貝殻
「やっぱり海は良いね」
「来るとなんだかほっとする」
彼は内陸の出身だった。
だから余計に海に憧れがあったのか、来るととても喜んだ。
そしていつも、「安心する」と言っていた。
「この貝殻はどこから来たんだろうね」
「あ、でも元々は海の中にあったものが流れてきたのか」
貝殻を拾い、1つ1つにどこから来たのか問いかけていた。
そして最後は必ず
「元来た場所にお帰り」
そう言って、海に流していた。
持ち帰ることは1度もなかった。
なんか、浦島太郎が助けた亀を海に返してるみたいだね、と
笑いながら話していると
「誰にだって帰る場所はあると思うから」
と、返してきた。
あれから、数年。
自分は1人で海に来ている。
貝殻を1つ1つ手に取っては
「誰にだって帰る場所はあると思うから」
そんな台詞が頭を過ぎる。
彼の帰る場所はどこだったのか。
少なくとも自分ではなかったのか。
確か出会ったのもこの近くだったな。
もしかすると、彼は
海には、揃えて置かれた靴だけが残っていた。
Fin.
9/5/2023, 1:34:15 PM