『雪』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
大寒波でいきなり特大冬季うつきた!
もう生きるのやだよ〜
《雪》
すっっごい書きたい!!!
2026.1.7《雪》
その村は、降り続く雪に閉ざされようとしていた。
「ここ、だよね?」
辺り一面の雪景色に、燈里《あかり》は手紙に書かれている住所に目を通しながらも眉を下げる。まだ昼前の時間だというのに、村はひっそりと静まり返っていた。
「ここだよ。間違いないから大丈夫」
戯れに足元の雪を蹴り上げながら、楓《かえで》は肩を竦めてみせる。燈里よりも小柄な彼女では雪道を歩くだけでも一苦労だ。
「楽しめって言われても、楽しむもんは何もねぇな」
雪に埋まりかける楓を抱えあげ、冬玄《かずとら》は眉を顰めて溜息を吐いた。村を一瞥するその表情には、不満や疲労が浮かんでいる。
「ご、ごめんね。まさかこんなにも過疎化しているなんて思わなくて」
二人の様子を見て、燈里はさらに眉を下げる。正月の休み疲れが抜けない内に、朝早くから電車とバスを乗り継ぎ車を借りて訪れた場所がこんなにも人気のない村であるとは予想していなかった。
雪かきの跡がなければ、それこそ廃村だと言われても納得してしまうほどに村には人の気配がない。まるで何かから隠れ、やり過ごそうとしているようにも思えて、燈里は不安に視線を彷徨わせた。
「あれ……?」
何気なく山の方へと視線を向けた時だ。雪の白とは違う色を認めた気がして、燈里は首を傾げた。
目を細め、違和感を覚えるその場所を注視する。白とは違う深い青。木肌とは異なる藁蓑に小さく息を呑んだ。
離れていても、何故だかはっきりと見える。どこか獣にも似た青い面は、右目から頬にかけて大きくひび割れ欠けてしまっている。だが、その奥に見えるだろう顔はおろか、目すらも黒く塗りつぶされたように僅かにも見えない。大柄な男の影が面を被り、藁蓑を纏っているかのようだ。
その右手に握られているものを見て、燈里は眉を寄せた。刃物にしては細く長いそれは、杖のような印象を受ける。
それが何であるのか。さらに目を凝らすと、不意に視界が黒に染まる。
「冬玄?」
香る蝋梅に燈里は冬玄の名を呼ぶ。目を覆う手に触れれば、外される代わりに肩を引き寄せられた。
「何を見ているか知らんが、あまり山を見るんじゃない。魅入られるぞ」
優しく、それでいてどこか険しさを滲ませる冬玄の言葉に、燈里は小さく頷いた。
人ならざるモノに魅入られることの恐ろしさは、彼女自身痛いほどに理解している。心を鎮めるように目を閉じ、一つ深呼吸をしてから目を開けた。
もう一度山に視線を向けるも、雪以外に見えるものはなかった。
「ねぇ、冬玄。何か感じる?」
視線を逸らすと、燈里はふるりと肩を振るわせた。燈里の問いに、山から隠すように強く抱き寄せながら、冬玄は囁いた。
「いろいろ、だな。信仰や未練なんかが全部混ざってる感じだ」
「山ってそういう場所だからね。畏れ、祈り、喜び……与えられるものに感謝して、奪われるものに執着する。それらがどろどろと混ざってひとつになって、山に満ちているんだよ」
冬玄の言葉に付け加え、楓は溜息を吐いた。
「燈里が見たのは悪いモノじゃない。ないんだけど、混ざり過ぎてよく分からないな。ただこの場所は、山と村の境界が他よりも強く感じるね」
笑顔の中に困惑を色濃く浮かばせ、楓は山を一瞥する。
楓は燈里がまだ学生時代の時、とある廃村の怪異に巻き込まれた際に出会った妖だ。その後紆余曲折を経て、今は彼女の記憶や感情を共有する存在となった。
同じものが見えた故の楓の言葉に、冬玄は眉を顰める。
「何を見た?」
燈里に害のあるモノか否か。冬玄にとって、重要なのはそれだけだ。
危うさすら感じられる冬玄の思いに、楓は苦笑する。しかしそれには何も言わずに、多分と前置きしつつ答えた。
「ヒガタ。多分擬きかな?境界の向こうにいるせいか、はっきりと断言することはできないな。情報もほとんどないしね」
「おじさんたち、ヒガタを見たの?」
不意に見知らぬ声がして、冬玄は燈里を腕の中に隠すようにしながら振り返った。
いつからいたのか。村の入り口で少女が一人、こちらを見ていた。
「村の子?ねぇ、他の人間はいるかな?」
警戒心を隠し、楓は笑みを浮かべて少女に近づいた。楓と然程変わらぬ年頃に見える少女は、屈託のない笑顔を浮かべ頷く。
「いるよ。でも今の時期はほとんど誰も出てこないの。ヒガタが来るからね」
「あんたは出てていいのかよ」
身動ぐ燈里を抑えつつ、冬玄は問いかける。燈里の性格をよく知る二人は、お互い目配せし必要な情報だけを得ることに決めたようだ。
「わたしはお迎えに来たの。だっておじさんたち、手紙を読んできてくれたんでしょう?」
「あの手紙、君が書いたの?」
「それも全部お話しするから、わたしの家に来て。ばあちゃんに会って欲しいの」
少女の言葉に冬玄と楓は顔を見合わせる。
深く関わり合いになるつもりはない。だが話を聞かねば、燈里の仕事にならない。
悩むのは一瞬。
会話に混ざろうと踠く燈里を宥め、冬玄は静かに告げた。
「分かった。行くか」
「ありがとう!こっちだよ」
先導する少女について歩き出す。
「冬玄」
「あまり深入りするなよ、燈里」
「う、うん。気をつける」
結局は無駄だろうと冬玄は密かに嘆息した。
優しい燈里のことだ。相手に心を砕き、自身を犠牲にしても最良に向けて動くのだろう。
楓も同じように、考えているらしい。目が合い、お互いに眉を寄せた。
「気をつけてね。毎年、この時期だけは雪がたくさん降るの。小正月を過ぎると落ち着くんだけどね」
先を行く少女は、慣れたように雪かきの跡が残る道を歩いていく。それに続きながら、燈里は手紙の内容を思い出す。
ヒガタ。泣かない子供。雪。
見上げる山は、雪の白に覆われている。
そこにいるだろうヒガタという名の来訪神を思い、燈里はそっと冬玄に寄り添った。
20260107 『雪』
真冬の太陽よすっきり溶かして
陰に残る雪心の澱
#雪
【雪】
(※性的表現有り🔞)
『あの子』が、『あの人』が、
オレの『雪』を求める。
オレの『あっけないもの(快楽)』を
そんなに求めてどうするのか…
ベットの近くの時計とゴムを横目に
オレは呆れを感じている。
オレの『心の寒さ』を温めようとしてるのか?
オレの熱を『情熱』だと思っているのか?
冷えた心から飛び出るものは
オレにとって『雪』と変わらない。
無駄なことして何が楽しいの?
ねえ、もういいからさ
相手した『お代』をちょうだいよ。
前回投稿分から続くかもしれないおはなし。
最近最近のおはなしです。
冬真っ盛りの都内某所、某アパートに、藤森という雪国出身者が、ぼっちで住んでおりました。
「ゆきぃ?」
「雪昆布と言います」
「ほんとに、ホントに、ゆき……?」
「細かく、小さく削った昆布です。
口に入れると雪のように溶けます」
「キツネこっちがいい」
「コラそのままは塩分が多過ぎるから待ちなさい」
今日は、その藤森の部屋に、お客様が2人と1匹、
別の世界から来たお嬢さんがた2名と、
近所の稲荷神社から来た子狐です。
なんでもお嬢さんのうちのひとりの、大事に大事に使役しておった機械式ゴーレムが、
お嬢さんがたの同僚に、ドチャクソかっこよく、もといバチクソオーバースペックに、
超改造、大合体、スーパーチューンされまして、
それを、子狐のおじいちゃんに、再調整してもらいにやって来たのだとか。
「で、その、再調整? それが終わったのであれば、もうこっちの世界に、用事は無いのでは?」
藤森がお嬢さんがたに聞きました。
「だって、藤森さんとこ、ごはんあるもん」
お嬢さんの内のひとり、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織に勤めておるドワーフホトが、
ぺたぺた、ぽてぽて、
藤森が握ったおにぎりを合体させて、言いました。
「雪だるま! これに、雪こんぶ。
うーん。かわい〜」
「はぁ」
「いただきまぁす」
カジカジカジ、かじかじかじ。
藤森とドワーフホトの会話の外では、子狐が大きなおおきな、まるで薪板のような乾燥昆布の、
1枚に牙を突き立てて、幸福そうに噛んでいます。
肉厚の昆布は固くて、かじるのに丁度良いのです。
じゃかじゃかじゃか、シャカシャカシャカ。
子狐の昆布タイムの奥では、子狐のおじいちゃんが再調整したというゴーレムロボ、「テキサスロングホーン」が、
主人たちの使った食器をキレイに、丁寧に洗浄中。
もともと事務作業のお手伝いゴーレムだったそうで、細かい仕事は得意なのだそうです。
「……それにしたって、その、ツノが」
「これでもねー、コンちゃんのおじいちゃんに、縮めてもらった方なのぉ」
「これで?」
「うん。コレで〜」
「……『コレ』で?」
「そう。コレで〜。
だいじょうぶ。ちゃんと、もっと引っ込むからぁ」
にしても、削り昆布、おもしろいねぇ。
ドワーフホトは、おにぎり雪だるまの熱と水分で踊る雪昆布を観察して、上機嫌。
かつお節みたいだと、ポツリ言いました。
その隣ではゴーレムロボの主人、
同じく世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織に勤めておる「クラブカーフ」、
もといテキサストルネードが、
何かあったのか、えうえう泣きながら、
ちゅるちゅる雪昆布の温かいお吸い物を、美味しそうに堪能しています。
「藤森さん、おにぎりおかわりぃ。
もっと大きく握ってほしい〜」
「わりと大きく握った方ですよ?」
「もっと。もっとー」
ゆ〜きだ〜るま! ゆ〜きだ〜るま!
藤森の部屋のお客人は、雪だるまが大好きな様子。
始終、幸福に、おにぎりの雪だるまに削り昆布の雪を降らせておったとさ。
「すげぇな、お前」
半ば呆れて目の前に盛られた白い山を見る。
「え…なんで?」
「そんなにナポリタンにチーズ掛けるやつ初めて見たわ」
「これくらい普通じゃない?」
そう言いながらまだ掛ける手をやめない。
もうほとんどオレンジ色は見えない。
雪のようにこんもり盛られた粉チーズ。
「俺もチーズは好きだけどすごいなお前」
ここまで来るとなんか笑える。
「美味しいよ。ほら」
食べてみ?と上手にくるくるとフォークに巻き取られたオレンジと白のそれを目の前に差し出してくる。
自分も同じナポリタンだしと断ろうにも有無を言わせない雰囲気の眼差しで差し出してくるからちょっと考えて目の前のフォークを咥える。
口の中に広がるまろやかな風味。
「まぁたしかに美味しくはあるよな」
その反応を見た目の前の男は満足そうに笑った。
「な!美味いだろ?お前も掛けてみ?」
すかさず俺のナポリタンにも掛けようとするから奴より早く粉チーズを手に取ったつもりだった。
が、掴んだ手の中にはそれは無く無常にも俺の前にも白い山。
「おまえ…まじ…」
もう言い返す言葉も出なくて恨めしげに自分の前のこんもりした雪山を見る。
「いいんだけど、いいんだけどさ俺の適量…超えてる」
「いいじゃんいいじゃん。俺とお揃いで食べよーよ」
にんまりと悪びれもなく笑う。
ちろりと上目遣いに睨んで。
「まぁいいけどさ。お前口にずっとケチャップ付いてるよ」
身体の大きなイケメンが口の端にケチャップ付けてる姿はなんか笑えるものがあるな。
指摘された彼は指で付いたケチャップを指で拭いペロリと舐めた。
そのまま俺の方へと手を伸ばす。
そしてその親指でそっと口元をなぞられて思わず身を引く。
「なに!?」
「お前も口元付いたままだったぞ」
そう言いながらその指をまた舐めた。
「言えよ!!」
目の前の男は焦って言い返す俺の反応に軽く笑って返す。
「いいから食べよー。冷めたら美味しさ半減しちゃうよー」
まだ動揺して口元を手の甲で押さえてる俺に。
「それとも…」
意味ありげな視線を送って。
「食べさせて欲しい?」
にんまり笑った。
「ふざけんな。勝手に1人で食ってろ」
そう言って雪山と化したナポリタンにかじりつくように口を付けた。
満足そうに見下ろしてる奴が恨めしくてアイツの雪山にタバスコをこれでもかってぐらい掛けてやった。
赤く染まる雪山。
衝撃に固まる目の前のオトコ。
イケメンはどんな表情でもかっこいいなーうんうん。
ざまぁみろ。
(雪)
小さい頃は雪が降ると嬉しくてわくわくして冬が楽しみだった。だけど今は外に出たくなくなる。これは無邪さとかピュアな気持ちがなくなったんじゃなくて、きっとあの頃より成長したってことだよね
「雪」
『雪』というお題のことを考えるだけで手足の指先に痛いくらいの冷えを感じてしまうので今回はお休みしちゃおうかと思います。へっくしゅっ……うう、さむっ。
『雪』
痛いくらいに冷たい空気。ひやりとした風。
雪が降る。
これからきっと雪が降るのだという気候。兆候。
もしも雪が降ったならどうしよう。
僕は折り畳み傘を持っていない。
—雪だるま—
ある男の子が僕を作ってくれた。
「お昼だから帰るよ」
「お母さん、待ってー!」
その子供はいなくなってしまった。そのままじっと待っていると、声が聞こえた。
「これじゃ惜しいわね」
新しくきた女の子は木の実と枝を使って、目と鼻と腕を付け足してくれた。
「よし、いい感じ」
目と鼻と腕を作ってくれたその子もいなくなってしまった。またしばらく待っていると、今度はおじいさんがきた。
「これじゃ寒いじゃろ」
そのおじいさんは手袋をくれた。
「ほっほっほ、さらばじゃ」
夜、辺りが真っ暗になった頃、酔っ払った若い男がやってきた。
「おお、立派な雪だるまじゃねぇか。あと足りねぇのはこれだけか」
その人はマフラーをかけてくれた。
「あぁ、また帰りが遅くなると女房にキレられちまう。早く帰るか」
その男はしゃっくりを上げながら、ふらふらとした足取りで帰っていった。
(みんな優しいな……)
心が温かくなった僕は、溶けてしまった。
お題:雪
〈煤雪、根雪〉
朝の通勤路、数日前に降った雪が、歩道の隅で薄汚れた塊のまま残っていた。踏み固められた雪はゆっくりと水に変わり、側溝へ細い流れを作っている。
その様子を見ながら、私は自分の居場所を重ねていた。
去年の今頃のこと。
休憩が終わり、マグカップを洗いに行こうとしたら、給湯室の扉の隙間から上司の本郷さんの声が聞こえてきた。
「今泉さんさ、歩道の隅で何日も溶け残ったような雪みたいだよな」
「ああ、わかります。いつまでも日陰に残って、埃かぶったような」
若手の営業、望月くんの声だ。二人の笑い声が続く。
私はコーヒーカップを手に、そのまま立ち尽くした。中に入ることも、離れることもできずに。
三十八歳、独身。この会社に十五年いる。
入社したての頃は「今泉さん、可愛いね」と言われた。取引先への同行を頼まれ、飲み会では隣に座らされた。
でも三十を過ぎた頃から、私の存在は透明になっていった。
この会社は男社会だ。女性は若いうちだけチヤホヤされ、年を取れば価値がないように扱われる。
他部署に残っている五十代の女性社員、柏谷さんは違う。彼女は上司のパワハラ気質に巧みに乗っかり、後輩を叱責する側に回ることで生き残った。
「女のくせに使えない」と平気で言う。
私は、とてもそんな風にはなれなかった。
地味に、黙々と仕事をした。マニュアルを作り、業務フローを整備し、私がいなくても回るように準備した。
でも結局、些細なことで皆聞いてくる。マニュアルに書いてあることでも、「今泉さんに聞いた方が早いから」と。
私が三か月かけて作った提案書は、望月くんの雑談力で取った契約の前では、誰も評価しない。
それでもよかった。この会社で消耗するつもりはなかったからだ。
考え方を変えたのは、八年前のことだ。
婚約していた恋人が浮気をした。相手は大学の後輩だった。
「ごめん、でも彼女の方が一緒にいて楽しいんだ」という彼の言葉に、何も言うことはできなかった。
婚約破棄以降、結婚という制度に意味を見いだせなくなった。誰かに選ばれなくても、きっと私には私の価値がある。そう信じて、勉強を始めた。
最初はITパスポートやMOSを取った。業務に活かせると思って報告したら、本郷さんに鼻で笑われた。「そんなの誰でも取れるでしょ」。
次にFP2級、簿記2級を取得した。でも評価は変わらなかった。
実績よりもコミュニケーションが評価される会社だ。人当たりが良く、飲み会で上司を盛り上げる望月くんは、成果が出なくても可愛がられる。
だったら、どうせなら。
そう思って、公認会計士を目指す。合格まで五年かかった。
残業のない日は図書館へ通い、週末はカフェで参考書を開いた。誰にも言わず、黙々と。
休憩室の一件以降、本格的に転職を考える。
転職エージェントの山本さんに初めて会ったとき、驚かれた。
「何故これだけ資格があったのに、今まで転職しなかったんですか」
私は答えた。
「勉強するためです」
山本さんは首を傾げたが、私にとってはそれが答えだった。
この会社にいれば、感情を使わなくていい。期待されていないから、失望されることもない。毎日感情を押し殺し、割り切って業務をこなす。
その分のエネルギーを、全て勉強に注ぐことができた。
スマホに通知が来る。山本さんからだ。
「面接の日程が決まりました。先方も実績と資格を高く評価されています。
今お勤めのところよりかなり条件も良くなりますよ」
画面越しの文字を、何度も読み返す。実績を、資格を、評価してくれる場所がある。
窓の外を見ると、冬にしてはかなり暖かい日差しが差し込んでいた。十二月だというのに、気温は十五度を超えている。
オフィスの外、ビルの谷間の植え込みには、先週降った雪がまだ残っていた。日陰の、灰色に煤けた雪の塊。
今日は、その雪が溶け始めている。陽の光を受けて、少しずつ、確実に、水になって流れていく。
「すっきりさせないとね」
私は小さく呟いた。
面接の結果がどうであれ、退職願を書こう。引き継ぎのスケジュールを組もう。丁寧に、完璧に。私がいなくても困らないように。
長年続けてきた、根雪のように私の中で確立されたやり方だ。
確かに私は溶け残った雪だったのかもしれない。この会社の隅で、誰にも気づかれない存在だった。
でも今、私は動き出そうとしている。新しい場所へ向かって。
誰かに選ばれるためじゃなく、私が私を選んだ場所へ。
私の人生が、ようやく動き出す。
今日も給湯室から笑い声が聞こえる。もう、気にならなかった。
──────
登場人物の名前、考えるのがしんどくてですね。
今回は地名を使っています。
あらあらここなのね、とおわかりになられたら笑ってください……
雪/夕べ
寒さが強い夕べ
薄曇りの空から雪が降りてきた
底冷えする足元に落ち
風に吹かれて溶けてしまう
暖かい家も家庭もない身には
胸までもじわりと冷えて
両手をポケットに突っ込んで
どうしても下を向いてしまうよ
雪国より胸の中は冷えてたまらない
キンと冴えた空気の中に、ほんの少し湿り気を帯びた風が吹き抜ける。あー、今日は冷えるなという日は、のちに雪が降り出すことが多い。
滅多に雪が降らない地域だから、たまに降ると心が躍る。白いものが、ちらちら落ちてくると、あ、雪!って誰かに言いたいくらいに。
子どもの時、雪が積もった朝は、みんなで校庭に出て、雪合戦をしたり雪だるまを作った。授業を飛ばしてまで許される、その特別な感じがうれしかった。あの時のわくわく感が、今でも残っているせいだろうか。
雪がちらつくと、わざわざ外に出たくなる。冷たい白い粒が、はらはらと体に降り掛かる。すると、妙に人恋しくなって「雪が降っています。元気ですか」なんて、懐かしい人に連絡したくなる。普段出ない勇気がでたりする。
「雪」
音もなく降る雪と、君と一緒に遊んだスノードームが重なって、冷えた心も君によって解されているような感覚になる。
「雪」
「雪」
新しく異動してきた上司は瀬戸内で生まれ東京で育ち九州支社で鍛えられたらしい。
「すごいっすね。じゃあこの東北支社で日本制覇ですか」
僕は特大の唐揚げに潤わされた唇を拭いて言った。
4月から始まったプロジェクトの1ターム目が終わったのでその祝賀会と少し早めの忘年会である。
いつもなら飲み会なんて参加せずに帰るのだが、2タイトルが掲げられている飲み会は断りにくいし、何より4月から異動してきた上司が初めて参加する飲み会なので来てしまった。
いつも無口で無愛想。仕事はできるが主役である歓迎会すらも断った男だ。プライベートを覗き見たい気持ちが勝った。
「北海道を除けばそうだね」
無口な上司は酒が入ってもにこりともしない。
「いいなー、俺なんて東北から出たことないっすよ」
同僚や先輩たちがそうだそうだ、いや俺は東京の大学で、と騒ぎ出す。
会がお開きになり、店の外に出ると雨が降りそうなしっとりとした空気と冷たい風が吹いてきた。
「今夜雪になりそうっすね」
上司はメガネをくいっと上げてこちらを見た。
「…積もるかね」
「まあいつも積もりますね。明日運転気をつけたほうがいいっすよ」
「そうか、ありがとう」
そう言って上司は一人駅の方への消えていった。
翌朝、出勤すると上司はまだ来ていなかった。
二日酔いか?いつもなら始業時間の1時間前に来ているのに。もしかして事故ったか?
予想通り起きると一面銀世界ですでに膝の高さまで積もっていた。
慎重に走る車が多く、自身も渋滞に巻き込まれた。
「すまん。遅くなった」
オフィスのドアが開いて上司が姿を現した。
「おはようございます。渋滞ヤバかったですよね」
「…ああ」
やはり無愛想に返す上司。しかし俺は見逃さなかった。
びしょびしょのコート、手袋をしていたのに真っ赤な手。雪遊びをした証拠だ。
「雪…初めてっすか?」
上司は少し顔を赤らめて頷いた。
雪
冬の贅沢
おこたでアイスなんて夢のまた夢
西国では雪は貴重
1シーズンに一度あるかどうか
槙の葉に薄っすら積もった初雪を
せっせとかき集めて溶けないうちに
白砂糖をふりかける
むせながら頬張る
ホコリっぽい雪の味と砂糖の甘さ
ほんの半世紀前の子供の情景
肌に触れる風が、冷たい。この季節ではまぁ、当たり前のことかもしれないけれど、今日の風はいつもよりも冷たい。温度が、明らかに違っていた。
凍らせてやる、とでも言いたげに、何度も何度も前髪を揺らし、服の隙間から芯まで冷やす。マフラーで口元を被っても尚、隠れきれずにいる目元や耳の温度が痛いくらいに下がっていて。我ながら馬鹿だな、と心の中で呟いた。
視界には、地平線。こんな、雪雲で濁った暗い海を、何故か寒い思いをして見に来ている。
何故、ここに来たくなったのか。それは自分でも分からなかった。ただの、気まぐれというやつだ。そして偶然、それがとてつもなく寒い日で、今にも雪が降りそうな天気の時だった。ただ、それだけ。
冬の海が好きだ。暑くて、キラキラと眩しい夏の海も好きだけれど、ひねくれた性格のせいか、季節外れのこの時期の方が綺麗だと自分の中で言い張って、毎年絶対にこの景色を眺めている。しかも今日はもっと綺麗になるはずだ。だって、これから『白』が増えていくのだから。海は青が似合うし、それが当たり前かもしれないけれど、白だって有り得ないほど似合う。それを、きっと知っている人は少数だろう。そうだと、良い。
「あれ?きょうのおひさま、いつもとちがうよ。」
1番ちいさなペンギンが、不思議そうに言いました。
その横にいた、1番大きなペンギンが、
「ほんとうだ!なんだかなないろにひかっているぞ!」
と、叫びました。
今日は、ペンギンたちの雪まつり。
雪の広場に集まったペンギンたちは、
一斉に空を見上げました。
そこにあったのは、虹のように七色に輝く太陽でした。優しい光がクルクルと渦を巻き、いつもより眩しくありません。
その美しさに、みんなうっとり。
しばらくすると、キラキラとまばゆい光が辺り一面降りそそいできました。
ペンギンたちはその光を身体中に浴びて、大はしゃぎ。音楽隊は、リズミカルな曲を奏ではじめました。
さあ、ダンスタイムです!
みな好き好きに踊るなか、1羽のペンギンが、雪の上をシューッと滑りました。すると、地面から虹が現れたのです!
なんてキレイなんでしょう!
それを見たほかのペンギンたちも、あちらこちらで雪の上をシューッ、シューッ、と滑ります。大小さまざまな虹がたくさんたくさん出てきます。ペンギンたちが滑ったあとは、雪が虹色になっています。
「いつもはまっしろいゆきだけど、にじいろになって、きょうはすてきなゆきまつりだねえ。」
最初に太陽に気づいた1番ちいさなペンギンは、ニコニコして言いました。
ホントですね!
いつもと違う素敵な雪まつり。
虹色の雪まつりは、きっと太陽からのプレゼントだったのかもしれませんね♪
雪消えず冷たい空に頬紅く
貴方の指を温めている
#雪