『雨に佇む』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ぽつぽつと雨音を楽しみながら本を読む。
久しぶりの雨だ。
私は、寂れた古民家で煙草屋をやっているのだか、こういう日はお客さんが少ない。
が、雨の日にしか来ない人もいる
「こんにちは。お兄さん」
「こんちわ」
雨の日、いつものように雨宿りをしに来ているお兄さん。
黒いスーツにサングラスという柄の悪さだが、話してみれば礼儀正しい青年だ。
「今日も雨だね。はい、タオル」
「サンキュー」
「気にしないで」
お兄さんが来るであろう事を見越して、雨の日はタオルを用意する。これも習慣になってるね。
「さて、雨が止むまでどんな話をしようかね?」
「俺はあんたの話を聞きたい」
「私の話は前回しただろ?次は君の話だよ。mtdくん」
「名前で、呼んでくれよ」
「もう少し親しくなったら、呼んであげる」
お互いに口には出さないが、暗黙の了解で、雨の日にしか会えない。
「俺のどんな事を聞きたいんだ?」
「そうだね、好きな食べ物は前回聞いたからね。好きな事はなんだい?」
こんな、曖昧な関係を私達は気に入っている。
︰雨に佇む
改札を通ろうと定期券を取り出したつもりが、掴んでいたのはクシャクシャになったポケットティッシュだった。チャックを全開にしてガバンの中身をグチャグチャひっくり返しながら定期券を探した。いいや、探しているかのような行動を取っているが、ただパニックになって慌てふためいているだけ。無い、無い、どこにも無い。今更取りに帰ったって遅刻するのでさっさと券売機に向かう。
ジャラジャラと財布を振るが丁度払える金額の小銭がない。これだけ大量にあるにもかかわらず、ピッタリが無い。仕方がないので500円玉を入れると、カラン、と戻ってきた。ああクソ、カラン、ああクソ、カラン、ああクソ、カラン、ああクソ!!500円玉はカランと無慈悲な音を立ててこちらを見上げる。とっとと1000円札を突っ込んでボタンを押した。カツンと切符1枚と欲しくもない小銭がジャラジャラ流れ出てきた。さっさと鷲掴んで改札を目指す。
切符が使える改札は右端の2つで、空いてそうな奥側に並んだ。さあさっさと電車に乗ろうと切符を構えたところで前に並んでいた人が「ピンポーーン」と鳴らした。何度かICカードをタッチしているが上手く改札を抜けられないらしい。イライラだとかそんなレベルを通り越していっそ何も感じなかった。電車は一本乗り損なった。
吊革を持って外を眺める。体がだるくて立っているのでやっとだ。寝不足の影響か酷い頭痛がして目眩もあった。ガタンゴトン、ガタンゴトンと規則正しい音と、時折対向する電車とすれ違う瞬間のバーーーーという音だけを聞いていた。揺られて、内臓も揺られて、この場で嘔吐するのを耐えることばかり考えていた。
そうしていると「ぅあ〜〜〜〜!!あーーー!!」と赤子の泣き声が耳を突き刺し脳を揺さぶった。一気に吐き気がこみ上げてきたがなんとか喉で押さえ込む。正直な所体調不良に赤子の泣き叫ぶ声は堪えた。でも赤ちゃんは泣くのが仕事だからなぁ、お母さんも一生懸命育ててるんだ、きっと大変だろうなぁ、ああ、あぁ、ぁ、無理だ。耐えられない。
ガラガラと扉が開いて人の波に押されながら電車のホームへと降り立った。嘔吐することはなくなんとか耐えたが、ボロボロ流れてくる涙は一向に止められそうになかった。哀れだ。「大きくなったら誰もあやしてくれない」なんて当たり前な文章を脳内でふと生成してしまって自爆していた。あーあ、あーぁ、惨め。
階段を降りて地下鉄へ。コンビニ寄って一番安い昆布おにぎり1つ購入。また切符を買って改札へ、改札通ったら急いで1番線。乗車して数駅、また下車したらそのまま3番線へ。決まった道を通って決まった3号車1番ドアへ。そしてまた乗る。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、どうして?、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、もう嫌なの!、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン
ン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、お願いだから、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン
ガタンゴトン、ガタンゴトン、分かってくれる?、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、おやすみなさい、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、じゃあね、ガタンゴトン
プーーーーーーーーーーーーーーーー
我に返る。息を吸う。おにぎり、を持っている。もう昼食の時間になっていた。おにぎりに齧り付く。モチャモチャ、白米は小さな幼虫を噛んでいるみたいで、プチプチ、昆布は内臓を潰しているみたい。美味しいのか美味しくないのか分からない。今食べているものが自分の体の一部になるんだと思うと、このおにぎりが可哀想だった。
これから帰りの電車が来るからなるべく早く地下鉄へ向かいたかった。でも傘を忘れた。今朝スマホの天気予報で雨マークを見たはずなのに。いや、今思えば本当にただ見ていただけ、眺めていたただけだった。傘なんて頭に無かった。
もう服も鞄もどうでもいい。濡ればいい。もう全部どうでもいい。そんなことより早く家に帰りたい。
家に帰って、何するんだろう。洗濯物をずっと溜めてる、洗わないと、違う、洗濯機に入れて回したのに干さなかったやつ5日も放置してる、臭くなってるからそれから手を付けないと、その変にほったらかしてるゴミ袋いつ出せばいいのかな、早く食器洗わないと、もうカビ生えてた、使える食器ももうない、違う、もうとっくに使える食器なんてなくてずっと紙皿と割り箸ばっか使ってた、そういえばご飯最後に炊いたのいつだっけ、また炊飯器カビの温床になってる、めんどくさいな、嫌だな、ご飯買って帰らなきゃ、冷蔵庫の中のきゅうり、腐って溶けてたの片付けないと、最後に料理したのいつだっけ、料理?りょうり?ってどうやるんだっけ、しばらく電子レンジしか使ってなかったな、机の上に積み重ねてる食べたあとのゴミ、早く纏めなきゃ、虫湧く、ハエ邪魔、それより風呂入らないと、シャワー浴びなきゃ、汚いよ、不潔、分かってるのになんでできないのかな、そうだ、電球切れてるのも変えなきゃ、もうずっと部屋が暗い、『朝日を浴びたら健康になります。まずはカーテンを開けましょう!』ねえ、ねえ、カーテンってどうやったら開けられるの、カーテンの前に積み上げちゃったゴミ袋どうしよう、ねえ記事書いてる人教えて、どうしたらいいのか分かんない、どこから何から手を付ければいいのか分からない、どうしよう、どうしよう、どうしよう、帰って、どうするの?
雨が冷たい。
雨が冷たい。みんながスローモーションみたいにやけにゆっくり通り過ぎて行く。今日は灰色の空。雨は冷たい、でもなんだか温かいような感覚がする。ゆっくり、ゆっくり。何かがぼやけていく。皮膚がバリバリ剥がれて浮かんでいってるような感覚に陥る。何してるんだろう。今自分はどこにいるんだろう。今って“ここ”にいるのかな。どこに立ってるんだろう。どんどん自分から遠のいてく。上なのか、後ろなのか、奥なのか、斜めなのか、どこかへ離れていく。幽体離脱でもしてるみたいだ。ここって、どこで、今、なにしてるんだろう。
パポ!パッパポ!パポ!パッパポ!パポ!ざーーーーパポ!パッパポ!ペポ!パッパポ!ざーーびちゃびちゃざーーーーパポ!パッパポ!ペポ!パッパポ!ざーーーーパポ!ペッペポ!パポ!ざーーーーーーパポ!びちゃ!ペポ!パッパポ!ざーーーパポ!パッパポ!
何か音が聞こえる。何か混ざって気持ち悪い。頭の中がぼんやり白くて黒くてモコモコしてる。
ざーーーーーーーーーざーーーーー
『あ、おかえり〜。雨凄いねぇ、よっと、丁度タオル敷いとこうと思ってたとこなの……って、ランドセルびちゃびちゃ!拭く用のタオルもいるか、持ってくるね』
ただいま、×××。あれは、誰だったっけ。この記憶は、一体いつのものだろう。なんで、今、
そうだ、今 雨が降ってるんだ。
横断歩道を渡る最前列で傘も差さず佇んでる。
ピヨ!ピヨピヨ!ピヨ!ピヨピヨ!
今は、この音、南北の横断歩道が青なんだ。じゃあさっきの音はカッコウで、東西の横断歩道の音だった。雨音と混じって、グニャグニャになってたんだ。
コツコツびちゃびちゃと足音を立てて皆通り過ぎていく。大丈夫、もう大丈夫だ、みんな普通のスピードだ。
帰らなきゃ、早く帰らなきゃ、なんで?なんだっけ。さっきまで何考えてたか忘れてしまった。早く帰って、それで、早く寝たい。
ここ、さむいなぁ。
『プーーーーーーーーーーーーーーーー』
ようやく家に着いて、玄関で傘をおろす。
その途端に、自分の体に叩きつけるように降っていた雨音が静かになった。
雨脚が弱まったわけではない。先ほどまで、頭上で弾け続ける、ただただ不快でしか無かった雑音がなくなり、しとしとと、ただ雨が降り続けている。
庭の葉に雨粒が弾けるパラパラとした音が軽やかさまで感じさせ、今までの苛立ちが収まる。
傘を介しているからこそ雨音が弾ける音が自分のなかで爆音になり、大雨でもないのにとんでもなく雨に降られたような気分になっていた。
本人以外に痛みが分からないことの例えに良い気がしたが、私以外なら雨のなか佇むことについて、こんな余計なことではなく、もっと楽しい想像を膨らませるんだろうと落ち込み、太陽が出ていようが、やはり家のなかが一番だと、さっさと家に入った。
【雨に佇む】
チッ
雨かよ…
ベランダから外を見ると雨に佇む一人の老人が目についた
雨に濡れただ微動だにせず
私はその異様な光景にしばらく目を奪われていた
すると一人の女性がその老人に駆け寄り老人の手を引いてトボトボ歩き出した
老人をよく観察すると口は半開きで視点が合ってないような視線、靴を片方しか履いていない
これは認知症かもしれない
そんな推測が過ぎったのは私自身のお爺ちゃんが認知症を患っていた過去の経験があるからだ
私のお爺ちゃんは介護期間は短かかったものの、徘徊したり何でも口に入れたり、家族は介護に苦労していた
お爺ちゃんはある夜眠る様に逝ってしまったけど、まるで自らが認知症である事を理解していて周りに迷惑をかけたくないから亡くなったような最期だった
それはもう字がかけるはずがないお爺ちゃんが自分の娘である私の母に感謝の手紙とお小遣いが入った封筒を母の枕元に置いてあったからだ
「トイレに一人で行けなくて手伝ってもらってごめんなさい
いつもありがとうございます
お身体には気をつけて下さい
少しですが何かに使って下さい」
その字はミミズが這ったような頼りない字ではあったが確かに父だと母はこぼした
以前の優しい父が帰ってきたような文章だと母は涙を流していた
最後の最後に大好きな父が帰ってきたと何度も涙を拭っていた
I'll write it later.
お題「雨に佇む」
視界の端に仄白いものが過った。あれ、と思うも束の間、今度は硝子戸のむこうにある隣室に灯りがつく。ぱ、と鳴る。人感センサーが反応していた。灯りが消え、間髪入れずに玄関の戸を外から掻く音がし、それも止んだかと思えば今度は天井裏に足音がある。その繰り返しである。懐中電灯を片手にそれぞれの部屋を巡るものの正体は掴めない。鳴り様が部屋によって変わるのだ。いずれも同時には鳴らぬ。だから同じものが鳴らしているように思われる。虫よりは重い。鳥ではない。けれども、各々の部屋の音の示す質量はすべて異なっている。鼠ほどのものを感じさせる音もあれば猫の立てるような音もあり、戸を掻く音は幼児の爪を思わせる。似たような話をどこかで聞いた気がした。鵺。ではこれは客か。そう呟いた瞬間すべての気配は止んで、それぎり何も鳴らぬ。
何時間も降り止まない雨の中、私はずっと佇んでいた。髪も服も靴も全てずぶ濡れで、まるで濡れ鼠だと自分を嘲笑して目を瞑る。それでも雨に濡れることはやめない。雨に当たっていれば、内にある激情が流されて熱い心は冷えるような気がするからだ。冷えた頭に雨声が反響する。身体が冷えていくほど、心は熱を帯びるようで。雨の中佇む自分が馬鹿らしくなり、屋根下までゆっくりと歩いた。雨はまだやまない。
#雨に佇む
雨に佇む
泣いているようにみえた
雨に佇んでいた
君はきっと独りじゃ生きられなかった
“君に言われたくないな”
そう言って笑った君が眩しかった
太陽が君を照らしていた
_雨に佇む
サイダーの味がわからなくなったから
雨に佇む僕を置いて
ドイツに行くのか
晴れたら会えない君を
晴れを願って待ち続ける
昔さ、葬式場で俺盗ったじゃん、傘。
そうあの傘。あれ、なんか「佇む」って表現がすごい似合うんだよな。そうそう閉じて置いたときね。
だから俺あれ、捨てらんないの。
胡瓜雨が2人を包む…
そりゃ…
ねぇ…
そんなことされたら…
ねぇ…
そう思う~
誰でもそう
なんじゃないのかなぁ…♪
えっ…
あたしの勘違いなの?
なんだ…
損したなぁ…
この一週間どきどきしてたのに…
ねぇ…
今週の元気の理由知ってる?
じゃあさぁ…
なんで…
あんなことを…
したの?
教えてくれますか?
どうしたの?
なんか困った顔してるけど…
えっ…
第6の…
鍵
わかった…
部屋に入ると柱の横に小さく…
涙が溢れた…
これって多分…
気まぐれに外を歩いて
露花を愛でていると
先客が下から私を見上げながら
挨拶も無しとは失礼ねと言わんばかりに
不満気な鳴き声をあげる
気づかなくてごめんねと告げて
ここで雨に打たれているのも
悪くは無いけれど
ランチでもいかがですか?お姫様
と右手を出すと
しかたないわねと短めににゃっと応える
お姫様を抱っこして家へと帰りますか
雨に佇む
私の感性はズレているらしい
でも何を基準にしてズレているの?
この考え自体がズレているのだろうか
あぁ、今日もわからない
雨の中、一人佇む
そして傘をたたむ
一瞬にして体が水滴で覆われた
「心地よい」
思わずそんな言葉が、洩れていた
私は、通り過ぎる人々から怪訝な顔で見られていた
雨に佇む。傘は一つだけ。
あなたが傘を差し出してくれて、
今度はあなたが濡れてしまった。
ありがとう、大丈夫だよ。
私は私の傘を探しに行くね。
元気でね。
雨に佇む
雨が降り頻る朝。
独り森を歩く。
朝靄のような霧雨は、
次第にその雨粒を、
大きくしていった。
雨粒は森の木々の、
豊かな緑の葉を叩く。
その静かな音が、
疲れ切った私の心を、
僅かに癒やしてくれる。
そんな気がした。
私は雨が降り頻る森で、
そのまま、独り佇む。
雨を避ける事なく。
降り頻る雨が、
私の罪を洗い流してくれないか。
そう想いながら。
雨に佇む。
雨は私も木々も地面も、
別け隔てなく濡らしていく。
そう。私は、孤独だ。
私は雨降る中、
森を彷徨った。
そして。
雨で烟る森の出口に、
私を待つかの様に、雨に佇む
懐かしい人影を見た。
真っ白に染まる
傘をさしている意味なんてないぐらいに
強い雨が降っているときに 見慣れた景色が消えて
白い世界に迷いこんだ気持ちになる
心配されたかった。
誰でもいいから、涙を拭って欲しかった。
頭を撫でて、寄り添って欲しかった。
私の不調で誰かの予定が狂ってしまった時、
私の看病を第一に優先してくれた時、
優越感と満足感に浸ってしまった。
あの日からだ。同情を愛だと錯覚したのは。
熱を出したかった。
顔が真っ赤になるくらいに。
風邪を引きたかった。
病院で診てもらうくらいの。
看病してもらいたかった。
大事にされてる確信を得られるように。
なんでもいいから病名が欲しかった。
心配してもらうための大義名分が欲しかった。
私の不調を見抜いてくれるような、
私の不調を憐れんでくれるような、
大事に思ってくれてる人を見つけたくて。
雨に佇む。
熱が出ますようにと、祈りながら。
ざぁざあ、水が落ちてくる。
バイトの帰りに突然大雨降られたもので、急遽、雨宿りをしている。駆け込んだ場所は、シャッターの降りた定休日の花屋だった。人の邪魔にもならず、雨が止むか、緩むかを待ち続けることができる。これだけ激しい雨なら通り雨だろうと自分に言い聞かせ、濡れた足を見る。今日もまたイマイチ運のない自分を恨んだ。
雨が止まないなか、ふと、考えつく。擬音だけで状況を表せるのは日本語だけという可能性。オリジナルの擬音を作れば、表現の用法が広がるのではないか、それとも、細いコマをランダムに並べれば雨に見えるのではないか、などのくだらない妄想をするにはピッタリの状況である。いいや、やめよう。もう諦めたのだ。才能のない脳では食っていけないと。
その言葉で思い出したかのように、背中にしょった無駄に大きなリュックの中からB4サイズの茶色い封筒を取り出した。しまった、入れっぱなしだったのかと今になって思い出す。水によって変色していないかを確認した後、暇つぶしにと中身を取りだしてみる。中身は、私が書いた漫画の原稿だ。数週間前に出版社に持っていった原稿そのもの。あの時はめちゃくちゃ酷評された。
「キミのは売れないよ、単純に面白くないんだもの。」
自信作を選び、努力し、手を汚した日々を否定した
この言葉が1番くらった。
ただ、流石はプロの漫画家を支える編集部。改善点をあっという間に伝えるだけで、私の作品はよりランクが上がった、という結果を残した。それが、作品がおもしろくないテンプレ通りだったからなのか、編集者の頭の回転が早かったからなのかは未だに分からない。前者だったらと考えるだけで気分が沈んでしまう。
ひとつ、ひとつ、知っているページをめくる。綺麗に描けた場所、改善が必要だったバランス、全てを抱きしめるような感覚でめくっていった。世界の色を奪った邪龍を、勇者が成敗しに行く物語。
私のせいで、くだらないと言われた物語。
どしゃどしゃ。邪竜の怨念を押し出してくる。
「色が何をくれたのだ。黒龍の私を畏怖した愚か者は私に赤黒い傷のみ与えたのだ。こんな事が許されるとでも?」
色を奪った邪竜は、格下の人間に傷をつけられたことが玉に瑕であったのだろう。己のプライドのために、世界を犠牲にできる力を携えておきながら。
ざぁざあ。主人公が流れを変える。
「それはお前が人の命をおもちゃのように扱い、殺し続けてきたからだ!!白黒の世界なんて、オレが全部壊してやる!!」
7色の剣を掲げ、邪竜に突き刺す。
邪竜を倒し、世界には色が戻り、平和になる。
これが白黒の原稿では読者に伝わりにくかったのだ。
良く考えれば、分かっていたのかもしれない。
ぽつぽつ。なんやかんやで主人公がハーレムを作った。
…うーん。ちょっと詰め込みすぎたかも。
ヒロインがちょっと目立たなくなってる。
主人公も嫌な奴に見えるかもしれない…。
そんな反省点を考えながら、ハッとして前を見る。
本当に通り雨だったのか、少しずつ空が見えてきた。
こんなに時間を浪費できる能力があったなんて。
もうそろそろ帰らなくては。素早く片付けを済ませ、
濡れた足で自宅へと駆け出した。
雨に佇む
最悪だ
雨が降っている
降らない予報だったのに
傘も持っていないのに
仕方がないからリュックからバインダーを取り出し、傘代わりにして歩き出す
プラスチックのバインダーに当たる雨音が何となく懐かしくて、もういいかとバインダーを下ろし歩いてみた
小さい頃は雨が好きだった
傘を差すというのが1歩大人になったような気がして晴れの日も傘を差していた
リュックの肩紐をぎゅっと握り、水溜まりの中に入ってみた
あんまり楽しくないなと思ったところでふと思い出した
バシャバシャと足踏みをしていた気がする
ただ入るだけでは面白くないのは当たり前だ
現に靴下まで濡れてぐちょぐちょしていて不愉快だ
試しにその場で軽く足踏みをしてみる
足を下ろすと水が跳ねる
持ち上げると澄んだ水の中で土がふわりと浮かび濁る
じっと観察してるうちに少しだけ楽しくなった
「雨に佇む」
#雨に佇む…
夏の日
暑さの合間にサラサラと降る
陽の光に輝いて
薄水色の空に虹がかかる
空を見上げやさしい雨に打たれる
この時間が好き
ステップを踏む高く高く
水溜りがパシャンと鳴った…
髪の雫がキラリキラリ…
無心になる