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【街の明かり】


学生の4年間、京都に暮らしていた。
京都の街は、建築の規制もあってかどこも低層で茶色くて、等しく賑やかですこし浮かれた学生たちと観光客で溢れていた。
その感情とパワーの激しさについていけなくて逃げ込んだ先はお洒落な大人のあつまるカフェだったり、地下鉄の階段に入り口のある深夜のクラブだったり、なんにせよアンダーグラウンドなサブカルチャーの宝庫で、居心地はよかったけれど、そんな所にはまだふさわしくない自分の未熟さを思い知ったりした。
6階にあるマンションの窓から見る東山にはあかりがぽつぽつ灯るのが見えるだけで、さらに、当時辛い恋をしていた私には、京都は入り込まないと暮らしていけないとても重い街だった。
京都を愛する人たちには申し訳ないのだけど。

姉の暮らす街にたまたま遊びに行き、その街の空の広さ、明るさ、光の多さには驚いた。
ワインの空瓶が奔放に転がっているマンションのベランダでタバコを吸いながら眺めた並んだ高層ビルの航空障害灯、赤い光が一定のリズムで点滅するのを見つめながら、心が静かに落ち着いていくのがわかった。深呼吸をした。
海沿いにあるその街は、道路が広くて街路樹が多い。高いビルの間の欅の下にはカフェが広がり、自由でおおらかなビジネスマンが笑いながら横断歩道を横切っていった。
この街に暮らしたい、と思った。

六甲山から街の明かりを見下ろしたり、夜の照明が美しいビルを見上げたりする時、いつもその時の気持ちを思い出す。
私は今、光のたくさん溢れるこの街で暮らしている。

7/8/2024, 1:03:36 PM