織川ゑトウ

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『害獣駆除(がいじゅうくじょ)』

いつもの東京、少し梅雨明け、雨上がりでまだ湿気が人々の心に侵食し始めない頃。
午前三時の鬱屈としたような空の下、たった一つの端末を見る。

「''午前四時、次の仕事は××××だ''」
「……」

薄暗く、血の臭いが微かにする路地裏で、いつもの依頼を確認。
つまらない日常、いつも通りだ。

「それにしても、午前四時ね…まぁ、普通の仕事としての時間としてはちと早いよな」

いや、嘘だ。普通の仕事だったら大分早い。
こんな早い時間からの仕事はブラック企業ぐらいだろう。

「あー後一時間かぁ。適当にパンでも買って朝食にするか」

昨日の仕事が遅れたおかげで、朝食のパンにジャム塗ることできねーじゃねぇか。

「少しは休ませろって話よなぁ」

そんな小言をグチグチと誰かに言いながら、
その誰か御用達のパン屋でクロワッサンを買う。

「あっま。なーにこのクロワッサン…昔ばあちゃんが作ってくれた梅シロップみてぇ」

少々甘すぎるクロワッサンに悶絶しながら、
タイムリミットまで残り四十分を指しているスマホの時計を眺める。

「あ、そういや明日って俺の誕生日だっけ。仕事終わったらケーキでも買いに行くか」

LINEを整理していたら、仕事関連のグループLINEで「''綾瀬の誕生日!''」とイベントに書かれていた。綾瀬とは、自分のコードネームだ。本名じゃない。

「いやでも確か十一時辺りにも仕事入ってたっけな。んーじゃあケーキはなしか」

ケーキなしという事実に眉毛をしゅんと下げながら、またLINEの整理を再開する。

ーー仕事です。仕事です。あと三分でタイムリミットです。

スマホに搭載されている仕事お知らせ補助音声、
略して''SIHO''が仕事の時間を伝えてくれた。
SIHOは勿論俺が''改良''したものだ。元からあったものではない。

「ふ~ふふ、ふんふ~ん…あーこれなんだったっけ曲名」

仕事場まで歩きながら、昔母が教えてくれた歌を無意識に歌っていた。

「ふんふん~ふ~あ、着いた」

さっきの路地裏とはまったく違う華やかなパーティー会場に着いた。

「そこのお方、ドレスコードはご確認になられたのでしょうか?」
「あ、すみません''end beginning''のものです」
「あぁ、enbyのお方でしたか。すみません。お仕事、お疲れ様です」
「いえいえ、あーでもこの格好だとバレやすいですかね」
「よかったら、お召し物お貸しいたしましょうか?」
「すみません、頼みます」

どうやらドレスコードがなっていなかったらしく、使用人に注意を受けた。
だけど変わりに服を貸してもらったので、結果オーライだ。

「えっと、今回の対象者は…あ、あの人か」

仕事で依頼された対象者の特徴を書かれたメモを読みながら会場にいる全員を見ていき、対象者を見つける。

「確か情報によると面食いだっけ?まぁ、自分イケメンだしいけるっしょ。性格はーあーチャラ系ね。うーわ久しぶりにやるわチャラ系とか…んっんんっ…よし」

コツコツコツ……

「ねぇねぇお姉さん。これ、落としましたよ?」
「え?あ、ありがとうございます!」

反応を見るに、タイプぴったりっぽいぞ

「あ、そーだ。俺、ちょっと道迷ってんすよねぇ。案内してもらってもいいっすか?」
「え、も、もちろん!!」

コツコツ…

よし、ここら辺でいいかな

「ねぇ、お姉さん。ちょっとこっち向いて?」
「へ?な、なn」

ドッ

「…うん。死んでる」

頭を肘打ちで一発。大抵の女はこれで死ぬ。案の定このお嬢さんも。

ピロンッ

「今回結構ラク…ってもう次の仕事かよ」

人の気持ちも考えずによ……

「まぁ、あいつらが人の気持ちを考えるわけねぇか。依頼内容は…」

「''次はお前の____''」

「!」

俺は、その前文だけで全てを察した。

「あーあ、ついにきちゃったかぁ。俺にもこの依頼が……」

そう呟いて、亡くなったお嬢さんに花を手向ける。

「ごめんな。俺もやりたくてやってるわけじゃねぇんだ」

白色だったカーペットに染まる赤が美しい。

「じゃー早く終わらせちゃいますかぁ」

はは…と軽く笑ってスマホを持つ男から見えた深い悲しみと愛の色。

そしてスマホの

「''親を殺せ''」

梅雨明け関係なく、彼には今日も雨が降る。
決して上がることのない、慈愛に満ちた雨が。


お題『開けないLINE』

※鬱屈(うっくつ)=気分が清々せずに、塞ぐこと。
※御用達(ごようたし)

織川より
めっちゃギリギリセーフです。久しぶりの休日です。明日と月曜日のも書けそうです!
是非、楽しみにしてくれていたら嬉しいです。この作品お気に入り登録してくれてる人しか見られないかもですね。ギリギリなので

9/2/2023, 9:59:05 AM