燈火

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【開けないLINE】


既読をつけたら返事をしないといけなくなる。
通知をオンにしているから内容は知っているけど。
返事を考えられないのではなく、考えたくない。
スタンプ一個を返すことすら今はしたくない。

あなたのメッセージに一喜一憂していたのが懐かしい。
今でもしているとはいえ、恋愛初心者の頃ほどではない。
あの頃は返事がくるだけで嬉しかった。
それなのに、未読だ既読だと求められて疲れている。

ピコン。また通知音が鳴った。
〈ごめん、痛かったよね。わざとじゃないんだよ〉
言葉からイメージされるのは、しおらしい態度。
でも、画面の向こうではどんな顔をしているのだろう。

頬がひりひりと痛む。「保冷剤、あったっけ……」
何度目かの謝罪の言葉は、もう響かない。
思い通りにならない現実に彼の態度は日々悪くなる。
私の励ましなんて届かないぐらい追い詰められている。

大丈夫だよ、とか。あなたならできるよ、とか。
そんな無責任な言葉では神経を逆撫でするだけ。
私の頬に手が当たったぐらいで正気に戻れるならいいか。
保冷剤を当てると冷たくて、冷たすぎてじんじん痛む。

〈大丈夫? もう冷静になったから。会いたい〉
素直に信じて、会いに行ったこともある。
確かに怒りは収まっていたけど決して冷静ではなかった。
情緒が不安定で、子供のように泣き喚いていた。

どう返せば責められずに済むかな、って考えている。
〈ねえ、読んでよ〉〈なんで返事してくれないの〉
メッセージが連投されて、通知が次々と更新される。
音が落ち着くまで。私はスマホの電源を切った。

9/2/2023, 9:10:29 AM