【キャンドル】
キャンドルをともす習慣がない。
そういう文化に育っていない。
素敵だなと思うことはある。
憧れて買ったこともある。
探せば家のどこかに
きっとある。
【冬になったら】
空気の冷たさをかんじながら洗濯物を干す
洋服にうでをとおして、くつしたを履くか考える
家じゅうのカーテンと窓をあける
ベッドのクッションとシーツをととのえる
部屋の中におちているものを所定の位置にもどしながら部屋の状態を見てまわる
朝食につかった食器を洗ってキッチンを整理
牛乳たっぷりのカフェオレをあたためる
会話をしながらそれをのむ
そのあいだに窓をしめたり、うさぎをかわいがったり
ベランダの落ち葉を集めたり、もらった大根の置き場所を変えたりする
調理方法を考えたりする
あれこれ思い出しては立ったり座ったり、
家族の予定を確認したり
あらゆることを全部する
一年をとおして、朝にすることは同じ
だけど冬だけは温かいお湯のにおいを思い出す
乾燥をさそうヒーターのにおいを思い出す
すこしだけなつかしい、すこしだけさびしい、
それからすごくやさしい、冬のにおい
【仔猫】
子猫や子犬や子うさぎや子リスや子豚や子山羊や仔象や子マントヒヒや子バイソンみたいな
無条件に愛らしくかわいいものを愛でるとき、私は黙る。集中してしまって、黙る。
【また会いましょう】
いつか、ふたたび、その機会が訪れたなら
もし、もういちど、その時がきたなら
私たち、会いましょう
私、あなたと会いたいです
私と会わなかったあいだのことを話してください
何を見て、何を思ったのか、おしえてください
そうして、私も語ります
あなたと会わなかったあいだのことを聞いてほしいです
あなたはあたたかいコーヒーを淹れてミルクを多めにしてください
私はあなたに、あたたかい黄金のお茶をいれますね
私はチョコレートの包みをもっていきますから
濃いね、でも甘いね、など言いながら頂きましょう
寒がりのあなたの膝に、きちんとブランケットをかけましょう
そんなことがとてもいいです
私たち、会いましょう
また、会いましょう
いつか必ず、私たち、会いましょう
【スリル】
高い木にのぼったり、
背よりも高い台から飛び降りたり、
ジャングルジムでおにごっこしたり、
二階の屋根にのぼったり、
ジェットコースターの高さにわくわくしたり
空に届きそうなビルの上の観覧車で地上を見下ろしたり
子どもの時から、ずっとそんな人間だった
3歳の息子にねだられて乗ったアンパンマンの観覧車
今もし滑車が止まったら
今もしこのドアが開いたら
今もしこのゴンドラが外れたら
想像すると足が震えて、
無邪気に外を眺める息子を膝から離せなかった
あんな怖い観覧車は初めてで、そんな自分に戸惑った
私はあの時、人生でいちばん怖がりだったのかもしれない
ふと思い描いた映像に、叫びたくなって
急いで頭を振る深夜
自分の想像力の豊かさを恨んだけど
そういえば最近はよく眠れる