『目が覚めるまでに』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
その瞬間、全てを思い出した。小さなテーブルのみが置かれた空間。自分がそれを認識したのは十数年も前だった。最初こそ、空間の存在すらあやふやだったが、今や丸テーブルを叩くと音が出る。感触が戻ってくる。
「お前の瞳が青だって、最近気づいたんだ。僕の好きな色だよ」
「そうかい。一体キミは今まで私のどこを見ていたんだ?私の瞳は出会ったときから澄んだ海の色をしていただろう」
「僕、女の人はもっとお淑やかな方が好みだよ」
彼女の存在自体は、空間より先にあった。一番最初に見た映像は、意識の中で黒いモヤがただ揺れ、何かを訴えているだけだった。話し掛けても反応を返すだけで言葉は話さない。そこから日に日に声を出すようになり、人型をとるようになり、つい最近には黒髪と青い瞳の少女なのだとわかった。
彼女は実の姉と似て、高飛車な態度ばかり取る。
「この部屋の色も分かればいいのに。僕、未だにこの部屋が黒いのか白いのかわからないんだよ」
「そんな下らないことよりも、気にすべきことがある。キミが目覚めるまでの時間は有限なんだ。しかも最近は夜ふかしばかりして、ろくにスイミンジカンを取れていないだろう」
「ああもう!それはお母さんに散々言われたから聞きたくない!……それで、気にすべきことって何」
「キミが生きた中で必要だったのはテーブルだけか?もっと娯楽を増やしたらどうだ。ゲームとか、海とか、学校とか」
彼女は指折り数える。
「そんなコト出来るの?」
「出来るさ」
彼女の行動は良くも悪くも自分の想像の範疇を越えない。出来ると言っておきながら、やり方は示さないのがまさにそうだ。さっき上げた娯楽の例だって、自分が最近体験したものばかりだった。
「そもそも、学校は娯楽じゃ、」
「ねぇぇええ!!今、何時だと思っているのよ!?」
母親の怒声に飛び起きて壁にかかった時計を見る。家を出る予定時刻5分前だった。なんだ、まだ余裕じゃないか。
何か夢を見ていた気がするが、それが何だったか思い出せず、モヤモヤとした喪失感を覚えながら制服に着替えた。
[目が覚めるまでに]
お酒で酔って
あんまり、頭まわってなくて
[復縁しよう?]ん?え?
何言ってんの?
酒で酔ってるから迷いが出てきて
覚めるまでに選択したら幸せなのかな。
どうだろ‥?
『目が覚めるまでに』
ふわふわと漂っているような感覚。
ああ、これは夢だ。
そう感じながらゆっくりと目を開けば、そこは靄のかかった自室だった。
ああ、これは夢だ。
確信を持ってベッドから身を起こす。サイドテーブルには何故か湯気の立ち昇るコーヒーが置かれていて、紙とペンもある。
何か、何か書かなければいけなかった気がする。
でも何だっただろうか。
コーヒーを飲めば思い出せるだろうか。
君の目が覚めるまでにしておきたいことがある
まず窓を開けて
君の服を取り替えてあげる
それから
歯を磨かせて、
ご飯を食べさせる。
…何でか分からないけど、君、食べてくれないよね。
ごはん。
それから君をおぶって
お出かけする。
君はマイペースだから
歩いてくれないし何もしてくれないし…
世話が焼けるなあ。
全然目を覚まさないよね。
当たり前か。
本当はわかってるんだ。
君が起きない理由。
だって君のことは僕が……………
#目が覚めるまでに
クライ、フカイ。そんなココはどこだろう。なにも見えない。ただ、『雫の音』のみが木霊し静寂を飲み込む。これが夢であればどんなに良かっただろう。でも、何も知らない。何もわからない。何もいらない。そんなループしそうな思考の中雫は一定の速度で落ちてくる。私はなんだろう?
いくらかたった時間は変化をもたらす。今度は視界。雫が自分をすり抜けて見えることのない底に落ちていく。ただし、音がするのは一定のままだった。ここで自分は目を開けていたことに気づく。ただ、もう疲れた。私は思考を続ける。自分は何をしていた?
次はもうどれぐらい経ったかもわからない時。次は触覚。手足は付いている。僕は少し歩く。すると、景色が変わった。そこには大量の黒い何かがあった。触ってみると冷たく、異臭を放っている。そして、もう一つ。それを見た瞬間一瞬自分はよろけた。そこには【不適切な内容】があった。僕は一体何を【不適切な発言】?
-------- あなたは一体何をしたんだ----------
自分はそこにいて全てを見ていた。私は隠れるので精一杯だった。僕は絶望していた。定まらない。概念が。存在が。そうさせたのはあいつだ。白衣を着ているヒョロイが不敵な笑みで笑いながら体を刺していた男。そして刺されていた人物が紛れもない男で自分自身であること。わからない。そこで理解する。記憶がない。どうして。自分は何も知らない。どうなっている。女性の体つきの自分と顔がぐちゃぐちゃにされた自分がソコにたって笑っている。白衣の男と同じように。そして、三人は自分に近づいてくる。やめて。何も知らないのに。何もわからないのに。何も【モッテナイノニ】。もし、終わりを告げているのなら自分は目覚めるまでに……。自分の意識はそこで暗転する。
無機質な機械音が木霊する。そこには白い天井が入ってきた。扉の開く音がする。看護師が自分が起きたことに気づいたのか。慌てて先生を呼んでいる。嗚呼、どうして目覚めてしまったのだろう。自分は目覚めるまでに記憶を知りたかったのに。何も持っていないから。自分の人生は途中からだったから。そんな中、靴の音が近づいていることに気がつく。扉の方を見る。頭に激痛が走る。自分は親に殺されかけた。紛れもない白衣を着た悪魔に。そいつはそこに立っていた。こちらを見るなり広角を高くに上げる。そして、今までの自分の記憶をそいつは一言で言い表した。あれは夢ではなかった。男は言った。
「はじめまして、【哀れな悪魔さん】」
そいつの顔は酷く歪んでいた。
目が覚めるまでに
君と遊園地に行きたいな。
行ったことないって行ってたよね。
メリーゴーランドとか観覧車とか楽しい乗り物が沢山あるから、一緒に乗りたいな。
君はおばけとか怖いのが苦手だから、あえてお化け屋敷にも連れて行って怖がる姿が見たいなぁ。
あとは、お泊り会もしたいな。
僕友達を家に呼んだことないからさ、僕の家にお泊まりに来て欲しいかな。
他愛もない方を喋って、僕のおすすめの映画を見よう。
ファンタジー系の映画なんだけどね、魔法で無双しながら世界を救う物語で、王道だけどとっても面白いんだよ。
それで、ポカポカの温かい布団に入って、一緒に寝るんだ。
それで、あとは、あとはーー
「…ねぇ…僕まだ、君とやりたいこと、沢山あるんだよ?…だから、だからさッ!早く…目を覚ましてよ…」
君の目が覚めるまでに、君とやりたいこと、全部言い終わっちゃうからさ。
いつも料理を作ってくれる彼女に休んで欲しくて
彼女の目が覚めるまでに
朝食とお弁当を作る
彼女の寝顔を少し眺めてから
僕は動き出した。
この日のために
少しはおかずを作れるように練習したし、
料理と片付け並行してできるように
少しは頑張った。
まぁ初めてにしては上出来だと思う。
彼女がどう反応してくれるのか
ドキドキしながら僕は彼女の目覚めを待つ。
─────『目が覚めるまでに』
お前の目が覚めるまでにさ、俺たくさん準備しとくよ!
お前の好きなゲームだろ、お菓子だろ、あとアニメ!お前は絵も好きだよな!俺は絵が下手だけど一緒に描こうぜ!
俺の部屋は少し汚いからちゃんと少しずつ片付けてるんだぜ!!まぁまだ汚いけどな!
いつ目が覚めてもいいようにずっと準備しておくぜ!
前の約束を守るためにな!
(2つ前に書いた小説の続きです!)
目が覚めるまでに
ベッドの上に置いてある目覚まし時計がうるさいくらいに鳴る。
だが、鳴っても起きない。
目が覚めるまでに時間がかかるのだ。
私「うぅん…、まだネムィ…」
次の日がバイトがなかったときはすぐ目覚めないことがよくある。
私「ふふ、まだ起きないよぉ、グゥー。」
こんな調子だ。朝は弱い。
目が覚めるまでに時間かかるのだ。
終わり
「目が覚めるまでに」#15
毎日仕事や家事に忙殺される日々
今日も嫌なことがあったなぁ
と眠りについた、、、
夕暮れに初恋の人と複数名で話していた
見たことない人だけど、一瞬で気づいた、、、
中学の時に好きだった人、、
告白もできずにすぎてしまった酸っぱい思い出
初恋の人と話す絶好のチャンスなのに、
お互い違う人と会話している
なんだかもどかしいな、、、
その時、
ふと、私は夢を見ていると自覚し始めていた、、、
そろそろ夢が幻と消えていく、、、
夢が覚めるまでに
もう一度あの人とお話したい、、、
「目が覚めるまでに」
幼少期の記憶というものは酷く曖昧で、それが実際に起こった出来事なのか、それとも夢で視たものか、或いはそんなものは自分の中で作った幻想にすぎないのかもしれない。
個体差はあるのかもしれない。いや、そう簡単にできてしまっては困ることであるが、私は自慢ではないが、自分自身の記憶の改竄を簡単にできる。
改竄というと語弊があるが、例えばここに、事実Aがあったとして、その内容が気に入らなかったとする。そこで「こうであったらいいのに」と思う。
そりゃあそうだろう。気に入らない内容なのだから。
その思いを強くするうちに、事実Aは虚偽Bに侵食され、亡き者になる。
こうやって上書きした記憶は多分、多くあるのだと思う。
だが、「上書きした」という記憶があるだけで、それがどの記憶なのか、どういう幻想にすり替わったのか、記憶がないのだ。
果たして、それは記憶を上書きしたと言えるのだろうか。
コンピュータに置いて、メモリーを上書きしたところで、そのログは残るわけで、復元も容易だ(容易ではないものももちろんあるが)。
しかし、私の体にログが残っているわけでもなく、上書きしたという記憶だけある。復元もできやしない。
こうやって改竄した記憶だらけの私が、制御能力を失い、改竄したものが元通りになったら、自分をどこまで信じられるのだろうか。
目が覚めるまでに、私はどこまで記憶を上書きするのだろうか。
貴方が帰ってくるといいな....w
喧嘩が仲直り出来てたらいいな
全ていい方向に進んでたらいいのに.....
【目が覚めるまでに】
「目が覚めるまでに」
しっかり覚えておかないと
いい夢すぎて 目が覚めたらボンヤリしそう
貴方の目が覚めるまでに沢山の愛を耳元で囁こう。何時までもこんな幸せが続くと思うだけで幸せだ。「例えどんなに君の嫌な部分が見えても、例え何があってもずっと君の隣にいるよ。ずっと別れないよ。」何かある度に不安になってしまう私に、貴方は、いつもそう言ってくれる。だから、貴方との未来に、不安は、無い。むしろ貴方との未来が楽しみで仕方無くて、「早く貴方と暮らす未来に行きたい!」とばかり願う…こんな私だけど、これからもずっとこんな私の隣にずっといてね?永遠に愛してる💕︎
明日?
明日があるなんて、誰にもわからないよね
だから、
今日、いつも通り目が覚めたことも奇跡だし、
明日、いつも通り目が覚めるかもしれない、それも奇跡
当たり前になってることは
当たり前のように感じるけど
当たり前じゃないよってことを忘れないようにしたい
・・・っていうのも、
明日、
目が覚めたらキレイさっぱり忘れてるんだろうけどね
お題:目が覚めるまでに
カラカラ、からから、カラカラから。
引き戸の開閉音が風鈴の役割を果たすようになってしばらくする。もう時期引き戸は枯れ葉の音に変わる頃となった。
なぜここにいるのか、彼は自覚しないまま白いベッドの上で暮らしていた。消毒の匂い、机上一本の造花、レースカーテンに覆われた窓。この生活に十分満足していた。これといって不安もなかった。異質な安定がこの小さな部屋には存在しているから。そして甚く気に入っているものがあるから。枯れぬ花。数十枚の花弁が大きく広がった、淡いオレンジ色。花の名前も知らず、花言葉も知らない。ただ、形と色が好ましいと感じる。
そよ風に揺れるカーテンの影を映し、また、カーテンを開ければ空の色を含み造花は命を宿す。生きていないからつまらないわけではない。その花自体が生きていなくとも、彼はそこに命を見出し、機微を楽しんでいた。何より、その花はただそこにあり続けてくれる。それが彼にとって共感であり、拠り所であり、心であった。己を知らぬ彼にとって、造花だけが心だった。
カラカラ、カラからカら。コツ、コツ。
硬い革靴が床を弾く音が響く。初めて聞いた来客の音。
彼は白いシーツを眺めながらぼんやりとした不安を抱いた。己を知らぬ彼には、どんな人が会いに来たのか、なんの知らせか、なぜこの時期に初めて来客があるのか、見当がつかないから。
コツコツコツ、こツ、こつ。
戸惑ったような靴音にこれまたぼんやりと視線を上げる。茶色い靴、まっすぐ伸びた背筋、まだどこか幼さを残した顔の輪郭、見開かれた目。息を呑む音が聞こえた。見知らぬ青年が目の前で佇んでいる。
「よかっ、た……よかった、です、目が覚めたんですね。本当に、本当に良かった」
詰めていた息を吐いて、青年は胸をなでおろした。
声をかけてくれているのに、この青年が誰なのか分からない申し訳なさと居心地の悪さ。彼はおずおずと眉を下げて尋ねた。
「申し訳ない、忘れてしまって。名を尋ねても?」
「……わすれた?」
ピタリ。青年は瞬きすらしない。ただ、瞳孔だけが左へ行き、右上へ行き、また下がって左。
彼の言葉は青年を酷く動揺させる結果となってしまった。
──忘れたのですか。忘れたのですか、忘れたのですか!
猛烈な怒りを左手に握りしめ半ば睨みつけるような視線に、彼もまた、困惑していた。そして奥歯を噛み締め覚悟した。その左手で殴られることを。しかしその拳はゆるゆると解けていき、ストン、と指は垂れた。
青年は大量に溜まった涙を拭うこともせず、取り戻した瞬きでぼたぼたと床へ落とし。
「忘れたのですか、せんせい」
震え掠れた声で、先生、ともう一度。
分からなかった。
ふわり、ふわり、カーテンが膨らんでいる。
「……すみません、取り乱してしまって。年甲斐もなく八つ当たりだなんて、まだまだ子どもですよね」
しょうかしきれない。隠しきれずありありとそう示しているにも関わらず、それでもなんとか微笑む青年はとても理性的に見える。どうすることもできない彼にとってとても有り難い人物だった。なぜなら彼は何も分からないから。
「花瓶、借りますね」
青年は花を持っていた。
枯れぬ花。数十枚の花弁が大きく広がった、淡いオレンジ色。
「あなたが好きだと言っていた花ですよ。色、は……あなたに似合うと思って、僕が選んだんです」
花を見ながら柔らかく微笑む青年。
好きだと言っていた花。似合う色。造花。取り替え。水。ぞうか。違う。これは、生花だ。
「キミが」
「はい、先生」
ぼたぼた、カラカラ、からから、カラカラから、コツコツコツ、こツ、こつ、ぼた。ぼた。ぶちり。キラ、きら、こつ。
いつからここにいるのか。もう随分長い間いたような気もするし、たった数日のような気もする。
彼は揺れるシーソーの恐怖を思い出していた。跳ね上がり、宙に浮き、落下する。ぞわぞわ、ストン。何かが抜け落ちていく感覚。空洞。
「はい、先生」
青年は花を持っていた。寂しそうに、哀しそうに、懐かしむように、慈しむように。
「せんせい」
ぼた、ぼた、入り交じった感情で微笑んで「せんせい」と、空洞に水を注ぐように。
青年にとって大切なものを己は忘れているのだと自覚した。不安と期待を中途半端にぶら下げ惑わしているのが己だと自覚した。応えたいと思った。
彼は知った。待っていた。造花だけが心だった。
青年は花を持っている。
■■
水を、入れ替えなければならない。ここのところ、ずっと、行っていないから。あなたが慈しむ、花を、持っていかなければならないと、思っているから。あなたの心を、育てたいから。あなたはこれを、造花だと思っていること、人伝てに聞きました。その造花は、ちゃんと生きていて、あなたが愛した、ダリアです。先生、せんせい、あなたもちゃんと、生きて、いて。けれど僕は、未だ、信じられていないのです。あなたの目に映ってしまう、僕が、どうにかなってしまいそうで、怖くてしかた、ありません。だから、あなたが眠るその頃に、花を生けて、いるのです。あなたの目が、覚めるまでに、僕は、あなたのいる場所へ、赴いて、花を、あなたが愛した花を。せんせい、僕は、怖くて、嬉しくて、怒り狂いそうで、幸せで、心がいっぱいで、あなたになんと言えば良いのか、見つけられずにいるのです。わがままな僕を、あなたは、きっと、受け入れることも、知っているのに。すみません、先生、泣き止み、そうに、ありません。今日、あなたの目が、覚めるまでに、間に合いそうに、ありません。
■■
花を目に映し、息を吹き返すあなたを見て、ベッドに手を付き、身を乗り出そうとするあなたを見て、僕は今日、間に合わなくてよかったと、何度思ったことか。
■■
それはそれは慈愛に満ちた表情で、せんせい、と呼び掛ける。
「愛情のハグも、親愛のキスも、いらないんです。僕は手を握れるだけで」
彼の両手をすくい上げ、手のひらから指先までするすると滑らせ、なぞる。
「いいえ、僕達の関係は、こうして向かい合って、指先に触れるだけで、十分なんです」
そっと、そっと呟いた。囁く声は願いか、祈りか。
この青年を抱きしめてやらねば、とは、不思議と思わなかった。指先だけで十分だと、この青年の慈しみだけで十分だと、いやというほど伝わってくるから。それに応えたいと思う。
彼はそっと指を曲げた。
貴方が遠方へ出かけてしまう前に、
私は、周りを華やかにしておきます。
大空を羽ばたいた雲の色をした、
白い花が良いですか?
貴方と行った向日葵畑の色をした、
黄色い花が良いですか?
貴方の元気な笑顔から溢れる色をした、
元気な緑色も入れますか?
全部、全部、貴方の周りに。
どうか、貴方が遥か遠くに行くため
“目覚めるまでは”、
ゆっくり、休んでいてください。
私はすぐに、
貴方に会える気がしてなりません。
貴方の愛人なのですから、
もし会えたら、
あの笑顔で、私を迎えてくれますか?
決して、まだ来ないで欲しかったと
言わないでほしいです。
きっと、それは
私なりの愛情表現ですから。
愛しています。
【目が覚めるまでに】#5
私は目が覚めるまでに
幸せになる
この夢の中で絶対に
幸せになるんだ
現実では叶わないから
夢の中で
でも無理だった
今日も叶わなかった
いつもいいところで目が覚めてしまう
この前なんて悪い夢を見た
もう少し頑張ってる
〈目が覚めるまでに〉
「さあ、目が覚めるまでにここを出てしまわなくては。」
もう何年も前になる。母を亡くして日が経った頃、僕はひと夏をプラハで過ごした。仕事の都合という言い分で、父が僕を連れ出したのだ。
プラハは美しい場所だった。
太陽の花々と新緑が抑えられない幸福のように溢れかえり、石畳の街角にエメラルドの影を落とす。
雄大なヴルタヴァ川が古都の風を運ぶ、伝統的な
硝子細工のような城下町。流れる雲の一筋すら、
慈しみたい思いにさせられる。
だけれど10才だった僕には、そのどれもが退屈にみえた。年の割にこまっしゃくれていて、同い年の子どもたちの感性を冷めた目で見つめている、そんな子どもだった。
だから、旧市街で父とはぐれてしまっても、それが「迷子」だという認識はなかった。取りあえずここいら辺りにいれば万事ないだろうと、見知らぬ外国の土地であっても噴水の広場をふらふらしたりなんかしていられる余裕すらあった。僕に迷いはなかった。
観光客に混じってしばらくそうしていたが、父の姿はいっこうに見えない。燦々と照りつける太陽が そのうち暑くなってきて、僕は涼もうと古びた石の教会に入った。いつもは閉めきられている扉だが、その日はなぜか隙間ができていた。
中には誰もいなかった。チェコにきてから教会には散々行ったが、ここは特別暗く、お香の匂いも独特だ。神秘的な雰囲気に吸い寄せられるように、僕は奥へと進んだ。そうして気づけば、石像が立ち並ぶ静謐な空間にたどり着いていた。一人の老人が、
部屋の一角にうずくまっている。石像の足元に蝋燭を捧げているようだ。橙色の灯火がこぼれている。
やがて、おじいさんはくるりと振り返り、小さな僕をみつけた。
「ロストボーイ」
そう呟いてにたりと笑う。その年老いた笑顔をみて僕は初めてぞっとした。
「さあ、目が覚めるまでにここを出てしまわなくては。」
おじいさんは徐に近づき、僕の手をとった。
「覚めるって?」
「石像さ。彼らの怒りに触れないうちにね。」
「石が怒るものか。」
「それでも祈りつづけるのだよ、人々は。夢から
覚めても生きられるように。愚かだと思うかね?」
ぐいぐいと手を引っ張られてゆき、あっというまに光の下に放り出される。教会の外だった。眩しい
広場で、僕の名を叫ぶ父がみえる。まだ唖然としている僕に、しわがれた声が降りかかった。
「じゃあな、Lost boy(失われた少年).」
背後を振り返っても、おじいさんの姿は
そこになかった。荘厳な門扉に、にたりと笑う
ガーゴイルが僕をみつめている。
まだ少しだけぬくもりが残っている僕の手に、今度は父の大きな手が重なる。母さんが死んでから、
僕ははじめて泣きそうになった。
君の目が覚める前に、祝う準備をしよう。
目が覚めたとき、たった一人の君が生まれた大切な日。
おはよう。
そして、
「お誕生日おめでとう」