『視線の先には』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『視線の先には』
君は今、逃げている。
息を切らして、走って走って、時折り足がもつれて転びそうになるのを、なんとか立て直して、逃げている。
ひとけのない街のなか。
広い道路も、大きなビルも、時間を止めたかのようにシンとしている。
不思議なほど、誰もいない。
とうとう君は転んでしまった。
もう何時間も走り続けていたのだから仕方がない。
体力も限界だろう。
気力はなんとか持ちこたえているだろうか。
激しく肩で息をして、ゼイゼイと喉を鳴らし、ゆっくりと君は振り返る。
大きく見開かれる目。
信じられないモノを見たような表情。
わかるよ、わかる。
君の夢の中に入り込めるヤツがいるなんて思ってなかったよね。
だから好き勝手やってきたんだものね。
さあ、とくと見てくれたまえ!
君の視線の先にいる僕が、どんな姿をしているのかを。
それはちょっとした思い付きだった
コロナ禍で人との交流が制限され、仕事に行くこともままならず、多くの人が抱えていたモヤモヤを俺も少なからず募らせていた頃だった
暇潰しに何気なく観ていた「メイク動画」
すっぴんの女の子があれよあれよという間に美女に変身していくアレだ
元々姉貴には良く言われていた
「あんたが良い要素全部持って行っちゃったのよね…」
二つ上の姉貴とは似ているところが全く見つからないほどお互い別の造りをした顔立ちだった
「私はあんたが母さんが過ちを犯して出来てしまった子供なんじゃないかって、未だに私は少し疑っているのよ」
と恐ろしいことを姉貴は真顔で良く俺に言った
確かに自分でもキレイな顔立ちだとは思ってきた
日本人離れした彫りの深さ、180cmを越える背の高さだったが9頭身には見える小さな顔、大きいながらも涼しげな瞳、薄からず厚からずのバランスのとれた形の良い唇
化粧品のCMに出てきそうな綺麗な肌をしていた
その動画を眺めているうちに、
「俺ならもっとキレイになるかも…」
なんていうイタズラ心と好奇心が頭をもたげたのだ
姉の使いかけの化粧道具を借りて、見様見真似で丁寧に施していく
元々手先は器用で美的センスも持ち合わせていたから、それほど難しいことでもなく、キャンバスに絵を描いていくように筆やラインを走らせた
ハイライトの入った顔はより彫りを深く見せ、ブラシで整えた眉は涼しげな瞳をより際立たせ、マスカラをつけた睫毛はその瞳に憂いを与えた
唇はラインを引くと整い過ぎる感じがして、あえて無造作にリップクリームで艶を乗せるだけにした
それがむしろあでやかさをより演出した
鏡の中の自分は思わず身震いするほど美しかった
日頃の俺は冴えない研究者としての日常を送っている
1日パソコンの前でデータと睨めっこしているには高すぎる身長を持て余し、コンタクトレンズが体質的にに合わない眼には牛乳瓶底メガネをかけ、
年に2度ほどしか散髪に行かない髪は伸び放題
ヒゲも気が向かなければ剃らない日もある
人付き合いの苦手さもあって、女性との交際もほとんど経験はない
だから、周りの人間も俺の存在すら気にしていないし、まして俺がそんな美貌の持ち主であることに気付くほど俺を見る人もいないのだ
「これが俺か? ヤバ過ぎる美しさだ
化粧の魔力がこれほどとは!」
ほんの遊びのつもりだったが、このまま誰にも見せないで終わるのは勿体ない!
誰かに見せたいという衝動が抑えきれず、慌てて髪を水で濡らしてオールバックにし、姉の黒のワンピースを体に巻きつけて動画を作った
もちろん何もかもが初めての経験だったが、以前観たこのとあるパリコレモデルのイメージでポーズをとり、怪しげな表情でカメラを睨みつけた
反響は想像を遥かに超えた
「この美女は誰?」
「この美しさは神なんですけど!」
「この人は彼女?彼? もう、そんな事どっちだって良い美しさに平伏してま〜す」
「一体、どこから出てきたの?
今までこんな人どこに埋もれてたの?!」
その反響はとても把握しきれない数に上った
体中の血が逆流する様な興奮を生まれて初めて経験した
この動画を観ている人々の視線の先に映っているのはもちろん本当の俺ではない
でも例えそれが虚像であっても、それが真実かどうかなんて彼らにはそれほど重要なことではないのかも知れない
信じたいものがあることこそきっと強いパワーになるのだ
あれから半年が経ち、増え続けるファンに応えるように定期的に動画を配信する生活を続けている
人の興味なんて何れ失われていくものだ
だから、それまでの間、彼らひとりひとりがそれぞれにその視線の先に描く夢や憧れの象徴として俺が仮の姿でそこに存在してみるのも、それなりに意味のあることかも知れないと思っている
少なくとも背中を丸めながらパソコン相手にデータ収集に追われる自分よりは俺自身が遥かに生きている実感がある
そして俺の視線の先にあるものが、この経験が自分の可能性を広げた未来であることを信じている
『視線の先に』
視線の先には
花屋さんで見かけた高級ぶどうの苗〝ロザリオ・ビアンコ〟
育てる楽しみと食べる楽しみがある未来。
どう育つかもわからないし、枯らすかもしれない。
おいしさを求めるなら店頭で同じ値段のぶどうを買った方が確実だ。
毎日、ぶどうに音楽を聴かせてやさしい言葉をかけて…
…と思ったが、紫陽花の鉢植えを枯らした事があるし。。
ぶどうに夢を託してもいいかな。。
わがままなもので
苦しみなく楽にしてほしいと思ってしまう
世の中の人が気分転換と言うものは
私にとっては現実逃避
私の前にあるその
死線の先には
足を止めるほどの恐怖が待っている
『視線の先で...』
最近、私は、密かに視線をある人に送っている
その人は、とても素敵で、お淑やかで... これ以上は、ヒートアップしてしまいそうだ(?)
あっ、こっち向いた やばい!
いつか、この視線の意味に気づいてもらえるのか
その日がくるのか不安だか密かに待っている
視線の先には
視線の先には、いつも君が居がち。
それは、いつも君なる人物を見ているということで、ひいては恋しているということの文学的表現手法、言い回し。
視線の先に、本当にいつも君が居るとしたらホラーか心の病か。そういう世にも奇妙な物語の回がありそう。
「ハナシ書くとき、カメラワークは気にしてる、気では、一応いるわな。一人称の語り手の視線が、どこに向いてるかとか、どう移動するかとか」
三人称書く際も、視線の先が飛び過ぎないように、ある程度上から下とか、左から右とかな。
某所在住物書きは過去投稿分を辿り、7月3日のお題を見た。当時は「この道の『先』」であった。
「あと視線っつったら、読んでて視線が滑らないように、句読点と改行はそれぞれ利用してるわな」
まぁ、意図したとおりに役立ってるかは別だが。
物書きはふと振り返り、視線の先には、まさしく面白みに欠けた本棚が複数冊鎮座している。
――――――
去年の今頃のハナシ。今はもう解決済みの騒動話。
「諸事情」で改姓改名して、以前の名前をずっと秘密にしてた先輩は、仕事上長い長い付き合い。
去年の今頃、私は先輩から「諸事情」を聞いた。
恋愛トラブルだ。酷い粘着質の理想押しつけ厨な初恋さんによる、追っかけ被害だった。
今私は支店勤務だけど、当時は私も先輩も本店の、同じ部署で働いてた。
リモートワークの気分転換。美味しいランチでも食べに行こうって、職場の先輩誘って外に出て十数分。
人の往来激しい道のド真ん中で、突然先輩が立ち止まって、恐怖か何かで短く、鋭く息吸って、
すごく小さな、震える声で呟いた。
「カモトさん……」
「『カモトさん』?」
先輩の、視線の先にはたくさん人が居たけど、べつに仲悪い誰かが歩いてたワケじゃない。
いつも通り。何も変わらない。普通の日常だ。
「加元さん」。
当時の私は、そのひとを知らなかった。
「先輩、どしたの、」
私が「カモトさん」を探そうとあちこち見る前に、
先輩は私の手を引いて、暑い中歩いて来た道を、全力で走って引き返した。
「ねぇ、先輩、先輩ったら、」
こんな、余裕の全然無い先輩は初めてだった。
いつも真面目で誠実で、実はちょっと寂しがり屋で、猛暑日酷暑日は大抵デロンデロンに溶けてるけど、
それでも、取り乱す先輩は一度も見たことなかった。
今考えれば「そりゃそうなるよな」と思う。
というのもこの「加元さん」、所有欲強火な理想押しつけ厨で、裏表持ち。とんでもないひとだった。
約10年前に先輩と付き合って、先輩に「あなたの◯◯が好き」「あなたの△△がすごい」って面と向かって言っておきながら、
SNSの鍵無し公開垢で、「こいつの◯◯がおかしい」「こいつの△△が地雷だし解釈違い」って真逆をポスって数ヶ月ディスり続け、
結果として、たまたまその公開垢を見つけてしまった先輩の心をズッタズタに壊した。
だから先輩は加元さんから逃げた。
粘着質を知ってたから、連絡方法全部絶って。
自分の名前が珍しいから合法的に改姓までして。
その改姓前がブシヤマ。「附子山」だった。
所有欲強火な加元さんは、勝手に消えた「所有物」を数年間、ずっとずっと探し続けてたワケだ。
「ブシヤマさん!ブシヤマさんでしょ?!」
後ろから聞こえてきたのは、低い女声なのか、高い男声なのかすごく分かりづらい、中性的な大声。
その声が、加元さんだった。
「待って、話を聞いてブシヤマさん!レイさん!」
ブシヤマさんって、誰?先輩は藤森でしょ?
「藤森 礼(ふじもり あき)」。後ろのひとが叫んでるのは「ブシヤマ レイ」。別人だ。
当時の私はここのカラクリが分からなくて、ずっと混乱しっぱなしだった。
「レイさん!!」
通行人の、好奇の視線とスマホのカメラは、例の大声出してるひとに向いてる。その隙に、先輩はするり小さな路地を抜けて、私の手を引いて走った。
「待って、待ってって先輩」
時折後ろを振り返って、「カモトさん」が追ってきてないか確認する先輩は、すごく怯えてる。
「人違いだよ、先輩ブシヤマじゃないもん、大丈夫だよ。ホントにどうしたの」
落ち着いてほしくて言った言葉も、多分全然届いてない。ただ小道に入って、曲がって、走って。
「先輩、ねぇ先輩っ!」
やっと立ち止まった頃には、私の息はメッチャ上がってて、汗もヤバいことになってた。
「……ブシヤマ、だったんだ」
私と同じくらい疲れちゃって、肩で息してる先輩が、蒼白な顔で言った。
「あのひとは、以前話していた、私の初恋のひと。私を地雷だ解釈不一致だと、嫌って呟きアプリで愚痴っていた筈のひと。私は……」
私は。 その先を言おうと口を開いて、閉じて、目を閉じてうつむく先輩は、苦しそうで、痛々しい。
どこか落ち着いて話ができる場所を、探して周囲を見渡して、少し遠くに目を向けたら、
視線の先には、先輩行きつけの茶葉屋さんがあった。
これが去年の今頃のハナシ。去年の大騒動。
なお最終的に先輩は去年11月ちゃんと加元さんをフり直して、それでも加元さんは粘着してきて、
今年5月25日、先輩の友人さんが加元にデカいトドメを刺して、このトラブルは完全に解決した。
視線の先には あなただけのはずだった。
いつの日からか気づいたら
違う人を見るようになっていて
毎日見るのが 当たり前の生活になってた
私は違う人を見るようになったくせに
あなたには 私だけを見ていて欲しかった
あなたも私も見る景色が違ってしまって
見ていたのも 見えてたのも
みえなくなってしまったんだと思う
どんな事があっても大切な人を
見失ってはいけない
あなたは みえなくなってしまったけど
ちゃんと みているよ…遅いよね…
鏡の前に立つ
視線の先には、何が見える
自分の姿?
本当の自分?
左右反転しただけの人間の物体?
それとも、鏡というモノ自体?
視線の先には
一番見たかったものは決して映らない
それを目にした瞬間
最高の一瞬では無かったことに気づくのだから
お題『視線の先には』
前の席の男子の肩の上にカブトムシが乗っかっている。
私は正直虫が苦手だけど、今は授業中、叫びだしたくなるのをこらえていた。
カブトムシはツノを私の方に向けていて、ということは私は今、こいつ?、いや、オスだから彼か?、とにかく目が合っている。
私の視線の先にカブトムシ、カブトムシの視線の先には多分私。
今や授業に集中するどころじゃない。人間の肩を山に見立てて登山をし、ひと休憩しているカブトムシは、しばらくその場でとどまっている。
お願いだ。たのむ、たのむからそこにいてくれ。間違っても飛ぶ、なんてことはするなよ。
そんな時、先生が
「じゃ、今からプリントを配るぞー」
と言い出した。
おいおい、マジかよ。ふざけんじゃねぇぞ。プリント配るってことは、必然的に体をひねらないといけないじゃないか。そうすると、その動きの反動でびっくりしたカブトムシが飛ぶかもしれないだろ。なんて最悪なタイミング。
私の心の声を無視して、プリントの束を受け取ったクラスメイトたちが次々プリントを一枚とっては後ろの席に回していく。
前の席の男子のもとにプリントがすぐきて、彼が振り向いてはい、と渡してくる。その瞬間だった。
カブトムシが羽音を鳴らしながらその場から飛んだ。それがよりによって私の顔面に向かって。
顔面にはりつくカブトムシに私はついに悲鳴をあげた。
きゃー、なんて可愛らしいものではなく、ギャァァァァだ。
プリントを受け取るどころの騒ぎじゃない。きっと叫んだのは私だけではない。クラス中みんな騒いだと思う。先生が静かにしろと言っても、誰も聞く耳を持たない。
手足を虫みたいにばたつかせる私の顔からチクチクザラザラじめっと触れられている感触が消えた。
おそるおそる目を開けると前の席の男子がカブトムシを手につかんでいる。
こいつはニヤニヤしながら言った。
「ラッキーじゃん。こいつ、クラスで飼おうぜ」
よりによって手に持ったカブトムシの腹を私に向けながら言う。私は肩を落とし、精神的にも体力的にも消耗した気持ちになりながら「絶対やだ……」と力なく返した。
おじいちゃん…
「おぉ。絢か。よくきたなぁ。ゆっくりしてけよ。」
そう言っていつも温かい気持ちで待ってくれているおおらかで優しいおじいちゃんでした。
最期会えたのは先週の火曜日でしたね。
病床に呼んでくれたおじちゃんは始め虚ろな意識の中でした。
でも肩を擦り呼び掛け手を握ると、あの日も待ってくれていたね。ふうっと顔色が鮮やかに戻り、声は出せなても穏やかな呼吸で私と夫に優しく語りかけてくれているようでした。
おじいちゃん・おばあちゃん夫婦は私たち両親のはねおやで、
私たち姉妹の誕生を心から喜び祝福しその後の成長も楽しみ、 血の繋がった孫のように大切に可愛がってくれました。
お家にお邪魔する私たちを喜ばせようと、おばあちゃんは美容室お客さんの時間を調整して、たくさん美味しい料理を準備し、おじいちゃんはお酒が好きだった父のために様々な種類のお酒や珍しいおつまみを用意し、雄二お兄ちゃんとみち子お姉ちゃんたちと家族一緒にいつも温かくもてなしてくれました。
その中のおもてなしで忘れられない味があります。
それはお蕎麦です。
おじいちゃんは店のように細くのど越しの良い蕎麦を打ち、
おばあちゃんはいりこの出汁が効いた優しいおつゆを作ってくれました。仲の良かった二人だからこそ織り成せる最高に美味しいハーモニーでした。
そして大切なおばあちゃんを亡くし寂しい日々の中でも、
長年培ったノウハウで農業を続け家計を支えてきましたね。
農作業で腰を曲げられてしまったり、病気で手が不自由になってしまっても、お姉ちゃんの手を借りながら日焼けし額に汗を流しながら真面目一筋。様々な作物を造っていました。
その中でもおじいちゃんの作るネギは太く甘くみずみずしく真っ直ぐなネギでした。
出荷するには泥のついた状態からスーパーに並ぶ状態にするまでの工程を要し、とても手間の掛かる作物です。
薄暗くなってからも腰を曲げ、使いにくくなってしまった手を器用に使い、収穫したネギ1本1本に心を込め薄皮や根っこを丁寧に取り除いてきれいに箱詰めするおじいちゃん。
その懸命に働く姿は息子の心にも刻まれ、その場面を思い出すと胸に熱いものが込み上げてきます。
「視線の先には」
私には好きな人がいる
いつも私にも優しくしてくれる、笑顔を見せてくれる
楽しそうにこの間あった事、友達との話をする
私はあの人のそんな所が好き
でも、あの人はそんな私の気持ちも知らずにいつも他の子を見てる
いつもあの人の”視線の先には”明るくて可愛い、私とは正反対のあの子がいるの
『視線の先には』
俺には幼馴染がいる。同じ進路にしようだとか、そういうのを口にしたことはないのに、同じ高校を受験していた。
「同じ学校だねー」
そう言って笑いかけてくれる、あずさ。
いつもと変わらないやり取りにホッとするのと、肩が重たくなってきて見てみたら中学から一緒のクラスメイトが、あずさを見てる。
「オレも同じなんだよねー! あずさちゃん制服似合いすぎ」
「え、ほんと? うれしいなぁ」
そういやあずさって、異性に対して明らかな反応がないんだよね。好きなタイプ、ないはずは無いよね。女子でもそういう会話、あるだろうし?
時間ぴったりにHRが始まっていたのに、今日はなぜか遅い。
担任が休みなら事前に言うとか、他の先生来るとか何かないのかな。
教室内がダラっとなりかけた時、ドアが開く。
「遅れてごめんな。以前から先生同士での話は進んでいたんだけど、今日は転校生が来てるんだ」
教室内が一瞬ざわっとした。リアクションをしていたのは主に女子。転校生のやつ、かっこいいもんな。
「みんなに一言、どうかな」
そう担任が言ってみても、転校生は黙ってる。前列に座っていた女子が、なんか、「挨拶がんばって」好きオーラ全開で言っていた。
転校生は口を開いたけど、また閉じる。口を覆う形で右手が動く。息するのにそんな肩動く? これ……ヤバいんじゃ。
「一回廊下に出ようか。言ったこと、一生懸命考えてくれたんだな。ありがとう」
大丈夫かあいつ。
「転校生、だいじょうぶかな?」
「めちゃくちゃ緊張してたな」
コソコソ話するように、あずさは言ってきた。体調不良を気遣わないのは最低よな。本当は見てほしくない。
あずさに返事をして見えた、空席。
「ここ空いてるんだよね。座るのかな」
そう言った表情は、期待してるようで、次は優しい目をした。
転校初日はそのまま帰ったという。でも次の日からは毎日学校に来た。
席はあずさの隣だ。俺からも様子は見えた。
ずっと緊張してるのか、内気な性格か。用事以外はクラスメイトと話してるのを見ない。クラスのやつも初日の印象から抵抗があるように思えた。
「あっ、わたしも同じプリント持ってるよー。職員室行くし、預かろうか?」
「行かなきゃ覚えないし、いい」
気遣ってくれてるんだから、お礼くらい言えよ。
「だったら一緒に行こうよ。本音を言うと、わたし職員室苦手なんだ。この学校、男の先生の割合多くてさ」
口元に手を持っていき、コソコソ話をする仕草。この時あずさは相手の耳まで近づいては無い。
だからコソコソ話の意味は無いって思ってた。けど転校生とのやり取りで、聞こえにくいからこそ、相手があずさに近づかないといけなくて。
今までなんとなく見てた光景だったのに、いろいろ分かってきたら嫌になる。
職員室にプリントを持っていっただけ。どうしても気になって、あずさに嘘をついた。
「教科書忘れたかも。悪い、見せて」
「珍しいねー。机もつける?」
「だな、教科書安定するし」
ぶつかる転校生の視線。なんでこんなにイラついてるんだ俺は。
初日の印象から、ガンガン話しかけに行くやつはいない。用事があるようなら聞くし、話もする。それは男だけで女子は違った。
弱そうなやつの、何がいいんだよ。
「うそー、消しゴムない」
自分の筆箱で見つけるより早く、あいつの声がきた。
「使って。持って帰っても大丈夫だから」
「ありがとう。でも借りとくだけにする」
視線の先には……。
視線の先にはいつも貴方が居た、
幼い時、私を見つけくれて
手を引いてくれた貴方、
大きくなっても、そばに居てくれて、
ころころと笑う赤子のように、
全てを愛していた貴方の、その全てを、
私のものに出来たらと、そう
願ってしまった。
視線の先に私はいなかった。
貴方は別の人を見ていた。
ただ、それだけ
2人を祝福する鐘がなり、花びらが舞い、
笑いが溢れ、祝福の言葉で包まれる。
貴方の幸せを、貴方が愛したその全てが祝福する、
なんて、素敵な事だろう。
いつもは着ない、薄いワンピースのピンク色が、
貴方を包む光と重なって、目を刺激する。
服の裾を握りしめ、
今はただ、貴方に見つからないようにと
切に願う、
そっと、昔の思い出が瞳の裏側に蘇った。
幼い記憶、楽しく笑う子供の声、それとは反対に
薄暗い遊具の内側で、何かから逃げるように隠れる私。
まるで今のようだ、今までが幸せ過ぎたのだ
ただ元に戻っただけ、ただそれだけ、
咀嚼するように同じ事を繰り返す、
これ以上辛くならないように
繰り返し繰り返し。
影が私を覆う、雲で無い、
顔を上げると、視線の先には貴方が居た、
純白のドレスが貴方にとてもよく似合っている。
眩しい。
貴方が何か喋ろうと、口を開く、何か、
とても大切なものに向けるようなその瞳と、
唇の薄ピンクが、とても綺麗だと思った。
「..........ありがとう。
ずっと、側に居てくれて」
えっ
貴方の言葉を理解する前に
貴方が私の手を引いた。
昔のようだと、また記憶が蘇って、
貴方の後ろ姿を見て、でもやはり昔とは違って
瞳から、幸せが溢れる。
ああ、私は何て馬鹿なんだ、
貴方が居てくれれば、それでよかったのに、
貴方が手を引いてくれる今がとても幸せで、
1秒1秒が鮮やかに、
噛み締めるように緩やかに流れていく。
貴方が笑っている、
これだけで全てが幸せだと思った。
視線の先にはいつも貴方が居た。
でも、これからは別々の道を歩むのだろう。
だけど不思議と不安は無い。
貴方が手を振りかざし、
花束が舞い、貴方が笑う。
これかも貴方の視線の先に
溢れんばかりの幸福がありますように。
自分の手で掴み取ったブーケを見て、私は切に願った。
『視線の先に』
視線の先には、時をながれていく、、
毎日の新聞よみ、何のため?日課の掃除、何のため?お仕事をするのも、なんのため?、、、、
きっと理由がある。
時を流れていくのも、、、
視線の先には
高校の入学式。
女子全員が誰かを見つめていた。
私は何があるの?と疑問を抱きみんなが見つめる
視線の先を私も見てみる。
すると、私の幼馴染である先輩だった。
やっぱりモテるんですね……、と嫉妬した日になっ
た。
[狙う視線はキミだけに]
くだらない授業を受けてる。つまらない毎日。
薄い雲が流れる。空は透明だ。でも、君がいるから今年は授業をさぼれない。時々、寝てないか確認してくる君に手をひらりと振ると呆れたように首をふってまた前を向く。
ボーッとしてたからか先生と視線が合うと
「じゃあ鈴木ー、この問題を黒板に書けー」
ダルいな。と思いながらチョークを手にとって式と答えをサラサラと書いて「これで、いーですか?」
驚く先生にチョークを返して席に戻る。
この問題は解いたこともなく、習ってもいない内容だ。授業で不真面目だからって小馬鹿にしようとしたのバレてるっつーの。
「おぉ、鈴木。凄いな、正解だ」「どーも」
彼が解けるなんて。私が驚いて振り返ったときに
彼は悪戯が成功したときのような顔をした。
「っ!」その顔にドキッとしたなんて言えないから
彼がいつもするようにひらりと手を振ってみた。
窓際の席に座る僕の好きな人は、よく窓の外を見つめている。
どんな顔をしているのか、何をそんなに熱心に見ているのか、此方からは分からない。
彼女の視線の先には、一体何があるのだろう。
体育の授業をしている人たち?
校庭に忍び込んだ動物?
もっと遠くの建物とか?
それとも、僕と同じく好きな人を見つけて眺めているのかな。
何にせよ、その対象はきっと彼女にとって大切なものなのだろう。
だって、視線を前に戻した彼女の横顔は、いつもすごく楽しそうだから。
お題『視線の先には』
視線の先 二次創作
部屋に入って目に入ったのは開けっ放しの窓と風に揺れるカーテン。今までだったらあいつがやってきたんだと思ったものだ。でもあの一件で僕を庇って大怪我を負ったあげく、崩壊する遺跡から落ちていったのではなかったか。ローザさんが換気のために開けたとしても、締め忘れは彼女に限ってない。
ただ窓が開いているだけであいつがやってきたと思うのは軽率だろうが、そう思うほどの積み重ねがあった。
もし、彼が生きていたら。彼は故郷をめちゃくちゃにした張本人で、頼れる仲間で、命の恩人で、何を思えばいいか分からなかった。
隣に立つ先生は何を考えているのか。僕なんかより遥かに複雑な気持ちだろうことは想像に難くなかった。
先生は静かに窓を閉めて、机の上にある手紙に目をつける。先生の視線の先には誰がいるのだろうか。憎き科学者か、頼もしい博士か、兄か。dearもない手紙を広げているとき、僕は紅茶を淹れることしかできなかった。