ここは街から少し外れにある、高台の花畑。
街を一望するこのロケーション。
風に乗って舞う花弁は星屑のブーケトスのようで、街ゆく人々へと舞い落ちる。
「コホッ……コホッ……」
「病気、早く治ると良いわね」
私は息子と2人で来ていた。
高台から見下ろす見慣れたはずの街並みは、どこか知らない土地のようで不思議な気持ちになる。
小さな屋根の一つ一つを観ていると、私の悩みなんて本当はちっぽけな物なのかも知れない……そう錯覚する。
「具合はどう?」
「うーん、昨日よりは平気……? でも、まだちょっと熱っぽいかも」
息子の療養も兼ねて、今日は1日この花畑で過ごすつもりだ。
隣町で流行っている感染症が、ついにこの街にも来た。
その感染症の第一被害者が息子だ。
「それよりお母さん、今日は仕事でしょ? こんな所に居ていいの?」
「うん、いいの、息子が病気で苦しんでる時に働いてなんていられないでしょ」
嘘だ。
「心配しなくても、僕は昨日より平気だって」
「大丈夫! 今日から暫くはお仕事お休みにしてもらったから、しっかり看病してあげるから!」
私は嘘を付いている。
本当は仕事をクビになった。
理由は、息子が流行病に掛かったからだ。
濃厚接触者である私は解雇されるだけではない、暫くは新しく仕事を見つけることも出来ないだろう。
流行病が街を飲み込むまでは。
「そんなことよりも、ほらこの花の匂いも嗅いでみて!」
明るく振舞って、手に持っていた花を息子の鼻先に持っていくと、息子はスーッと鼻で息を吸う。
「コホッコホッ」
手に持った花に咳が掛かる。
「あ、ごめん、また咳出ちゃった」
「全然良いのよ」
私は手に持った花の葉っぱと花弁をブチブチと引き抜いて、空に向かって投げ捨てた。
ここは、街から少し外れにある、高台の花畑。
街を一望するこのロケーション、風に乗って舞う花弁は星屑のブーケトスのように、街ゆく人々へと舞い落ちる。
「コホッ……コホッ……」
「病気、早く治ると良いわね」
『風に乗って』
4/30/2024, 9:31:04 AM