『落下』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
あっという間にとはこういうことか。視線を下げ床に衝突し割れたグラスだったものに目をやる。「失礼しました」、と人気のないカフェの中で声を張った彼が心配そうな顔を浮かべて近寄ってきた。手にはほうきとちりとり。「きみ、新入りさんだよね。怪我してない?」安心させるためか、ふにゃりと笑って話しかけられる。肯定を示すより先に口は動いていた。「一目惚れしました。今、あなたに」「──ええ?」八の字になった眉も、ああ、素敵だ。
// 落下
回転、回転、目が回る、空と地面が交互に視界を支配する、ぐるぐるぐるぐる回る勢いで、過去と現在が繰り返される。
北海道に行くはずだった。行けなかった。中部国際空港、セントレアで待ち合わせをしたその人は、6月24日、姿を見せなかった。
飛行機に乗ろうか、ギリギリまで迷った。搭乗手続きを待つ列から外れ、係の人に相談した。時間は遅らせられない、と当然のことを言われた。ギリギリまで待った。待っている間、徐々に考えは変わっていった。楽しみな気持ちは失せていった。その人が来るかというより、自分はどうしようか考えた。
ずっと北海道に行きたかった。シフト制で、月給の少ない仕事をしているわたしにとって、飛行機を使う遠出は痛手だった。それでも行きたかった。小樽に。オルゴールを作ったり、運河を見たり、雪景色を見つめ、澄んだ空気を吸うことで、体の中に溜まっている澱を浄化したかった。
行かなければお金が無駄になる。このお金があったら、日々の暮らしにちょっとだけど楽しみをプラスすることができた。毎日仕事帰りにお菓子を買ったり、バスキューブなんかを買って、入浴時間を贅沢なものにしたり、できたはずだったのだ。
それらを上回る楽しみを北海道旅行に見出していたのに、分かち合っていたはずの相手は来なかった。
係の人が見兼ねて声をかけてきた。いかがされますか。知らない、そんなの。わたしが聞きたい。
飛行機への乗り口を見た。あそこに行けば、一人でも北海道へ行くことができる。小樽に行ける。新千歳空港に行くのも楽しみだった。テーマパークのようになっているのを、以前からテレビで見て知っていた。
どうしましょうか。
行った方がいいって、今日を楽しみにしていた自分が言っている。でもわたしは立ち上がれなかった。裏切られた思いが全身に伸しかかり、指一本動かせる気がしなかった。
どうして来なかったのか考えるのは恐ろしかった。無理だった。寝坊ならまだいい。むかつくけど。でもそれならまた機会があると、自分に希望を持たせられる。
もしも、「終わった」のだとしたら?
結局わたしは一人、空港にぽつんと残されてしまった。
わたしの席がある飛行機は、たぶんいつの間にか飛んでいった。気付くと、とうに出発時刻を過ぎていて、大きな窓から茜色の空が見えた。
それでもまだ来ていない。彼は来ていない。わたしを選んではくれなかった。それどころか見捨てられた。
手を伸ばしている自分に気づく。窓の外で煌々と広がる茜色を押し上げて、午前中に戻りたい。空港へ着く前まで戻りたい。こうなるとわかっていたらもっと早く起きて家を出て、相手の家まで殴り込みに行き、首根っこ捕まえて無理やり連れてきたのに。
それほど行きたかったのに。
北海道へ行きたかったのに。
わたしはくだらない絶望に屈して行けなかった。行くと決心できなかった。悔しい。
好きにならなければよかった。北海道の話なんて出さなければよかった。あんなに楽しみを語り合ったのに。職場に嫌な顔をされながら、なんとか3泊4日の休みをとって、このために贅沢を控えて、楽しい時間になりますように、ってただそれだけを願って、我慢に我慢を重ねて、期待に胸を膨らませていたのに。
大きな金槌で殴り殺された気分だ。頭と心に大きな空洞ができたのを感じる。わたし、落ちてる。ぐるぐるぐるぐる回りながら、暗くて深い場所へ落ちていっている。
もう何もがんばれる気がしない。
木洩れ陽が誘う
参道に紅ひとつ
ナナカマドの葉
風に吹かれたの
どこから来たの
空の色は水無月
木々は微笑んで
緑の葉を揺らす
陽の光が照らす
誰かの落とし物
【落下】
貴方と目が合うとふわふわとした浮遊感に襲われる
さっきまで思考もちゃんと働いていたのに
貴方しか見えなくなって呼吸が苦しくなる
私は
恋に落ちている
片想いなんだろうけれど
貴方はたまに思わせぶりな態度をとる
貴方の言動全てが私を狂わせるのに
苦しくて仕方なくなる
きっと貴方は私の気持ちに気づいている
それでいてその態度をとるのだから酷いと思う
片想いがこんなに辛いとは思わなかった
こんなに苦しいのなら
いっその事実際に落下した方が楽ではないか
その時は貴方も一緒に落ちてくれるかな……なんて
今でも充分過ぎるほど幸せだと思うのに
貴方も私に落ちてくれたらと思ってしまう私は
本当に欲張りだ
僕は何故か屋上に居て
僕は何故か追い詰められている
そして僕は躊躇う事なく
その屋上から飛び降りた
ふわっと体が宙に舞い
キュッと心臓が縮む感覚
落下し始めたのだと認識した時
ーガタッー
僕は教室で目を覚ました
『落下』
落下
道を踏み外して下に落ちていくのってほんとーにすっごく簡単。
普通に生きれて歩いていた道が急に崩れて堕ちちゃったんだよね私
頭の中でガラガラと崩れる音も聞こえた気がする。
なかなか地の底なんて落ちることないじゃん
今まで堕ちたことないからさ
だからそこから這い上がるのってとても難しいし
そもそも這い上がり方がわからないんだよね。
落ちてないやつはそんな堕ちた人を見たら
なにやってんの!!!って呆れた感じで激しく鼓舞すると思うけど
そーんな高い位置から地の底に呼びかけたって
遠いくせにやたら眩しいから何も響かないよ
土台が組めず頑張って這い上がれないと
アングラでアウトローに変わり果てるんだろなぁって
よく思ってた。
それか死か。
諦めるのって頑張ることを手放すだけだから
もう諦めようか、もう少し頑張ろうか
そんな紙一重な生活してた時あったよ
でもね、そんな生活してるある日にね
好きだった漫画の新刊の発売日だったの。
これが1番の楽しみでね
私はルンルンな気持ちで歩いて本屋に買いに行ったの。
ちゃんと買えて来た道戻ってたら高い建物の下に
何台も緊急車両が止まってた。
あとから知ったけど私が本屋に向かう途中に
中高生の子が高いとこから飛び降りたらしいんだよね。
何回も死にたいなって思ったことあったけど
未来を担ってる若い中高生が生きることを諦めるなんて
嬉々とした気持ちで私は欲しいものを求めに行ってたのに
その子は今後好きな漫画の続きや好きなものを
諦めちゃうほど、そんなにも人生が辛かったのかなと思ったら
物凄く何とも言えない気持ちを抱いてしまう。
この命運の差みたいな出来事は今でも考えさせられる時がある。
結構その時の気持ちや光景が焼き付いてるから
思い出されてきたらちょっと物悲しい気持ちになる。
私は好きな漫画の続きが気になるし
もっと好きな物も見つかると思ってるから
だから負けずに頑張って生きようって
今思えばその時誓ったんだろうな。
あれから何年か経ったけど
何とか頑張って元の立ち位置が少し見えてきた気がする。
まだまだかもだけど、、、
でも諦めなくてよかったな。
屋根があってご飯も満足に食べられる。
好きな物、美味しいものが日々更新できること。
本当によかった。
いつもありがとうございます。
高台から眺めると、大嫌いなこの町も少しましに見えた。
下から掬い上げるように吹く風。
空を見上げて息を吸い、雲の流れに身を委ねる。
目を瞑り自分自身が空に染まっていく想像をする。
穏やかに冷たい風が顔を撫でる。
とても気持ちが良い。
肩が持ち上げられ、踵が浮く。
両手を広げ、空に吸い込まれていく。
安堵と解放、そして墜落してゆく心地よさを感じた…
その刹那、とてつもない力で後ろに引っ張られた。
薄水色の空と雲をバックに、眉を斜めにした君が見ていた。
頬を伝う涙が、ひどく冷たかった。
題:落下
幼い頃によく遊んでいた公園があって、そこの滑り台は赤い筒状のやつだった。そこまで長さはなかったけれど、乱反射する光が赤くて歪んだ世界を作り出して、滑り終えた後は冒険から戻ってきたかのような感覚になったのを、今でも覚えている。
「公園って、教会の隣にあるやつ?」
北川さんは向かい合って座る席にトレイを置いて、一つ背伸びをした。
「そうだよ」
ここら辺で公園といえば、大抵の場合はそこを指す。地元の人間ならば、一度は遊びに連れて行ってもらったことがあるような公園だ。
「へぇ、そこで出会ったんだ」
「出会ったとか、そういうのじゃない。一時期遊んでただけ」
「でも、未だに覚えてる」
何が可笑しいのだろう、北川さんはにやりと笑ってから席に座り、流れ作業でトレイの上にポテトを散りばめた。人とシェアする時の常套手段らしいけれど、未だに慣れない。
「一時期とはいえ、結構遊んでたからね」
冷えて結露しているコーラを一口飲む。せっかくのコーラは、紙ストローのおかげで魅力が半減していた。
「名前は?」
「アリス」
「……すごい名前だね」
北川さんはちょっと珍しいくらいの表情をした。一昔前ならその反応も頷けるけれど、今どきだとそこまで不思議な名前でもないだろう。それに、
「あだ名だけどね」
別に彼女が金髪だったとか、英語を話したとかフリルを着ていたとかじゃない。
「滑り台を滑った後に、『アリスみたい』って言ったんだよ」
幼い自分はその意図するところがすぐには分からなかった。その意味を知ったのは、話を聞いた母がレンタルしてくれた『不思議の国のアリス』を観た時だった。
「『不思議の国のアリス』観たことある?」
「あるけど」
「初めのところ、なんとなくでいいから覚えてる?」
北川さんは視線を宙に彷徨わせた。塩でざらついた指を紙ナプキンで拭きながら、返答を待つ。
「喋る兎を追いかけて、穴に落ちちゃうんだよね?」
「そう。彼女は滑り台をそのシーンに例えたんだと思う」
「アリスちゃん、ね」
黙ってそっぽを向く。北川さんは気にせずにポテトに手を伸ばした。
「まぁ、彼女は休みの日にしかいなかったし、すぐに遊ばなくなったんだけどね」
「そっか」
「そっか、って……」
話をしろとせがまれたから話をしたのに、薄い反応だった。
「とにかく、これで初恋の話は終わり。次は北川さんの番ね」
「……、しなくちゃダメ?」
「別に義務はないよ。少しがっかりするくらいかな」
北川さんは薄く間延びしたため息を吐いた。光のよく射し込むよう計算された窓から、彼女に陽光が当たる。
「私のお母さんね、ヴァイオリンが弾けるんだけど」
「がっかりした」
「これから、びっくりするよ」
不敵に笑って、北川さんはポテトでこちらを指した。行儀はよろしくないけれど、絵になる仕草だった。
「賛美歌のいくつかは、ヴァイオリンで演奏するんだよ」
彼女はそれだけ言って、いたずらっぽく笑った。
どうやら、喋る兎の代わりにアリス自身が案内してくれるらしい。この不思議な感情が夢でないことを、今はただ願った。
落ちていく。
それはその気になれば、簡単にどこまでも落下していく。
上がるのは倍以上の力が必要になるのに、どうしても落ちてしまいたいと思う時がある。
哀しくて。
淋しくて。
嫌で。
何もかも無くしてしまいたくなったりして。
差し伸べられる手を振り払い、下へ下へ急降下。
でもね。
下がってばっかりいられない時が来る。
こんな場に居たくなくなる時が来る。
そうなったらまた上がるしかないんだ。
苦しかったり辛かったりするけれど、でもそれでも嫌だから。
今私がいる場は下がってるのか、上がった先なのか。
分からないけど、今日より良い場にいられるよう、せめて顔だけ上げてこうと思う。
メンタル落下
恵まれてることはわかっていても
マイナスにしか目が行かない日もある。
「落下といえば」
「おばあちゃんのお兄さんが亡くなったんだって」
母がまことに言った。
「へえ」
身内の訃報を聞いた返答として、あまりにも軽いかもしれない。
しかしまことにとって、会ったこともない親戚というのは他人と同義だ。
面識のない相手の死を悲しむことは困難すぎる。
そもそも、祖母に兄がいることすら、訃報を聞く今の今まで知らなかったのだから。
「蜘蛛膜下出血で亡くなったんだって」
「へえ」
心臓発作とか、脳出血とかもだけど、そういう突発的な病気で死ぬのは嫌だっただろうな。
死ぬまでの準備ができないから。
大切な人に別れの言葉を言うとか、最後の晩餐として好物を食べるとか、死ぬまでにやっておきたかったことに挑戦するとか。
病気は病気でも、突発的に死ぬものでなければ、できることは多いだろう。
自殺なら、自分で死ぬタイミングを決めるわけだから、当然死ぬ準備も自分のペースでできるし。
ふと、まことは、考える。
もし自分が死ぬなら、どんな死に方をしたいか。
答えは、飛び降り自殺だ。
理由は簡単で、高いところから飛び降りると気持ちよさそうだから。
デメリットとして、まことが飛び降りた後、周囲の人が迷惑を被ってしまうことが挙げられる。
だが、死ぬ時ぐらい、人の迷惑考えなくて良くないか?
線路に飛び出すとかはさ、結構な人数だけど、ビルからの飛び降り自殺とかなら、そこまででしょ。
私は罠にかかったの
美しいものに惹き付けられて
でもそのものは
私が近づくと遠くへ離れていく
そして気づいたら
私は奈落の底に落ちていってた
とても深い
いつまで続くのだろう
いつになれば美しい貴方に近ずけるのだろう
【落下】
花が落ちるように
キミに落ちてゆく
星が落ちるように
キミに落ちてゆく
空が落ちるように
キミに落ちてゆく
キミと一緒に
同じ速度で自由落下したい
(ここから落ちたら死ねるかな)
無意識に日常でそんなことばかり考えていた。
橋の下にある線路を覗いて、あのカチカチの石とレールに頭をぶつけたら、とか、
歩道橋の上から行き交う車を見て、今行けばはねられて轢かれて終わりかな、とか、
高い建物に登ればアスファルトの地面を見て、何階から落ちれば即死だろう、ここ?もっと上?とか、
そんな日々を繋ぎ止めていたのは、痛いのは嫌という、ただ臆病で、それゆえ死ぬ勇気の無い自分だった。
一瞬で死ねればいいけれど、どうやら人間はそんなに簡単には死ねないらしいし、下手に生き残ればそれこそ生き地獄だし、それに運良く死ねたとしても人に迷惑はかけたくない。自ら選んだ死で誰かの手を煩わせたくなかった。
痛いのが嫌だとか失敗した時の事だとか死んだ後の事まで考えてしまえるくらいに自分の脳はまだ機能しているのだと絶望した。
それすら考えることもできなくなってしまえれば、あと一歩を、この一歩を踏み出せるのに、と何度も何度も思った。
死ぬことが唯一の解決策だった。それしかなかった。
空に落ちてく夢を見た。
途中で鳥に会って少し会話をした。
どうして貴方は飛べるのですか?そう聞くと
鳥は君も飛んでるじゃないかと言った。
私は空に落ちてるんです。と空を指さし言うと
奇遇だね、僕も空に向かって落ちてるんだと鳥は言った。
私は小さい頃からずっと憧れていた
空に飛んでく夢を見た。
落下していく感覚に目を瞑る。そうして思い出すのは今までのこと。後悔ばかりの人生だった。愛されていたとしても、私はそれを素直に受け入れられなかった。その原因はきっと、いじめられていたから。もう随分と前のことで記憶も霞むけど、過去という事実は消えない。担任の先生に気にするだけ無駄だと言えば、強いねと返されて何も言えなくなったのを覚えている。強くなんかない、強がってる訳でもなく諦めただけ。この世界に絶望していながらよく今まで生きてたなと思う。だけどもう限界だ。明確な理由もないけれど、これ以上息をすることに耐えられない。…ああ、これでやっと楽になれる。
落下
深く深く
どこまでも
暗闇の中へ
奈落の底へ
落ちていく
落ちていく
落下
落ちていく、落ちていく。
オレは何処迄落ちていくのだろう?
親から虐待され、満足に食えず。
毎日、家の仕事を手伝い、
勉強する事も出来ない子供時代。
堕ちていく、堕ちていく。
オレは何処迄堕ちていくのだろう?
親から逃れても、何も無い。
金も学も人脈も、何も無い。
有るのは、ネジ曲がったプライドだけ。
このまま落ちて行けば、
何時かは、地面に叩きつけられ、
粉々に砕け散るだろう。
このまま堕ちて行けば、
何時かは、闇に引き摺り込まれ、
消え失せるだろう。
でも、オレは未だ、
落ちていく、堕ちていく。
真っ暗闇の中を、
何時迄も落下していく。
オレは、何処迄落ちるのだろう?
底はまだ…見えない。
タイトル【落っこちた】
文字数 380文字くらい
見えていた景色が一瞬にして上り、そして豪快に地を鳴らす音を耳にすると、それは真っ白に、或いは真っ黒になって、私の世界から消え去ると同時に、再度創造された。瞬きするよりも早く、短い一瞬間のことである。
気が付いた頃には、私は悶絶躄地していた。
何が起こったのだろう。
そんな思考に応えるかのようにして、背中から鈍い痛みが生まれた。いや、ずっとあったのだろう。まるで記憶のように、それはずっと躰に残っていたのだ。
不思議なもので、翻筋斗を打った時でさえ、姑息ではあるものの躰はちゃんと呼吸をしている。それが却って苦痛なのだが、無意識的に行っているのを見るに、生きるには必要なことなのだろう。ただ惰性と云えばそこまでである。
「だから、一番高い鉄棒はやめとけって言ったのに。カッコつけやがって………」
朦朧とする意識の中、聴き慣れた声で誰かがそう云った。
模試の結果が最悪だった。
志望校の大学に受かるラインに達するまでに幾度も勉強に励んできた。
それでも自分の実力には嘘はつけない。
一枚の紙が残酷な事実を伝えている。
まるでジェットコースターが勢いよく落下するかのようにあっという間に、突き落とされた。
夢に向かって一歩ずつ進んでいく、そう決めたから今日も
歩んで行く。