『雫』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
手の甲に、ぱたり。
大きく雫が落ち跳ねる。
雨かと思った。
だが振り仰いだ空には嘲笑う太陽。
その光がクリスタルのように細かく砕かれていることを認識して──
初めて自分が涙を流していると自覚した。
雫
※ポケモン剣盾二次創作・マクワとセキタンザン
渇いている。乾燥した口の中はまだるっこく重たいが、指示を出すことに何ら支障はなかった。
だが口を開けているとざらざらした砂が入り込んでしまう。
青く怜悧なサングラスはこういう時でも、常に視界を守ってくれるので有利だった。
多くの砂を含んだ風が舞い上がり、煙に包まれていたスタジアムの視界が晴れる。湿気を含んだ土埃の香りでいっぱいだった。割り拓くように大きな黒い脚の影が見えた。ごうごうと煌めいているのは高く燃え上がるセキタンザンの背中の炎。まだ立っている。炎も弱まってはいない。
彼自身警戒を解いていないのだということも、その背がはっきりと物語っていた。
お互いキョダイマックスの時間はおわったが、そうだろう、これだけで倒れるはずがない。ならば先手を打つべきだった。奥歯からじゃり、と砂を噛みしめる音が聞こえた。
「ストーンエッジ!」
セキタンザンがその場で高らかに吼えると、鋭い石の槍が伸びていく。同じように複数の岩石がばらばらと降って来る。岩と岩のぶつかり合い。巨石もなんのその、バディが放った岩鑓は容易く砕いていく。
大きな影は自ら真っ直ぐに石の中へと突っ込んできた。一気に片を付ける気だ。
「セキタンザン、フレアドライブ!」
石炭の炎の温度が一気に上がった。焦げ付くような香りが増していく。
たくさんの命を守る事の出来る炎が燃える。燃え盛る。それはつまり、自分も相手も命を奪えるほどの強力な武器になり得るのだ。
水を纏って弾丸のように飛んでくる相手に向かって、セキタンザンは自らを燃やして飛び上がった。
いわを包み込んだ水と火が相対する。スタジアムの中が白い蒸気に包まれる。力と力がぶつかり合い、激しい風が巻き起こり、再び視界を阻んでいく。セキタンザンの方を見つめたまま、サングラスの表面に付いた水滴を払う。
白い視界の中、最後の切り札たるバディが苦しそうに膝を付いていた。
「セキタンザン!」
「ゴオッ」
セキタンザンは吐き捨てるように吼えると、再び体制を整えた。彼の身体から、特性が発動している証拠の白い煙が上がり続けていた。フレアドライブは反動が来る技ではあるが、まだ相手が動いた様子が見えないとなると、おそらく向こうも同じような状況だろう。
もはや許された体力は残り少ない。ゲージなるものがあれば、きっとちかちかと赤い信号を出しているに違いない。
辛そうに息を整えるセキタンザンを視界の端にいれ、ぎゅっと目を瞑り、再び目を開く。
今ここで自分も弱さを見せれば、彼が必死に耐えているものが全て水の泡となって消えてしまう。トレーナーの心得だ。
ぼくたちがここまで積み上げてきたものが軟じゃない事は誰よりもこのぼくが知っていた。
ここまで来たのだ、必ず勝利をもぎ取る。ぼくたちにとって今何より必要なのは勝ちの白星だ。
母の夢を蹴って独立した身、負けてマイナーリーグに降格するわけにはいかない。
スタジアムの上では先輩も後輩も何もない。勝つか負けるか、それだけだ。
観客の前で十分に彼の新しい魅力は見せられたはずだ。今もたくさんの人の歓声がぼくたちを呼んでいる。ならばあとは結果を手に入れるだけだ。
「……セキタンザン、いけますね!」
彼の紅い眼が振り向き、頷いた。視線が合うだけで、彼の中で燃えるものが同じように自分の中でも燃え滾る。硬い意志と高い温度がぼくの指先から指先全てに力を与えている。
力強く走り抜ける蒸気機関の進路をとるのはこのぼくだ。絶対に止めさせやしない。
ここですべてが決まる。決めてみせる。
蒸気の緞帳が割け、黒い影がゆらりと大きくなって近づいてきた。頭上からひやりとした冷たさが流れる。迸る水がここまで届いていた。来る。
「ストーンエッジ!!」
腕を振れば、水を割る怜悧な石の剣が昏い影を貫く。激しい爆発音が耳を劈く。煙が巻き起こり、再び強い風がスタジアムを吹き抜ける。ぐっと噛み締めたままだった息を吐く。
強い渇きはまだこの胸に蔓延っている。つばを飲み込む音が大きく聞こえる。じゃり、と砂粒を噛むと割れて小さくなった。
砕けた大岩が膝をつく音が聞こえる。きらりと燃える灯りが輝き、スタジアムのターフが見える。
わあと大きな歓声が地面を揺らす。
一筋の雫が顔を伝った。
最近私が流した雫は、
とある推しの訃報を聞いてだった
未だに気持ちの整理がつかないし
数日経っても心に大きな穴が空いたまま
涙が溢れ出るのを堪えるのに必死で
日常生活をこなしながらもずっと上の空だった
SNSだってこのまま続けていいものかも分からなくなってしまった
推しといっても1人の同じ人間であって
常になにかを思い悩んでいたのかもしれない
でも彼がこの選択によって少しでも解放されたなら
それは責めることなく受け入れるしかない
出来るのであれば気付いてあげたかった
もっと守ってやりたかった
常にファンの前でキラキラした姿を見せてきた彼だからこそ
心にどんな気持ちを抱えていたのか
ファンという立場では正直何もできないし分からない
彼から毎日たくさんのパワーをもらっていたのに
無理しないでとか今になって出てくるたくさんの言葉にならない言葉
それすらももう届かないことがとても辛い
彼はきっとファンが想いを引きずって気に病み続けることを望んではいないのに
でも思い悩むことから離れるのも悲しくて
またあの笑顔が見れることを信じてしまう
もうこの世にいない人だとは思いたくない
直接会ったことはなくても
私や他のたくさんのファンの方々のなかで
必ず彼はずっと生き続ける
忘れるなんてあり得ない
私たちが空を振り仰ぐ度に彼が
私たちを笑顔で見守ってくれていると信じて
私も少しずつ前を向いていけるように頑張ろう
出会えて良かった、本当にたくさんありがとう。
題.雫
君の睫毛はきれいだった
雨が降りてきた
知らないことも多かった
繰り返し 曖昧な輪郭をなぞって
振り返った先の影法師
泣いているのか 笑っているのか
怒っているのか 悲しんでいるのか
朧げな薄氷にそっと触れるように
埋まらないパズルの欠片を探すように
巡って辿って躓いて 見えないふりをする
脈打つ心臓を描くように
雨音叩く窓の向こうに目を伏せて
水煙にほどけた夢を見る
雫 Una Gota
我等人類の体は、約60兆個の細胞からできている
多細胞生物も単細胞生物から進化した
最初に現れた生物は、たった一個の細胞から初まった
その最初の細胞は、水面に浮かぶ油の一滴、まさに油性の雫が起源だと言われている
油揚げの味噌汁に浮かんでいるあの油だ
一滴の油が様々な化学物質を取り込んで、やがて栄養分を代謝し、細胞分裂の際には遺伝情報を分配し、さらにその子孫は長い年月とともに多様に進化し、今までに多くの種類の生命を絶滅を伴いながらも生み出してきた
広大な宇宙といえども、我らが現時点知る限り生命体が存在する惑星は地球しかない
物理現象に逆らいつつも、巧みにそれを利用して生命は逞しく生きている
なんと不思議で、魅力的な地球上の生き物なのであろうか
我々地球の生命を、お互いに敬い、畏敬の念を持って共存し続けなればならない
あぁ人類よ、この美しくも気高い地球を、これ以上愚かな行為で汚さないないで欲しい
たった一滴の雫がもたらした壮大な物語りを我々の過ちで終わらせてはならない
その綺麗な雫を涙じゃないよと言い張る君。
ずっとむかしのオルゴール、
直せば笑ってくれるかな?
雫
朝露の一滴で命が救われたという話を聞いたことがある。極限状態ではこういうことが起きるんだと感心したものだった。極限状態とはまったく関係のないわたしの生活からは知ることのできないことだ。“知る”と“汁”とは関係ないが、味わってみないと分からないのが味噌汁の味だ。味噌汁の味といえばおふくろの味。死んだおふくろが助けてくれたのかな?と思うこともある。水蒸気は目には見えないが確かにそこにあるものだ。花には精霊が宿るという。すべてに霊が宿ると考えるのは日本人だけなのか?
目が覚めたから、縁側に腰掛けていた。
雨上がりの空は、まだ暗い雲に覆われている。
朝日は見られるだろうか。
静寂の中、息をつく。
もくもくと膨らんだ灰色の気分を持て余していた。
柄にもなく緊張しているというのか。
軒先から雫が垂れた。
なんとなく目で追うと、それは地面に染みて見えなくなった。
しずくなら大丈夫だよ。
親友の声が蘇る。
どんなとこでも、すぐに馴染んでやっていけるって。
「だからお互い頑張ろ、か」
呟く。拳を上げて伸びをする。ついでに欠伸も。
大丈夫だ。きっと。上手くやれる。あの子も。私も。
庭先に、桜の木が春を告げようとしている。
今日この里を出る私を、そっと見送るように。
ポタポタかな。
ぽつり、の方がそれっぽいかしら。
涙はポロポロなのかな。
ぴちゃん、とか、ぴちょんだと一滴感ある。
ポタっと落ちるなら大粒を想像したり。
雫って色々なのね。
葉から滴り落ちる朝露が
スーッと大地に染み込んでいく時の
キラキラしているけど静謐な一瞬。
私はこれが一番好きかも。
端的に言うと、フラれた。そこにはたくさんの事情があった。仕方がなかった。それでも,その全てのことが頭から抜けるというか、意味のないもののように感じていた。その事実から来る悲しみだけが体中に染み渡っている。
その湿りが溜まりに溜まって、溢れる雫となって瞳から出ようとしている。とても辛い。でも泣きたくはない。上を向くと雫は落ちない。
「大丈夫…!」強がりはいつか本当に変わっていく。
『雫』
ぽたぽた ぴちゃん
雨が降ってきた
でも大丈夫
傘持ってるもん
どんな些細なことからでも
君を守ってあげるからね
『雫の聲』
方舟は水煙の中消えてしまった 貝殻は海を記憶する
幼いあの日、洞窟に隠れて雫の聲を聞いた 等間隔の落水は私の心の安寧だ 時間の存在を忘れて現実と距離を置く 遠くから『おーい』と呼ぶ声がする そう思った瞬間 私は糸巻きのように現実と距離を縮めた
来年は着れないワンピース もうすぐ潮が満ちる
雫
音もなく雫が落ちていたようで
気が付けば深い水溜まりになり
跨いで飛び越えたら靴がはまった
真っ白なスニーカーは泥で汚れて
茶色いシミとなって気が滅入る
今度は落ちてくる雫で洗い流す
もとの真っ白な靴に戻るまで
同じ石の同じ場所に滴り落ちる水滴が、いずれ穴を開けてしまうように。
知らないうちに侵されていたのだ。
僕の胸に空いた穴を、君は埋めずに消えてしまった。
いつかまた現れておくれ。
君の落とす鋭い雫が、今になってこんなにも恋しい。
(雫)
優しさと曖昧さは
どこか似ていて
使い方を間違えると
残酷な刃に変わるよ
今日キミの笑顔の中に
誰かの哀しみが見えたから
飲み込んだ言葉。
心のなかに、
『雫』
きらり。
一粒の雫が小波にもまれて消えた。
夜空の星が瞬いて、私を慰めてくれているような気がする。
それでも、まだ止まってくれない。
とめどなく零れるそれは、まるで海を作ってしまうんじゃないかってくらい、ボロボロ、ボロボロと溢れ出してくる。
その海に溺れてしまいそうな気分。
何でこんなになってるか、理由は聞かないで欲しい。
波の打ち寄せる音と、生ぬるい風に乗って、私の嗚咽はどこかに届くのでしょうか。
〜雫〜
この恋が小さな小さな雫となって君のもとに舞い降りたなら、どうかもう一生拭い去れない染みとなってその美しい魂を犯せますよう
珍しく早く起きた朝。
こんな日にぴったりではないかと、
普段は飲まない貰い物のドリップコーヒーを
引き出しの奥から取り出してみる。
封を切ると広がるコーヒーの香りを
めいっぱいに吸い込んで、
お湯が沸くのをぼーっと待つ。
ふつふつとお湯が沸いた音が聞こえてきたら、
ここからはお楽しみの時間。
そーっと注ぐと聞こえるパチパチという豆の音と共に、
温まってふわりと鼻をくすぐるほろ苦さに癒されながら、
最後の一雫がぽちゃんと落ち切るまで待つ…
出来たてコーヒーを持って、
いつもは開けない窓を開けて、
眩しい朝日とまだ冷たい風を感じながら一口、
そして大きな深呼吸。
こんな1日が最高の幸せ
「……なんだ。」
「映画。」
俺の目の前に立つ友人は、悪びれもせずにビニール袋を揺らした。
自分でも最近、調子が悪いことをわかっていた。自覚はしていたが、見ない振りをして今まで足掻き努力してきたのが今の自分だと思っている。
それでも人には限界というものがある訳で、それはなんの前触れもなく俺を襲った。
襲われた結果が、このザマだ。
「足の捻挫、疲労とストレスによる不眠症。わーお、ものすごい焦燥してるんだ?」
俺の了承を得ることもせずに部屋にズカズカと入っていった友人は、リビングの机に置かれた医者からの診断結果を見て分かりやすく目を見開く。
「そうだ。帰れ。」
「それは無理。僕このDVD楽しみにしてたし。」
毎日のように映画を見る自分と、よく家に来る映画好きの友人。何となく意見が一致して何故か俺の部屋に置くことになった映画専用の高級スピーカーをONにして、友人はディスクをDVDプレーヤーへと入れる。
こんなことなら俺の家に置くのをやめれば良かった。
と考えて、かといって友人の家までわざわざ行くのは気が引けるなと顔を顰める。
そんな俺を気にする素振りもなく、友人は座んないの?とソファを叩いた。どうやら自分はソファの前の床に座り込み映画に集中するらしい。家で見ろよ。
映画が始まると、こちらの様子など一ミリも気にならなくなった友人は画面を食い入るように見つめ始めた。友人が座らないならと嫌がらせに寝そべり、ため息をつく。
実は、こういう調子の悪い日は必ずといっていいほどコイツが来るのだ。何も連絡などしていないというのに、どこからか突然現れて映画を見たり話をしたり、満足したら帰っていく。正直何を考えているか分からない。でも、それに助けられている自分もいるというのが、もっと癪に触る。
「んー、やっぱり。熱出てる。」
深い海の底に沈んでいた意識が徐々に浮上し、水面まで辿り着く頃には、俺の体は倦怠感と節々の痛みに襲われていた。心做しか朦朧とする意識に混乱しながら起き上がろうとすると、ぬっと黒い影が自分の上に現れる。
「起きちゃダメだよ。熱あるんだから寝とけ。」
よく見ると青いラベルのペットボトルを持った友人がソファの前に立っている。差し出されたペットボトルを受け取る気にもなれずにぼんやりしていると、額にそれを押し付けられた。
「さっき冷蔵庫から出したからまだ人並みの体温ほどでは無いんだよなー。熱出てる時に冷たいもの一気飲みは危ないって言うし…ちょっとそこで温めといて。」
なんて雑なんだ。突っ込む気にもなれず、返事をしない俺に了承と取ったソイツはキッチンの方へと消えていった。
額に置かれたペットボトルを片手で抑えながら、友人を待つ間に窓の外へと目を向ける。外はもうとっくに暗くなっており、窓に多くの雫がついていた。雨降ってんのか?と疑問に思いながらそれを確認しに行く体力もないので思考を放棄する。
この症状なら風邪だな。
そういえば、俺の家に青いラベルの某人気スポーツドリンクのペットボトルなんて置いていただろうか。最近は買い出しもサボる傾向にあったし、買ったとしても食事に最低限のものしかないはず。
何故これが冷蔵庫に…?
ふと、友人が来た時に下げていたビニール袋を思い出した。DVDをみたいという割には少し大きめなビニール袋に少しだけ感じた違和感。
まさか、こうなることを知っていた?
もしやエスパーなのか?そうか、だから毎回調子の悪い日によくここに来るのか。くだらない考えを持ち、少し冷静になってから破棄する。確かに彼は頭が良く優秀だが、そこまでの力を持ってるわけが無い。
「ほーい。持ってきた。」
軽い口調が聞こえたと思えば、やっと戻ってきた友人の手にある冷えピタと言われるもの。
あぁやっぱり。と友人が自分を気にかけていたことを理解して、思わず頬が緩んでしまった。
そんな俺に気づくこともせずに、彼は冷えピタをペットボトルを避けた額に乗せると、なんでもないように言った。
「日が沈む頃に雨が降っていたんだけど、天気雨でさ。窓についてた雫が夕焼けの赤い日を浴びてキラキラ輝いてて、めっちゃ宝石に見えた。」