サチョッチ

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 私の部屋は、気づいたときからこの病室だった。どこを見ても白とは無縁の部屋で、私にとっては馴染みの自室だが、お父様はここを「病室」と読んでいる。
 いつから私はここにいただろう。小さい頃からずっとかもしれない。でもその時の記憶は全く無い。あってもいいはずのお父様との思い出も、この家のことも、どうしてかよく分からない。それに私はなんの病気だったんだっけ。それも分からないまま長いことこの部屋で過ごしてきた。お父様はいつも私を気にかけてくれる。体の弱い私が人並みに歩けるようになるのを今か今かと心待ちにしている。お父様の飲ませる薬はどれも変わった味がするものばかりだけど、飲んだあとは気分が軽くなる。寝たきりの私を見兼ねたお父様は、ベッドの中でもお洒落が楽しめるようにと、いろんな装飾品を持ってきてくれた。綺麗になるお薬も飲ませてくれた。
 ある時一度だけ、鏡越しの私を見せてくれた事がある。化粧もしていないはずの肌は透けるように白く、髪は漆黒に照り光り、顔立ちは妖しいほど整っていた。
「これが……私……?」
どれほど過ごしたかも分からない長い日々の中にいたにも関わらず、私は私の顔を知らずにいたのだった。
「お前は生まれた瞬間から母の美貌を受け継いでいた。まさに冥府の底から差した奇跡の光のようだった。」
お父様はそう言って私を抱きしめた。
「お前は間違いなく私の娘だ。永遠に傍にいるぞ、アイラ。」
お父様の温かな腕に包まれて、私はずっとこの幸せが続くのだと確信した。手元に置かれた鏡の隅にちらりと映る、首筋にぼんやりと残った細い跡を、心の隅で気にしながら。

8/2/2023, 1:03:56 PM