『行かないで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
俺は、彼女の部屋のドアを開けようと
ドアノブに手をかける。
スーツのシャツが掴まれ、立ち止まる。
「行かないで…」
と弱々しい声が後ろから聞こえたが、俺はその場を後にした。
彼女と会ったのは、それが最後だった。
行かないで。
あの時ほどそう強く思ったことはない。今でも、ずっと、ずっと気持ちは変わらない。
それでも引き止めることは出来なかったし、もっと出来ることがあったと後悔は変わらない。
その子は小さい足を精一杯動かしながらキャンキャンとよく吠えていた。
我が家に来た頃は、私の足に噛みつくから、小さいその子が怖かったのを今でも思い出す。
ふわふわで小さくて、どこを触っても温かくて、
頭からこぼれ落ちるのではないかと思うほど耳が大きくて、目がくりくりしていて光が射すと美しくキラキラしていた子犬は、
我が家に来た時名前が決まらず、頭に句読点模様があったこともあって「てんちゃん(仮)」と呼ばれていた。
しかしてんちゃんと呼んでも反応が無いので、定着してしまう前にと改名され、我が家のアイドル「りんこ」が誕生した。
りんちゃん、りんちゃんと呼ぶと顔を向けてニコニコしてくれる様子が、本当に可愛らしかった。
りんちゃんとの生活はあっという間に時間が流れていってしまった。
何度も失敗して、たくさんかわいそうななことをしてしまった。
もっと散歩に、もっと撫でてあげれば、もっと食べたいだけおやつをあげられていたら、お風呂も少なかったかもしれない。
何よりもっと写真や動画を撮っていたらと思う。
持病が悪化し徐々に具合が悪くなるりんちゃんの様子を見守るのは、生きた心地がしなかった。
仕事をしていても心配で何も手につかない。
行かないでほしかった、なにか出来たことがあったのではないか。
でも苦しむ姿もいたたまれなく、大好きだよとひたすら声を掛けた。
りんちゃんがいた時間に戻れるのならと想う時、たまに夢に姿を見せてくれる。
夢から目が醒めると、心の中が温かさで満たされている。
どこを触っても温かくてふわふわで、頭を撫でると撫でているのとは反対の手を、舐め回されていたことを思い出す。
人の気持ちがわかる聡明な子だったから、きっと不甲斐ない私を心配してくれているのだろう。
今でも行かないでと願ってしまってごめんね。
そっちでは元気に走り回っているのだろうか。いつかまた会えるように、もう少しこっちで頑張るね。
泣いている。
いとしきみが泣いている。
可哀想だとは思わない。
だって、きみを泣かせたのは私だから。
ほら、こうしている間にも、きみの黒真珠からあふれた涙で、やわく陶器のようにしろい頬は濡れそぼる。絹を裂くような叫びを紡ぎ、私の名を呼ぶ。
周りが引き留めるのもお構い無し、形振りかまわず必死に叫んで……そんなにも私に振り向いてほしいのかな。そんな姿もうつくしいね。
「やだ! 嫌だよ、待って! ねえ!」
だけど私は止まらないよ。
これは私が、私の意思で決めたことだ。いくらきみの嘆きを聞いたって、止まるわけにはいかない。
そんな決意がブレてしまわないように、私はそそくさとその場を後にする。
ねえ。さよならは言わないからさ、その代わり、もう二度と私に向かって「行かないで」なんて言わないで頂戴ね。
▶行かないで #30
【 行かないで 】
こんなにも愛しく、慈しんでいるのに、
出て行ってしまうなんて薄情じゃないか。
やはり、アナタに私の気持ちは伝わらないのだ。
大事に大事に、人目に触れないように守って。
でも、たまには陽の光を浴びたいだろうと、
外に出してあげて。
アナタを信じているからこその行為だったのに。
そのまま、振り返ることもなく、手を放れた。
追いかけようにも、追いつけるものでもなくて。
突然すぎるサヨナラは、一瞬だった。
今までありがとう、さようなら。
そして、新しい諭吉さん、いらっしゃいませ。
漠然と
ただ漠然としたこの感情は
誰に向けているのかさえわからない
ふと口についただけの言葉かもしれないのに
どうしようもなく纏わりつく感情は
いつしか染みついて
内側からじわじわと私を侵食する
行かないで
どうして
どこに
誰が
私が
漠然としたこの不安を
苦しんでいるのか楽しんでいるのか
わからないけれど
行くということは消えること
今からここから消えること
消えるは無限
消えるは不思議
行かないで、の呪縛
「行かないで」
『行かないで』
なんとドラマティックな
セリフだろう!
自分だけ
置いてきぼりにされる
淋しさを感じる
幸か不幸か
しばらく言われてないなー
まー
最近授業が楽なんだな
嫌いすぎてもはや時が早いんだな
むしろもう楽しくなってきてるんだ
集中している証拠だ
高一にして悟りをひらきすぎなんだな
完
行かないで
彼女に向けられた、優しさが他に移っていく、その時初めて
自分の気持ちに気がつく、行かないで、他の人の心に。
行かないで。ホラーやん。実況のホラゲーで子どもとか女性の声でよく聞くセリフな印象。実際にどんなゲームで言ってたとかは知らん。
今やゲームは実況で見るものって感じだ。金とか時間の問題もあるけど単純に自分でゲームするのがばかばかしくなったな。
なんというかうまくもないしうまくなってなにか意味があるわけでもないのにゲームをやってなんの意味があるのか。
それに実況者が金をもらってゲームするのにこっちは金を払ってゲームをする。これが一番ばからしい。それなら実況見ればいい。
まぁ自分でもこれがルサンチマン的な嫉妬だっていうのはわかる。ただ理屈じゃなくて感情だからどうしようもない。
ただゲームを楽しめばいいのにそれができない。Vチューバーがゲームをプレイしてる。そういう情報がツィッターやまとめで流れてくる度にばからしいと思ってしまう。
最近はそういう嫉妬もあって実況動画すらあまり見なくなった。子どもの頃は一生テレビ見てゲームをして遊ぶのだと思っていたな。
大人になって見れば時代が変わったせいもありテレビはまったく見なくなった。ゲームもやらなくなった。大人になると色々大変だからね。
しかし結局のところ問題は金だ。金があればゲームをやる時間もできるし実況動画を見る時間もできる。やはり金がすべてを解決するし諸悪の元凶は金だな。
「行かないで」
ここ最近、数人の人と永遠のおわかれをした。
行かないで、と思う暇もなく会えなくなってしまった。
あとから あとから
行かないでと願うけれど
その気持ちは宙ぶらりんのまま。
「いかないで」
いかないで。行かないで。逝かないで。
言葉にしたそれはあまりにも重くて、唇が戦慄いた。
当然、彼には彼の理由があって。
吐き出した言葉がどれだけ無責任かなんて分かりきっていた。そして、きっとどれだけ言葉を連ねたって、彼は行ってしまうことも。
それを裏付けるように、今だって。
困った様に笑いながら、
「ごめんな」
「…謝らないでよ、」
情けなく歪んだ顔で最後の抵抗とばかりに虚勢を張る私は、さぞ滑稽に映っているだろう。
くしゃりと柔らかく頭をかき混ぜられると、いよいよ鼻の奥がつんとしてきて、ああ、どうして今は雨じゃないんだ?
どうしたって止められないのなら、いっそ言ってしまおうか。
困らせたって、知るものか。どうせ行ってしまうのだし。
叶うなら私を彼の中で残してくれと、そう願わずにはいられなかった。
「ねえ」
「なに?」
そうは思っても、やっぱり少し怖くて。つめたいアスファルトを見つめたまま、息を吸い込む。
「多分、…好きだったんだと思う」
声が震えていることは、伝わってしまうだろうけど。
「だから、わがまま言った。ごめん」
言い訳のように言い添えてしまえば、ついに十数年拗らせてきた初恋は暴かれた。
何と言われるだろう。
嫌悪か、或いは失望がいいところだろうか。
それでもいい、ただきみの中に私が残るなら。
そうひたすらに待つけれど、人気のない場所、どちらも何も発しないから、しんという音まで聞こえてきそうだ。
そうして二人の間に静けさが落ち、腕時計の秒針が2回ほど円を描いた頃。
耐えきれず見上げた彼の瞳に、初めて後悔を見た気がした。
一人でいるのが寂しかった
私のそばで
ただ心の底の安心感を
共有してくれるのが
嬉しかった
久しぶりに
その感覚を思い出し、
そばにいない寂しさを感じた
と同時に
その感覚は
もう私のものではないことも
わかっていた
私はもう一人でいられる
そして
もう一人でもない
寄りかかった感情を手放したら
本来の私の有り様が
見えてきた
「……忙しそうだな」
薄闇の奥から掛けられた声に、ルーシャスの唇が我知らず微笑みを形作る。
静かで、低い、優しいロイの声。出会った頃から今まで、どんなに時が移り、様々な苦難に遮られても、ルーシャスに向けられたその色が変わることはなかった。
「……そうだね。こう見えて、結構忙しいんだ、俺」
ルーシャスは、心持ち小首を傾げて、悪戯っぽく闇に答える。
「まだ寝ないのか」
「もうちょっと。……これ、ある程度片付けないと、気持ち悪くて」
ルーシャスは、広い机に山積みになった書類の束を、持っていた羽ペンで示す。
客人の捧げているろうそくの火が、ためらうような短い吐息に揺れ、薄闇を音もなく不規則に撫でた。
「行かないで」
何でもない風を装って、祈りのように、懇願のように、ルーシャスは闇に囁いた。
「入れよ……ロイ。それで、待ってて」
「無論だ。……邪魔するぞ」
「うん。今場所あけるから、ここへ」
ルーシャスの胸の内に安堵の吐息が溢れる。軽く弾む気持ちを押し隠して、ルーシャスは、今にも目と頭から逃げていきそうな文字の群れを、何とか手元に引き留めた。
椅子を引き摺る不規則な音、紙ずれや、引き出しを開け閉てする小さな音に、扉の鍵を下ろす微かな音が紛れる。
揃えかけた書類にふと目を留め、何事か書き付けるルーシャスの背後に、石床を刻む足音と、小さな火影に照らされた長身の影が近づいた。
手を離されて
ドン底に落ちる前に
走り去るのが
常套手段
逃げなくちゃ
傷ついて
立ち上がれなくなる前に
逃げなくちゃ
傷ついて
血が止まらなくなる前に
行かないで
そんな事言えない
言わない
行かないで
離れた想いは
戻りはしない
それでも
行かないで
その一言が言えていたら
あの時
何かが変わっていたの
「行かないで」
恐ろしい悪夢を見た。何かの遠い記憶だろうか。
悪夢の中の僕は幼かった。目の前には切羽詰まった顔をした父と母がいた。
ここを絶対に離れるんじゃないぞ、あなたはここにいて。父と母はそう僕に言い聞かせていた。
行かないで! そう叫んだ僕の手をすり抜け父と母は僕から離れてどこかへ去っていった。
だが、いても立ってもいられない僕は父と母の言い付けを破ってでも父と母後をついて行った。
その時、母の悲鳴が聞こえた。恐る恐る襖越しから見ると、倒れている父と母がいた。動かない二人に僕は恐怖で足がすくんで動けなかった。奥に何かを持っている人物がいたが、そこで悪夢は途切れた。
行かないで╱10月24日 火曜日
貴方が小五の時、私を捨てて行ったこと
今でも覚えてる。
"大好き、一緒に帰ろう"
優しい言葉をかけてくれていた貴方が
いなくなるのは、あっという間だった。
そんな貴方と、また仲良くなってから2年。
不安もいっぱいだし、辛いこともあるけど、楽しい。
でもね、私が思ってたより、心の傷は深くて大きかったみたいなの。
私たち、まだ付き合ってないから、冷められてるか不安で、怖くて仕方ないの。
お願い、私と一緒にいて?
ずっと好きでいてほしいよ。
他の人のところなんて行かないで。
行かないで
仮眠室で寝ている貴方はよく「いかないで」と寝言を言う
涙を流しながら
誰のどんな夢を見ているのか聞いたこともないし
察せられるほど貴方の過去を知らない
けれどきっと、人生において大切な人で
そして失ってしまった幸せなのだと思う
その涙を私はこっそり拭いこう呟くのだ
「私が隣にいてあげるのに」
夢にまで見る相手の代わりにはなれないけれど
新しい幸せを2人で育むことは
今ここにいる私ならできるのに
貴方はいつも私を見ないで
遠いその人を見る
そっちに行かないで、ここに居て
10/24「行かないで」
手を伸ばしたまま、目が覚めた。
夢だ。追いかけて、追いかけて、倒れて、叫んで、手を伸ばした。行かないで、と。
元彼の夢なんて久しぶりだ。とっくに未練はないはずなのに、一体どうしちゃったんだろう。
寝覚めのコーヒーを淹れながらテレビをつける。
「先程入った事故のニュースです。今朝6時頃、〇〇県〇〇市の路上で車とバイクが正面衝突し、バイクに乗っていた男性が死亡しました」
―――ああ。
そういうこと、か。
一口飲んだコーヒーはひどく苦くて、もう飲む気になれずにテーブルに置いた。
(所要時間:7分)
『行かないで』
夢を見た――
そこは聖域だった。かつてのような、晴天の日でもどこか薄暗い雰囲気の漂うそれではなく、地上を守る戦女神の加護を受けた輝かしい場所としてだ。それはきっと、十三年間聖域を欺き続けた邪悪が討たれ、本物の女神が帰還されたからだろう。
その聖域で、オレの隣にカミュが立っていた。カミュはいつものように柔らかな微笑みを浮かべていた。そこには一切の翳りがなくオレは嬉しくなった。
『これからは、本当の女神のために戦おうな』
そう言ってカミュの肩に掛けようとした手は空振りに終わった。オレは怪訝な顔でカミュを見る。その笑顔は、寂しげなものに変わっていた。カミュは首を振る。
――そうだ、カミュは、死んだ。自らが育てた弟子の手で。カミュが持つその力と意思を弟子に託して。
カミュが歩き出す。その先には光が溢れていた。その時確信した。二度と、彼と会えなくなるということを。
オレはカミュを止めようとその後を追う。だが不思議なことにカミュとの距離は開くばかりだった。カミュは歩き、オレは走っているにもかかわらず。オレの手は彼に届かず、カミュは今まさに光の中に消えようとしていた。
『待て、行くな!』
オレの叫びにカミュは足を止めて振り向いた。その表情は既に寂しいものではなく、安らかな微笑みに満ちていた。憂いも心残りも、何一つ無いというように。
『氷河を、頼む――』
彼はそう言い残し、光の中に消えた。あとに残されたオレは、ただ立ち尽くすだけだった。
目が覚めたオレの脳裏には夢の出来事と、カミュの言葉がはっきりと残っていた。カミュは死んだ。だが、その遺志をオレは確かに受け取った。
自宮を出たオレは走り出し、ずっと下の白羊宮に向かった。そして、オレの突然の来訪に驚く白羊宮の主に告げた。
「オレの血を、氷河の聖衣に使ってくれ」
行かないで
あの時、素直にそう言えてたら
今でも隣にきみがいたのかな
新しい日々を綴るSNSの
タイムラインに紛れ込む君の笑顔には
悩みも未練のかけらもなくて
別に悔しくなんてないけど
立ち止まったままの僕
軽やかに歩いてく君
どうか 行かないで