『病室』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
中学のときの友達が、自分の部屋のことを病室って言っていた。
近所で工事中だった空き地に家が建っていて、ははあ羨ましいねえこちとらそんなものごとにはなんの関わりもないなんて僻んでいたら、ふと思い出した。
団地住まいだった私を、家に呼んでまでして遊んでくれた友達のことだ。私には一軒家が珍しくて、家に上げてもらっただけではしゃいでいた。
その友達は明るくて活発で、友達が多くて、優しい女の子だった。だから聞き返したものだ。
「病室って、病気を治すための場所じゃん。ここ家でしょ?」
「そう。わたしにとっては家じゃなくて病院で、この部屋は病室なんだ」
「なんでよ」
「生きるための部屋だから」
「やっぱ家じゃん」
思い出しても当時も、厨二病だなーと思う。
だけどよくよく思い出してみると、あの部屋には彼女の好きなものはなかった。漫画とかアニメ雑誌とか、テレビとかが。だから私が漫画やらアニメ雑誌やらを少しずつ貸していたんだとわかった。だからうちよりもお金持ちであるはずの彼女に、私から貸していたんだって。
今頃どうしてるかな。メチャクチャバリキャリウーマンになってるかな。それでときどき、ウッホって二次元の妄想を膨らませたりしてるだろうか。
そうだといいな。
「病室」
青空だ。堅苦しいベッドの上から、ひどく大きな窓を通して外を見る。上の方の階だから、かなりの絶景だ。わたしが行ったことのある街並みが全て見えて、懐かしい気分になる。と同時に寂しくもなる。
もう行くことはないのだな、と。
#病室
病室
この瞬間に慣れることはないだろう。
無表情な機械の画面に映る、真っ直ぐな線。人が亡くなったことを意味する、この線。実際にこの線を見たことがある人はどれくらいだろうか。ドラマなんかでは、奇跡的に最愛の人の死の瞬間に立ち会える。立ち会うのが幸か不幸かはべつとして、そんなに運がいい人がどれほどいようか。
どんな死因であれ、人に思われながら死ぬことは、美しい死だと僕は思う。医師がこんなことを言うのは不謹慎かもしれない。しかし、美しい死というのは、それだけ難しいことなのだ。
いつ死ぬか分からない。覚悟は出来ていても、心の準備は出来ていないかも。死と、美しい死と向き合うことは、勇気がいる。そう、運以前に僕らの心の問題でもあるのかもしれない。
だが、僕らは生にも死にも向き合わなければならない。生きるのが、死ぬのが当たり前になってたまるものか。
死の瞬間だけではない。生きている瞬間もだ。その瞬間に慣れることはないだろう。慣れてはいけないんだ。
病室とは、病を善い方向へ向かわせるための所だ。
そう定義するなら、僕にとって病室は海であり、山であり、空である。同じように、僕の看護師は波であり、蝉であり、静寂である。
さて、僕は山に登り、空を突きぬけて海になった。
なのにどうしてだろう、快方には向かわない。
お題:病室
『願いと祈り』
ベットで眠る私の元へ
あなたはいつも逢いに来た
私はあなたに気が付かず
言葉の一言もあげられないのに
あなたは絶えずここへ来て
ただ一言だけ告げて去る
あなたが何を残して去るのか
確認なんてできないのに
私はあなたに何を残せるのだろう
私の中の灯火が消えゆくと知ってしまった時から
あなたは何かを祈っていた
その願いを私は知らぬまま
あなたを残してゆくのでしょう
それは、私の中の灯火が消えてから知ったこと
あぁ、愛しい人
あなたの願いなど知りたくなかった
私は何も残せていないから
それは私の願いでもあるのよ
もう私の声は届かないけど
でも口は動かせるから
かつてのあなたがくれたこの願いを
次はあなたに
『どうか(私の分まで)幸せであれ』
2日目 お題:病室
俺は昔から病弱で入院と退院を繰り返していた。今回も数日前から高熱が続き入院する事となった。なんでこんなに体が弱いのだろう。俺も友達と出掛けたりしたいのに…。今日も病院の隣にある小さな公園で遊んでいる子供達の笑い声が聞こえる。羨ましいな、と考えていると病室のドアが開いた。
「あ、起きてる。熱下がったの?体調はどう?」
彼女は幼馴染の由香だ。今回もお見舞いに来てくれたみたいだ。
「大丈夫。ついさっき熱が下がった所。」
「ほんと?よかったぁ…あ、リンゴ持ってきたの。食べる?」
「うん。ありがとね。」
彼女はカバンの中から予め切られたリンゴを取り出して俺に渡してきた。よく見れば彼女の手には少し傷がついていた。きっと不器用ながら頑張ってむいて来たのだろう。少し形が不恰好だがとても美味しかった。
「美味しい。」
「ほんと?頑張ってむいたんだ。早く退院出来ますようにって祈りながらね。」
「ありがとう。早く退院できるように頑張るね。」
それからしばらく最近起きた事などを沢山話した。病院は嫌いだけどそういう日も悪くはないなと思いながら。
病室
入院していたときのこと
となりのベッドから
はっくしょん
はーっくしょん
ぶぇーーっくしょん
とくしゃみが聞こえて
カーテンの隙間から
おばあちゃんの入れ歯が
転がりこんできた
別の日
昼食に冷やしうどんが出された
ふーふー
息を吹きかけながら食べる
おばあちゃん
なかなか楽しい入院生活でした
おしまい
病室
そこはいつ来ても、真っ白な部屋だった。
季節が冬だったのもあるが、天井から床に至るまで汚れと古くなって変色したところを除けば真っ白だった。
消毒液のツンとした匂い。何かの薬の匂い。
唯一明るかったのは、お見舞いの花と君の笑顔だった。
君はベッドの上で本を読んでいて、僕はリンゴの皮を剥く。紙が捲られる音とシャリシャリとリンゴの皮を剥く音が響く静かな部屋だった。
ー早く元気になって、雪遊びをしよう。
ー僕がリンゴのウサギを作れるようになるまで待って
いてよ!やっとまともな形にできるようになったん
だよ!
ーそんなの待ってられないよ!いつになるかわからな
いじゃん!
そんなくだらないことを言い合った病室。
死に限りなく近い空間で、僕らは生の約束をした。
ーちなみに、君は僕がリンゴのウサギを作れるようになる前に全回復し、僕はぶつぶつ文句を言いながら、君にせがまれて、ようやく作れるようになったウサギを作るのはまだ先の話。
ひらひらと揺れるカーテンの音。
ちょっぴり眩しい太陽の光。
今日も私の世界が動き始めた。
「多分病院ネタ書こうとしたら、実際に医療に携わってたり、入院・手術等々したことがあったりっつー『リアル』を知ってる人には、多分勝てねぇのよ」
『見てきたように嘘を書き』、が理想の俺だけど、どうしても実際に「それ」に触れた・「それ」を経験したことのあるメリットはバチクソにデカいわな。某所在住物書きは19時着の題目を見て、どうしたものかと天井を見上げた。
「病院じゃない場所に病室を持ってくれば、『これは医療ネタではありません』って逃げ道が確保できる気がするんよ。問題はどうやって病室を病院から引っ剥がすかよな……」
何故病院ネタを回避したいかって?そりゃ医療についての無知がバレるからよ。物書きは弁明し、どうにかこうにか物語を組んで……
――――――
最近睡眠不足っていう先輩が、通勤途中で倒れた。
熱失神。Ⅰ度の熱中症。
比較的軽度な部類であり、症状もだいぶ落ち着いているため、現在稲荷神社敷地内の一軒家の、エアコンがちゃんと効いてる部屋で、安静にしてる。
っていうカンジのメッセが、先輩のスマホから私のスマホに、「倒れたひとの発見者です」って前文と一緒に送られてきた。
軽度、失神が軽度?
軽度って頭痛とか喉乾いてくるとか、そういうことを言うんじゃないの?
失神と軽度の2単語が、私にはショック過ぎた。
居ても立ってもいられなくなった私は、メッセ読んですぐに時間休とって、その稲荷神社に駆け込んだ。
そこは思い出の神社だった。
6月28日に、7月9日。ホタル見に行ったり、不思議なおみくじ引きに行ったり、そこの飼い犬ならぬ飼い子狐に、先輩が顔面アタックされたり。
不思議な、とっても不思議な神社だった。
神職さんっぽい服の女のひとにスマホの画面見せて、事情話したら、「それを送ったのが私です」って。「毎度お世話になっています」って。
よくよく顔見たら、先輩が贔屓にしてるお茶っ葉屋さんの店主さんだった。ここが自宅なんだってさ。
「先輩、大丈夫?」
ザ・古民家な一軒家の廊下を案内されて進んでくと、奥の部屋のふすまに、白い画用紙がペッタリ貼られてて、そこには桔梗色のクレヨンで
『びょうしつ
ねっちゅうしょう てあてちゅう』
って、多分書きたかったんだろうな、と思われるサムシングが、ぐりぐりされてた。
「先輩……?」
ふすまを開けてすぐ見えたのは、フカフカしてそうな白い敷布団と、涼しい薄水色のタオルケット。
何かを一生懸命ペロペロ舐めてる子狐と、舐めてるあたりに丁度首振りで風のあたる扇風機。
それからようやく、その子狐が舐めてるのが、すぅすぅ静かに寝息をたてる先輩の首筋だって気付いた。
「睡眠不足が原因のひとつ、かもしれませんね」
ぎゃぎゃぎゃっ!ぎゃっぎゃっ!
イヤイヤの抗議みたいに鳴いて暴れる子狐を、両手で抱いて、先輩から引き剥がす神職さん兼店主さん。
「体調のバランスが崩れて、熱中症のリスクが上がる場合がある、そうですよ」
塩分補給の食べ物と、水分補給の飲み物ご用意しますから、ゆっくり召し上がっていってくださいね。
ジタジタバタバタの子狐と一緒に、私を案内してくれたそのひとは部屋から出てった。
私は、熱中症と体調不良のことをスマホで調べながら、久しぶりにちゃんと、しっかり眠れてるんだろう先輩が起きるのを、その部屋で待ってた。
〝病室〟が今日のテーマだという。
私ほど病室に色々な思い入れがある人もそうそうなかろう。
昔はよく病室に居た。
隣に居るのは父でも母でもなく点滴だった。
繰り返し流れるアニメーション映画をみて、
飽きたら点滴から落ちる雫を数えて、
疲れて眠る。
そんな生活だった。
私が通っていたのはクリニックだ。
つまり病床はあれど入院できないのだ。
毎週水曜日~金曜日のどこかしらで朝から点滴を打って、
夕方までずーっと1人だ。
もちろん、母はそばに居た。
母よりも近くに居たのが点滴だった。
小学校に上がる前にクリニックでは手に負えなくなり市立病院へ転院した。
良い悪いを繰り返し、
診察室の隣のベッドで横たわる日もあった。
小学5年で病気は急に牙をむき出した。
〝死ぬ〟ということを本気で覚悟した。
私は気管支喘息だ。
喘息持ちの人ならばわかって頂けるだろう。
あの吸っても吸っても酸素が回らないアレが永久になるのだ。
そう、
つまり酸素が吸えないのだ。
呼吸困難とはそうなのだ。
吸っているのに来ない。
息したいのに息が出来ない。
陸に居るのに溺れている。
そんな感覚だ。
そして、レントゲン撮って血相変えた看護師さんは
【今すぐ入院してください!手続きや準備は後でいいから、もう今すぐ入院してください!】
と声高に叫ぶように言った。
肺のレントゲン写真は撮ることはあってもそうそう見ないのかもしれない。
私はその時、肺が白いモヤモヤで覆われていたのだ。
肺が認識出来ないくらいの白い影だ。
それはそれは只事ではない。
通されたのは6人部屋のドアに近いベッド。
私に点滴した看護師さんが祖父と仕事をしたことがあると言っていた。
私の祖父はその市立病院の創立メンバーかつ副院長だった。
若い男性の看護師さんは驚いていた。
「おじいちゃん有名人?」
私は聞かされた話をした。
「おじいちゃんはお医者さんだった。」
するとその看護師さんが大層、祖父を尊敬していたようで
「おじいちゃんはお偉い先生だったんだよ。」
と言っていた。
その通された病室は私以外居なかった。
母はテレフォンカードのようなものを買ってきた。
*今どきの子はテレフォンカードすら知らないかもしれないが。
そのテレフォンカードのようなものを挿入口にさすと、テレビと冷蔵庫が動いた。
それからしばらくして私より2歳ほど下の男の子が入院してきた。
その子は何度か入退院を繰り返してるようだった。
その後に齢2歳ほどの小さな女の子がやってきた。
とても人懐っこい性格で、私をすんなり受け入れてくれたのだ。
日中は小さな遊び相手と遊んで、
夜は病気が牙を剥く。
小さな遊び相手の母親が私の母に言った。
【本当につらそうな咳をしてて……苦しそうで……】
つらそうでも苦しそうでもない。
牙を剥く発作が来る度に、夜を越せないと思っていたのだ。
白い壁に白い天井、
隣は点滴。
そんな病室は懐かしくはあるものの
二度と帰りたくは無い。
「病室」
私の枕とシーツは
若草色にして欲しい。
首を傾けるだけで
視線を向けるだけで
草原に寝転んでいるような
そんな気分になれるように。
それとも淡いピンク色にして欲しい。
きっと花畑に寝転んでいるような
そんな気分になれるから。
海の青はやめて。
私が目覚めることがなかった時
私の瞳を閉じた最期の顔と
青い海の色があなたの脳裏に残ったら
あなたはきっと海をみるたびに
私のことを思い出して泣くでしょう。
世界中の海を見るたびに
あなたが悲しい思いをするのなど
耐えられるものではないから。
だからね おねがいよ
私のこの病室の
この白いシーツと枕を
変えてほしいの。
私のさいごのおねがい
「病室」
『病室』
乾いた呼吸
ガラガラ音
お別れの時間がやってくる
モルヒネ
手間を減らす為?
苦痛を和らげる為?
お別れが言えないままの時間が流れる
脈
止まる
去年祖父が亡くなった。
だから今はまだ病室があまり好きじゃないかもしれない。
しかも今日は祖母の命日だ。
いつも私の味方をしてくれた2人が、今はもう現実に会ったり話したりできないことがすごく寂しい。
でも、本当はまだ亡くなったと思えていない部分がある。
まだ入院してて長いこと会えていないだけ、そんな風に感じる時がある。
いい年して死を受け入れられていない現実逃避マンである。
みんな死んでいく。私も死ぬ。100年後には今生きている人はほぼいないという。確かにそうだ。
100年って長い。それは人間の時間感覚だろうか。
今まで生きてきた時間も結構長かったと思う。でも最近めっちゃ早い。1日は長く感じるのに、1週間、1ヶ月、1年はめちゃくちゃ早い。
もう夏。いやーあっついなーと思ったら7月末だった。ついこの間の話だ。7月ならそりゃ暑い。体感では6月を生きておりました。
こうやって着実に死に向かって進んでいる。
生あるもの、死だけは平等っていうのはまさにその通りだと思う。
いやマジで最近月日の流れが早すぎる。恐怖。あっという間に年末になりそう。
あの子は、病室の窓から外を見てた
通りのむこうに薬局が見えて、住宅街があって、そのむこうには鉄塔があって
空が広かった
5階だったから見晴らしがよかったんだ
だけどあの子は、「もう来ないで」って
元気になった姿で再会したいって言うんだ
僕は受け入れた
会いたかったけど、我慢したよ
きっと元気になるって信じてたから
まさか、それが最後になるなんて夢にも思わなかったから
みんな心に
病を飼っていて
うまく閉じ込めている
つまるところ
私自体が歩く病室で
真っ白なカーテン
眠れない夜
染み付いた薬剤の香りを
内包している
[ニンゲンは病の器である]
題:病室
私がいくら頑張っても、誰もそれを分かってくれない。
お母さんや仲のいい友達は、私の頑張りを分かっていると言うけど、間違ってるよ。
わかってないよ何も。
何一つわかってないよ。
だから私の心の中は穴だらけ。
親友が居ても、友達が居ても、家族が居ても、
何故か私は独りぼっちに感じる。
それはまるで誰もお見舞いに来ない一人部屋の病室。
外から人の声がするのに、私の所までは来てくれない。
私は病室になんか居ないのに。
じゃあ私はどこに居るの?
もうなんか自分の居場所が分からないよ。
『病室』
きっと、息子は
これまでの私を見てきたんじゃないかと
時々思う。
男の子だと分かったのは
速かった。
珍しい速さらしくて。
出産準備は、ゆっくりできた。
エコー写真をうけとり
看護師さん、先生と笑った。
恥ずかしそうに
顔を、両手で、覆っていた。
何ミリぐらいか
お腹の中で形成されていく姿
産まれ。
生まれていく日々。
私は、病室で
結婚後初めて一週間近く家事をせず
私は、病室で
誕生日を、むかえ
病室で、息子が「息子」になり。
夫が「父親」になり。
私が「母親」になった。
おはよう。今日は朝からこんなに食べれたのよ!
おはよう。今日は天気がいいわね。外はあつかった?
おはよう。窓を開けてくれる?とても気持ちいい風ね。
おはよう。昨日の担当の人は新人さん?すぐ顔おぼえちゃったわ。
おはよう。今日は旦那が来る予定なの。先生のお話があるんですって。
おはよう。もうこの朝ごはんさげてもらってもいいかしら?
おはよう。昨日は咳がひどくてなかなかねれなかったのよ。
おはよう。横向きになりたいわ。
おはよう。今日もよろしくね。
おはよう。
おはよう。
おはよう。
………
「おはようございます。本日の担当します。よろしくお願いします。やっとお家に帰れますね」
@病室
私の部屋は、気づいたときからこの病室だった。どこを見ても白とは無縁の部屋で、私にとっては馴染みの自室だが、お父様はここを「病室」と読んでいる。
いつから私はここにいただろう。小さい頃からずっとかもしれない。でもその時の記憶は全く無い。あってもいいはずのお父様との思い出も、この家のことも、どうしてかよく分からない。それに私はなんの病気だったんだっけ。それも分からないまま長いことこの部屋で過ごしてきた。お父様はいつも私を気にかけてくれる。体の弱い私が人並みに歩けるようになるのを今か今かと心待ちにしている。お父様の飲ませる薬はどれも変わった味がするものばかりだけど、飲んだあとは気分が軽くなる。寝たきりの私を見兼ねたお父様は、ベッドの中でもお洒落が楽しめるようにと、いろんな装飾品を持ってきてくれた。綺麗になるお薬も飲ませてくれた。
ある時一度だけ、鏡越しの私を見せてくれた事がある。化粧もしていないはずの肌は透けるように白く、髪は漆黒に照り光り、顔立ちは妖しいほど整っていた。
「これが……私……?」
どれほど過ごしたかも分からない長い日々の中にいたにも関わらず、私は私の顔を知らずにいたのだった。
「お前は生まれた瞬間から母の美貌を受け継いでいた。まさに冥府の底から差した奇跡の光のようだった。」
お父様はそう言って私を抱きしめた。
「お前は間違いなく私の娘だ。永遠に傍にいるぞ、アイラ。」
お父様の温かな腕に包まれて、私はずっとこの幸せが続くのだと確信した。手元に置かれた鏡の隅にちらりと映る、首筋にぼんやりと残った細い跡を、心の隅で気にしながら。