『踊りませんか?』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
踊りませんか?
蒼く冷たい月明かりに照らされた、
静かな部屋で、
失われた愛を取り戻すかの様に、
記憶の中のあの人と踊る貴方。
夢と現実の狭間を彷徨う貴方は、
一人きり。
私と、踊りませんか?
私は、そっと声を掛けます。
虚空に響くその言葉に、
一瞬、貴方の動きが止まります。
遠い過去を探るように、
悲しみに濡れた、
貴方の蜂蜜色の瞳が、
ゆっくりと私を捉えました。
私はそっと手を差し出します。
貴方は儚げな笑みを浮かべて、
優しく私の手を取りました。
静かにステップを刻み始めます。
月明かりだけが、
私と貴方を優しく照らし、
冷たい夜の静寂の中、
私と貴方の影が、
一つに溶けていきます。
今、貴方と踊っているのは、
ずっと貴方の心に住み続けている、
あの方ではなく、私なのだと、
貴方に気付いて欲しくて。
私は貴方に身を任せるのです。
全部忘れて、全部見捨てて
全部無かったことにして。
ただ月夜に踊っていられたら
それはどんなに素敵だろうか
『踊りませんか?』
踊りませんか?
なんて言われた事ない
言われても踊りは苦手だから
無理かも笑 小学校の運動会でマイムマイムを恥ずかしながら踊ったな~男の子と踊る時は、本当に恥ずかしくて
(/-\*)まだウイウイしかった頃(*^-^)そんな頃があったなんて☺️ 今は踊る機会もないし社交ダンスは見てるのは好きかな~ちょっとは、踊って見たいとは思うけど実際には無理~😵
あ!踊った事が…
会社の飲み会🍻の時にチークダンスよく踊って事を思い出しました。
もう何十年も前ですけど…
好きだった方と踊ってる時は幸せ🍀でした❤️好きで好きでどうしようもない程、大好きで会える時が幸せでした。
結婚も考えましたが結局、その方を選ばず他の方と結婚しました。泣く泣くお別れしてあれから何十年も立ちますけど今でも、やはり心の中に想いが残って居て一生忘れられません。夢にも、よく出て来てくれて、あの頃の若いまそまの姿で素敵なんです。今も、お元気でいらっしゃるのか?
タイムマシンがあるのならば会いに行きたい顔を見るだけで良いから…
「もう少し、あなたと一緒にいたかったわ」
ベットの上の妻は、独り言のように呟く。
医者の余命宣告はとうに過ぎ、いつ死んでもおかしくない状態の妻。
それでもここまで持ちこたえたのは、言葉の通り儂と一緒にいたかったからなのだろう。
妻は、今年で100歳の大台に乗った。
誕生日に『めざぜ200歳』とうそぶいていた彼女だが、歳には勝てなかったらしい。
今年の例年にない猛暑で体調を崩してしまい、そのままベットから起き上がれなくなってしまった。
妻は長くない。
その事実が、儂にとってどうしようもなく辛かった。
「ねえ、あなた」
「疲れているだろう?
無理せず休みなさい」
「ごめんなさい。
でもこれが最後だと思うから、きちんとお話しさせて」
「……なんだい?」
妻の最後のお願い。
叫びたくなるのを堪えて、自分は頷く。
それを見た妻は、安心したように微笑んだ。
「私、あなたと巡り合えて、本当に幸せだったわ」
「儂もさ」
「嬉しい……
来世でも、また一緒になってくれる?」
「いいよ」
生まれ変わりと言うのは信じていない。
そんな都合のいい話なんて無いと思っているからだ。
けれど、それを指摘するほど儂は野暮じゃないし、妻が信じるなら儂も信じる。
夫婦はそういうものだと思っている。
「ふふふ、アナタって本当に私の事が好きね」
「お前ほどじゃないさ」
「でも一つ心配なことがあるの」
「心配?」
妻の口から出た言葉に、意表を突かれる。
妻は、筋金入りの楽観主義者。
結婚して以来、なにかに心配しているところを見たことがない。
一体何が気になるというのだろうか?
「もしかして儂の愛を疑っているのかい?」
「疑っていないわよ。
ただ来世でもし巡り会えても、お互い気づかないかもしれないと思ったの……
姿かたちが違うでしょうからね」
「それもそうだな」
「だから合言葉を決めましょう」
合言葉、二人だけの秘密の暗号。
ロマンチックで妻らしい考えだ。
「いいよ。
何にする?」
「私が『巡り合えたら』って言うから、あなたは『好き好き大好き愛してる』って言ってね」
「……なんて?」
「あなた、プロポーズで言ってくれたじゃない。
忘れたの?」
「忘れたかったな……
一つ目の言葉と関係ないし、他の言葉にしない?」
「ふふふ、駄目よ。
関係ないから、『合言葉』として機能するんじゃない。
それに、他の事は忘れてもこの言葉だけは忘れそうにないですからね」
「忘れて欲しい……」
まさか、この歳になって黒歴史を掘り返されるとは……
さすが妻、最後までやってくれるな!
「ではあなた、私は先に行きますね」
「ああ、儂もすぐ行くからな。
ゆっくりするといいさ」
「楽しみにしてますね」
そして妻は二度と目を覚まさなかった。
それから一年後、儂は孫に見守られながらあの世へと旅立ったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして儂は生まれ変わった
都合のいい事に、記憶を持ったままでだ。
けれど生まれ変わった先は、元いた世界ではなく、ゲームの世界。
これはきっと『異世界転生』とやらだろう。
孫と一緒に、こういったアニメをよく見たので知っている。
そして生まれ変わったことで、心身共に若返った。
一人称も『儂』から『僕』へと変わり、自分が新しい生を受けたことを実感する。
それでも僕の心の片隅にあるのは、妻の事。
妻は来ているのだろうか?
『来世でまた会おう』と誓い合ったものの、どこで待ち合わせするか決めたわけではない。
時代すら違っている可能性がある
でも関係ない
また会うと約束したのだから。
もう少し大きくなったら旅に出よう。
きっとどこかで待っているだろうから。
「なあ、聞いたか?」
隣の家に住む、噂好きの幼馴染が話しかけてきた。
どこから仕入れるのか、遠くの地方の噂も仕入れてくる。
妻の情報が手に入るかもしれないので、仲良くしているのだ
「ウチの国のお姫様なんだが、結婚相手を募集しているらしい」
「それ、この国で知らない人間はいないよ」
「話はここから、お姫様が結婚相手に条件を付けたんだ。
それをクリアできるなら一般庶民でも婚約出来るってさ」
「それは初耳だなあ。
で、その条件って?」
「姫様の誕生日祭の日、一般に向かってお目通りがあるだろ。
その時一人ずつ前に出て、『巡り合えたら』に続く言葉を言えたら婚約だってさ」
この謎かけ、妻だ。
転生先で、お姫様なんてアタリを引くのも、妻らしいっちゃ妻らしい。
誕生祭という、誰もが注目するイベントで行動を起こすのも理に適っている。
だが一つだけ問題がある。
『好き好き大好き愛してる』
これを公衆の面前の前で叫べと!?
あの歯の浮いたセリフは、妻と二人きりだったから言えたのだ。
ギャラリーがいたら、絶対に言わなかったセリフ。
やぱり撤回させるべきだった!
けれど後悔してももう遅い。
それっぽいセリフでお茶を濁そうかとも思ったが、きっと妻はそれを許さないだろう。
次があるとも限らないから、出ないという選択肢は絶対にない。
逃げ場がないとはまさにこの事。
もはやコレを言う以外に道はない。
こうして僕は、憂鬱な気分で妻との運命の出会いに望むのであった
この手を取ったのなら
どうか二度と離さないで
この誘いに乗ったのなら
私に恥をかかせたりしないで
骨が折れても
肉が削げても
ずっと一緒よ
灰が風に溶けるまで
【踊りませんか?】
私は子供の頃から人目に怯え、
親の影に隠れる子供だった。
上手く笑う事が出来ず、
いつもうずくまっていた。
小学校にも上手く馴染めず、
家に隠るようになった。
当時はインターネットもなく、
部屋にはラジオだけ。
ある日、ラジオから流れてきた音楽。
その音楽が、私の人生を変えた。
音楽は、私を人目から隠してくれる。
私は、音楽の中では、楽しく踊れる。
音楽の誘いが、私を変えた。
[踊りませんか?]
彼は職場の後輩だった。
お互いただそれだけのはずで、私には相手がいた。
過去形で語ると次第に実感が湧いてきて、多分彼のことが相当好きだったんだななんて他人行儀な感想が胸を縛る。
まだ付き合っていた頃、後輩は私の恋愛事情を聞いて親身に相談に乗ってくれた。
だから彼と仲良くなるのは必然だったし、お互いが尊重し合える関係だったと思う。
そんな面倒見のいい後輩との仲が原因で、皮肉にも幸せを落としてしまったのは1ヶ月前。
事の詳細を話す私に向けて後輩は眉を下げて笑った。
不覚にもその顔に自分が期待している事がわかって、自分が少し怖くなった。
私の愛しの元恋人はこの未来が見えていたのだろうか。差し出された手を取ってしまった私は、きっともう。
私と共に
地獄に堕ちる覚悟があるならば
_踊りませんか?
『踊りませんか?』
今宵は仮面舞踏会。
色とりどりの衣装と仮面を身に纏った人々が、
パンテオンを模した豪奢な舞踏室で
軽やかに舞い踊る。
金の羽根飾りが施された仮面を被る
悪役令嬢はいつも通り可憐な淑女を
演じながらも、内心はソワソワしていた。
理由はただ一つ。彼女は執事のセバスチャン
に無理やり約束させたのだ。
「後ほど、私とワルツを踊ってくださいまし」
セバスチャンは優しく微笑み、
かすかに頭を下げて了承してくれた。
期待と緊張を胸に秘めて彼を待つ悪役令嬢。
その時、背後から柔らかな声がかかった。
「踊りませんか?」
漆黒のロングコートに身を包んだ紳士が、
優雅に手を差し出す。
その佇まいに一瞬戸惑いながらも、
悪役令嬢は誘いに応じた。
「待ちくたびれましたわ、セバスチャン」
ワルツの旋律に乗せて踊り始める二人。
彼のリードは完璧で、まるで空中を
漂うような心地よさに包まれる。
「この時間が永遠に続けばいいのに」
仮面の下で、悪役令嬢が小さく呟くと、
紳士は何も言わず彼女を強く引き寄せた。
その行為に違和感を覚える悪役令嬢。
音楽が止まり、紳士が耳元で囁く。
「少し休憩しましょうか」
導かれるまま個室へと向かおうとした瞬間、
冷たい声が背後から響いた。
「お待ちください」
振り返ると、銀色の仮面をつけた執事が
絶対零度の視線を向けて立っていた。
「セバスチャン!?」
驚きに息を呑む悪役令嬢。
踊っていた相手がセバスチャンではないと、
今になって漸く気がついたのだ。
紳士は帽子を脱ぎ、仮面をゆっくりと外した。
現れたのは、艶やかな黒髪と長い睫に縁取ら
れた紫の瞳、すっきりとした鼻筋の美青年。
「セバスチャンだと思いましたか?」
くすくすと笑いながら目を細める魔術師。
「あなた、私をからかっていたのですね」
彼女は頬を膨らませ、顔を背けた。二人の
様子に、セバスチャンが深いため息をつく。
「主、安易について行ってはいけません。
仮面舞踏会では、誰が相手か分からないの
ですから」
幼子に言い聞かせるような口調に、
目を伏せる悪役令嬢。
「ごめんなさいですわ……」
セバスチャンは困ったように微笑み、
魔術師は腕を組んだまま軽く肩をすくめた。
「まあまあ、機嫌を直してください」
魔術師がぱちんと指を鳴らすと、場所は
カウチが置かれた小サロンに移り替わり、
テーブルにはコーヒーとアイスクリーム、
ボンボンが用意された。
アイスを口に運びながら、
悪役令嬢はセバスチャンを見上げる。
「約束しましたもの。これを頂いたら、
絶対にあなたと踊りますから」
彼女の言葉にセバスチャンは苦笑しつつも、
静かに頷くのであった。
遠くで楽しそうな音楽が聞こえる。
でも、きっと誰も私には気づいてくれない。
夜が私の自慢の黒い毛並みを隠してしまうから。
誰も気づかない黒猫に貴方だけが愛してくれた。
私ね、次は人間に生まれ変わりたいの。
そうなれたら貴方と2人でもっと幸せを感じれる。
そして、この曲が流れたら貴方の手をとって私から言うよ。
『踊りませんか?』
踊りませんか?
よろしければご一緒に
星空のドレスで月の先まで
ステップに決まりはありません
ご自由にそのままのあなたで
踊りませんか?
『僕と一緒に踊りませんか?希望者は旧校舎3-7まで。』
「なにこれ。」
校内に貼られた一枚のチラシ。イラストはなく、B 5の更紙にその言葉だけが雑に書かれていた。
誰かのイタズラである可能性が高い。
これは教師である私が注意しなくては…!新任であるが、だからこそ積極的に指導は行わなくてはならないのだ!
そう息巻いて、早速指定された場所へ行く事にした。
新校舎の裏側にひっそりと建っている旧校舎は、今では教師すらも立ち入る事のない、所謂廃墟だ。勿論、私も例外ではなく、この度初めて足を踏み入れる。
生徒たちの中では「おかっぱ頭の女の子が窓から手を振っている」「旧校舎のトイレに入ると呪われる」などと言った噂があるようだが、学舎の廃墟があれば必ずと言っていいほど立つ噂であり、あまり信ぴょう性はない。
それに聞く話によると、数十年も前からある噂であり、もはや都市伝説と言えるレベルだ。
あまり信じていないと言っても、やはりこれだけ古い建物になると、雰囲気だけはあるので、少し気後れしそうになる。だが、もし、生徒がいるならば連れ出さなければならない。あんなイタズラは勿論注意すべきであるし、建物の状態もかなり悪くなっているので、物理的な危険性もあるからだ。
意を決して旧校舎の鍵を開け、そっと足を踏み入れた。
些細な音でも鼓動が早くなるくらいには恐怖を感じている。
使用されていた頃は、3年生が一階を使っていたのだろう。幸い指定された場所は一階にあるので、何かあっても窓から脱出可能だ。
「…本当にこんな所に生徒がいるの…?」
一歩、また一歩と進んでいくと、廊下の先に『3-7』と書かれたプレートが見えた。
あそこだ。恐る恐る歩みを進めて行くと『3-6』を過ぎた時、一瞬世界がぐにゃりと歪んだ気がした。
突然のことに思わず足を止めたが、特に異変は見られない。視界も普通だ。
「疲れが出てるのかな…」
きっとそうに違いない。疲れている上に、急激な恐怖を感じたせいだ。ストレスが爆増している証拠だ。
そう言い聞かせ、たどり着いた『3-7』教室の扉に手をかけた。
木製の扉は引き戸になっていた。建て付けが悪くなっていると思っていたが、案外すんなりと開いた。
教室の中に一歩踏み入れた瞬間、息が止まった。
「っ!!!」
教室の窓際に、青年がひっそりと立っていた。
飛び出そうになった絶叫を何とか飲み込み、震える声で話しかける。
「っあ、あなた、うちの生徒?見た事ないけど、こんな所で何をしているの?」
銀色の髪、赤い瞳、異常に白い肌。明らかに異質な空気を纏う男は、やはりどう見ても生徒ではない。男は薄らと笑うと、徐に口を開いた。
「お姉さん、見えたんだ。あの紙。」
やばい。
そう思った時には大抵手遅れである事が大半だ。
頭の中で逃げよと警鐘が鳴り響いているが、足が竦んで動けない。
「来てくれたって事は、お姉さんが僕と踊ってくれるんだよね。そうだよね。だから来てくれたんだよね?」
「ち、ちがう…私はただ確認しに来ただけで…!」
「張り紙が本当かどうかって事?じゃあ本当だったね!おめでとう、良かったね。」
満面の笑みとはこの事だろう。しかし、このような状況下での満面の笑みは、狂気しか感じない。
逃げなきゃ…!
急いで踵を返すと、向けた背に男が嬉しそうに呟いた。
「帰れないよ。」
ゾクリと背筋が凍りつく。少し離れた場所から聞こえていた声は、いつの間にか真後ろに移動していた。
「ひっ」
「ね、だから一緒に踊ろう。君が君を忘れてしまうまで。」
静寂を纏う旧校舎に、カラカラと扉が閉まる音が静かに響いた。
「あれ、誰か旧校舎の鍵知りませんか?無いんだけど…」
「あぁ、それならーーー先生が持って行きましたよ。何でも、一緒に踊りましょうっていう意味不明の張り紙がしてあったらしくて、それも場所が旧校舎の3-7教室と指定されてたみたいで…。生徒がイタズラ目的で侵入してたら危ないから、確認しに行くって言ってました。」
「なんだって!?」
「!! …鍵貸し出したらまずかったですか?」
「い、いや、大きな声を出してすみません。実は…旧校舎の一階は3-6まで…。3-7なんて教室は存在しないんですよ。」
「え……」
「彼女は一体何処へ……」
END.
何を踊るねん。俺の上で踊るんか。あー、君は積極的な女やなかったわ。素直でもないわ。仲直りする時くらいは素直になってほしいもんやけど。てかなんなん、いつまで怒ってん?ツンケンせんと早よ連絡しろやボケ。
「踊りませんか?」
あいつは雨の夜、公園のベンチに座って泣いていた俺にそう声をかけるのであった。
2日前……
俺は仕事で、あまりにも酷いミスをやらかして即刻クビを言い渡されたのだ。
そして死のうとしても失敗して、悔しさのあまり街をさまよっていた。
そしてどこだかも分からない公園のベンチに座り、泣いている男が1人…
それが、今の俺だ。
あいつは、俺に手を差し伸べながら「踊りませんか?」と聞いた。
あいつはたしか……《ルカ》と名乗った。
ルカの差し伸べた手をとると、心が軽くなったような気がした。
「私はあなたにとっての天使であり、あなたの敵にとっての死神です。さあ、共に踊りましょう。」
そう言い、手渡したものはひとつのナイフだった。
「俺は……人殺しだけは絶対にしないって決めたんだ……!お前は俺の敵だ!」
俺は、ルカにナイフを向けた。
その手は震え、殺すことをまるでためらうようにも見えるだろう。
ルカはせせら笑うような笑みを浮かべると「私は、あなたが殺したものに関する全ての証拠を消すことが出来ます、さあどうしますか?」
「俺は……」
「俺は全てに復讐したい。」
俺が選択した決断は間違ってはいなかった。
ルカは俺にとっての天使であり、俺の敵にとっての死神であることは間違いではなかったのだ。
不恰好なダンスを
退屈だ。
人知れずため息を吐いて、私は一人、グラスを傾けた。
ディスコの隅に設けられたバーコーナーは、中央の喧騒とは隔絶された世界のようだった。
一緒に来た友達は、今や人混みに紛れ、どこに居るのか分からない。
少し前まで新鮮で夢のようだった、チカチカとカラフルにまたたくライトも、お腹の底まで響く音楽も、何だか馬鹿げたものに思える。
いつも私はこうだ。"ノリ"に乗れない。いつも冷めた目でもう1人の私が見つめている。その視線に気づいた瞬間、それまでの熱狂も興奮もひどく恥ずかしいもののように思えてしまうのだ。
もう一度小さくため息を吐いた。その時、
「そんなに退屈なら、俺と踊りませんか?」
そんな声と共に、目の前に手が差し伸べられた。
軽薄な見た目にそぐわない、純真な光をたたえた瞳が印象的な男だった。
変なやつ、だと思った。それと同じくらい、面白そう、だとも思った。
差し出された手を掴もうと手を伸ばす。
そこで、また冷めた視線に気づいてしまった。
もう一人の私は言う。「あなたらしくないよ。」
宙ぶらりんに彷徨う私の手を見て、彼は笑った。
「大丈夫。」
そう言って、強引に手を掴む。そして中央へ導く。
踊ることなんて、中学校の運動会以来かもしれない。
頭で思った通りに腕は動かず、リズムからワンテンポ遅れる。足はもつれて、きっと見苦しい。
けれど、ここでは不恰好なダンスでも充分に思えた。だって、周りを見渡しても、誰一人同じ動きをしている人がいないのだ。きっと正しい振り付けなんてないのだろう。ただ音楽にだけ集中して、思い思いに踊っている。
妙な高揚感を抱え、男を見る。
彼もまた、私を見ていた。あの純真な視線で。
スポットライトに照らされて次々と色を変える彼の瞳。そこに映った私は、くしゃくしゃの笑みを浮かべていて、とても綺麗だった。
私はずっと待っていたのかもしれない。こんな風に、誰かが強引に手を引いてくれる時を。
『踊りませんか?』
紺藍の夜空に、
浮いた月。
天頂で、白く、淡く。
ルージュ・ドゥ・サンのドレスに身を包み、
耳の上のあたりで結われた髪に、
刺された薔薇の髪飾り。
ノワール・ドゥ・シャルボンの背広に身を包み、
目の元まで下ろした髪に、
すらりと伸びた下半身。
まるで、今日の主役は彼女らなのだと、
言わんばかりに。
そう、物語る。
白手袋に包まれた手を、紳士に差し出し、
長手袋に包まれた手を、そっと置く。
踊りませんか?
そう誘ったように、
今宵は深く、長く。
耳から拾う音に、ひらりと。
明けない夜に、舞うように。
もう、今宵の主役は彼女らなのだと、
言わんばかりに。
私は変なやつ。よく邪魔者が入れば真っ先に殺したがる。
なんでって聞いたら、「邪魔だから」だって。
確かに邪魔者だけどすぐ殺さなくたっていいのに。別に、焦らず殺す必要なんてない。
でもよくよく考えたら、私の時から僕らはおかしくなった。
私の頃は…ちょうど、人間関係に亀裂が入って。
だからあいつは焦りがある。どんなときだって、急がないと、大切にしないと、いつか壊れるって。
あいつはそう知ってるし、僕らも知ってる。
よく私が言う。「踊りませんか」って、邪魔者に向かって聞いて。なんでそんな無駄口聞くんだろ。
それだけはよく分からない。どうでもいいけど。
俺はあんまり殺したがらない。というよりかは、殺すのに躊躇がある、みたいな…。
殺さないと自分が殺されるだけなんだよって何度言っても躊躇はあるようで。
まぁでも最終的には殺すから。あんまり問題はない。
殺すのに躊躇があるのは、人を信じたいと思ってるからだろうな。僕らも思ってたもんね、その時。
うちは本当に殺したがらない。現実で暮らす奴だからこそ、人を殺すのが嫌がる。
でもこいつは気分が落ち込んだ時本当にやばい。正直くそめんどうくさい。だから落ち込ませたくない。
うちはうちで苦しんでるって知ってる。だから殺すのをあまり強く言わない。代わってもらってるのは僕だから。
僕は別に、無言で殺す。相手が無駄口を叩けば僕も反論するだけ。
一番出てくるのはそうだなぁ…やっぱり隣のあの子。うっざいよね、本当に。
比べられる側の気持ちにもなってみろよ。それでどれだけうちが苦しんでると思ってるんだか。
踊りませんか?
※mhyk夢
「栄光の街に行きたい」
ヒロのそんな一言から、ネロは数日店を閉め普段なら絶対に来ないであろう中央の国にある栄光の街へと来ていた。
ここ数日、ヒロの調子は良くなかったように思う。部屋にこもりがちなのはいつもの事だが、研究にも身が入らずどこか上の空でずっと考え事をしているようだった。このモードのヒロは何を言っても響かない為、ネロはいつもより手の込んだ美味しい料理を作り、いつも通り振る舞う。出来ることなら今すぐにでも甘やかしてやりたいが、それはヒロが泣きついてくるまでお預けだ。そろそろ考え事がネガティブに爆発して泣き出す頃じゃないだろうか、なんて思いながらテーブルに朝食を並べていると、ヒロの部屋の扉が開きパタパタと軽い足音が聞こえてきた。ネロが起こしに行く前に自力で起きてくるなんて珍しい。夜通し悩んで寝られなかったのか?とも考えたが、それにしては足音が軽快だ。リビングの扉が開きヒロが顔を覗かせる。足音同様にヒロの表情は曇っていなかった。
「おはよう、ヒロ」
「おはよ!あのさ、ネロ、お願いがあるんだけど……」
そんなこんなで冒頭に戻るわけだが、完全にヒロを甘やかしたいモードだったネロは「あんたが行きたいならいいよ」なんて二つ返事で了承してしまい、その日の夜に2人でこっそり箒に乗って突然の長旅に出たのだ。
東の魔法使いであるネロにとって陽気の代表とも言えるほど賑やかな栄光の街はどうにも落ち着かない。それは東の国の人間であるヒロにも同様だと思うのだが、隣を歩くヒロは中央の市場を素直に楽しんでいるようだった。
「お前さん、意外とこういうところ大丈夫なんだな」
「ん?ああ、俺数年前はここに住んでたんだよね」
ヒロ曰く、実家を出て最初に来たのが栄光の街。栄えていて、住民も皆活気があり、陽気で明るい楽しい街。気に入っていたが、気疲れが激しかった為引っ越したそう。人間は魔法使いのように簡単に国境を越えられるわけではない為仕事以外で雨の街を出るつもりはなかったのだが、ネロと知り合い箒で空を飛べる今、昔住んでいた街が恋しくなったのだと言う。
「甘えちゃってごめんね?」
「いいよ、あんたが元気になるなら」
過去の話をしながら歩いていると、いつの間にか市場を抜け、楽しげな音楽が鳴り住民達が踊っている、街の中でも特に陽気な雰囲気のところへ出ていた。
楽器を弾いていた住民がネロたちに気付き手招く。
「あんた達、旅行客かい?折角だ、踊っていきな!」
知らない人に突然話しかけられるのをヒロはかなり苦手としていた。気負わせないようネロが適当にその住民をあしらおうとしたところで、ヒロに手を引かれる。
驚いて顔を上げると、ヒロはまるで向日葵のようにただ明るく笑っていた。彼のこんな笑顔を見たのは、初めてかもしれない。ネロの心臓がドクン、と何かに打たれたように脳裏に響く。
「ネロ、踊ろ!」
酒も飲んでいないのに踊るなんて柄じゃない。でも今はそんなこと気にならないくらい、ただヒロの笑顔を見ていたい。手を引かれるがまま街に溶け込んでいく。たまにはこんな日も悪くない。
月の水面に口付けて
あなたの空を照らします
蒼の彼方への道が見えたら
その手を取ってお連れします
さあ、何も踏まずに軽やかに
僕と一緒に踊りませんか?
【踊りませんか?】
世界という汚くて醜くいはずなのに何故か魅力的な舞台の上で共にこの寿命が尽きるまで踊りませんか?