ロイルー(王レベ)

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「……忙しそうだな」
薄闇の奥から掛けられた声に、ルーシャスの唇が我知らず微笑みを形作る。
静かで、低い、優しいロイの声。出会った頃から今まで、どんなに時が移り、様々な苦難に遮られても、ルーシャスに向けられたその色が変わることはなかった。
「……そうだね。こう見えて、結構忙しいんだ、俺」
ルーシャスは、心持ち小首を傾げて、悪戯っぽく闇に答える。
「まだ寝ないのか」
「もうちょっと。……これ、ある程度片付けないと、気持ち悪くて」
ルーシャスは、広い机に山積みになった書類の束を、持っていた羽ペンで示す。
客人の捧げているろうそくの火が、ためらうような短い吐息に揺れ、薄闇を音もなく不規則に撫でた。
「行かないで」
何でもない風を装って、祈りのように、懇願のように、ルーシャスは闇に囁いた。
「入れよ……ロイ。それで、待ってて」
「無論だ。……邪魔するぞ」
「うん。今場所あけるから、ここへ」
ルーシャスの胸の内に安堵の吐息が溢れる。軽く弾む気持ちを押し隠して、ルーシャスは、今にも目と頭から逃げていきそうな文字の群れを、何とか手元に引き留めた。
椅子を引き摺る不規則な音、紙ずれや、引き出しを開け閉てする小さな音に、扉の鍵を下ろす微かな音が紛れる。
揃えかけた書類にふと目を留め、何事か書き付けるルーシャスの背後に、石床を刻む足音と、小さな火影に照らされた長身の影が近づいた。

10/25/2023, 12:57:49 AM