「ぼくは守れない約束はしない主義でね、巷じゃあ約束を必ず守る男として有名なんだ」
「はあ」
「聞くところによると君、約束を破ることで有名だそうじゃないか」
「そうですね」
「ぼくらってとっても相性が良いと思うんだよね」
「寝不足ですか?」
「昨晩は九時半には寝たよ」
「そうですか」
「冷静なところも実に魅力的だ。デートしよう」
「そうめんご馳走してくれなきゃ行きません」
「そうめんが無くても君はきっと来る。だってこのぼくが行くと言うのだから」
「やっぱ頭沸いてますね」
「ハハッ、それもよく言われる」
***
「──やけに楽しそうだと思えば、そんな昔の話。目の前で掘り返さないで」
「どうして。黒歴史だから?」
「わざわざ言わせるなぁぁ」
「あっはは。あの日は、まさかあんたの方が来ないとは思わなかった」
「その節は本当にすまなかった……」
「イーヨ。おかげで約束守れるようになったし」
「……ってそうじゃなくて。今日の夕飯のリクエストを聞こうとしたんだ。なにかある?」
「そうめんっ!」
「一昨日と同じじゃないか。本当にそうめんが好きなんだな、君」
▶約束
「それじゃ行ってくる」
「ん。あんまり無理しないでね」
「善処しよう。土産は敵の大将首でいいかい?」
「いらんわ」
▶あなたへの贈り物
聞けば、我々人類が宇宙について知っていることは、全体のわずか4%のみだという。
何千年のも時間を費やし、何十、何百万のも人生が身を粉にして雲塵へと還った。数多の命と情熱がただひとつ──宇宙の神秘を求めた。それでも一割にも満たないのだ。塵となった彼らにとっては無念であろう。
しかし、嗚呼、なんと広大でロマンティックで掴み所がないのかと私は胸踊ったよ。
人というものは古くから、砂糖に群がる蟻のように、甘美な秘密や謎、真新しいものに惹かれるように出来ているだ。それ故に我々はここまで進歩し、宇宙についても知ることが出来た。
少し話は変わるが、キミはキミのことをどの程度把握しているのかな?
キミ自身の能力や限界、強み、弱点。それらをどの程度理解している?
宇宙が広大で摩訶不思議であるのと同じように、我々人類もまた、小さくも摩訶不思議な存在だ。
私も、キミも、通りすがりの彼も彼女も、みな等しく無限の可能性を秘めている。
何故諦める?
キミには描きたいものがあるのだろう。見せたいものがあるのだろう。
何故諦める?
キミの未来はキミ自身にもわからないのに、どうしてキミではない他人の言う未来を信じるのだ。
勿体無い。実に勿体無い!
残念ながら、私には、果たしてその類稀なる才能が花開く保証も、血の滲むような努力が実を結ぶ保証も出来やしない。だからこれは私の只の我儘だ。
けれどね、私は見てみたいんだよ。
キミが成したいことを成し遂げて、これほどまでの幸福はないといった風に笑う姿を、この目で見たい。
キミの望むものを導けるのはキミだけだ。
キミの望むものを生み出せるのはキミだけだ。
さあ、キミの手のひらには一体どんな宇宙が広がっているのかな?
▶手のひらの宇宙 #83
あっ、やべ。
そう思った時にはすでに荒れに荒れまくる心の内が口から漏れ出ていた。
「ほんまにおるぅ……」
画面の向こう、自分の端末にあるデータの中で、俺がこのゲームを始めたきっかけが立っている。
声がよくて、顔がよくて、衣装も仕草も品があって。飛び付いた先には居なかった──俺が始めた頃には既に獲得キャンペーンが終わっていた為である──が……否、居なかったからこそ、ずっとずっと憧れていた存在。俺の理想の生き写し。
それが画面越しとはいえ、今、目の前にいるのだ。これが震えずにいられようか!
ふと、瞼の裏にかくれていた射干玉と目が合う。
俺は地に伏した。
もちろん嬉しいさ。跳び上がるどころか硬直してしまうくらい嬉しい。
……だけど!
これまで何年間も待ち続けて、何度神頼みしても来なかったくせにこんな日に来るか普通!?
十周年だぞ。今日でゲーム十周年だぞ。全プレイヤーが咽び泣くちょ~お目出度い日に来るな。軽率に運命を感じてしまう。惚れてしまう。
あっまって微笑んだ。顔を背けながらすごく小さな声で「……よろしく」って言ったよこの子。
知識としては知ってたけど実際に見て聴いてみるとさらに可憐だな。今更だけど。惚れ直しましたありがとう。
あああ供給過多だ!
いっそだれかころしてくれ───!!
▶そっと #82
夢を見るにはなにがいる?
▶あの夢のつづきを #81