【風のいたずら】
ずるい、少年みたいなひとだった
くやしくて、真意が知りたくて追いかければ、
どこまでもすばやく逃げてしまう
いしし,と笑いながら
本音をちらりと見せてまた誘う
それがあなただった
二度と会うことのないあなた
わたしをすきだっていったくせに
それも冗談だったの
あわよくば本音に聞こえるといいなとか?
逃げるなんてずるい
二度と会うことはないわ、あなた
【透明ななみだ】
毎日いろいろなことを考えるけれど
その部分をとても素敵だと言ってくれるのは
思慮深く、嘘がない、
とても好ましいと言ってくれるのは
あなたとあなただけです
【あなたのもとへ】
手紙を書く
なんでもない日常、
言葉にしないと消えていく毎日を
あなたに宛てて記していく
からすの楽しそうな鳴き声
雨の日に水びたしになる公園
あの子の可笑しい毎日
読んできっとほほ笑むひと
あなたの代わりをつくってしまわないように
細心の注意をはらう
とどけ、空のむこうへ
どうか、見ていますように
そしていまも私は
あなたの知っている私だろうか
【そっと】
眠っているうさぎの鼻にさわる
水面に触れる
子どもの布団をかけ直す
きみのまつ毛を見つめる
ドアをしめる
涙をぬぐう
繊細なところ、敏感なところ
驚かせないように
怖がらせないように
痛くないように
そっと、そっと
【まだ見ぬ景色】
人との出会いはそういうものだと、
最近やっとわかった
もっと大きくいえば、人生ってそういうものだと
誰も彼もそんなふうに語っていたし、
世間も歌っていたし、説いていたけど
やっぱ自分で経験しないことには
そんで経験したあとで言えることは
やっぱりそんなかんじになるんだなって
常套句って、すごいな
きっとその言葉から想像するほどいいものではないけど、警戒するほど悪くもないよ
きっとぶあつい壁を通るあいだにも、ちょっと
怖気づくほどの景色があるけど
それもおそらくまた初めて見る景色で
そこまで行っても、具体的ななにかを
まだ見ぬ景色の完成形として描くなら、
会いたい景色がはっきりとあるのなら、
それに出会うまで行こうか、どこまでも