『美しい』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
いつかたぶん死ぬよ
死ぬけどまだ少し先のことだよ
たまご雑炊
鳥は、
「この色が好きだ」と考えてはいない。
ただ、その刺激だけが、
ほかよりも高い処理優先度を与えられている。
人も同じだ。
美しいものを見たとき、
「怠惰が読み取れないからだ」とは思わない。
「努力の結果だ」とも思わない。
ただ、
足が止まり、
息が一拍遅れ、
視線が引き寄せられる。
その反応は、感情ではない。
痩せていることは、美しさそのものではない。
飾り気のなさは、怠惰の証明でもない。
健康に近づくことは、美しさに近いが、正解ではない。
表情も同じだ。
笑顔が張り付けば、
それはもはや好まれるとは言えなくなる。
覇気が過剰になれば、
そこには息苦しさが生まれる。
幼稚園の担任が、子どもたちに向けて
「今日も、みんないい顔してるね」
そう言うときの“いい顔”は、
美しさにかなり近い。
けれど、それもまた唯一の答えではない。
退廃的な美も、確かに存在する。
人の美しさも、
本来はもっと、
花が咲いたり、
光が屈折したりするのと、
近い場所にあったはずだ。
山が空気の層を、
静かに切り替える場所に、
サンカヨウという花が咲いている。
図鑑に載る白は、少し雄弁だ。
実際の花は、
手のひらに隠れるほどの在り方で、
群れても、主張しない。
雨が音を細かくほどき、
地に潜り、
眠っていた香気を
ゆっくりと立ち上がらせるころ、
そのやわらかな花弁は、
降り注ぐ雫に触れ、
静かに、白の役目を終える。
消えたのではない。
ただ、光を受け取るのをやめ、
水と世界のあいだへ、身を透かす。
形は残る。
その小さな質量は、
確かにそこにある。
可視性だけを手放し、
内部を、そのまま差し出してくる。
花びらは光に透け、
雨粒を抱えたまま、
薄い水の膜のように、
ごくわずかに波を打つ。
細胞に水が満ち、
境界はやわらかく曖昧になり、
花は世界と同じ屈折率を持つ。
息を詰めるのは、見る側だ。
壊れそうだと、
勝手に思い込まされてしまう。
けれど雨が去れば、
白はまた、何事もなかったように戻ってくる。
それが脆さではなく、
一時的な同化だったことを、
静かに知らせる。
美しさと呼ばれるものは、
対象の性質ではなく、
それを見る側の屈折率として、
ふと立ち上がる。
題 美しい
美しい/雪中の馬
ユルリ島の白馬たちが
雪の上で立っている姿は
海風に負けない強さと
生き抜く美しい魂を持っている
断崖の島に残された白馬たちは
無人の地で
雪を掘って草を食べる強さと
自立を持っている
冬のユルリ島は白い城
今日も人を寄せ付けない
4頭の白馬たちだけが住んでいる
隔絶された島
美しいとはなんだろう?
美しい声、美しい容姿、美しい立ち振る舞い。
美しい海、美しい花、美しい景色。
美しい数式、美しい建築、美しい仕草。
美しいという形容詞がつく言葉はたくさんある。
例えばもし、人を殺すことが美しいと讃えられる世界があったら、私は人を殺せるだろうか。
それが普遍的な価値観だったら、出来てしまうのだろうか。
そこまでつらつら考えて、その言葉の普遍性と無言の圧が、初めて怖いと思った。
END
「美しい」
『美しい』
美しさを感じるもの
それは人それぞれ―――
……と言うと無責任だけど
実際この言葉ほどしっくりくる言葉を
探せばあるのかもしれないけど、
今の私はまだ見つけきれてない
正義のヒーローが美しさを感じるもの
整った街、人同士の助け合い、
命の尊さ、綺麗になっていく世界、
そういうのを美しさを感じてる時
悪のヴィランが美しさを感じるのは
壊れた街、人同士のいざこざ、
歪んでて整ってないものこそに、
美しさを感じるモノも多い
例えは 袈裟かもだけど
今を生きてる人達の
一人ひとりの持つ 美意識や価値観は
これぐらい違うことを覚えておきたい
肯定できなくても
否定しないという事はできる
納得はできなくても
知って寄り添う事はできるから
良いなと思えばどんどん取り入れて
いやなものはいやでいいし
美しさをより良くして行けるはず
―――ところで、
あなたは何時のどんな時に
美しさを感じる?
〜シロツメ ナナシ〜
久しぶりに見上げた空は
ハッとするほど美しかった
ただ空に見惚れてきた
あの頃を思い出した
"美しい"
理想を保つ距離のこと。
どうかそのまま遠くにいてね
美しい
最近、美しいなと思ったのは、朝焼け。
とおーーーくのほうで太陽が上がってきているのがわかるくらいのときの。
毎日、色が違って綺麗。
♪君は薔薇より美しい は上手く唄えたら気持ち良さそう。でも布施明の曲でカラオケで唄うのは♪積木の部屋 とか♪霧の摩周湖 とか。これらも難しい曲だけど、切ない系が好き。
#美しい
【美しい】
美しいって、むずかしい。
だって、
なかなか人には言えない言葉じゃない?
「美しい」って、
人に言えた記憶ないな、と思いまして。
誰かが人に言っているのも
聞いた覚えがないな、と思いまして。
なので、
「美しい」と自分で思えるような
"心"を、"自分"を、目指そうと思いまして。
美しい
人の誕生は素晴らしく
美しいものである
誕生から成長するには
親の手助けが必要で
その親が欲して
子をつくる
これが世の中の誕生という話
けれどこの世には親ガチャという言葉がある
確かに間違ってはいない
親は子を選べるけど
子は親を選べない
親は子供が欲しいと思いつくる
そして育てる
どんな子に育てたいかはその家庭の自由
けれど親の思いを押し付けることは
子にとっては苦痛で場合によっては
親ガチャ失敗
これが良くも悪くも地球上で誰一人として同じ個性を持たないということになる
だから
簡単に親ガチャ失敗という言葉が使われないよう
子は親から学び
親は子から学ぶ
このことを大切にすることで
いじめや虐待が無くなり
これこそが本当の幸せ”本当の平和”になるのだと思う
親が子から学ぶだけでなく
夫婦で意見を合わせることも大切なことである
母と父の意見が違えば
生活でのすれ違いが起きて
不倫や離婚になる
2人が一緒になって子をつくったなら
責任をもって”育てる”
それが出来ないならつくらなければいいだけの話
タイトル:美しい
「綺麗」と「美しい」は自分なりに使い分けていて、
・「綺麗」はキラキラ、硬め(宝石とか)、光、文章
・「美しい」は人とか顔、佇まい、温度のあるもの
を表すときに、よく使う。
(と、今書いて気がつきました)
人によっても使い分けが違うんだろうな。知りたいなあ
今日わたしが美しいと思ったものは、アイドルが陽だまりの中でるんるんとステップを踏む姿と、彼の純粋な笑顔です。
題名:美しい
―美しいの漢字の成り立ちって知ってる?
―確か、大きい羊、だった気がするんだ。
「そのまんまじゃん。だから?」
―漢字の成り立ちって面白いんだよ?
―例えば県って漢字はね、首から上を紐で縛って吊り下げるっていう成り立ちなんだよ?
「…怖い成り立ちだね。それで、どうしたの?」
―…何も、気づかなかったの?
「うん。何にも分からなかった。全部。」
―本当に?
「…気づかなかった、というのは嘘。だけど分からなかったのは本当。」
―…ごめんね。
「謝っても、何も変わらないよ。」
―お別れの挨拶と、出会いの挨拶。
―この場合、どちらが似合ってる?
「どっちも。」
最近は、スマホを見て、「美しい」という感情を抱くことがほとんどだ
動画アプリで流れてきた、綺麗な写真や映像
旅行へ出かけた時に撮った絶景
人の描いたイラスト
スマホを通して、美しいものを見ていることが多いだろう
それもいい。美しいと感じることが美しいのだから。
しかし、スマホから目を離して、目の前に広がる景色を眺めてみてはどうだろう
スマホと比べたら、つまらなかったり、こわかったりする
でも、その中から美しさを感じるのも、いいものだ
自らの目で、実際のものを見て感じる美しさも、スマホを通して感じる美しさとはまた違う
名も知らぬ青い山が白い帽子をかぶっている
どこかの家から、子供の笑い声がする
どこかで土手を燃やしているのだろうか、白煙が上がっている
どこからか、カレーの香りが香ってくる
冷たい風が、頬を撫でていく
そうした、自然や人間の美しさも、悪くはない
そんな、日常の中から美しさを探すことですら、美しいのだから
人は、自然は、全てが美しいのだから
前回掲載分からの続き物。
昔々、「ここ」ではないどこかに、滅び間近の世界がありまして、
そこに住んでいたドラゴンが、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー団体に身を売って、
代わりに、その世界を助けてもらいました。
ドラゴンは、その世界で一番強いドラゴンでした。
管理局は、強い局員を必要としていました。
傷だらけだったドラゴンは、治療をしてもらって、焼いたお肉も少し食べて、
心も魂も落ち着いてから、大きくて美しい世界線管理のお客様出入り口を通って、
そして、自分がこれからお世話になる部署へ。
「さぁ、ここが、お前がこれから僕たちと一緒に働くことになる部署。
法務部執行課の、実働班特殊即応部門だ」
『はぁ。そうか。
俺の首しか通らんこのドアの中が??』
ドラゴンにとっては狭い通路を、
他の局員とすれ違うのに苦労しつつ、
時折ぷにぷにおなかを突かれて威嚇などしながら、
特殊即応部門のいわゆる「片開き」のドアに、
一応、首だけは入りました。
本当は、美しい通路なのでしょう。
掃除も行き届いて、美しい室内なのでしょう。
部屋に入らないドラゴンの、大きなおなかと尻尾が、廊下にグデンと寝そべっているので、
管理局員の子供がわちゃわちゃと、背中に登ったり、尻尾で遊んだり。
「ドラゴンだー!」
「のせて!のせて!」
「やっつけてやるぅ」
子供のすることは、特に怒らないドラゴンです。
それに関しては、時折尻尾をピタンする程度。
「うごいたぁ!」
「トクオウのキンキュシュツドーをヨーセーする!」
ところで部屋の中では、すんすんすん、
口の前に出された「初めて見る黒い飲み物」を、
ドラゴンが注意深く観察して、
美しい陶磁器と、その中の黒の匂いをかいで、
ぺろり。舐めていました。
『苦い。なんだこれは。薬か』
「あらぁ、ブラックは飲めなかった?」
法務部の他部署から来ていたオネェな宇宙タコが、
つんつんつん、ドラゴンの鼻を突っつきました。
『気やすく触るな』
「口には気をつけてね『若造』。こう見えてアタシ、アナタより歳上なんだからぁ」
はぁ。そうか。 ドラゴンはジト目。
その日は書類だの何だのの説明で終わりました。
…——で、次の日です。
ドラゴンが特殊即応部門のブースのドアに頭突っ込んで、どんな状況かといいますと。
『……』
おやおや。美しいドラゴンの目が、瞳が、
チベットスナギツネの虚無で酷く曇っています。
そんな曇り目で口を開けて、先代ルリビタキに良いようにされています。
「これは、僕の世界の故郷のケーキ。
これは、僕が昔担当した世界の宝石糖。
これは僕の担当先の精霊さんがしょっちゅう持ってきてくれたパチパチキャンデー。
フロストホイップのスイーツもあるよ。
さあ。 お食べ。 お食べ……」
先代ルリビタキ、虚無なドラゴンの口の中に、
ケーキだの、アメちゃんだの、その他諸々だのを丁寧に、説明して置いていきます。
先代ルリビタキがドラゴンに、お茶請けのまんじゅうを食わせてみたのが、すべての発端。
小さなまんまるを食べたドラゴン、こう言いました。
『甘いものを腹に入れたのは数十年ぶりだ』
ドラゴンとしては、ただそれだけでした。
他に何も、意味も含意もありませんでした。
ただ単純に、食べ物を必須としない体だったので、
食べ物を食べたこと自体久しぶりで、
甘いものを腹に入れたのも同様だ、と。
先代ルリビタキ、とんだ勘違いをしてしまいました。
「ひもじい思いをしてきたんだね。
お菓子を食べる余裕も無いくらい、異世界移民を相手に戦って、傷ついて、心と魂を汚されて」
『そんなこと言っていない』
「もう大丈夫だ。これからは、美しいもの、美味いものを、たくさん食おう」
『「必要性」という言葉を知っているか』
「知ってるさ。コレは伝説の、ホイップクリームたっぷりパイ。ほらお食べ。お食べ……」
『むがが。あぐぐぐ』
先代ルリビタキ、ドラゴンの「すさんでいると思しき心魂」を美しい心魂に戻したくて、とびっきりのスイーツでおもてなしです。
おもてなしされたドラゴンは、ぶっちゃけ心も魂も、すさんでなんか、おらぬのです。
なのに自分の言葉が原因で、何を言っても、何度言っても、舌の上にスイーツがどっさり。
(当分、甘過ぎるものはゴメンだ……)
こうしてドラゴン、向こう100年分くらいの甘々スイーツは、十分摂取させられました。
その後もドラゴンの苦難は続きますが、
続きはまた、次のお題で。
※この物語はフィクションです。登場する人物および団体は、実在のものとは一切関係ありません。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
タイトル『嗚呼、なんと美しきこの世界』
――神の瞳。そう名付けられた一枚の風景写真は、二十一世紀最大の奇跡と称えられた。
周囲を取り囲む霧がかった深緑の森を、構図の中央に配された湖が鏡面のように映し出している。湖の縁では、一切の穢れを除かれたような一羽の白い鳥が、今にも飛び立とうと羽根を震わせる。木々の隙間から漏れ入る幾筋もの光が、まるで生命を迎え入れる神の加護のように降り注いでいる。
私はギャラリーの壁に張り出されたその写真を前に、撮影当時の光景を思い返していた。
「なんとも美しい写真ですこと」
隣に立つこのギャラリーのオーナーが、粘り気を含んだ甘い声で感嘆を漏らす。短く太い指という指に宝石を携え、赤い絨毯に金粉をちりばめたようなタイトなドレスが、もはや段もなさないほど膨れた腹に食い込むように貼り付いている。
「あなたのお声掛けがなければ、私はこの景色に辿り着くことすらなかったかもしれない。感謝していますよ」
私は努めて優しく柔らかい口調で返した。この写真は他ならぬ彼女の依頼を受けて撮影したものだ。こうして世界的な名声を得ることができた裏には、彼女の社会的な影響力と資金援助の功績がなかったとは言えない。
しかし、それ以上に私はこの写真を通じて、世界に対する価値観を大きく変えられた。この深い森で流した涙の理由を、私は未だに昇華できていない。
「神が地上に降り立つ瞬間を写真に収めてほしいの――」
数年前、突然の連絡で駆けつけた私に、彼女はそう告げた。
「ヒト・カネ・モノは余るほどある。舞台もこちらで手配するわ。その他に必要なものがあれば何でもおっしゃって」
首元にギラギラとした宝石をチラつかせながら、彼女は私を品定めするように甘い視線を上下させる。
それまでもいくつかの風景写真を発表し、それなりに名は知られていたが、賞と名の付くものと無縁だった私は、二つ返事でその話に乗った。彼女は微笑みながら立ち上がり、私の背後に回ると、そっと女の手がおれの腕を弄った。
「あなたの腕を信じてるわ――」
耳元で囁く彼女の荒い息に、私の呼吸が思わず止まる。
「ところで、今晩のご予定は?」
女から漂う甘くねっとりとした香水の香りが、私の理性を徐々に侵していく。
それから一週間後。提示された座標は、東南アジアの未開の密林の奥深く。地図上では空白地帯となっている場所だった。
私の他に、あの女が寄越したエージェントと、機材や食料の類を運ぶためのアシスタントが数名ついてきた。
現地の案内人は、英語も通じない部族の若者たちだった。埃と汗に汚れた薄っぺらいTシャツと短パンに、華奢な身体に不相応なライフルを携えている。
向かおうとしているその場所は『神の瞳』と呼ばれ、現地人ですら滅多に足を踏み入れることのない神域だった。
しかし、部族の村とはいえ、文明に両足を浸かっている以上、生活の困窮には逆らえなかった。あの女が、彼らの村に寄付した『援助』という名の賄賂が、無理やり案内を承諾させたのだ。
道中は地獄だった。道なき道を鉈で切り開き、吸血虫に肌を焼かれながら進む。アシスタントたちは邪魔だという理由だけで森の木々にナイフを立て、静寂を愛する野生動物を銃声で追い散らした。
エージェントが手元から離さないタブレットには、常にあの女の顔面が映し出され、この現状がリアルタイムに発信されていた。
『この先に待つ美しさが待ち遠しくてたまりませんわ』
この森に漂う異様な居心地の悪さなどまるで無視するように、画面の向こう側に見える女は恍惚な表情で言い放つ。
人の管理から解き放たれた森は、静かで落ち着いていた。だが、『神の瞳』は話に聞くような究極の浄土とはほど遠い景色だった。
生い茂った木々に日の光は遮られ、湖の水は濁り、鳥たちは警戒して遠巻きに鳴いているだけだった。
『これでは満足できませんわ』
画面の女が残念そうにつぶやく。
そこから、森は『工事現場』へと変貌した。湖の濁りを取り除くための化学薬品が大量に投入され、浮かび上がってきた魚たちに、アシスタントらが無表情のまま網を伸ばす。水中の微生物は死滅し、水面は不気味なほどに透明な鏡面に変わった。
『森と湖だけというのも味気ないわね。動物のひとつでも置いてちょうだい』
無慈悲な女の声にアシスタントが動く。
森に踏み入った彼らは、どこからか薄汚れた鳥を捕らえてきて、羽の一部を切りとると、湖の周辺から逃げられないように、そのか細い足首をテグスで縛り、湖近くの岩にくくりつけた。
『白さが足りないわ』
女の声で鳥の体には漂白液がかけられた。鳥たちは悲痛にその身を震わせて鳴いた。飛び立とうにも羽根をむしられた生命は、ただその場でもがく他なかった。
「流石にひどすぎる……」
私は腹の中で煮えたぎる胃液が喉元までせり上がってくるのをこらえながら呟いた。
『あなたをここまで連れてきたのは誰だと思っているの? 私の求める美しさを形にするために、あなたはその腕を差し出せばいいの。私が欲しいのはあなたの技術。あなたに求める『美しさ』はその体だけで十分よ』
不意の嘔吐きのあと、体中の水分が毛穴から吹き出すような気持ち悪い心地が全身を駆け巡る。
『私が欲しいのは振り注ぐ光よ。枝を切り落として……』
無慈悲な女の声がして、悲しさを伴わない生理的な涙で滲む視界が目まぐるしく動き始める。チェーンソーのけたたましい音が森の静寂を切り裂き、穏やかだった大地に枝葉がぼとぼとと音を立てて落ちていく。
枝先を失った木々の隙間からは光の筋が流れる。その瞬間、私は自らの美意識を呪った。差し込んだ光が透明な湖を照らし出し、映り込んだ深緑がざわざわと音を立てる。動物たちが悲鳴を上げ、逃げ惑う。飛べない鳥はテグスに足をちぎられそうな痛みに耐えながら、それでも空を見上げてもがいている。
私は震える手でシャッターを切った。
浄土とはほど遠いその光景は、切り取られた景色の中では嘘のように静かだった。
嘔吐の残渣とも感動とも知れない涙が頬を伝う。タブレットから聞こえる女の恍惚な笑いが頭に響く。
嗚呼、なんと美しきこの世界。死に抗おうと乱れ狂う生命の躍動。
ギャラリーに流れる優雅なクラシックの調べが、虚構の美しさに彩りを添える。
この写真が世に出た直後から、批評家たちはこぞって賞賛の言葉を並べた。環境保護団体は、この『美しさ』を守りたいと募金を始めたが、その裏にある破壊に触れる者はいなかった。
聖域を売った部族の若者たちは、手にした大金で酒と麻薬を覚え、今や村は壊滅状態だと聞く。
今、私の周りで、この写真を見ながら甘いため息をつく紳士淑女の皆様方には、まるで興味のないことなのだろう。もしかすれば敢えて目を逸らしているのかもしれない。
人は今この瞬間も、模倣された自然に歓喜し、動物の死骸に舌鼓を打つ。深いところからは目を逸らしながら、自らの薄い皮膜のような美意識に酔いしれる。
贅沢を謳歌する裏で、どれほどの犠牲が払われ、どれほどの破壊が行われているのか、そんなことは私の意識の及ばぬところと白を切って静かな顔をする。
そうして、死にゆく森の断末魔を、欲望を満たすために捕らわれる動物たちを、冷気に焼かれた草花の沈黙を。それら人間が踏みにじったすべての痕跡を『美しい世界』として消費する。なんとも残酷だが、それが人類の築き上げてきた『美しさ』だとすれば、我々はその賜物を甘んじて許容する他ない。
「さすが私が見込んだ男。とても美しい写真をありがとう」
豚の腸詰のような女の指が、私の腕にそっと触れた。香水の香りがまたも理性をかき乱す。かく言う私も、その毒された快楽に飲み込まれたうちの一人。
「――ええ、本当に美しい……」
私は美容整形を重ねて不自然に張った彼女の厚い面の皮に優しく手を添えた。彼女が私の全身を舐め回すように見つめ、私は偽物の微笑みで返す。
「今夜も待ってるわ」
そう言って去っていく彼女の醜い背中に、クラシックの調べが美しいベールをかける。
美しいと感じたものに、どれだけの闇があるとしても、すでに放たれてしまった感情に嘘はつけない。
嗚呼、なんと美しきこの世界。あまりに醜い美しさのせいで、どんな景色を目にしようとも、私の胸の鼓動は常に落ち着くことがない。
『嗚呼、なんと美しきこの世界』―完―
#美しい
世界は美しくない
無数の泡のように
ぱっと弾けて
ぱっと消えて
故に世界は美しい
美しい夢を見た。
どこか深いところから浮かびあがるように顔を出すと、そこは南国の海だった。
クリスタルグリーンの透きとおった水中に、網目状に広がる光ぼう線、頬をあたたかい風が撫でる。
張りついて口の中に入っていた髪を元に戻した。
もう一度水中に入ろうと前転すると、身体がマーメイドになっていることに気付いた。スパンコールのように光を乱反射する鱗の部分を、上下にうまく動かしながら深いところに入っていく。
横を見ると、でこっぱちのコブダイが眠そうに半目でこちらを見ていた。
底に近づくとファインディング・ニモに出てくるカクレクマノミがいた。オレンジと白が美しい。その隣には黄色と黒が奇麗なエンゼルフィッシュ、奥にはピーチピンクの煌めくサンゴ礁が広がっている。
光が遮られて上を見上げると、マンタの裏側が通り過ぎた。タレ目の笑顔がアンニュイだ。
その後、再び薄明光線が光の剣のように海を射し込んでいく。
奥から別の生き物がやってきた。人魚の男バージョン、マーマンだ。顔にタトゥーのようなカミナリ模様があり、ゴリゴリのマッチョだった。
私はその場を離れて水中から飛び出し、岸辺に腰掛けた。
嫌な予感は当たり、彼は追いかけてきて私の腹に覆いかぶさった。ゆっくりと顔を近づけてくる。
――あ、これはやばい。ちょっと待って、ちょっと待っ――。
…目が覚めると、家で飼っているネコが口元をぺろぺろと舐めていた。
美しいものを探している。この世で一番美しいものを。
「先輩、先輩。この世で一番美しいものって何だと思いますか」
「白雪姫の鏡?」
「そうですけど、あれ使ってるの白雪姫じゃなくて女王様ですよ」
いやあ日本語って難しいね。そんなふうにぼやきながら、先輩は考える仕草をする。それだけのことがいちいち様になっている。
「散り際の桜とか?」
「儚いものに美しさを見出すタイプなんですね」
「日本人はだいたいそうじゃない?」
「確かに」
うなずいて答えれば、「君にとっての一番美しいものは?」と先輩が言った。吸い込まれてしまいそうな、色素の薄い瞳がまっすぐに僕を見る。それを見て僕は、美しいな、と思う。思うからこそ、僕は答える。
「探しているところなんです、一番を」
それで先輩は納得したようで、「見つかるといいね」と言葉をくれる。そんな祈りすらどこか美しい。
僕だって、散り際の桜を美しいと思う。儚いものは美しい。でもそれ以上に、先輩はいつだって美しいから。
もしも、僕の人生で一番美しいと思えるものが、死に際の先輩だったらどうしよう。だけど、そんなときまで一緒にいられるのであれば、その未来も甘んじて受け入れようかなとも思う。
美しいものは確かにあると思うのだけれども、その美しいものを美しいと感じるためには心の余裕が必要なのだろうな。
#美しい