【はるらんまん】
【誰よりも、ずっと】
私はベッドで眠る。腰が悪いので、立ち上がるのが楽な高さのベッドを選んだ。ヘッドボードは厚みが4センチほどあるので、きのこ型のライトを置いている。きのこの傘のてっぺんに触れるとオンオフ切り替え、明るさも段階変化する。最高に気に入っている。入眠にとてもいいし、何よりもまぁるいフォルムがすごくかわいい。
きのこの真下のマットレス部分には、読みかけの本が積んである。哲学書、20年前の固定資産関連書、物語、詩集、あとは…えーっと?ノンフィクション小説と、詩集(再)。半分にはジュンク堂の紙のカバーがかけてある。
その上に、アンパンマン号ともぐりんのぬいぐるみ。スーパースターのぬいぐるみ。子どもが生まれたての赤ん坊だった時に自作したあみぐるみもある。
そして、忘れてはならぬ、リーディンググラス。使う方が疑いようもなく楽ちんなので、使わないという選択肢はもうない。
それが、私の寝床。
【現実逃避】
生まれてから、ずっと帽子がとなりにあったのよ。
みんなにはないけど、私にはあった。うれしかった。
だからだいじにした。ちゃんと毎日かぶって出かけたし、お手入れもしたし、汚れないように気をつけて、帽子を主役におめかしするのも楽しかったわ。
帽子は、夏の強い日差しからも、冷たい雨からも、私を守ってくれた。笑い声ならたくさんあつめてくれたし、誰も私をからかわなかったわ。強い風でずれたりしても、きちんとかぶりなおしてととのえたら、私は足取りも軽くどこまででも行けた。帽子がなければ私と気づかない道ゆくひとも、帽子があればあいさつを返してくれる。
大学生になるとき、帽子を実家において一人暮らしを始めた。
おしゃれなカフェに入るのも、前はじつは帽子があると視線が気になってた。でも帽子を大好きだったから、カフェに入るのをやめるときもあった。苦じゃなかったのよ。
それで初めての帽子のない生活はというと、何も不自由なかった。案外身軽だったわ。帽子をぬいだ私に男の子たちはあれこれ話しかけてきたし、女の子たちは相変わらずつまらなさそうだったけど、それは帽子をかぶっていても同じだったのだから。何も変わらなかった。変化といえば大好きな帽子のお世話がなくなったことくらいかしら。
そのうち恋をして、結婚してからは新しい帽子を手に入れたわ。
時々実家に帰ったときは、それでも昔の帽子をかぶって出かける。もうずいぶん長い間、代わりにたくさんの帽子を手に入れてきたけど、やっぱりこの帽子は特別。
自分で手に入れた帽子たちは、お天気やおしゃれや行き先が変わるたびに取り替えるから、なかなか馴染まなくて苦戦してるの。いつも合う洋服があるとも限らないし、時々間違えたりしちゃってね。あいさつも返してもらえなかったり、にっこりしてもらえなかったりして、落ち込んだりするわね。
その点、この帽子はやっぱり別格ね。
【お気に入り】
初めて言うけど
小学生のころ、自分が悪気なく発した無邪気な言葉であわよくばあの子が一人で勝手に傷ついてくれないかなーなんて底意地の悪い願望を持ってた
成長してからは、気づくか気づないかの微細な棘を散りばめておいて離れるという謎の意地悪をした
もうずっとその恥部をひきずりながら生きてる
口の端に透けて見える自尊心や言葉と裏腹な虚栄心が相手に見えてしまうと、とたんに拒否反応がでる
誰かが裏側を真剣に隠して、にやけた仮面をつけるのが滑稽に思える
そんなものは信頼できない
仮面を外させたい、裏側を暴こうとしてしまうのは、今でもそうかもしれない
汚れていても歪んでいても、そのままでいてほしい
【どうして】
幼いころ、かけっこがすごく速い子がいた
ずっと勝てなくて、そういうものだと思ってて
初めて勝ったとき、妙なさびしさがあったのをおぼえてる
そのあとからその子が私に向けてきた静かな怒りも
羨望の眼差しで前に押し出される疎外感
信頼という名前でひとり、先頭を行かされる不安
振り返ったらみんなが仲良くおしゃべりしている孤独感
「あなたは私たちとはちがうから」
「ちがうところ」に持ち上げられてしまうあのかんじ
誰かおしえて、
前に押し出す時ってどういう気持ちなの?
理解できないままかかえた不信感が今も時々ひょっこり顔を出す
押し出されるたびに、帰る場所を失う気がする
ここじゃない、私の帰る場所を探そうとする
前だけを見て、うしろは崖っぷちだ
ふりかえっちゃダメだ、
前だけを見て、そう、歩けるね
カモメが励ましてくれる