一ノ瀬

Open App

 美しいものを探している。この世で一番美しいものを。
「先輩、先輩。この世で一番美しいものって何だと思いますか」
「白雪姫の鏡?」
「そうですけど、あれ使ってるの白雪姫じゃなくて女王様ですよ」
 いやあ日本語って難しいね。そんなふうにぼやきながら、先輩は考える仕草をする。それだけのことがいちいち様になっている。
「散り際の桜とか?」
「儚いものに美しさを見出すタイプなんですね」
「日本人はだいたいそうじゃない?」
「確かに」
 うなずいて答えれば、「君にとっての一番美しいものは?」と先輩が言った。吸い込まれてしまいそうな、色素の薄い瞳がまっすぐに僕を見る。それを見て僕は、美しいな、と思う。思うからこそ、僕は答える。
「探しているところなんです、一番を」
 それで先輩は納得したようで、「見つかるといいね」と言葉をくれる。そんな祈りすらどこか美しい。
 僕だって、散り際の桜を美しいと思う。儚いものは美しい。でもそれ以上に、先輩はいつだって美しいから。
 もしも、僕の人生で一番美しいと思えるものが、死に際の先輩だったらどうしよう。だけど、そんなときまで一緒にいられるのであれば、その未来も甘んじて受け入れようかなとも思う。

1/17/2026, 2:50:12 AM