美佐野

Open App

(二次創作)(風に乗って)

 風に乗って地面を蹴れば、ぐるんぐるんと遠くに飛んで、目的地目掛けてくるりと着地。牧場主マールは、特に必要がなくても飛び跳ねて移動するのが好きだった。理由はシンプルで、その方が楽しいからというもの。他に、飼っている牛や羊たちの上をぴょんぴょん飛び跳ねるのも面白くて好きだ。皆マール一人が踏んだところで何も言わないし気にもしない、おおらかな子たちばかりというのもいい。
 ここ、そよ風タウンは、一年を通して風の吹く、風に愛された街だった。
「まるでたんぽぽになった気分」
 ついつい鼻歌も出てくるというもの!マールはついつい、気分の赴くままにまたジャンプしてしまうのだが。
「たんぽぽは自分から跳んだりしない」
 いつの間にいたのか、低い声が聞こえて振り返れば、行商人のロイドだった。
「やだ、聞いてたの」
「誰かに話すような声量で独り言を話していたのはマールだろう」
 誰かと仲良く話しているところなんてまず見ない、見た目はそれなりに整っているがゆえに却って怖いところもある、それがロイドに対する一般的な印象だ。フェリックスの縁でこの街に来て、衰退する風のバザールを一人で盛り上げている功績は誰もが評価するが、個人的にはやや近寄りがたいところがある。一方マールは彼を全く怖がらないどころか、人懐っこく関わっていた。
「それで、何か御用?」
 明るく朗らかに可愛らしく尋ねるが、ロイドは真顔のまま。
「別に。また能天気なことを言いながら飛び跳ねていたのが、目に入っただけだ」
「そう?」
 話しかけられたから思い出したのだが、こちらはロイドに用事があった。マールは彼の目前まで飛び跳ねると、いつも持っているバッグから、質の高いミスリル鉱石を出した。
「これ、すご」
「また素潜りしたのか」
 自慢したかったのに、咎めるような呆れるような物言いが返ってきて、マールはしゅんとする。確かに川に飛び込んで見つけたが、こんな宝物が見つかるかもしれない行為、そうそうやめる気はないのだ。

5/1/2024, 7:04:34 AM