日取り的に考えると、旅立ちは今日が最良な日らしい。
だからって、こんな早くに呼び出して、駅まで乗せてけなんて。あまつ、最後は“ばいばい”だけでさっさと行きやがって。
ものの15分程度だった。別れを惜しむなんて雰囲気も時間もこれっぽっちもなく、あいつは風のようにこの街から出ていった。本当に、風のようだった。いつもはふわふわそよ風みたいな性格してるのに、これだと決めたら突風並みの素早さを見せる。思い切りが凄いというか頑固というか。
「はぁ」
駅前のベンチに1人座る。どこに行くのかさえちゃんと聞けなかった。格好つけて、“すぐ音を上げて帰って来るなよ”なんて言ってしまった。寂しさの裏返しだなんてどうせあいつは気づいちゃいない。
きっとどこまでも気の向くままに行くのだろうな。風に乗って、自分のやりたいことや見たいものをどこまでも追求するような生き方。俺には出来ないから、やっぱりあいつが羨ましい。
ベンチのそばにたんぽぽが咲いていた。綿毛をつけたそれを抜き取り、強く息を吹きかける。まるで子供みたいな真似をしているが、今はどうでも良かった。綿毛がふわふわ飛んでゆくのをただじっと見ていた。風に乗って気持ちよさそうに飛んでいくその姿が、あいつと重なったのだった。
「元気でな」
4/30/2024, 9:37:07 AM