『街の明かり』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
月がそら高くから見下ろしていても
街のネオンは消えることなく怪しく光る
昼とは違う顔を見せる夜の街は
欲望と愛憎渦巻く魔境となる
騙し騙され繰り返される危険なゲーム
堕ちることなくお楽しみあれ
「街の明かり」
街の明かり
昔、光るものといったら星だけだった
人口の光は星の輝きを消してしまった
しかし、街明かりに安心するのだ
退勤の電車から見える街の明かり
あの中のどこかで
同じお題に頭をひねっている人がいたら
ちょっと楽しくてちょっと面白い
青灰色の薄暮に大通りの街灯がオレンジ色の明かりを滲ませる。
仕事帰りの男女のグループはリニューアルしたばかりの洒落た居酒屋に流れ込む。
ラタンライトで金色に輝くビールの泡に一日の達成感と疲労感が交じり合い、それは円やかに弾ける。
街の至る所の、ほんのりした明かりが人々の疲れた体を包み込んでくれる。
「街の明かり」
「街の明かり」が今日の作文テーマだ。大学生の頃に、部活のメンバーでちょっとした山の上から街の夜景を見下ろしたことがある。街の明かりは宝石のようにキラキラと輝き、とても綺麗だった。その明かりのひとつひとつは、どこかの家庭の窓の光だったり、オフィスビルの蛍光灯の光だったり、店舗の看板を照らす光だったりしたはずだ。「この夜景の光が、人間が作ったものだと考えると、汚く思えるか、むしろさらに美しく思えるか、で性格が分かれそうですね」というようなことを、そのとき自分は言った気がする。それに対して部活の仲間達がなんと答えたかは覚えていない。たぶん、軽く流されたんだと思う。その頃も今も、自分は「汚く思える側」だけど、「美しく思える側」になりたいなぁと思っている。人間の営みを愛せるような人間に、いつか、なりたい。
にじみ出る四角に切り取られた光匂いのしない営みの熱
街の明かり
【街の明かり】
--灯りが集まっていつからかそれは街のようになったけど
それはどこか外の世界のようだった
その灯りはきみの良さを知って救われた人の数
それが増えるのならそれでもいいと思った
でもいつからか外の世界から持ち込まれた金銭が
あちこちで飛び交うようになった
何事にもお金が必要になり
お金を支払っていない行為は貶されるようになっていった
初めの何もない空き地の中心で流れる音楽を
輝く星を見上げたあの時が遠い昔にされていく
街明かりが増えるほどに
あの星が見えなくなっていくよう
あの時の衝動をあの時の感覚を
忘れたくない人からこの場所を離れていく
そんな1番大事にしたかった人たちが離れた後も
煌々と輝く街にまで発展したこの空き地で
僕は上手に息が出来なくなった
2024-07-08
街の灯り、幸せな人達の笑い声
この輪の中に私はいない。私は貧しいから、屑だから。
皆が履いてる靴を私は履けない。皆が沢山持っている服は私には1着しかない。
「、、、、マッチ、いりませんか」
消え入りそうな声でこう呟いた。
誰も振り向かない。当然だ。
、、、もう、疲れた。消えてしまおう。
そう思った、、、思ってたのに
、、、、また、逝けなかった。
「はぁ、、、いつになったら楽になれるのかな」
お題『街の灯り』
『街の明かり』
私の居場所はいつも暗がりの中にある
暗がりだからといって 嫌いではなくて
むしろ好きだ
落ち着くし 安心できるし
私を攻撃するのは記憶だけになって
現在進行形の痛みは消えるから
望んでそこに在る
家だって
存在だって
価値だって
暗がりに溶け込んで誰にも見えなければいい
半端が一番虚しいから
けれども
ふとした瞬間 気持ちが振り返る時
あまりにも他がきらめいていて
心に孤独が食い込む
穴が空いた様に 透明の丸が出来て
そこから 羨望の眼差しで世界を見つめてしまう
そういう時 真反対の感情が産まれる
昔 田舎に住んでいだ時
街の明かりの鮮やかさを
淡い青と濃紺の狭間に立ちながら
向こうは夜になった様なのに暖かそうだなぁ
なんて思って見ていた
明るい癖にどんよりした気配を纏う山
暗い癖に明るい街
対比のせいか
世界が切断された様だと感じたことを
いまだにに憶えているけれど
あの時の景色の中の 過去の私も
この感情2つが引っ張りあっていた
切断されていた
誰もが私を宇宙人の様に思っていただろう事
私にとっても 私は宇宙人だった事
誰も彼も 私すらも
私を街へ 連れて行けはしない事
寂しい 悲しい 抜けない針
抱きしめたら溶け込むだろうか
七夕綺想曲
電燈に煌々と照らされた商店街には誰もいなかった。残業終わりのサラリーマンが帰ってくる時間だから当然ではあるが。
街中に散りばめられた笹が、様々な色で着飾っていた。一体何事かと思えば、どうやら今日は七夕だったらしい。
赤、青、黄色、ピンク……数え切れないほどの色の短冊が、笹をグニャリと曲げている。中には折り紙の飾りなんて洒落たものを付けた笹もあり、どれほど多くの人がこの行事を楽しんだのかがみてとれた。
ふと立ち止まり、水色の短冊を手に取る。拙い字で
「織姫と彦星がずっと一緒にいられますように。」
と、そう書かれていた。
そういえば、自分が子供の頃にもこんなことを願っていた子がいたなと思い出す。今考えれば、彼らの自業自得にも近い教訓のような物語にも思えるソレだが、幼子たちには悲しい結末として残るようだ。
確かに自業自得だが、半永久的に続く彼らの時の中で、会えるのが一年に一回というのは少し可哀想だとも思う。伝承に口を出すのは野暮かもしれないが、何百年と語り継がれる中で、彼らはまだ許されていないのだ。
人生における大部分を占めていた仕事を忘れてしまうくらい、鮮やかで燃え上がるような恋。やっと手に入れた幸せを、自分の星を、彼らはこの日しか見ることが許されない。それが酷く寂しく思えた。
少し出遅れたが、赤い短冊に願い事を書いた。
「織姫と彦星が、少しでも長く隣にいられますように。」
影響を受けすぎかとは思うが、給料upとか書くよりは風情があるだろう。
大人という身長を生かし、何よりも上に吊るしあげる。どうか彼らを隔てた神がその罪をお許しになるようにと祈って。そして気がつく。ベガとアルタイルが、織姫と彦星がこの満点の星空から消えている。忽然と、まるで初めからいなかったかのように。
愛しい彼と固く手を繋ぎ、橋から飛び降りた。後悔は無い。例え死んでも、私達が離れることは無いのだから。
私には機織りしか無かった。それだけで十分だった。それなのに、お父様が彼と、あの輝かしい星と出会わせてしまったから。私の目は焼かれてしまった。
きっとこれはお父様の3つの過ちの1つで、私たちの重い罪。私たちはこの世界で、長い1年のたった1日しか出会えない。
それなら永遠にしてしまいましょう。私たちを隔てるこの川の、奥底へ沈んでしまいましょう。水が冷たいけれど、流れる星が痛いけれど、私たちなら大丈夫。ずっと隣にいるのですから。
水にも慣れて、目を開けた。私に見えるのは彼だけで、あとはずっと続く暗い闇。それが少し、悲しかった。
手を繋いで、離さず、数えられない程の時間が経った頃、ふと、赤い何かが目に入った。それはこの闇じゃないと気がつけないほど、小さく微かな光。愛おしくて、暖かい。それが消えないうちに、手を伸ばした。
落ちている。激しい風が私たちを逆撫でる。その風に逆らうように、もう一度目を開けた。飛び込んでくるのは煌々と輝く世界だった。見たこともないほど高い建物と、灯り続ける光。全く知らない鮮やかな世界。
その光の中でも強い赤い光は次第に近くなっていく。そしてそれが、笹に括られた短冊から発していると気がついた時、地面は目の前だった。
ガラガラと瓦礫の崩れる音がする。ベガとアルタイルが消えると同時に落ちてきた何かは商店街の天井を破壊し、すぐ近くの広場に不時着した。
その瞬間は死を覚悟したが、意外にも被害は少なかったようで、広場が半壊したら程度で済んだようである。
広場には人がいた。見知らぬ男女が2人、手を固く結びあって気絶しているようだ。その2人を見た瞬間、確信した。
「織姫と彦星が落ちてきた。」
26100光年先の願いに誘われ、心中に失敗した恋人たちの話。
街の明かり
きらびやかな夜の街を歩く。日中の陽射しよりもジリジリと焦げる身体のどこかを庇いながら。足元に落ちた自分の小さな影。それだけを頼りに、ふらりふらりと駅を目指す。
外からは誘蛾灯のように明るく見えた駅は、中に入るといつも仄暗い。電車の中はそれよりもっと明るいはずなのに、より暗く感じるのはなぜだろう。
幽霊のように映る吊り革を掴んだ像の向こう側に、歩いてきた街が見えた。車窓を流れゆく街の明かり。あの目眩く光の雨は、思いの外まばらだった。まるで万華鏡の中に入っていた安いビーズのようだった。
2024/07/08
何年経っても失ったものの大きさは変わらないものですね
眼鏡を外すと
世界がぼやける
輪郭が曖昧なまま
流れる景色を追いかける
蝋燭のように揺らぐ
明かりがもどかしくも暖かい
【街の明かり】
【街の明かり】
学生の4年間、京都に暮らしていた。
京都の街は、建築の規制もあってかどこも低層で茶色くて、等しく賑やかですこし浮かれた学生たちと観光客で溢れていた。
その感情とパワーの激しさについていけなくて逃げ込んだ先はお洒落な大人のあつまるカフェだったり、地下鉄の階段に入り口のある深夜のクラブだったり、なんにせよアンダーグラウンドなサブカルチャーの宝庫で、居心地はよかったけれど、そんな所にはまだふさわしくない自分の未熟さを思い知ったりした。
6階にあるマンションの窓から見る東山にはあかりがぽつぽつ灯るのが見えるだけで、さらに、当時辛い恋をしていた私には、京都は入り込まないと暮らしていけないとても重い街だった。
京都を愛する人たちには申し訳ないのだけど。
姉の暮らす街にたまたま遊びに行き、その街の空の広さ、明るさ、光の多さには驚いた。
ワインの空瓶が奔放に転がっているマンションのベランダでタバコを吸いながら眺めた並んだ高層ビルの航空障害灯、赤い光が一定のリズムで点滅するのを見つめながら、心が静かに落ち着いていくのがわかった。深呼吸をした。
海沿いにあるその街は、道路が広くて街路樹が多い。高いビルの間の欅の下にはカフェが広がり、自由でおおらかなビジネスマンが笑いながら横断歩道を横切っていった。
この街に暮らしたい、と思った。
六甲山から街の明かりを見下ろしたり、夜の照明が美しいビルを見上げたりする時、いつもその時の気持ちを思い出す。
私は今、光のたくさん溢れるこの街で暮らしている。
《街の明かり》
夏の日差しが降りて夕焼け空が冷めるころ
夜空の星達が顔を出す
その空を追うように街の明かりも灯りだす
こんばんは 暗くなってきたね
お疲れ様 今日はありがとう
さようなら また明日会おうね
心通わす声は天の河の微かな星のように
寄り集まって光の帯になる
夜の帳が降りて空が闇に染まるころ
街に明かりが溢れ出す
それは月無し夜の天の河が降りたよう
どうだった? 頑張ったよ
お腹空いた? ご飯は何?
そうなんだ 本当に楽しかったよ
想い通わす声は空を縫い流れる星のように
願いを込めた光の束になる
さあ帰ろう 手を繋いで
他愛のない話をしながら
今日も二人で星を輝かせよう
車が流れていく音がする。
エンジン音は絶え間なく続き、みんな忙しそうに国道を走り回っていることが、音だけでわかる。
歩道橋は暗い。
上と下に広がる街の明かりが眩しい。
ブルーライトが目に痛い。
日はとっぷりと暮れている。
まだ夏の初めだというのに、濃い夜の帳が下りている。
いつもこんな感じだ。
他の人よりちょっと長い、人生のモラトリアムを卒業してからというもの、帰路につく時間はもっぱら暗闇に包まれた夜になってしまった。
ぼんやりと考え込むことだけが趣味で、なるがままに流されてきた僕の今までを考えれば、今のこの生活は当たり前の帰結で、逃れようのない自業自得なのだが。
ふと足を止める。
くたびれた革靴と、ぞんざいに折られたジャケットの袖からほつれだした糸が目に入る。
そういえば僕は小さい頃、高いところから下の景色を覗き込むのが好きだった。
高いところから低いところを見下ろすと、下のアスファルトの地面が遠いような近いような、目の眩む感じがして、不思議で引き込まるようにいつも自然と覗いてしまう。
特に柵の向こうに見える下の景色は、近いようでずっと遠くて、でもすぐ手の届くところにありそうで…。
毎回下を覗き込むたびに、エレベーターやエスカレーターで降りるよりずっと、落下した方が早いのではないか、とぼんやり考えた。
そんなことを思い出して、僕は歩道橋の下を覗き込んだ。
歩道橋のど真ん中は、ちょうど車道のど真ん中。
大小様々なヘッドライトが、街の明かりを舐めながら、轟音を立てて通り過ぎていく。
歩道橋など見えていないかのように、みんなが街の明かりを照り返すアスファルトの上を通り過ぎる。
真っ暗な歩道橋は街の明かりにすっぽりと包まれた別世界だった。
昼とは遠近感がまるで違う。
街の明かりに照らされた下の光景は、小さい頃、大人の横で眺めていた時よりずっと、幻想的で、不思議で、近かった。
僕はゆっくりと身を乗り出した。
スマホが、からんっと滑り落ちた。
あの街の明かりの中に行きたいと思った。
僕はさらに身体を乗り出した。
ふわっと僅かに体が浮いて、それから重力が僕の背を一思いに押した。
僕の脳は、空を切りながらのんびりと思い出した。
遠い遠い、僕がまだ子どもだった時、下を覗き込む僕の手を無理やり引いて、歩くひっつめ髪の母を。
身を乗り出そうとする僕に声をかけ、こちらに引き戻すことを頑張っていた幼い姉を。
母も姉ももういない。
だからかな?
この後に及んでも、僕の脳はやはりぼんやりとそんなことを思った。
鈍い脳とは反対に、僕の体は、街の明かりを鋭く縦に切り裂いた。
頭に響く鈍い衝撃で閉じた瞼の裏には、街の明かりが逆さまに焼き付いていた。
幻想的に。遠くに。近くに。
やけに現実くさい喧騒が、遠くから聞こえていた。
【街の灯り】
オラの町も
最近は少し明るくなった気がする
部分的ではあるし
昔賑わってた所は逆に暗くなったけれど
何より
いつの頃からか
町のシンボルがライトアップされるようになった
子供の頃から当たり前に見て来たから
風景の一部になってたけど
暗闇に
光を纏ってそびえ立つシンボルを眺めると
なんだかワクワクしてくる
同じ物でも
見方・見せ方で
随分と印象が変わる
子供の頃には気付けなかった魅力を
誰かが浮き彫りにしてくれたのだ
世の中には
オラだけでは気付けない事に気付かせてくれる
すごい人達が沢山居る
気付けない事の多いオラは
せめて気付ける人達の出すヒントを
素直に聞けるオラでありたいと思うズラ
夜のもたつく暑さに風を生み、ビュッと飛び回る鳥たちが、ふとクチバシを地面へむけたとき、生き汚い生物の文明を見るのだ。
おれは、その文明の光に照らされて、ただ黒がむさ苦しいだけの夜空を見上げてる。
そこら中の居酒屋回って名前も知らない出来上がった親父と肩組んだり、愚痴聞いたり、ジョーダン言い合ったりしてるうちに、もうこんな時間だ。
「ハア」
意味無い考え事なんてしてる間に、歩いておけば、今頃ベッドでぐっすりだったかもしれない。
いや、ベッドじゃなくて、マットレス。
……わざわざ言い直したからには、細かく言わなきゃならないかな、ホコリっぽくて、顔を横に転がすだけでヒドイ音が鳴る、古くて薄いマットレスだ。
「細かいトコ、気にしすぎだな」
歩き出してみると、すぐ歩いてるのが普通になった。
さっきまで止まってた自分の感覚が乖離していって、どっかに無くす。
なにを考えてるんだか。相手に目という器官、もしくは目に似たなにかがないと、人間は相手を不気味に思う、と聞いたことがある。
それはあながち間違いじゃないんだな、と思った。
道に浮かぶシャボン玉から、でたり入ったりしてるとめにはいる、外甲で覆われた街灯のランプ部分。
そいつを街灯のてっぺんとして、シャボン玉をつまさきとする。
歩いてるうちどんどんデカく成長していく街灯を、上から下へ2、3度見ると、なんだかそいつは白いドレスを着た貴婦人のように見えてきた。
外甲が、頭を下げているようにも見え、逆に前をしっかりと見据えているようにも見える。
彼女の白いドレスに踏み込むが、彼女はなにも言わず、おれもなにも言わずに無遠慮に、貴婦人のドレスの中を歩んだ。
また前を見ると、貴婦人たちはこぞって白いドレスを着用して、道に並列している。
こぞって誰かをただ待つように、どこかを見据えるか足元を見ているかしている。
それをおれなんていう、真夜中をほっつき歩くようなバカ者が無遠慮に、彼女らの純なドレスへ侵入していく……
なんだよ、いやに想像力ばっかり働くな。
ポケットに手を突っ込む。彼女らから見れば、いまのは「田舎と酒くさい男が、つっけんどんにポケットへ手を落とした」なんてカンジに、格好悪いだろうけど、おれはとにかく家に帰って、シャワー浴びて、一刻も早く、寝たい。
だが彼女たちはたしかにいるような気がして、胸騒ぎがする。
街灯を女に見立てて、その本来恩恵であるハズの明かりを、ドレスなんかに見立てて、何を言ってるんだってかんじだ、だが、やはり彼女たちはたしかにいるんだな。
「……うーん」
苦し紛れに唸ってみても、反応なし。
彼女らはおれとの、我慢比べみたいなもんに勝ったってのに、喜びすらせず、誰かを待ち続けている。
すと前を向くと、ドレスがあと1着しか見えないことに気がついた。
次で終わりなんだ。
おれは、くやしいが、頭をボリボリかいて、またもう一度唸って、手を組んで、格好ばっかり偉そうにしながら、……くやしいが。
ドレスとドレスの間にある、暗がりの中をカニのように横歩きし、一番最後のドレスをぐるっと避けて、ドレスの列から抜け出した。
なぜか、息をあらげたくなるような疲れの中で、ドレス列を振り返って、ゆっくり膝に手を当てる。
腰をおり、欲のとおりゼーハーとした。無様だ。
……この体制でいると、内ポケットに入ったスマホが落ちないか心配になる。
だけども、心配して結局落ちたことはなかったから確認するのも骨折り損というわけ。
ブブッ!とバイブ音がした。
「だ!」
内ポケットが震えているので、そいつがすぐスマホの音だとはわかったが、おれの震えた声は、驚愕と畏怖によるものだとはわかりたくない。
とにかく、バイブは着信用の通知音だ。
さっさと取り出し、確認すると『]:)』と表示されてる。いや、させてるの間違い……?
どっちでもどうってことない、とりあえず電話に出た。
なんとなく、ドレス列へは背中を向ける。
「もしもし……こんな時間にどうしたの?」
『え?あれ?電話かけちゃった??
もしもしぃ〜???』
「……酔ってる?」
『質問で質問に答えるんじゃないわよ』
「いまの質問だったか?」
酔った彼女は死ぬほど厄介だ。
どんな心おおらかな人物でも、彼女と飲めば最終的に彼女をガレージにぶち込んで、あさまでそこに閉じ込めておくくらいには。
しかし、今おれは彼女に対面しているわけではないし、もっとも酒さえなければものすごく良い女性だ。
つまり、なんの問題もない……モーマンタイ。
「間違い電話みたいだし、切ってもいいか?」
『おっけーほっけーまるもうけー』
耳元からスマホを下ろす。スピーカーにはしてないんだけど、彼女のムチャクチャな笑い声が響く。
親指で赤ボタンが覆い隠され『あ、まって!』今に押そうとしたところで止められた。
「ほい、なに?」
『……いまからお店これる?』
「えっ」
そのまんまだ。
行く気もないし行ける気もしないし行きたいとも思わない。
『──店にいるから、きてね』
「あ、……いや〜……うーん」
『なあに?』
「いや、……わかった、行くよ」
『やった〜っ!10分できてね!』
電話はあっさり切れた。
彼女に敵意はなかったのに、なんだって断れなかったのか、見栄か、なにかかな。
「ハア」
おれは抜けて出てきたドレス列から外れて、暗がりの方を歩いた。
それでも白いドレスはうっすらとおれの歩く道を照らしてくれていて、それが、おまえは結局離れられないんだって囁かれてるような気にさせてきて、気分が悪い。
「……お」
ふと、ドレス列の方を向くと、鳥が一羽、黒い羽毛を流動させながらビュッと、貴婦人のドレスを抜けていった。
顔で追うと、鳥は最後のドレスから抜けると、暗闇の海に溶けて消える。
やっぱり、なんていうか、鳥とか豚とか牛とかは、人間を凌駕した賢さをもってるのに違いないんだろうな、と、思った。
街の明かりが近づいてくると
ほっとする…
今夜のご飯は何かな?
なんて考えながら早歩き
✴️82✴️街の明かり
照らさなくていいよ
必要最低限を灯してくれたら、それで十分
#街の明かり