泣いている。
いとしきみが泣いている。
可哀想だとは思わない。
だって、きみを泣かせたのは私だから。
ほら、こうしている間にも、きみの黒真珠からあふれた涙で、やわく陶器のようにしろい頬は濡れそぼる。絹を裂くような叫びを紡ぎ、私の名を呼ぶ。
周りが引き留めるのもお構い無し、形振りかまわず必死に叫んで……そんなにも私に振り向いてほしいのかな。そんな姿もうつくしいね。
「やだ! 嫌だよ、待って! ねえ!」
だけど私は止まらないよ。
これは私が、私の意思で決めたことだ。いくらきみの嘆きを聞いたって、止まるわけにはいかない。
そんな決意がブレてしまわないように、私はそそくさとその場を後にする。
ねえ。さよならは言わないからさ、その代わり、もう二度と私に向かって「行かないで」なんて言わないで頂戴ね。
▶行かないで #30
10/25/2023, 2:50:11 AM