視界の端に仄白いものが過った。あれ、と思うも束の間、今度は硝子戸のむこうにある隣室に灯りがつく。ぱ、と鳴る。人感センサーが反応していた。灯りが消え、間髪入れずに玄関の戸を外から掻く音がし、それも止んだかと思えば今度は天井裏に足音がある。その繰り返しである。懐中電灯を片手にそれぞれの部屋を巡るものの正体は掴めない。鳴り様が部屋によって変わるのだ。いずれも同時には鳴らぬ。だから同じものが鳴らしているように思われる。虫よりは重い。鳥ではない。けれども、各々の部屋の音の示す質量はすべて異なっている。鼠ほどのものを感じさせる音もあれば猫の立てるような音もあり、戸を掻く音は幼児の爪を思わせる。似たような話をどこかで聞いた気がした。鵺。ではこれは客か。そう呟いた瞬間すべての気配は止んで、それぎり何も鳴らぬ。
8/27/2024, 8:10:19 PM