H₂O

Open App

貝殻


「これ、どうぞ」
少し肌寒くなった夕暮れ時の砂浜で、そう声をかけられた。
そちらを向けば、夕焼けに染まったような赤い髪の女性が何かを差し出していた。
それは、貝殻だった。どこにでもあるような貝殻に見えるのに、夕日に照らされたそれが何だか妖しく光るから。
気がついたら、その貝殻を受け取っていた。
女性は柔らかく微笑んで、手を振る。
「よい旅を」
その言葉を理解したと同時に、世界は自分の知っているものとは変わっていた。

9/5/2023, 1:52:10 PM