無音

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【39,お題:貝殻】

「あっ!凪沙、夜の海だよ!見て見て!凪沙!」

「そんなに叫ばなくても聞こえてる!見つかっちゃうから静かに!」

日が沈んだ砂浜を、パタパタと駆けぬける
暗くなったら、1人で海に行っちゃいけないって決まりがあるけど、2人だし関係ない

屁理屈を頭の中で唱えながら、優海の後を追って砂浜を走った

わざわざ大人の目を盗んで夜に来たのは訳がある

「もー、どこに落としたの?!」

「えぇと、あっち?いや、向こうかも...?」

優海が家の鍵を失くしたのだ、昼にも探したが見つからなく
反射板のキーホルダーが付いているらしいので、夜に月明かりを頼りに探そう、ということだった

大人に頼ればいいって思うかもしれない。でも、......大人は信用できないから

「あーっ!あった、凪沙!あったよ!」

「あったの?よかったじゃん!」

鍵を握った片手をブンブン振り回しながらこっちに走ってくる、子供か

「じゃあ帰ろっか...て、何それ?貝殻?」

優海のもう片方の手には、大事そうに桃色の貝殻が握られていた

「これね、桜貝って言うんだよ!」

そう言うと、優海はその二枚貝を私に差し出した。

「桜貝は幸せを呼ぶ貝なんだ、俺。凪沙に世界で一番幸せになってほしい」

私はそれを受け取り、2つに割った。えっ、と言う声が聞こえたが気にしない
2つになった桜貝の片割れを、優海に押し付ける

「半分こね、私だけ幸せになるなんて嫌だし」

優海は、軽く目を見開き、それからフッと笑った

「やっっっったぁ!凪沙からのプレゼントだぁっ!」

「うるさい!静かに!」

手を繋いで家まで帰る
2人の手には大事そうに、桜貝が握られていた。

9/5/2023, 5:03:23 PM