。
「娘が彼氏を連れて来た時には、こっそり落ち込んだよ。反対するつもりでいたのに、話してみるととても穏やかで真面目な青年だったから、何も言えなくなってしまった」
風が止んで、目を開けた。
目の前には、初老の男性の姿。やはり先程の男性とよく似た面立ちをしていた。
「彼なら娘を幸せにしてくれる。そうあの子にも言われて、青年に娘を託した。離れていくことに寂しさはあったが、娘の晴れ姿に嬉しい気持ちの方が勝っていたな」
優しい目。親として、心から子供の幸せを喜んでいるのだろう。その目の中には寂しさは欠片も浮かばず、愛しさに満ちていた。
「娘は、白梅が咲き誇る春先に生まれたんだ。そして、娘の子も白梅が満開の頃に生まれてきてくれた。娘とそっくりで、小さくて、白梅の香りがしたのを覚えているよ」
穏やかに微笑んで、彼はゆっくりとこちらに近づいてくる。目の前で立ち止まり、優しく頭を撫でてくれた。
「――っ」
会いに行く度、こうして頭を撫でてくれていたのを思い出す。目を細め、大きくなったなと笑ってくれていた時と変わらない眼差しに、目の奥がつんと熱くなるのを感じた。
「こうして、風に乗ってあの子の匂いが届くと忘れていたものが戻ってくる。あの子が抱えて守ってくれていた記憶を、この時だけは思い出せる」
泣いてしまいそうだ。頭を撫でる彼も、泣きそうに笑っている。
「また大きくなったな。小さな頃はあんなに泣き虫だったのに、我慢できるようになったのか」
「だって……もう、子供じゃないし……」
俯いて、いつまでも子供扱いされることに不満を漏らす。
親という存在はそういうものなのだと、前に母が言っていた。特に祖父は母を最期まで子供扱いし、孫である自分も同じように接して、いってしまった。
風が吹く。白梅の花を散らし、香りを散らして、風が過ぎていく。
「お母さんによろしく伝えてくれ。忘れてしまっても、お前たちの幸せを心から願っているよ」
「分かってる。祖父ちゃんも、ふらふらしてないで、しっかりしている間に、いくべき所に行ってよね」
心からそう思っている。自分だけでなく、両親も心配していた。
「それは大丈夫だよ。あの子が一緒に来てくれたからね。あの子の香りがちゃんと導いてくれた」
それを聞いて安心した。顔を上げて祖父の目を見て、笑ってみせる。
泣くよりも、笑って別れたい。まだ記憶をなくしていなかった祖父と約束したことだ。
風に舞う白梅が祖父の姿を隠していく。頭を撫でていた手の感覚が薄くなり、祖父が静かに消えていく。
「ばいばい。祖父ちゃん」
白梅が空高く舞った。それを目で追いかけ、もう一度目の前を見ると、そこに祖父の姿はなかった。
まるで最初から誰もいなかったかのように。
「やっぱりこの時期だけは、はっきりしてるんだな……もう、花は咲かないのに」
祖父が愛した白梅は、祖父が亡くなった後、花を散らして枯れてしまった。
両親は祖父と共にいったのだと話していた。自分もそう思っている。
「会えるとは思ってなかったけど、会いに来てよかった」
ふふ、と笑う。何だか得した気分で、家に帰るため歩き出す。
「私も、祖父ちゃんや母さんたちみたいな恋ができればいいな」
風に乗って運ばれた愛しい人の香りで記憶を取り戻すような、そんな素敵な恋。
不意に風が吹いた。
白梅の香りはしない。けれどそっと背中を押された気がした。
20260429 『風に乗って』
同じ間違えを繰り返して
謝り文句だけ達者になって
反省してないと言われ続けた挙句
本当に反省してないのではないかと
自分を疑う
風に乗って空の何処かで霧になって鎮火してほしいこの思い、
心を抑えれば心臓の鼓動に握られて、固形にでもなってしまいそうな、ざらついたモヤを、吐き出してみたい。
この苦しさに誰が気づいて
風に乗るもの。たんぽぽの綿毛、虫や鳥の羽、あるいは空想や想像。それらは軽やかで、確かな足場を持たず、少しの力で容易に壊れてしまう「脆さ」を孕んでいる。
「空に終点はあるのかしら」という歌を思い出す。最後には「あの人と飛んで行きたい」と願う、妄想に近い独り言のような歌だ。ふと思いついた願いを呟くような軽やかな旋律。けれどその裏には、どこか突き放したような空虚さが漂っていた。
本日の天気は曇り時々雨。風は弱く、植物の種が旅をするにはあいにくの条件だ。
私が「それ」を見たのは、今日のような重たい空の下だった。
道の真ん中に、何かが落ちていた。
近づいてみると、それは小さな「ひとがた」だった。誰かが落とした人形だろうと思い、道端へ避けてやろうと指先ですくい上げる。すると、予想に反してそれは仄かに温かかった。
よくよく見れば、それは半透明の薄い膜に包まれた、掌に収まるほど小さな生き物だった。
呼吸に合わせて、背中の透き通った羽が微かに震えている。雨に打たれたせいか、その命は今にも消え入りそうなほど淡い。
私がそっと体温を分かつように包み込むと、その「ひとがた」はゆっくりと瞼を持ち上げた。そこには意志があるのか、あるいはただの反射なのか。私を一瞥すると、羽を一度だけ羽ばたかせた。
その瞬間、止まっていたはずの風が不意に吹き抜けた。
音はしなかった。それでも、それは弱々しい風を器用に捕まえ、重たい曇り空の向こうへとふわりと浮き上がった。
歌の中の「わたし」のように、空の終点を目指しているのだろうか。
私の手の中に残ったのは、消えかけたわずかな温もりと、真っ白なたんぽぽの綿毛が一つだけだった。
風に乗って
放課後、俺は音楽室にいた。今日はパート練の日なので、各々コンクールの曲を練習している。
窓から入ってくる風で、譜面台が揺れた。トランペットを机に置き、慌てて楽譜を手で押さえつける。
「今日は風が強いですね」
隣を見ると、ケイ先輩も楽譜を抑えていた。
「窓を締めたほうが良いかもしれん」
「そうですね」
窓を締めようと、楽譜から手を離した。その時、ひときわ強い風が吹いた。
「ああ!楽譜!」
一枚の楽譜が、窓の外へ飛ばされていってしまった。
俺は窓から身を乗り出す。しかし、伸ばした手は届かなかった。楽譜が、ヒラヒラと下の方へ飛んでいく。
どうしよう、今年のコンクールの楽譜なのに。下は中庭だから、追いかければなんとか、なるかも。
窓を締めて、振り返ると、ケイ先輩がやけに真剣な顔をしていた。
「ユキト、今すぐ取りに行け。そろそろ如月先生が来る」
いつも冷静な先輩が、珍しく焦っていた。
そうだ、今日は顧問の如月先生が練習を見てくれる日だった。楽譜を飛ばしたなんて、バレたら、絶対怒られる。まずい、先生の機嫌が悪くなったら、部の今後が変わりかねない。
「と、取ってきます!」
俺は勢いよく走り出した。
階段を一気に駆け下り、中庭に向かう。息切れが酷く肺が苦しいが、止まる暇はない。
何やら声が聞こえてきた。
「こんな風邪が強い日に中庭なんてなあ」
ハヤテ先輩の声だ。あの人の声響くからな。
「譜面台が立てられない…」
レンの声も聞こえる。どうやらトロンボーンがパート練をしているようだ。
「いつもの教室を他の部活が使ってるとはいえ、屋内が良かったな。本来なら、砂とかも楽器にも良くないし」
「先輩が場所取りじゃんけんに負けたからじゃないですか……むぐっ」
「レン君の顔面に紙が!」
レンが、風の力で顔に張り付いた楽譜を手に取る。
「あれ、楽譜が落ちてきた」
必死に走って、やっと中庭に着いた。
「レン!」
俺は声を振り絞る。レンが驚いた顔をしていた。
「どうした、ユキト君そんなに息切れして」
ハヤテ先輩が、心配してくれた。
「……それ、俺の…楽譜………で…す……」
立ち止まり、息を整えながら、レンの持った楽譜を指さす。
「ほんとだ。ユキトの字」
レンが楽譜を差し出す。助かった…。
「あっ」
指の隙間を、楽譜がすり抜け、再び飛ばされてしまった。楽譜は、ヒラヒラと俺を嘲笑うように飛んでいく。
「そんな!」
楽譜は再び風に運ばれる。こんどは図書室の方へ。ふと、そこの廊下に、人影が見えた。
「ナツメ!それ取って!」
クラスメイトのナツメだった。
「おや」
ナツメは、文庫本を閉じると、優雅に楽譜を手に取った。俺とレンが、そちらに駆け寄る。
「ユキトの楽譜かな」
楽譜を差しされる。今度は、しっかりと受け取った。
「ありがとう、ナツメ」
本当に良かった。
「ふふ、楽譜が旅をしていたようだね。音楽は風に乗って。こんなに物理的だとは予想外だな。ふふふ」
ナツメは、口に手を添え、楽しそうに口角を上げた。相変わらず詩的なことを言う。
急に、焦ったようにレンが俺の肩を叩いた。
「ユキト、速く戻らないと。今日は如月先生が」
「そうだった!」
分け目も振らずに走り出した。
「ふふ、楽しそうだね」
「結構ピンチなんだけど」
背後から、夏目の落ち着き払った笑いと、レンのおっとりした声が聞こえてきた。
階段を、 一気に5階まで駆け上がる。急いで音楽室の扉を開けた。妙に設備の良い、私立の我が校が、今は恨めしい。
「ただいま戻りました」
ぐったりと疲れた。もう足が動かない。
「見つかったか、ユキト」
「はい、なんとか」
ケイ先輩の顔を見て安心した。どうやら間に合って…
「おや、お帰りユキト君。随分元気に走り回っていたね。どこに行っていたのかな」
なかった。奥から出てきた如月先生が、優雅に微笑む。
終わった。如月先生は、普段はとても優しいが、名門音大のピアノ科出身で、若きエリートといった感じだ。それ故、音楽、とりわけ部活の合奏の事になると怖い。
「き、如月先生。これは、その、」
如月先生が、急にふっと笑った。
「ははは、良いんだよ。楽譜が風で飛ばされたんだって?次から気をつけようね」
拍子抜けした。怒られないとは。
「ただ、今日の個人練習。きっちり見てあげるからね」
肩に手を置かれる。にっこりと笑っているが、今度は目が笑っていない。
「は、はい」
結局こうなるのか…。
もうみんなの元に届いただろうか。
みんなにとって決して嬉しくない報せ。
長く続いた俺たちのバンドはひとりが離れ活動を休止する。
脱退と活動休止。
この2つの衝撃を1度に、俺たちに愛を捧げてくれているファンのみんなへ伝えるのはとても辛くてしんどい。
こんなにもお互いに信頼し築いてきた俺らの関係にこんなにも楽しくない出来事を伝えなければいけないと思うと逃げ出したくなるほど嫌だった。
発表が近付くにつれ、上げなければいけない公式文を書いては消し、また書いては足したり減らしたりした。
どう伝えていいか分からない。
俺らだってこれが正しいとは正直分からないんだ。
いつからかズレてきた方向性。
同じ方向を見てがむしゃらにやって来た筈だった。
時には衝突した。それでも話し合い、何とか乗り切って来た。
だけど盛大に祝った周年ライブ。
ここまで来た、ここまで来れたその集大成のライブでやり切ってしまった。
疲れてしまった。消耗し切ってしまった。
俺はずっとロックバンドでありたい。
ロックやってこそのバンドだと思う。
流行りなんて知らない。
だけど、そうでもないメンバーだっている。
流行りに乗るのも悪い事でもないし、幅を広げるのも悪くはない。
分かってはいる。分かってはいるんだ。
お互いの妥協点をすり合わせてここ数年は何とか形を保っていた。
だけど日数が経つにつれ赦せない部分が増えていく。
違う違う俺がやりたいのはこんなのではない。
激しくぶつかる事も増えて来た。
間に入るメンバーも辛いという事も頭から抜け落ちてた。
「もう辞めたい…」
限界だった。いつの間にか口からこぼれ落ちていた。
決して仲良しこよしとまではいかなくても音楽を通して心を通わせたメンバーだった。
こんなに衝突し合って作る音楽とは本当に良いものなのか。
もう全てを手放したくなった。
しばらく沈黙が流れたその後にぽつりと声がした。
「じゃあ、俺が辞める」
それは自分とよく衝突してたメンバーだった。
別にこのバンドを無くしたいわけじゃない、意見が対立する俺が抜ける事で成立するならそうしよう。
という事だった。
そうじゃなかった。
別に俺は彼に抜けて欲しかった訳じゃない。
だからと言って譲歩も出来なかった。
何も答えが出ないままずるずると月日は過ぎた。
このままではいけない。
きっとずっと好きで居てくれるファンならこの異質な状況に気付いてしまうかもしれない。
耐えられないなら俺自身が抜ければいいんだ。
でもそしたら俺の歌は、その声に惚れに惚れ込んだ彼に歌ってもらえない。
俺の歌は彼のためにあるんだ。
彼が歌ってくれなきゃ俺が作るこの歌は意味がないんだ。何の価値もない。
このひとの歌声を手放したくはない。
だから1つの手を離し、ただ黙って差し伸べてくれるもうひとつの手を握りしめる事にした。
それからファンのみんなも。
どうしても無視する事はできない。
こんなに好きで居てくれるのに置いていけるわけがないと思った。
自分だけしんどくて何もかも辞めてしまおうかとも思ったけど、どうしても無視出来なかった。
支えられてここまで来た。
これまでもこれからも。
だから、少しだけ待ってて欲しいんだ。
悲しい報せを届けてしまうかもしれない。
それで傷付き離れてしまうかもしれない。
それはごめんね、受け入れるよ。
でも少しだけその先に明るい未来があるように考えるよ。
だから少しだけ待っててくれないか。
もう少し先で君たちに明るい報せが届けられるように。
(風に乗って)
待っていてくれてありがとう。
これが書き上げたい話しでした!
たくさんのありがとうをあなたに。
風に乗って
たんぽぽの綿毛は 種子を遠くに届けるため
風に乗っていくらしい。
たぶん行き先は決まってない。
風が吹く方へ ふわふわと飛んでいく
人は風に乗れない
そんなに軽くないし、行き先がなければ動けない
声も風に乗れない
大抵 風にかき消されてしまう
たんぽぽにとっては旅立ち
人にとっては足枷
同じ風でも 意味が変わってしまう
目の前を通り過ぎる小さな綿毛みたいに
ふわふわと過ごしてみてもいいのかもしれない
『街の風』
今日もこの花畑に来た。
近くに設置してあるベンチに腰をかける。今にも降り出しそうな雲の色をしているせいか周りには誰もいない。
彼が消えてから1年が経った。
消える数日前に彼に「会えるのは今日が最後」と言われ、今彼に起こっていることを説明された。彼はこの街のヒーローだからいつかそういうことがあるかもしれないと覚悟はしていた。だが実際に言われると耐えられないわけで。顔をぐしゃぐしゃにして泣く私を彼は優しく抱きしめ「ごめん…ごめんね」と震える声で謝った。謝るぐらいなら消えないでほしい、とは言えなかった。だってそれは、今まで街を守ってきた彼を、彼らを否定することになるから。「最後なんて言わせない!ずっとずっと待ってるから!」涙が収まってきた私は彼を指さしてそう言った。その言葉を聞いた彼が寂しそうに、でも嬉しそうに笑ったのが頭に残っている。
それから毎日私はこの花畑に足を運んでいる。彼と出会ったこの花畑に。ここに来れば彼に会えるような気がしたから。でも……彼は現れない。
「辛いな……」
彼が現れない毎日を過ごす度、辛さが積もっていく。「ずっとずっと待ってる」と言ったくせに根をあげようとする自分が情けない。
そろそろ帰ろうかなと立ち上がろうとした時、強い風が吹いた。花弁が舞い上がって思わず目をつぶる。
その風と共に私を呼ぶ声が聞こえた。ハッと目を開ける。
目の前には彼がいた。あの頃と何一つ変わらない、彼が。彼がもう一度私の名前を呼ぶ。
「風が…風が貴方を運んできてくれたのね」
そう震える声で言う私の頬に手を伸ばす彼。
「あぁ……この街の風に乗って帰ってきたよ」
彼の指が私から出る涙を拭う。彼のその暖かい体温に想いが溢れ出し、勢いよく彼に抱きつく。
「おかえりっ!!」
【風に乗って】
《風に乗って》
花びらが 風にゆらゆら 乗せられて ボクからキミへの、想いもともに
微妙な気がするのであとで消すかも……
2026.4.29《風に乗って》
ふわふわと風に乗って鳥の羽が飛んできた。
羽毛布団の中に入ってそうなその羽は、軽やかに遊び浮かんでいる。
(いいなぁ、僕もあんな風に風に乗ってふわふわしてたいなぁ)
そう思った時だった。
突風が吹き、自分の意思など少しも利かないような速度で羽は彼方に飛ばされていった。
(自由とは――)
風に乗るということは、風に命運を任せることなのだと羽を見て思った。
4/29『風に乗って』
風に乗って
飛べるくらいの軽さなら
きっと世界の重圧も感じないだろう
気が付くと
すべて終わっていた
気付いたときには
触れることもできなかった
君の泣き声が響く部屋で
君を眺めることしかできなかった
涙を拭うこともできなくなった手を見下ろし
後悔の味を知る
僕のために泣かないで
どうか忘れて笑っていて
風に乗って
この声が
いつか
君に届きますように
朝と昼の境目みたいな時間だった。こういうときに腹が減ると中々苦しかった。
今日はメロンパンを半分だけ口に放り込んで急いで家を出てきた。母親は洗濯物を干していた。父親はコーヒーの熱を冷ましていた。多分、駅前のパン屋のだった。許可も得ず食ったから、もしやしたら誰かの分だったかも知れない。その罪悪感もつゆ知らず、腹が鳴った。
文化祭の苺ソーダが妙に美味かった思い出。綺麗な色だったかと言われれば、やる気のない学生の、チープな品だった。野外にいくつかテラス席が用意されていて、向かい合って座った。カップルで並ぶとなぜか『特別です』と言われアベックストローを雑に差し込まれるそうだが、我々もまた同じ目にあった。甘美な秋だった。そうだ。美味しくはなかった。喉を突く炭酸がやけに痛かった。
手紙を出したかった。ずっと、宛のない手紙を書き続けた。いつか出会う人に渡す為の、ラブレターだった。想いは風だった。優しく撫でて、干渉しなかった。
もうすぐ白鷺の季節だ。貴方の嫌いな季節が来る。世界に求めているのは、美しさでなくて、ただ、我々を赦してくださいと、地を舐めた。顔をあげたとき、私はまだゲヘナを見下げる側にいた。
『風に乗って』
※書きかけ
風に乗って鼻に届くのは、春の匂いだったり花粉だったり。花粉症の友達は凄く毒づいてた。
そしてそろそろ雨の匂い。曇ってることが増えてきた。
厚ぼったい雲も風に乗ってこのあたりに流れ着いただけなのかと思えば、雲自身に罪は無いからまぁ許せる。
お題:風に乗って
言い淀んだ言葉達を掬い上げて空へと浮かべたら
風に乗って君に届くだろうか
届けられなかった想い達を風が攫ってくれたらいいのに
夜風が僕を攫ってくれたらいいのに
『風に乗って』
『風に乗って』 #22
私たちは、風に乗って運ばれていく。
東西南北どこへ行くのかは分からない。
だって、風に運ばれていくから。
そして今日も、私たちは次から次へと芽を出す。
それで、新しい命が増えていくんだよ。
お題「風に乗って」
あなたからの、手紙が届いた。
安っぽい紙に綴られた、ぎこちない文。
あなたが苦心しながらペンを取る姿が、目に浮かぶ。
写真の一枚でもつけてくれればいいのに
私はささやかに笑い、呆れ、目をこすった。
私は顔を上げ、膝を抱えて、遠くを眺める。
どこまでも真っ直ぐな、水平線。
海と空を分かつラインは、昨日も今日も、変わらずに。
日の光は穏やかだけど、温かくはない。
波音を含んだ潮風が、私の髪を攫い、耳を撫でた。
私を置いて、出ていったあなた。
意地っ張りな私は、引き止める事も出来なかった。
一人きりの夜風はつめたいけれど、
こうして、あなたからの手紙が届くと、
後悔していた気持ちも、薄らいでしまう。
自分でも、都合のいい頭をしているなと、思った。
私は海風に問いを投げる。
あなたは今、何をしていますか?
体を大事にしてくれていますか?
見知らぬ土地で、不自由していませんか?
私の事も、たまには思い出してくれていますか?
春風と共に旅立って
南風に急かされ足を早め
秋風に少し体を休めて
北風が吹いたら、帰って来てほしい
無意味に彼方に視線を向けては、今日も、あなたの姿を思い浮かべてしまう。
あなたは勝手な人だ。
風に呼ばれ
風に誘われ
風に煽られ
風に乗って
でも、そんな人だから、私は今でも待っていたいと、思ってしまうのだろう。
あっ
不意の突風が、手元をさらった。
あなたと繋がっていた薄い用紙は、天高く舞い上がり、やがて、海の向こうにかえっていった。
風が凪いだ
蜃気楼に乗って浮かんだ船が、遥かに、ぼおおっと汽笛をならした。
6
紙飛行機に夢中な子供だった
どうすれば高く飛ぶか
どうすれば長く飛ぶか
それを考える子供だった
子供が大人になり
どうすれば長く心が繋がるか
どうすればもっと相手を知ることができるか
そんな事を考える大人になった
錆びついた自転車のペダルを漕ぐ足が、ふと軽くなる瞬間がある
下り坂、夏の終わりを告げる湿った風が吹き抜けると、自分の隣にいたはずの気配が今もそこに混ざっているような錯覚に陥る
田舎の単調な風景は、あの日から何ひとつ変わっていない
ただ、入道雲の下で笑い合った片割れの輪郭だけが、陽炎のように透き通り、風に乗って空へと溶けていってしまった
僕らが抱えていたのは永遠だと信じて疑わなかった、あまりに不確かな夏
小さい頃、海は桜を知らないのだと思っていた。
あの、青く澄んで、雄大で、どこまでも広く見えた海に、淡いピンク色をしたちっぽけな花弁が浮かんでいる様が、どうしても想像できなかった。
海はあまりに雄大で、桜があまりに儚くて、大きすぎる海は、小さなあの花を知らないと、そう思った。
勿論、大人になってからは海沿いの桜並木だって、多くはなくとも存在していることは知っている。
それでもやっぱり、桜は海には似合わなくて、もっと地味な、川か、池が、湖のあの静けさがよく似合う。
そよそよと枝を揺らす潮風なんて、到底桜には似つかわしくないだろう。
子供の頃の誤解が解けても、イメージまでは解けなかった。
桜は海に似合わない。海は、桜を知らない。
腕のあるミロのヴィーナスのように、思想のない哲学書のように、それが異質で、私にとっては受け入れ難い違和感を生んでいる。
だが、生涯でたった一度だけ、友人に連れ出されて海に程近い桜を見に行った事がある。
青い空と、澄んだ海。一面の青を背景にした桜は、確かに美しかった。
並木ではなかったけれど、一本だけ強かに生えた巨木は、何より高い空へ枝を茂らせている。
桜は潮風に弱いと思っていたが、案外強かったのかもしれない。
桜の似合うような手弱女も、ひょっとすれば、潮風にだって耐えられるような強さを孕んでいたのかもしれない。
そんな、どうだっていい考え事をするくらいには、私は集中できていなかった。
目が覚めるほどの青に、白い花弁が僅かに照れたような色の桜は、確かによく映えて美しい。
けれど、私の偏見を払拭するには至らない。
興醒め、とまではいかないが、内心落胆したのは事実だ。
ぼんやりと、桜も海も見ずに空を見つめていた私の視界に、ふと、散った桜の花びらが映った。
潮風に流されるその1枚は、吸い寄せられるように海へ辿り着き、赤みの白をしたその身体を青に浸していく。
気が付けば、私の足は砂浜を踏んでいた。
靴の中に細かく煌めく砂が入るのも厭わず、海面へ散っていく花を見つめる。
舞って、落ちて、浮いて、沈む。
その一幕を見て、ようやく私は理解した。
海は桜を知っている。
その美しさを知った海が、花弁の色を呑み込んでしまうほど、愛している。
潮風に散らされる花を見上げながら、波の音に掻き消される花の散る音を、微かにでも聞こうと耳を澄ませていた。
テーマ:風に乗って
風に乗って
ふわふわであたたかい背中。
とっても速いのに心地よくて眠くなってしまいそう。
スズカゼに乗っていると本当に風に乗っているみたいだ。
大切な大切な存在。
これからもずっと一緒にいてね…。