『貝殻』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
貝殻
2枚合わさった貝殻が離れられないように
水平線のちかく、空と海が離れられないように
君と僕の手がずっと離れないように
貝殻だ
青色の、貝殻
拾いまくったな、ガキの頃
あの時は欠けてるとか色が悪いとか気にせずただひたすらに拾い集めてたっけな
いつからだろ、綺麗な貝殻しか価値がないと思い始めたのは
そう君が言った、あの青い貝殻だ
幼稚園を卒業した時に作ったタイムカプセルを開けた!
16年も前の私が、20歳の私に送った宝物が届いた。
黄色いねんどに沢山のビーズが埋め込んである瓶をこじ開けて中から出てきたのは、沢山の貝殻と小さなバラのろうそく、そして16年前の母からの手紙だった。
16年も経っていたけど、瓶の中はくたびれたろうそくのいい香りがした。
貝殻はきっと、父の実家のジャマイカに行った時に海で拾ったものだろう。
耳に当てたら波の音がした。
母からの手紙には、左利きなのに相変わらず整った母の字で想いが綴ってあった。
『きっと すてきなお嬢さんになっていることと思います』
-貝殻-
貝殻なんて、何処にも見当たらない。
だってそこには海なんて無くて、ただただ深い緑が茂るだけだから。
それは樹海なんて呼ばれ方をするけれど、本来は神聖な土地。富士の麓にあるなんて、とても美しいじゃない?
けれど樹海は、魔境と呼ばれている。
コンパスの針でさえ狂うから、方向が分からなくなるんだそうだ。
私が行ったら間違いなく遭難し、餓死か漏れなく飢えた獣に食いちぎられている。
けれど死ぬまでに、一度は行ってみたいスポットではあるんだ。
きっと奥まで行けば、自殺者の遺品等が見つかるに違いない。
私も樹海で死のうと思ったことが、何度かあって。
よくよく考えたら地元の人に迷惑だし、行く労力をかけるのが惜しいから辞めた。
きっと、それが正解。
仕方無いから、観光で行こう……。
逝くときは、ひとり静かに。誰にも迷惑かけずに、逝きたい。
それは、とても難しいけれど、切実な願い。
【39,お題:貝殻】
「あっ!凪沙、夜の海だよ!見て見て!凪沙!」
「そんなに叫ばなくても聞こえてる!見つかっちゃうから静かに!」
日が沈んだ砂浜を、パタパタと駆けぬける
暗くなったら、1人で海に行っちゃいけないって決まりがあるけど、2人だし関係ない
屁理屈を頭の中で唱えながら、優海の後を追って砂浜を走った
わざわざ大人の目を盗んで夜に来たのは訳がある
「もー、どこに落としたの?!」
「えぇと、あっち?いや、向こうかも...?」
優海が家の鍵を失くしたのだ、昼にも探したが見つからなく
反射板のキーホルダーが付いているらしいので、夜に月明かりを頼りに探そう、ということだった
大人に頼ればいいって思うかもしれない。でも、......大人は信用できないから
「あーっ!あった、凪沙!あったよ!」
「あったの?よかったじゃん!」
鍵を握った片手をブンブン振り回しながらこっちに走ってくる、子供か
「じゃあ帰ろっか...て、何それ?貝殻?」
優海のもう片方の手には、大事そうに桃色の貝殻が握られていた
「これね、桜貝って言うんだよ!」
そう言うと、優海はその二枚貝を私に差し出した。
「桜貝は幸せを呼ぶ貝なんだ、俺。凪沙に世界で一番幸せになってほしい」
私はそれを受け取り、2つに割った。えっ、と言う声が聞こえたが気にしない
2つになった桜貝の片割れを、優海に押し付ける
「半分こね、私だけ幸せになるなんて嫌だし」
優海は、軽く目を見開き、それからフッと笑った
「やっっっったぁ!凪沙からのプレゼントだぁっ!」
「うるさい!静かに!」
手を繋いで家まで帰る
2人の手には大事そうに、桜貝が握られていた。
貝殻
この前話してた貝殻ガチャ、企画に上げてみるから、もう少し詰めてパワポに起こしといてよ。
スマホで映すとARで貝殻からいろいろ出てくるヤツですね。
レアは貝殻水着の美女でいいけど、ハズレのアンモナイトもどき…あれ、いる?
ああ、実はカタツムリの殻で、中からワラワラとマイマイカブリが出てくるサプライズじゃないっすか。
クレーム来るからやめとけ。
コンコン。
殻を叩いてくる音が聞こえる。
コンコンッ。
今度は催促するように叩いてくる。
迷惑だからやめて欲しい。
コンコンコン。
ノック数が多くなる。
自分の苛立ちも沸き上がる。
無理にこじ開けようとしないでよ。
『殻破り』なんて、自分には必要ないんだから。
綺麗なままの殻に閉じ籠っていたいから。
〜貝殻〜
♯9貝殻
海に出ると一面貝殻であった。青空の底が白くなった。
貝殻は海辺でよく見かける
白が多い
なかにはカラフルな貝殻もあってきれい
幼い頃は貝殻を集めて瓶にいれたものだ
部屋を片付けていたところ、引き出しの奥に眠っていた宝箱を見つけたので開けてみた。
そこには、思い出と共にしまっておいた物達がきらきらと輝いていた。
ラムネの瓶から取り出したビー玉。
河原で拾ったまあるい石。
おもちゃの指輪。
好きなキャラクターの缶バッジ。
小さなぬいぐるみのついたキーホルダー。
あの日海で拾った大きな巻き貝……。
懐かしい、たくさんの宝物がそこには詰まっていて、思い出と共に一つそれを取り出した。
あの日はよく晴れていて、大はしゃぎで浜辺を駆け回った。砂浜に埋もれた大きな巻き貝を見つけて、目を輝かせて両親に見せたっけ。
「貝殻を耳に当てると波の音が聞こえるんだよ」と父が教えてくれた。
その場で試してみたけれど、すぐ近くの波の音が騒がしくてよくわからなくて、でもその巻き貝がとても綺麗に見えて、両手で包んで大切に持って帰った。
そしてそのまま宝箱にそっと入れて、引き出しの奥に大切に大切に閉まったのだ。
巻き貝を耳に当ててみる。あの日の、潮騒が聞こえてきた。
幼い頃の自分と両親の姿が、瞼の裏に甦る。あの頃から随分と長い時が経った。大切な思い出がたくさんの宝物になった。
ありがとう、ここまで育ててくれて。私はもうすぐこの家を出るけれど、いつまでも二人の娘です。
『貝殻』
夜の海で貝殻を拾った。くるくると巻かれた貝殻を。
耳を近づけて見ると、さわさわと春のような優しい風の音がした。何故だか嬉しくなってそのまま貝殻を耳に当てたまま、ぐるぐると体を回して踊ってみた。肌寒い夜の海なのに、春の穏やかな空気を感じれた気がした。
そのまま回っているとまたひとつ、貝殻を拾った。またくるくると巻かれた貝殻だった。
今度は音はしなかった。その代わりに、貝殻の入口からキラキラと何かが光った気がした私は、春を耳から受け入れながらもうひとつ拾った貝殻の入口を目に当ててみた。
そうしたら、今度は広い空に煌めきを放つ星が沢山広がっていたから、思わず可笑しくなってころころと砂浜に転がってしまった。
随分と、ヘンテコな貝殻だこと。なんてそんなことを思いながらももう耳も目も貝殻を離してはやれないので、転がったままずっと肌寒い夜の海の中、春を感じ星を眺めていた。
「貝殻は沢山のことを覚えていてくれるんだね。」
私はこの広い海の一部。
それ以外の何物でもない。ただの広い海の一部である。この残酷な美しい世界は、海を何処へも出してはくれない。それは何処か私にも似ていた。だから、海を私と重ね合わせた。
しかし、私は海の一部であって全てではない。というと一部と全てでは何が違うのかと聞かれそうな気がするが。
それに対する私の答えは何時だって決まって「一部と全てでは天と地ほどの差があるから。」だ。
一部、というのは全ての中の半分よりも少ない部分。
全て、というのはみな全部ひっくるめて、という事なのだ。苺のショートケーキで言うならば、私は苺のあのツブツブの中の一つであり、全てというのは苺のショートケーキ全部という、そんな感じなのだ。
分からないのであれば、それは苺のショートケーキへの愛が足りないということだ。…冗談だよ。
まぁ、けれど、大体はそういう事なのだ、
一部と全てでは天と地ほどの差がある。私は海の一部に過ぎない。海の全てを知らず、ただほんの一部、それもショートケーキの苺のツブツブよりもうんと小さいような、ただほんの一部だけを知った気になっている私は、どれだけ生きても海の一部にしかなれない。
海は何処へも逃げ出せはしない。最後にはまたここに戻ってくるしかない。その愚かさが私に似ていた。
海は広いのに、何処か息苦しさを感じた。その矛盾が私に似ていた。
海は穏やかな日もあれば、荒れ狂う日もあった。その滑稽な情緒不安定さが私に似ていた。
だから、私と重ねた。海をよく知らぬ私と、人間の事をよく知らぬ海。お似合いだと、そう簡単に口にする私はやはり愚鈍だったようで、コンビニにふらっとよる感覚で海に来てしまった。
海の全てを知りたくて、呑み込まれようと思ったのだろうか。私のこの思考回路だけは面白いと評価してもいいのかもしれないが、弱い決意にはBAD評価を付けたいね。
肌寒い海を、黒く渦巻く海を見て、少し恐れを抱いた。
この海の一部と馬鹿げた事を言っていたのだろうか、と己を嘲笑ってしまうくらいには海に恐れを抱いていた。
私が思うよりも遥かに海は沢山のものを抱えていた。そこに勿論人間も。海の中の生物も街も森も何もかも含まれていた。力強く、それでいて優しく私達が生きる為の力を授けていた。
あまりにも大きな事実に恐縮してしまって、目線を下げた。
だから、思わず砂浜に落ちていた貝殻を見つけてしまったし、それを拾ってしまったのだった。
耳も目も、未だ貝殻を離してはやれない。
離してしまえば愚かな自分を海が見つめている事を認めてしまうから。それでも良いのだけれど、少し恥ずかしいのだ。私は海の一部なんかでは無かったし、海も私を一部と思っていなかった。ただ、抱える場所に偶然生まれ落ちたから、抱えているだけに過ぎない。
恥ずかしいのだ。私は自分を大それた存在だと思っていたのだろうか。自意識過剰でいて、愚鈍愚劣最悪最低な人間。海は私とは違う。哀れだな、と笑ってからやっと耳も目も貝殻を離してやった。
もう春も星も感じなくなった貝殻に、私はそっと口付けた。
「愚かな人間がいたことも、ちゃんと覚えていてね。」
これも、結構恥ずかしい人間か…!
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咳と鼻水が止まらないです。こんばんは。最後に自我を出す方見ないので、私は随分と自我を出しすぎてるのだな、と思いましたがここで私を振り返るのがとても好きなので続けます。すみません。
私は、自分のことを特別でいたい、普通の一般人ということを認めたくないのです。誰かの特別でいたい、だけではなく皆から特別に思われたい、大それた存在と思われたいのです。厨二病に近い感情ですね。
本当は何処にでもいる一般人というのは、認めたくないです。
私が消えても、みんなの記憶からただの一般人の記憶なんて簡単に消えてしまうから。
誰かの人生になりたい、なんて大きい事を言うと笑われるかもしれませんが生きていた証を誰かの人生に刻みたい。
昔から、諦めと忘れるのが得意な私は寝ると大体の感情をリセットできるんです。誰にとっても都合のいい、楽な生き方を探してたら辿り付いた、逃げ道です。
でも、そんな私がずっと忘れられない桜の似合う彼への感情が、自分を少しずつ変えていくから、そんな思いが生まれたんだと思います。
こんなに情緒を不安定にさせる程の存在に、なりたいと思ってしまうのです。
貝殻は、きっと沢山の人やものを覚えて保管しているのだと思います。そしてそれを気まぐれで誰かに魅せてやるのです。夢のように。そして、それを見た誰かの事も覚えていくのです。
私は愚かなので、覚えられる側で…痛いですね。
今日、海へ行った。
海沿いを歩くのはとても気持ちいい。湿度が高いはずなのに、爽やかで涼しい。
波際を見ていると、白く光る何かが見える。近づくと、小さな貝殻がキラキラ光っている。波に沿って歩くと、いろんな種類の貝殻が太陽の光を反射して輝いていた。
一つ、大きめの巻き貝が落ちていた。よく言われるように、耳に当ててみる。確かに、海の音が聞こえる。きっと海の音が貝の中で反射しているだけだと思うけど、ちょっと不思議な感じた。
昔は、海の中でずっといた貝殻の中に海の音が閉じ込められていると思っていた。そうだったら魔法使いみたいでいいなぁと。大人になって、そんなことはないとわかっているけれど。それでも、ちょっと夢がある。
太陽が沈んで、海がオレンジに染まる。そろそろ良い子は帰る時間。明日は何をやろうか。これを考えている時間は、いつもわくわくする。
貝殻
声を届けてくれる。
ありし日の、そこに住んでいたいのちの声を
海の中での生活を…
ほんの一欠片でもそこにあったのだと証明している
それらを見ている…
生きていた証明を、
いつまでも忘れぬように…
珍しい形だなんて君と拾ってきた貝殻
今でも玄関に飾ってある
君のことが忘れられないのではない
君といた過去の眩しい日々を
貝殻のように片隅に飾っておく
それに意味なんてありはしない
あ、やっぱりここにいた。
私の部屋の机には、友人から誕生日にもらった小さい文具棚がある。下には引き出しがあり、上はペンやはさみを斜めに収納できるようになっている。
今私は、引き出しの中の隅っこに目を向けていた。
ここには基本、ホッチキスの替え芯や消しゴムの予備、シャーペンの芯などが入っている場所だ。
その隅っこに追いやられていた私の探し物は、小指の第一関節分くらいしかない、小さな巻き貝だった。
私には昔母からもらった愛用のバッグがあるのだが、日頃あまり荷物の中身をちゃんと出したりする方ではないので、整理する時に改めてひっくり返すと溶けた飴玉から1000円札まで、結構なものが出てきたりするようなタイプの人間だった。
あの日も確か、何の気無しにバッグの中身をひっくり返していたんだと思う。
ポケット部分に雑に手を突っ込んで中を探っていた時、不意に指先が小さな固いものに触れた気がした。小さい頃、近所で見つけたお気に入りの石を持ち帰る癖があったので、多分そのうちのどれかかもしれないと思いながらもう一度触れて掴み上げると、想像とはまるで違う、綺麗なねじれが目の前に現れた。
それはもういつ拾ったのかも思い出せなかった。
ただこれは、海を目の前にしてなお砂浜の石を吟味していた幼い私が、なんかこれもきれいだなぁくらいの気持ちで鞄に突っ込んで持って帰ってきたのだろうということだけは容易に想像できた。
それからというもの、成長と共に石集めの気持ちも収まり、手持ちの石もある程度自然へ返して身軽になっていた。
けれど、未だ返さずにいる子がいた。それがまさに、この巻き貝である。
私の地元は海無し県で、隣の県を突き抜けなければ海へはたどり着けない場所だった。
だから正直、この巻き貝をどうしてあげればいいのかわからなかった。特別思い入れがあるわけでもなく、とはいえその辺にポイしてしまうのも何だか忍びなくて、気づけば今までずっと私の世界の端っこで生き続けていた。
引っ越し前に一度断捨離をしたはずなのだが、なぜかこの子は私と共にあり続ける方へと転んでいた。
とはいえ、私にとってこの子が特別である理由はやはりない。日常生活の中でこの子が頭によぎることはまずないし、捨てろと言われれば多分捨てられる。その程度の関係値だ。
じゃあなぜわざわざこうして部屋の光に晒したのかというと、「貝殻」という単語を聞いて最初に自然と思い出したのがこの子で、それは文具棚の引き出しの中に入っているというところまで簡単に思い出すことができて、何となく久しぶりに見たいと思ったからだ。
こうして改めて考えてみると、これはとても不思議なことだと思う。特段大事にしているわけでもなく、明らかに適当に仕舞われていたはずなのに、なぜかそれはそこに居るという確信が私にはあった。
どうやら長年の付き合いによる勘というのは、人間に対しても貝殻に対しても、そんなに大差ないらしい。
貝殻ひとつ、されどそこに居る。
今日のテーマ「貝殻」
「君、いつも貝拾ってるよね」
当時5歳の私に、男性は話しかけてきた。
『うん!だって貝殻さん綺麗なんだもん』
『でっかいの探してるの』
「へー、そうなんだ」
「お兄ちゃんも一緒に探してもいい?」
『うん!!いいよ』
「……あ、おっきいのあったよ」
『でも待ってる貝殻より小さいー』
『もっと大きくて綺麗な貝殻がほしいー!』
「わかったわかった」
「…じゃあお兄ちゃんについておいで」
「こっちにおっきい貝殻あるから」
ー貝殻ー
手のひらに乗っけた貝殻をひとつひとつ木のフレームに貼り付けていく。
夏の思い出を閉じ込めた写真立て。
君は笑っていて僕は眩しそうに目を細めている。
眩しい夏はもう戻ってこない。
だからあの時拾った貝殻で飾り付けよう。
秋が来ても寂しくないように。
冬が来ても涙が出ないように。
春が来ても生きていられるように。
▷貝殻
揺れる電車に身を任せ、車窓は私を反射させる。草臥れた顔とスーツは都会で錆びついた無味乾燥な大人かのように思わせた。様々な電光を潜り抜ける電車は、ただの小さなアパートへ向かう。しかし、私は潮騒の音を思い出す。耳をすませば、電車の音は霞んでいき波の音に変わっていく。海音貝を耳に当てるかのように、私の心はいつでも故郷へ帰れる。ほら、潮の匂いも感じてきた。決して褪せず常に湧き上がる居場所がそこにはある。揺れる電車に身を任せ、車窓は海を反射させる。そして、私は貝殻の耳を堪能する。
「貝殻」
貝殻
幼い頃、よく一緒にいた男の子に小さい貝殻を貰った。
「綺麗でしょ?良かったらあげるよ。まだ持ってるから」
そう言って、優しく包んだ貝殻を差し出す。
私が受け取ると、友達に呼ばれ走り去ってしまった。
渡す時の優しさと駆け出した笑顔に、私はすっかり心酔していた。
彼と話したかったし仲良くなりたかったけれど、上手く話せず苦手意識を持たれたり、ついうっかり気持ちを漏らしてしまうのが怖くて何も出来なかった。
そんな私に、告白する勇気なんか持てなかった。
彼は海での急な水難事故によって死んでしまって、私は悲しさが通り越して泣けずに唖然としていて、何も出来なくなっていた。
生きている間に何も出来なかったことは、月日がたった今も後悔しているし、これからもずっと引き摺って私を呪うのだろう。
行き場の失くした私の呪いは私の恋を吸収し、私を締め付けていた。
唯一、私と彼を繋いでくれた貝殻を、両手で優しく包み込んで胸に当てて、彼を思い出してはまた呪われて、それでも手放すことは出来なかった。
そんな時、私の気持ちを知っている親友から風鈴を貰った。
「風鈴の音が鳴るところ?舌?って言うんだけど、そこ壊しちゃったからあげるよ。貝殻をつけてみたらどう?」
言われた通りに私は、貝殻に穴を開け糸を通して繋げた。
風に吹かれて綺麗な音色を奏でて、彼の明るい笑顔を思い出した。
周りを自然と笑顔にするような、無邪気で優しいその輝きに、私は恋をしていたことを改めて思い知らされた。
そんなことを思い出させる、優しく癒すような音を出す煌びやかなガラス細工に、私の心は幾分か救われた。
彼が、前の向き方を教えてくれているような気がした。
「貝殻、シェルパウダー、シェルフレーク、シェルビーズ。ハンドメイド以外だと、クラムシェルなんて言葉もあるんだな」
わぁ。なかなかに手強いお題が来た。某所在住物書きは「貝殻」から連想し得る複数個を検索し、それらの物語を仮組みし、途中で「無理」と挫折を繰り返している。エモネタが不得意なのだ。
「貝殻そのものを使うって言ったら、耳に当てて『海の音』とか、法螺貝とか、あとは螺鈿細工?」
牡蠣の貝殻は肥料としても優秀らしいが、それで物語組めるかっつったら、俺の固い頭じゃねぇ。
物書きはため息を吐き、ネタ探しを続けた。
――――――
最近最近の都内某所、某一軒家。
夫婦1組に一人娘、3人構成の家庭に、諸事情で夫側の親友が避難してきている。
早い話が元恋人によるストーカー数歩手前。
被害者にして避難者の名前を藤森、その元恋人が加元、避難場所提供一家は宇曽野という。
加元と完全に縁切って、8年逃げ続けてきた藤森。
最近加元に職場がバレてしまい、現住所の特定も時間の問題であった。
加元はかつて、藤森をディスりにディスり、その心をズッタズタのボロッボロに壊した。
そのくせして、逃げた藤森を追うのである。
『加元には、二度と藤森の心を壊させやしない』
宇曽野は即日決心し、真の友情を誓い合う親友に隠れ家を提供した、のだが。
「ただいま」
避難場所提供の礼として、掃除洗濯、消耗品の補充、それから料理に至るまで、手伝える家事は率先して手伝う藤森。
今夜はシーフード、特に貝類という女性陣の要望に従い、貝殻付きのホタテとマグロの柵(さく)、それから卵といくつかの野菜を買ってきた。
賞味期限間近、タイムセール、店舗間の価格差。
目の付け所が家計の番人のそれであった。
「随分遅かったな?」
2時間で帰宅すると言っていた藤森が、時計を見れば遅れに遅れ、家を出てから4時間半後の帰宅。
「何かあったのか?」
藤森の心の優しさと、加元の執着の強さの双方を知る宇曽野は、気が気でないとまでは言わないが、それでも心配はしていた様子。
加元とはち合わせたか、それでとうとう藤森の心が折れたか、なんなら宇曽野に黙って遠くへ逃げたか。
様々想定した宇曽野に藤森が言った言葉が悪かった。
「例の私の後輩が、加元さんの無理矢理雇った探偵に尾行されていたから、事情を話して成功報酬の2倍で手を打ってもらってきた」
詳しくは前回投稿分参照である。
「かもとの、たんてい?」
「私の居場所を知っていると踏んで、行動調査の依頼を出したらしい。加元さんと私の関係と、経緯を簡単に話して、『ストーカー数歩手前だ』と」
「加元の目の前に、お前、出てったのか」
「加元さん本人ではない。それに、私のせいで、後輩がプライバシーの実害を被ったんだ。見過ごせない」
「でてった、のか」
「それより宇曽野、お前も一緒にメシ作らないか。マグロの漬けサラダと、ホタテの貝焼きの予定でな」
「ふじもり、」
「貝殻の上にホタテだの溶き卵だの、味噌だの入れて、その貝殻ごと焼くんだ。うまいぞ」
「おまえ!わざわざ自分を危険に晒しやがって!」
「は?!」
ポコロポコロポコロ。
突然勃発する親友同士の大喧嘩はほぼ月例イベント。
5月13日に6月23日、7月15日に8月17日、それから今日。既に見慣れた光景である。
宇曽野家の女性陣も我関せず。ただ藤森の購入してきた食材を、それの入ったエコバッグを、淡々粛々とキッチンに退避させている。
「母さん、また父さんと藤森さんプロレスしてる」
「放っときなさい。10分20分すれば勝手に電池切れるから」
ポカポカポカ、ドッタンバッタン。
ひとしきり暴れてスッキリして、ケロッと瞬時に仲直りの藤森と宇曽野。
その後「喧嘩する前にまずお互いの意見を聞きましょう」と、仁王立ちする宇曽野の嫁の前に、ふたりして正座してしょんぼり頭を下げていたか、否かは、
敢えて、ここでは明記しないものとする。