『貝殻』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
#貝殻
子供の頃は今よりまだ“女子”寄りだったと思う。
巻き貝をそっと耳に当て、“波の音が聞こえる”などと言うなりしていた。(思い返してのたうっている。)
水族館のお土産コーナーで売ってる“貝殻詰め合わせ”を欲しがった。それは私の宝物になった。
いつしか私は“女子”寄りから“女”を捨てた。
宝物だった“貝殻詰め合わせ”は“燃えないゴミ”にクラスチェンジして、私の前から消えた。
そうして“扱いづらい若者”に育った私は現在“扱いづらい中年”になり、捨てた“女”は未だ戻らない。あとは“老害”まっしぐらである。
貝殻は喰える部分が無く役に立たない物かもしれないが、この様にひとりの人間の転落人生を語るのに充分なポテンシャルを秘めている。
是非食された際には、殻を洗ってとっておくことを薦めたい。いつか500文字位のお題にはなってくれるかもしれないのだから。
#76【貝殻】
おばあちゃんの買ってくるお土産のセンスは
独特だ。
5歳くらいの頃
温泉帰りのおばあちゃんが
「おみやげだよぉ」と差し出してきたのは
貝殻がたくさん入った
小さなビニールバッグだった。
幼心に私は思う。
「…これでどうしろというの…?」
遊び方のわからない
まぁまぁな大きさの貝殻たち。
大人になった今ならば
お!なんかオブジェとか作っちゃおうかな?!
なんて思ったかもしれない。
だけど、あの頃の私の精一杯は
貝を床にばらまいて
海岸沿いで貝を拾うヒロインを演じること。
…つらい…!この遊び、つらいっ…!!
遊んでるのか、片付けてるのかわかんない!
あとなんか虚しい!
一人で貝拾って「アハハハハハっ♪」って!泣
それ以来、貝殻バッグは引き出しの奥に封印。
今でもお土産屋さんには
あのバッグが売っていたりするのだろうか。
流石に令和だしね。
そんなのないよね?
貝殻
海にあるんじゃない
砂と岩
波と風
同じものだよね
違うものでもある
有機物か無機物かみたいなもん
地球は生物なのかもしれんよ
人間の身体も中に色々住んでるし
もしかしたらだけど
人間も世界の外にいけるかも
でもそれは世界の外には侵略なのかも
自由とは何かではなく
不自由とは何かでしか過ぎなくない?
多数が正しいなら滅びていく
大多数は愚かだから
群衆ならなおのことだよね
なんで同じだと思えるのか謎
みんな違うのは同じなんだけど
こんな簡単なことで何故に間違えるのか
違いがあるからこその自由だと思う
その違いだって一括りにしちゃうけどさ
境界線を何処に置いてるか
ただそれだけな気がしてきた
どんな風に区切ろうとも
1つだと思えるのは
他のものがあるからで
始めから1つではないのですよね
声を覚えてくれる。そんな貝殻が、透明の貝殻がこの砂浜にはあるらしい。
一度覚えた声は何年、何十年と経っても変わらず再生できるのだという。そんな都市伝説のような話を祖父から聞いていた。幼い頃は興味の欠片もなかったのに、今は必死にそれを探している。
そして、そんな私を祖父は止めていた。
「なんでそんなもの探す必要があるんだ。お前には必要ないだろう」
「おじいちゃんには関係ないよ。どうしても欲しいの」
藁にも縋る思いで探し続けた。夜の海は危険だと言われても、昼間に外に出られない私にとってはその時間しかなかった。
だが、どれだけ探しても見つからない。どれだけ探しても、その透明な貝殻は見つからない。
その日も諦めて私は家に帰った。
「今日も見つからなかったか」
「うん」
いつものやり取りから逃げるように部屋へ行こうとすると、祖父に呼び止められた。ボロボロの巾着袋を手にして、中から何か取り出した。それは手のひらサイズの透明な貝殻だった。
「おじいちゃん、それどこで!?」
「これは俺が見つけたものじゃない。お前の母さんが遺していったものだ」
そんな話聞いたことなかった。母はある日突然、家出をしていったかと思ったら、その数ヶ月後遺体となってこの家に帰ってきた。
「聞きたいか」
祖父の言葉に頷くと、そっと貝殻の中に息を吹きかけた。すると、本当に最後に聞いた母の声が再生された。家族を遺してこんな選択をしてしまったことへの謝罪と、今まで愛してくれてありがとうという言葉で音は途切れた。
「……お前もなんだろう。同じことを考えているんだろ。なんで親子そろって同じことしようとするんだ! 声だけ枯れないままま何年も遺される親の身にもなってみろよ。愛されていることに気づいているなら、なぜわざわざ遺族が一番悲しむ選択をするんだ」
なにも言えなかった。自分の行動を見抜かれていることに驚きもしなかった。
だが、自分が間違っていることを再認識させられた。いつも怒ってばかりの祖父が泣いているところを見て、もう少し生きてもいいかもしれないと思えた。
偶々立ち寄った小さな町の、小さな海辺。
そこで俺は、小さな貝殻を見つけた。
深海の色を模倣したような、綺麗な貝殻。
この貝殻を見ていると、あいつの事が思い浮かぶ。
深く暗い海に沈んでいった、あいつの顔が。
あいつは最後まで、笑っていた。
この貝殻も、次に淡く照らされて、笑うように光り輝く。
あぁ、この貝殻が、あいつの一部なら良いのに。
そう思いを馳せながら、俺の目からは自然と涙が零れた。
#貝殻
49作目
貝殻
「これ、どうぞ」
少し肌寒くなった夕暮れ時の砂浜で、そう声をかけられた。
そちらを向けば、夕焼けに染まったような赤い髪の女性が何かを差し出していた。
それは、貝殻だった。どこにでもあるような貝殻に見えるのに、夕日に照らされたそれが何だか妖しく光るから。
気がついたら、その貝殻を受け取っていた。
女性は柔らかく微笑んで、手を振る。
「よい旅を」
その言葉を理解したと同時に、世界は自分の知っているものとは変わっていた。
貝殻
海に落ちている小さな貝殻
少女は探す
幸せの丸い貝殻を
青年は少女に声をかけた
そして少女は微笑みかけた
幸せの丸い貝
みーつけた!
ボンゴレが美味しすぎて、欠けた貝殻ごと食べてしまったことがある。美味しすぎて細かいところまで集中できなかったからだ。魚の種類によっては貝を殻ごと口でバリボリと食べてしまうのもいるらしい。その気持ちわかるわ。席に座って食べているのに海の魚の気持ちになるとは思わなかった。あと、自分の歯の頑丈さにちょっと呆れた。
#8貝殻
【貝殻】
海と砂浜と貝殻が似合うような
太陽みたいな人になりたかったな
綺麗な模様とかなんとか言えればいいんだけど
私の中の「貝殻」の9割アサリかシジミなんですよ!!
味噌汁やパスタに入ってる開いてない貝殻見つけてはショックを受け
割れた貝殻見つけては引き上げての繰り返し
海とかで見る内側がキラキラしたような貝殻は実物では見た事ない
ムール貝?知らない子ですね
貝殻に住めたなら
さぞ 素敵だったろう
白い 巻き貝がいい
中は暗く ひんやりとして
ゆるやかな曲線に腰掛けて
てのひらで触れると
きっと 冷たいけれど 優しいのだ
壁に耳を澄ませると
遠い 波の音がする
たまに外を覗いて
明るさと騒がしさに驚いて
自分の住処の静けさに
その素晴らしさに
思いを巡らせながら
静かな午後を過ごすのだ
ご存知ですか?
シジミやアサリ
サザエやアワビなど
食べ終わった貝殻
燃えるゴミだって
調べた時は衝撃を受けました
アレはもしやタンパク質の塊なのかな
ほんと分別には骨が折れます
最後に海水浴に行ったのは
8年前で
三年生だった次女は
JKになった
私と次女は
貝殻を拾いながら
活発な
長女と旦那を
眺めていた
貝殻に混ざって
はまぐりが落ちていた
ハマグリを探すあの人
あの夏は戻らない
この貝殻綺麗だな。
持って帰って見せてあーげよっと!
私は貝殻をるんるん気分で持ち帰る。
帰って水槽に入れてやると心做しかメダカが活発になった。
▼ 貝殻
覚えているだろうか
忘れようとしているだろうか
『また来ましょうね。×××さん』
約束は無効になっただろうが、あの日の事実は嫌でも忘れられない
顔を見れば思い出してしまうけれど、きっと。
「テメェが一番、そういう事嫌いなクセによ」
久し振りにあの場所に行ってみようか
もちろん、独りで。
『貝殻』
どうしても
生まれ変わらなければならないならば
私は
深い海の底の貝になりたい
そう思いながら
最後の審判を受けた人が
あの時代
いったい何人居たのだろう
貝殻
「やっぱり海は良いね」
「来るとなんだかほっとする」
彼は内陸の出身だった。
だから余計に海に憧れがあったのか、来るととても喜んだ。
そしていつも、「安心する」と言っていた。
「この貝殻はどこから来たんだろうね」
「あ、でも元々は海の中にあったものが流れてきたのか」
貝殻を拾い、1つ1つにどこから来たのか問いかけていた。
そして最後は必ず
「元来た場所にお帰り」
そう言って、海に流していた。
持ち帰ることは1度もなかった。
なんか、浦島太郎が助けた亀を海に返してるみたいだね、と
笑いながら話していると
「誰にだって帰る場所はあると思うから」
と、返してきた。
あれから、数年。
自分は1人で海に来ている。
貝殻を1つ1つ手に取っては
「誰にだって帰る場所はあると思うから」
そんな台詞が頭を過ぎる。
彼の帰る場所はどこだったのか。
少なくとも自分ではなかったのか。
確か出会ったのもこの近くだったな。
もしかすると、彼は
海には、揃えて置かれた靴だけが残っていた。
Fin.
貝殻
夏になると、ビニール袋をもって近くの海へ行く。
裸足で砂浜を駆け回り、綺麗な貝殻を選んでビニール袋にしまう。
白や紫、オレンジに黒。何に使うわけでもない貝殻を片手に、家へ走る。
祖母に貝殻のはいった袋を見せて、綺麗だねと言ってもらう。
二度と戻ることはできない、無邪気な夏の一日。
10年前、この浜辺で貝殻を集めていた。
その時、男の子がやってきて一緒に遊んでいた。
もう、名前も顔も覚えてないけど、またいつか会えたらいいなぁ。
#貝殻
#18
あの家にあった貝殻のモビール。
あの子は一体何歳になったんだろう?
ミステリー。
全てを嘘と気持ち悪さで表現しようとしている。
粉々になった貝殻。
誰かが欲しがる答えを知っている人。
その人を追っている。
全ては貝殻の外側に。
あの子がモビールから離れた瞬間、壊れた何か。
たまに聴こえる癒やしの声に、
何度も騙された。
正しさなんて知らないくせに。
愛。
それを探していたのか。
貝殻は粉々なのだ、貝殻は粉々なのだ。
もともとそこに何も探していたものは無かった。
愛なんかなかった。
記憶なんて嗅ぐんじゃないよ、時々場面一つ思い出すくらいが
美しいってもんだよ。
嘘と気持ち悪さで美しさになるんだ。
あの子の名前も、顔も覚えていない。
それでも、あの家にいたあの子を知っている。
それだけのことで幸せを感じて
いる…。
双方向に目を向けると、顕になった一つ。
貝殻の破片。