『開けないLINE』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
きみはまた自然消滅だなどと言うのでしょう
そう思いながらブロックを押す
20240901.NO.40.「開けないLINE」
ふとスマホを弄ってたら、画面の上からバナーが出てきた。彼氏からのLINEだ。
『話したいことがあるんだけど、時間ある?』
しばらくバナーが消えるまでぼうっと眺めた。正直、どう返信すればいいのか、すぐに既読をつけたくもないくらい気が重い。彼と大喧嘩して1週間経つ。きっかけはほんの些細なこと。それが今まで蓄積した不満がお互いに爆発して沢山酷い言葉で傷つけあってしまった。終いには「あんたなんか消えちまえ!」って怒鳴ってた。
数日経って冷静になれたけど、どんな顔を向けて謝ればいいのか、プライドが邪魔をしてズルズルと今日まで連絡も出来ずにいた。だから、話したいことは別れ話なのだろう。今まで沢山迷惑を掛けてるから、愛想を尽かされてもおかしくないくらいだ。別れたくないけど、そんな都合よく事態が良くなるわけないのは承知だ。
バナーをタップしてLINEのトーク画面が映る。文字を入力している時間が、いつもより長く感じる。どう返信しようか悩む必要なんてないのに悩んで、ようやく文ができた。私は送信ボタンを押す。
『いいよ。通話で話さない?』
シュポンッと鳴った瞬間に既読がついた。「あっ」、気づいた時には着信画面に切り替わっていた。待っていたんだ。身体の強ばりが和らいだ気がして、躊躇わず応答ボタンをスライドさせた。
開けないLINE
グループLINEに招待されてから
個人に送ることはない
個別に届いたら返事をする
ただそれだけ
グループLINEも必要な連絡で
ほぼ終了
ふいにきみの声が聞こえる
楽しそうなきみの声
グループLINEでつながるきみ
きみのLINEを知らないぼく
きみと目があったその瞬間
ぼくはきみとつながる気がする
『害獣駆除(がいじゅうくじょ)』
いつもの東京、少し梅雨明け、雨上がりでまだ湿気が人々の心に侵食し始めない頃。
午前三時の鬱屈としたような空の下、たった一つの端末を見る。
「''午前四時、次の仕事は××××だ''」
「……」
薄暗く、血の臭いが微かにする路地裏で、いつもの依頼を確認。
つまらない日常、いつも通りだ。
「それにしても、午前四時ね…まぁ、普通の仕事としての時間としてはちと早いよな」
いや、嘘だ。普通の仕事だったら大分早い。
こんな早い時間からの仕事はブラック企業ぐらいだろう。
「あー後一時間かぁ。適当にパンでも買って朝食にするか」
昨日の仕事が遅れたおかげで、朝食のパンにジャム塗ることできねーじゃねぇか。
「少しは休ませろって話よなぁ」
そんな小言をグチグチと誰かに言いながら、
その誰か御用達のパン屋でクロワッサンを買う。
「あっま。なーにこのクロワッサン…昔ばあちゃんが作ってくれた梅シロップみてぇ」
少々甘すぎるクロワッサンに悶絶しながら、
タイムリミットまで残り四十分を指しているスマホの時計を眺める。
「あ、そういや明日って俺の誕生日だっけ。仕事終わったらケーキでも買いに行くか」
LINEを整理していたら、仕事関連のグループLINEで「''綾瀬の誕生日!''」とイベントに書かれていた。綾瀬とは、自分のコードネームだ。本名じゃない。
「いやでも確か十一時辺りにも仕事入ってたっけな。んーじゃあケーキはなしか」
ケーキなしという事実に眉毛をしゅんと下げながら、またLINEの整理を再開する。
ーー仕事です。仕事です。あと三分でタイムリミットです。
スマホに搭載されている仕事お知らせ補助音声、
略して''SIHO''が仕事の時間を伝えてくれた。
SIHOは勿論俺が''改良''したものだ。元からあったものではない。
「ふ~ふふ、ふんふ~ん…あーこれなんだったっけ曲名」
仕事場まで歩きながら、昔母が教えてくれた歌を無意識に歌っていた。
「ふんふん~ふ~あ、着いた」
さっきの路地裏とはまったく違う華やかなパーティー会場に着いた。
「そこのお方、ドレスコードはご確認になられたのでしょうか?」
「あ、すみません''end beginning''のものです」
「あぁ、enbyのお方でしたか。すみません。お仕事、お疲れ様です」
「いえいえ、あーでもこの格好だとバレやすいですかね」
「よかったら、お召し物お貸しいたしましょうか?」
「すみません、頼みます」
どうやらドレスコードがなっていなかったらしく、使用人に注意を受けた。
だけど変わりに服を貸してもらったので、結果オーライだ。
「えっと、今回の対象者は…あ、あの人か」
仕事で依頼された対象者の特徴を書かれたメモを読みながら会場にいる全員を見ていき、対象者を見つける。
「確か情報によると面食いだっけ?まぁ、自分イケメンだしいけるっしょ。性格はーあーチャラ系ね。うーわ久しぶりにやるわチャラ系とか…んっんんっ…よし」
コツコツコツ……
「ねぇねぇお姉さん。これ、落としましたよ?」
「え?あ、ありがとうございます!」
反応を見るに、タイプぴったりっぽいぞ
「あ、そーだ。俺、ちょっと道迷ってんすよねぇ。案内してもらってもいいっすか?」
「え、も、もちろん!!」
コツコツ…
よし、ここら辺でいいかな
「ねぇ、お姉さん。ちょっとこっち向いて?」
「へ?な、なn」
ドッ
「…うん。死んでる」
頭を肘打ちで一発。大抵の女はこれで死ぬ。案の定このお嬢さんも。
ピロンッ
「今回結構ラク…ってもう次の仕事かよ」
人の気持ちも考えずによ……
「まぁ、あいつらが人の気持ちを考えるわけねぇか。依頼内容は…」
「''次はお前の____''」
「!」
俺は、その前文だけで全てを察した。
「あーあ、ついにきちゃったかぁ。俺にもこの依頼が……」
そう呟いて、亡くなったお嬢さんに花を手向ける。
「ごめんな。俺もやりたくてやってるわけじゃねぇんだ」
白色だったカーペットに染まる赤が美しい。
「じゃー早く終わらせちゃいますかぁ」
はは…と軽く笑ってスマホを持つ男から見えた深い悲しみと愛の色。
そしてスマホの
「''親を殺せ''」
梅雨明け関係なく、彼には今日も雨が降る。
決して上がることのない、慈愛に満ちた雨が。
お題『開けないLINE』
※鬱屈(うっくつ)=気分が清々せずに、塞ぐこと。
※御用達(ごようたし)
織川より
めっちゃギリギリセーフです。久しぶりの休日です。明日と月曜日のも書けそうです!
是非、楽しみにしてくれていたら嬉しいです。この作品お気に入り登録してくれてる人しか見られないかもですね。ギリギリなので
開けないLINE
初めて彼女が出来た。
向こうから告白してきて
その時まで気づくことも出来なかった。
太ももが震えた。
元々友達としてLINEは交換していたが
付き合いはじめてから初の連絡だった。
『色々話そ?』
なんて返せばいいか分からなかった。
周りのヤツに聞いてみて
やっと開くことが出来た。
「今までモテとか意識してなかったよな。
そんなお前を好きになったんだから
何も考える必要は無いだろ」
思い出していく
言葉を血肉にして
指を動かした
大学2年生になった私は1つ年上の彼氏の喧嘩をしたばかりだった。彼氏は私のキレやすい性格を理解してどんな時も寄り添ってくれた。そんな彼と喧嘩したのは初めてで意地を張って謝ることができなかった。
私からしなくてもきっと彼の方から謝ってくれるだろうと思っていた一昨日の私を恨む。優しさに甘えすぎていたな、と今冷静になって思った。
どうしよう。あんなに優しい彼を怒らせてしまった。
今日は私から謝らないと。でも、もう、遅いかもしれない。引かれてたら…もう会ってくれないかな…
そんな思いを振り切ってLINEを開こうとしたけど手が震えて。
早く彼に謝りたいと思う。だけど体がそれを拒否きている。開かないLINE。いや、開けないLINE。
「開けないLINE」
いつか開こうと思った君のLINE。
どうしても、開けなかった。
これは、あの日、君が送ってきたものだったから。
携帯を見ていた。
特といってすることもなく、ただ寝転がっていた。
LINEを開いて、一件通知があることを確認する。
毎日のルーティーンだ。いつから始めたのだったか。
否、それははっきりと覚えている。
あの日。
君がいなくなった次の日からだ。
「ごめんなさい。…」
そう、通知が来ていた。
君には、誰にも言わず、失踪した。
家族にも、クラスメイトにも、僕にも。
だれも何でいなくなったのか、何処へ行ったのかすらわからなかった。
警察も介入してくれたが、一向にして行方は分からなかった。
学校でも、いじめはなかった。
それは僕が一番知っている。
だからこそ、意味が分からなかった。
なにも、分からなくなった。
どうして僕に言ってくれなかったのだろう。
なぜ消えてしまったのだろう。
君から、LINEが来ている。
それを知ったのは、何も信じられなくなって、不登校気味になっていたあの日からだ。
誰か、何か言ってくれないだろうか。
確かに、君の失踪のせいでクラスLINEは荒れていた。
だけど、そんなことはどうでもよかった。
ただ、ニュースとかになっていないか、それだけが知りたかった。
そんな時、君から通知が来た。
「ごめんなさい。…」
長かったからか、そこからは読めなかった。
開きたかった。
開けなかった。
君は僕に何が言いたいのか。
もしかしたら、何か重要な事を言っているのかもしれない。
でも怖かった。
もし、何かあったら。
それだけで、開かないことを決めていた。
今は違った。
もし、僕に行方が届いていて、それを隠しているように見られたら。
僕のせいで捜査が難航しているように思われたら。
それすらも怖くなっていた。
なぜか、今日は、今は開きたいと思った。
君の送ってきたものを知りたかった。
何故だかは分からない。好奇心が膨らんだ、だけかもしれない。
ただ、押すだけだった。その操作すら、怖がっていたのに。
今日はしたくなった。
震える指で、押す。
画面が変わり、内容が開かれる。
長めの文章を、目で追い続けた。
「ごめんなさい。急にいなくなって。
家族にも、君にも言わず。
どうしても、いなくなりたかった。ただ、それだけだったのかもな。
理由ぐらいは誰かに言ってもいいかもしれない。
そうも思った。
でも、ごめん。いえないな。
ただ、ごめん。そうとしかいえない。
でも。
また君に会いたい。」
そう、綴られていた。
さて、ここに1台のスマホがある。
私がいつも使っているスマホ。
これが困ったことに、ここ数日LINEが開かない。
・ネットワークの確認
・スマホの空き容量を増やす
・キャッシュを削除
・スマホを再起動
・アプリを再インストール
色々試してみたけど、ウンともスンとも言わない。
あー参った。
気分は最悪だ。
友人や家族には別のSNSで伝えたけど、LINEが使えないのは本当に不便。
でもなんだか、最悪に思う反面、少し身軽になった気もする。
私も含めて現代人って、スマホやSNSに囚われ過ぎなのよね、きっと。
良い機会だから、デジタルデトックスってヤツを試してみようかな。
図書館とか美術館に行って教養を深めてみるとか。
それともハイキングや植物園に行って緑を満喫するとか。
それともそれとも列車で日帰り旅に出るとか。
段々楽しくなってきた。
明日を充実したデジタルデトックスデーとすべく、私は色々調べだした。
こんなにワクワクするの、いつ以来だろう。
たまにはこんなのもありよね。
―――デジタルデトックス
#60【開けないLINE】
「LINE?開けない前に、スマホもケータイも持ってないよ」
「そもそも、人との関わりに0と1を持ち出すこと…
ここで言いたいのは、人が物事の白黒をはっきりさせたいと思う、人間らしい気持ちのことじゃなくてさ。
人の関わりかたの基盤に、0と1の選択しかないものが、たくさん、でも数えられる範囲で敷かれている状態が不自然なんだから」
「人は、少なくとも単純な機械じゃない」
…そういうふうに言ってみたいなあ
*「開けないLINE」
ツィーと画面上をなぞる指先。
とあるアイコンでピタリと止まった。
自分はこのアイコンを押せないでいる。
いや、指は普通に動くんだ。
ほら、他のアプリならちゃんと押せる。
好きなゲームなら速攻だよね。
でもこれだけは……なんだか押せない。
謝罪文と、それに添えられた申し訳程度のスタンプ。
やっぱり、対面で謝るべきだったかなぁー……
〜開けないLINE〜
思いを伝えるために時間をかけて手紙を送っていた時代は、別に遥か昔の話じゃない。だのに、今やメッセージは電子に乗り、ほとんどリアルタイムに届く。今日も気が付けば大量の通知数。しかし、どれもが取るに足りない内容だ。労力を割かないお手軽さは、そのまま人間関係に反映されている。
だから、本気になったほうが負けだったのだ。通知の波なんて今更慣れきっているのに、その中に目当てのものが紛れてやしないかと、指は諦め悪く画面をスクロール。そして、ありもしない期待に裏切られた後、通知欄の確認だけで終わる日々の繰り返し。
だって、アプリを開いたら数字の付いていないトーク画面を見ることになる。手紙と違って届かないことを誰のせいにも出来ないなんて、この行き場のない気持ちはどこで消化すれば良いのだろう。
――――――――――――――――
開けないLINE
あなたからの初めてのLINE。
さっきからずっとトーク一覧の中にある
あなたの名前を見つめている。
いつも通り話せばいいだけ。
そう、たったそれだけのことができない。
中学校に入学してから3年目。
卒業の年になって、やっとLINEを交換できた。
すごく嬉しかったし、たくさんやりとりしようと
思っていた。
でも、いざとなるとできなかった。
指が動いてくれない。
開けたら、あなたに私の感情を
ぶつけてしまいそうで怖い。
卒業までは我慢するって決めたのに。
たったこれだけのことで、言ってしまったら
きっと今までの努力が全て水の泡になってしまう。
どうしたらいいんだろう。
何を話したらいいのかを考えながら
私はスマホを閉じた。
また明日考えよう。
もう二度とそのLINEを開くことができないことも
知らずに私は眠りについた。
#開けないLINE
〘開けないLINE〙
知らぬふり誤魔化し続け後回し自分にだって嘘も方便
【開けないLINE】
既読をつけたら返事をしないといけなくなる。
通知をオンにしているから内容は知っているけど。
返事を考えられないのではなく、考えたくない。
スタンプ一個を返すことすら今はしたくない。
あなたのメッセージに一喜一憂していたのが懐かしい。
今でもしているとはいえ、恋愛初心者の頃ほどではない。
あの頃は返事がくるだけで嬉しかった。
それなのに、未読だ既読だと求められて疲れている。
ピコン。また通知音が鳴った。
〈ごめん、痛かったよね。わざとじゃないんだよ〉
言葉からイメージされるのは、しおらしい態度。
でも、画面の向こうではどんな顔をしているのだろう。
頬がひりひりと痛む。「保冷剤、あったっけ……」
何度目かの謝罪の言葉は、もう響かない。
思い通りにならない現実に彼の態度は日々悪くなる。
私の励ましなんて届かないぐらい追い詰められている。
大丈夫だよ、とか。あなたならできるよ、とか。
そんな無責任な言葉では神経を逆撫でするだけ。
私の頬に手が当たったぐらいで正気に戻れるならいいか。
保冷剤を当てると冷たくて、冷たすぎてじんじん痛む。
〈大丈夫? もう冷静になったから。会いたい〉
素直に信じて、会いに行ったこともある。
確かに怒りは収まっていたけど決して冷静ではなかった。
情緒が不安定で、子供のように泣き喚いていた。
どう返せば責められずに済むかな、って考えている。
〈ねえ、読んでよ〉〈なんで返事してくれないの〉
メッセージが連投されて、通知が次々と更新される。
音が落ち着くまで。私はスマホの電源を切った。
僕のLINEアプリには常に1がついている
それは君がくれた最後のメッセージ
某遊園地で撮った笑顔のアイコンの隣、『いってくるね✈』の文字
その横には青白く『1』という数字がポツンと光っている
開かないんじゃない、開けないんだ
触った瞬間、なにもかも終わってしまいそうで
もうこの世界にいないのだと実感したくなくて
あの日のNEWSを受け入れたくなくて
送っても、もう既読すらつかない現実を突きつけられたくなくて
本当は、今もどこか遠い国で暮らしていて、『なに暗い顔しちゃって、死んじゃったとでも思った?』って急に僕の前に現れてよ
込み上げてくる涙を堪えようと顔をあげる
夜空を見上げると飛び立っていく飛行機がみえた
「っ……、…………ぅっ……っ」
一年前の今日、ぽっかりと空いてしまった心から、泣けなかった一年分の涙が溢れてきた
『開けないLINE』2023,09,02
【開かないLINE】
※尻切れとんぼ
「ん...、」
けたたましく鳴る携帯の音で目が覚めた。
朝。携帯から鳴る音。目覚ましをスマホでやるタイプか、と思うだろうがそうでは無い。
携帯を振動させているのは緑のアイコンでお馴染み、「LINE」である。なにせ音が「ピコピコッ」なのだから、間違いない。
誰だ、朝からこんなにもメールを寄越すやつは。モーニングコールなど頼んだ覚えはないぞ。...頼む相手もいないが。厨二病かコミュ障か、それともその両方かを拗らせて高校デビューを迎えた私には、クラスラインの通知をオンにするなどという生ぬるいことはしていない。さて、誰なのか。
はあ、とため息をついて、通知の元凶を探るべく「158件の通知があります」と淡々と書かれた文字をタップする。
FaceIDが反応しないことで自分の寝起きの顔面崩壊具合を確認して、下がりつつあった私の機嫌はさらに下がるばかりだ。
誕生日だとかいう打つ度にガバガバだと思うセキュリティを突破して、LINEのパスワード画面に移った。またしてもFaceIDが使えないなどとほざいたスマホに、しぶしぶパスワードを打ち込む。
「...」
打ち間違えた。
「...」
ん?
「...」
...
「あ"ぁーーーー!!!なんっで開かないんだよ!!!」
計4回だ。4回だぞ?3、4回目は慎重に1文字ずつ入れた。
...落ち着け私。ここでまず疑うべきは、打ち間違いでは無い。私の認識しているパスワードとこの憎むべきグリーンの連絡アプリの認識しているパスワードが異なることだろう。
そのうえで、可能性その1。私が自らパスワードを変更し、それ自体を忘れている。...まあ無い訳では無いのだが。こちとらピチピチ15歳。所謂JK。痴呆症という判断を自分で下すのは屈辱的。流石に否定したい可能性だ。まあ真面目に言ってもこれはない気がする。
可能性その2。誰かが故意的にパスワードを変更した。もちろんこの可能性には、「誰が」という問いがまとわりついてくる。なお、心当たりは無い。言っただろう。コミュ障をこじらせすぎたんだ。それを忘れたというのなら、君に痴呆症の名をやる。
可能性その3。バグ。1番めんどくさくないようで最もめんどくさい選択肢。正直これで合ってはほしくない。
私の貧相な思考回路では、このくらいが限界である。1番可能性があるのは残念だが3といったところか。
この文字の後には、どんな言葉が続くのか。
どんな世界が広がるのか。
暗く、青く、澄んだ世界か、
赤く、火照った暖かい世界か。
この通知を押したら君の世界が広がってる。
入ってもいいのかな、
だめっていうかな、
電話を何十回かけても出てくれない。仕方ないからLINEを送った。これから私たちどうなっちゃうの?、って。クエスチョンで終わらせれば返事を返さなきゃならないでしょう。だから質問したの。でもその答えは分かってる。キミは私じゃなくて、あの子のことを選ぶ。本当は知ってたんだ。私に隠れてたつもりでも、あの子はキミのことが好きで、キミもあの子に惹かれていたって。それでも私は知らないふりしてたの。キミの一時的な気の迷いだろうって、そう思いたかったから。でも結局それは無駄な行いだった。私が何も言わないのをいいことにキミとあの子はどんどん親密になっていった。もう、後戻りできないほどに。
たっぷり2週間経ってようやくキミからのLINEを受信した。あんなに返事を待っていたのに、いざとなると怖くてキミの返事が見れないや。きっと、私のことなんてどうも思っちゃいないだろうに。どうしてこんなに胸がざわざわしてるんだろう。ずっと心臓がどくどく言ってる。そんなに緊張しなくても、もう何の希望も無いんだってば。自分に言い聞かせてもまるで効果なしだ。
このLINEを開けば今度こそキミとの関係は終わる。それが怖くて開けられずにいる。ならいっそ、開けないまま削除してしまおうか。どちらの選択もこんなにも勇気がいるだなんて。どうしたらいいの。どっちが正解なの。分からないよ。私の何がいけなかったのかも、キミがいつから私に愛想尽かしてたのかも。分からなさすぎて苦しいよ。もう傷つきたくないよ。私は静かに泣いた。でも、いくら泣いたってこの涙を拭ってくれる人はいない。LINEのグリーンのアイコンがこんなにも目障りだと思ったことは初めてだ。震える手でトーク画面を呼び出した。大きな深呼吸をひとつして。じゃあ今から、キミの名前をタップするよ。
(さようなら。)
ずっと開けないLINEがある。
それに既読をつけたら返事をしなければならない。
返事をしなくても、読んだことが相手に知られた時点で、私の止まっていた感情は答えを出さなければならない。
受け入れるか、拒絶するか。
さよならするか、追い縋るか。
そんな醜い自分に会いたくない。
でも開かずにしらばっくれるほど図太くもない。
開けないLINEはまるで重りのようだ。
軽やかな音の通知音が鳴るたびに、私は重りの存在を思い出す。
今日こそは解き放とうと決意をしてみたり、でも、できなかったり。
【開けないLINE】
『開けないLINE』
亡くなった祖母とのライントーク画面。
初めて身近な人が亡くなって、数年経っても未だに実感が湧かない。
元々年に何度かしか会わなかったせいもあるのだろうけど、顔も、声も、はっきりと思い浮かぶので、ちっとも寂しくない。
ただ、その平気さが、トーク画面を見ると崩れてしまう気がして。
と、打っていたら、ふと、あえて開いてみようと思って、開けないLINEを開いてみた。
平気さが崩れることも、寂しさが溢れることもなかった。
頭のずっと奥底にあった、「あぁ、こんな話したなぁ」という記憶が、祖母の快活な返信が、少しギャルっぽい変換が、自然と口角を緩めた。
私はとても大切にされていたんだなぁ、おばあちゃんが大切にしてくれた私を、私も大切にしようと、心が軽くなった。