『理想郷』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
くしゅん、と小さなくしゃみが聞こえた。
「あ。ごめん」
瞬間、反転する世界。くらりと歪み暗転する。
「やっちゃった」
「まぁ、やってしまったものは仕方ないな」
目を閉じ、開く。
変わらぬ暗闇に一歩だけ足を踏み出せば、ぱっと電気が点くように一瞬で明るさが戻ってきた。
眩しさに目を細めつつ、周囲を見回す。
先ほどまでいた場所とは違う、しかし予想していたものとはまったく異なる光景に、意味が分からず眉が寄る。
「ささら」
「ごめんね、ゴシュジン」
「それはいいんだが…何を喰った?」
問われた犬は少し考える素振りをする。見上げる目がどこか申し訳なさそうに見えて、嫌な予感に耐えるように息を呑んだ。
「えっとね、なんか人の理想を写して、作って閉じるやつ」
「分かった。あと、これはどうにか出来るやつか?」
「うん。ちょっとだけ時間がかかるけど、ちゃんと元に戻せるよ」
その言葉に頼む、と一言告げて、邪魔にならないように少し離れて様子を伺う事にした。。
戻せるという事は制御が出来ているのだろう。
少し前に、社に侵入してきた澱みに中てられ倒れている間に、犬は猫に色々と仕込まれてしまったようだった。
化生や澱みを喰らい、消化し己の力の一部にする。
猫の教えがよかったのか、それとも犬の素質なのか。人の姿を取る事も覚えた犬に世話をされ、回復した頃には犬は立派な妖となっていた。
「ゴシュジン」
「どうした?」
「いつでも戻れるけど、少し見ていく?ゴシュジンの理想」
ゆるり、と尾を振って周囲を一瞥し、こちらに向き直る。
見ていくか、と言われても、見たところでどうしようもないものだ。実際に手に入るわけでもない。
それにきっとこれは願う理想の余剰分なのだろうから。
戻ろう、と声をかけるより早く、ばちんと音を響かせて空間に罅が入る。
ぴし、びしり、と。小さな罅は段々に大きくなり、隙間を広げ。人一人が通れる程の大きさになった隙間から、するり、と猫が入り込んできた。
「いつまで遊んでいやがる、くそ餓鬼共」
ふん、と鼻を鳴らし、吐き捨てる低い声音にすまないと声をかける。
「なんだこれは」
声に呆れの色が混じる。
周囲のそれらに実際に呆れているのだろう。苛立ちに鋭くなっていた気配が鎮まっていく。
「俺の理想を写したものらしい」
「随分と安い理想だな。俗物的で実にくだらねぇ」
確かにな、と声に出さずに同意した。
近くの棚に乗るそれを手に取り苦笑する。
猫の最近のお気に入りの缶詰。側面には大きく九割引の文字が書かれている。
辺りを見渡せば、猫や犬の好む食事やおやつが置かれ、そのどれもに缶詰と同じように捨て値で売られていた。
「理想だというなら、もっと他にあっただろうが」
「現状に不満はないからな。これ以上を望みようがないからだろう」
不満がないというより、満足しているのだ。猫と犬のいる生活に。
完成してしまっている自分の世界に、新しい理想郷は必要ない。
実際に満たされてしまっているから、写せるものが余剰分の安直な願いしかなかったのだ。
「くだらん」
たん、と猫の尾が床を打つ。
こちらを一瞥し小さく鼻を鳴らすと、こちらに背を向け入ってきた隙間へと歩き出す。
「わっちは戻る。精々この矮小な理想を堪能する事だな」
「いや、戻るよ。九割引はすごく魅力的だが、現実でないのだから意味はない」
それに、と言いかけて止める。
迎えに来てくれたのだから、と言葉にするのは簡単だ。だが普段から素直でなく、しかも荒魂の方の猫にそれを伝えても言葉を受け取ってはくれないのだろう。
振り返る猫の尾が、たん、たん、と苛立ちを表すかのように床を打つ。
小さく息を吐いて、気になっていた別の言葉を口にした。
「最近、何だか周りが騒がしくなっている気がするから。不安定な歪にいるよりも、現世にいた方が安心する」
気のせいかもしれないが、と付け加え犬を呼ぶ。
萎縮し尾を下げながら静かに側に寄る犬を、安心させるように撫でる。横目で様子を伺えば、荒々しくはないが鋭い気配を纏う猫の金と青の眼に射竦められた。
「早く戻るぞ。凡庸な貴様でも分かる程であるのならば、楽観視は出来んからな」
「何を言っている?一体、何が」
「早くしろと言っている、糞餓鬼共」
何か起こっている事は確かなようだが、それを説明する気はないようだ。
犬を促し、術を解かせる。くらり、と歪む景色の端で、猫が険しい顔をして遠くを見ているのが気になった。
「千歳《ちとせ》」
「しばらく戻らん。貴様は犬から離れるな。それと犬」
「は、はいっ!」
「これに傷一つ負わせたなら、分かっているな」
「分かってますっ!必ず守ります!」
犬の言葉に頷いて、猫の姿が揺らいで消える。
歪む景色が戻り、元の寂れた社に戻った事を確認する。
詰めていた息を吐き出す。立ち上がり、社へと向けて手を合わせた。
「ゴシュジン?」
「心配する事はないんだが、どうしても、な」
猫の姿をしたこの社の神。
自分のような人とは違うと分かっていて尚不安に思うのは、きっと弱いからなのだろうけれど。
社に願う。猫の無事を。
そして猫の帰りを無事に待つ事を誓う。
「ボク、ちゃんと守るからね」
「頼りにしている。じゃあ、帰ろうか」
犬と共に家路を急ぐ。
暮れる朱い空がいつもより昏く見えて、振り払うように頭を振った。
20241101 『理想郷』
「理想郷」
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!
……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。
その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?
それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。
小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。
そして、構造色の少年の名前と正体が分かったよ。なんと彼は、父が考えた「理想の宇宙管理士」の概念だった。概念を作った本人が亡くなったことと、ボク以外の生きた存在に知られていないことで、彼の性質が不安定だった原因も分かった。
ボクが概念を立派なものに書き換えることで、おそらく彼は長生きするだろうということだ。というわけで、ボクも立派に成長を続けるぞ!
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「理想郷」
ぼくが自分自身を知ったことで、ここで果たすべきことが終わった。だからもう戻る時間だ。でも、きっとこれを教えてくれたその人とは二度と会えなくなる。
「おとーしゃーん!」
おそらく彼ら……みんなも同じで、今のように都合よくこの世界に来ることなんてできない。
だから、せめてそのひとのこどもたちに最後の時間を楽しんでもらわないと。ぼくができるのはそれだけだ。
「⬜︎⬜︎!どうしたの?」
「おとーしゃんとあしょぶー!」
「……もう戻る時間だよ。」「んー?」
「そうだね。お父さん、少しの間だったけれど、会えて良かったよ。本当にありがとう。」
「んー……?」
「おとーしゃん、いっちょにかえるー!だっておうちあるよ?」
「うん、そうだね。……でも、君と私では、住む世界が違うんだ。だからね───「やー!」
「やだー!おとーしゃんもおかえりなのー!」
小さなこどもは泣きながら父親にくっついて離れようとしない。
「……ごめんね。」
「ちゅぎ、いつあえる?」「……わからない。」「やだ!」
……せっかく会えたのに、あっという間に引き剥がされるなんて、可哀想だ。
「ねえ、ニンゲンさん。」「……あ、ぼーっとしてた。」
「この世界にまた来られる方法はあるのかな。」
「あんたは時間かかりそうだけど、自分はあとほんの一瞬でまたここに戻ってくる羽目になるだろうな。」
「あ、そうか……ぼくたちに比べてきみの寿命は短い。その、死ぬ以外でここに来られる、そんなことはあり得るのかな。」
「奇跡が起これば……とか?」
「おそらく不可能ではないでしょうね。」
「あ、ぼくたちを案内してくれたひとだ。」
「ご無沙汰しております。」
「その、不可能ではない……ってどういうことですか?基本的に生から死は一方通行で、それを覆すことはあり得ない。」
「確かにその認識で問題ありません。ですが、あなた方が会いに行くのではなく、彼の方から会いに来て貰えばいいんです。」
「え?」
「ほとんど知られていないのですが、生前公認宇宙管理士だったものは、仕事50,000年以内であれば、公認彼岸管理士の資格取得が可能です。」
「公認彼岸管理士になれば、職務上この世とあの世を渡り歩く能力が必要となりますから、その能力を身につけて頂ければいいんです。」
「ここだけの話、我々は人手不足でして、ぜひ人員を増やしたいんです。」「なんか生々しいな。」「すみません。」
「じゃあ、それをあのひとに伝えたらいいんじゃないか?」
「……だってさー!」「わー!おとーしゃんがんばってー!」
「私も一肌脱がないと……!」
「ボクが盗み聞いていないわけがないだろう?そんな重要なことを!」「さすがはマッドサイエンティスト……。」「褒め言葉なら素直に受け取るよ?!!」「あー、うん。」
……ふう、よかった。ニンゲンくんはどうもあんまり自分の命に執着がないから、もしかしたらこっちの世界を理想郷かなにかと勘違いして、命を軽視したことをするかもと思ったんだ。
ここはあくまで彼岸、あの世だ。
この世を退いたものたちの、終わりなき世界。
決してよい存在ばかりがいるわけではない。
───少なくとも、管理士が必要な程度には。
だからせめて、生きているうちに楽しいことを一緒にしたいな。
どうかこれからもよろしくね?
ボクだって、後悔はしたくないからさ。
To be continued...
西暦無量大数年
人類は唯一の理想郷へと至っていた。
太古から続く中性化の波に抗うことができないと判断した人新世の人類たちは、文明の停滞を恐れた。
その対策として、全ての生産活動ひいては経済をも人工知能と機械に任せるべく新たに機械文明を創造した。
文明の移行には数極年かかったが、今現在、人類は何不自由ない安寧な人生を送っている。
食事や睡眠などは脳が欲を知覚すれば、その信号を受信した機械たちが都度対応を行い。
筋力が低下すれば、薬と外部からの刺激によって適切な身体を保つ。
意識が覚醒し、重い瞼を重力に逆らい僅かに開ける。
無機質な白い空間。ほかに見えるのは自然光を取り入れるための小さな窓。
左側から聞こえてきた音を目で追うと、管を通して何らかの液体が体の中に入ってきた。
途端、気持ちよさとともに体が沈む感覚にとらわれる。
理性も感情も揺らぐことのない、まどろみの世界
今日もまた人類は眠る。
『理想郷』
「理想郷」なんて無いと思う…
人の欲や願望が叶っても
また次々に新しく色々な
欲求は湧いてくる…
だから、満たされる事はない
服を買ってもまた新しい服が
欲しくなり…
お金を手にしても更に手に
入れたくなるだろう
理想郷があるとしたら
全ての欲望に振り回されず
今に満足し小さな幸せを
感じられる…
そんな純粋な心を手に入れた
時だろう…
理想郷
(本稿を下書きとして保管)
2024.10.31 藍
たくさんの人に
注目される場所は
昔から
ニガテだ。
お腹が痛くなって
声が震えて
頭が真っ白になって
その場が
たとえ
終わったとしても
あれは
良くなかった?
こうできなかった…
今度は
ひとり反省会が
止まらない。
注目されず
叱責されず
心が穏やかで
身体な健康で
やるべきことを
粛々とできる
そういう
職場で
働きたいなー。
#理想郷
《理想郷》
※恋愛感情における偏見はありません。個人ごとにどう受け止めているかの問題と思っていただければ幸いです。
「ちょっと、そこのあなた。」
あ、またこの声だ。
最近軍の本部で、私が一人で彼の執務室から出てしばらく廊下を歩いていると、背後から不意に呼び止められる。
振り向けば、そこには予想通りの女性の姿。
私より年上…彼よりも10歳くらい年上かな? 背も私より少し高く、出るとこ出て引っ込む所は引っ込んでる、ツリ目気味の美人な人。
その人は、私が呼び掛けに対して振り向いたのだと認識した瞬間にビッと私の顔を指差し、鋭い視線と堂々とした態度で私に告げる。
「あなた、あの方に纏わりつくのいい加減にやめてくださらないかしら?」
ここ最近、私が一人になるとこの女の人にちょくちょく言われ続けてる言葉。
彼と別れてほしい、そういう意味なのかな。いつも一言一句同じだから、それ以上は汲み取れないけれど。
この人の言葉からは彼への信奉は感じられるけど、恋愛感情は今ひとつ感じられない。
でも、私が彼に纏わりついてると言われても。
そもそも私と彼の同居の理由は、私が闇に魅入られた者として彼に監視されているから。
この帝都ならば一定以上の権限を持つ彼が、何かあった時に私を処断可能にするために実行したことだから。
そう。同居は彼が言い出しっぺだし、お付き合いすらしてないんですよ。私と彼は。
ええ、それはドライな関係だと思いますよ。
彼に片思いしている身としてはそれを都度思い起こさせられて、色んな意味でメンタルが削れるんですよ。
まあ、最近はかなり彼に優しくしてもらえてるな、とは思うけれど。
彼の視察にも関係のない所に連れて行ってもらったり、一緒にお茶を飲みに行ったり。
…最初の頃に比べたら、彼の笑顔が凄く柔らかくなったと思ったり。
でも、それは彼が義に厚くて礼儀正しいからであって。
たぶん、いや絶対に私が相手じゃなくてもそういう態度で接する。
だから、絶対に勘違いはしない。
ここ最近は連日でこの発言を浴びせられるから、ある程度は慣れた。
けれど今一度自分の立場を認識させられて微かにへこんでいる隙に、その女の人は再度私を睨み直してくる。
「いいですわね? さっさとあの方から離れてくださいましね。」
そうして、足早に女の人は去って行く。
私の返事は何一つ必要ない。全身から、行動からその態度を露わにして。
「ふぅ…。」
私は、ため息を吐いた。
以前にも、似たような事はあった。
だけどその時は別の女の人達が3人位で現れて、内容も『身分が卑しいに違いない私は、彼に相応しくない』と、理由もはっきり言ってくれた。
だから、私自身も対応がしやすかった。
影でこそこそ集団で一人を追い詰める、身分差別発言をする。それは彼が一番に嫌うことだと、その人達を突っぱねられた。
でも、今回は違う。
単身で正々堂々、真正面から私に話をしてきている。
内容は唐突で理不尽だけど、理由が分からないしすぐに立ち去るから返答のしようもない。
しかも相手は、私より上な彼よりもかなり年上。
身分を考えれば見合い結婚の対象になり得る年齢差だけど、どうもその目的でもないみたい。
なんだろう?
なんか厄介なことになったなぁ。
シンプルに、感想はそれだった。
そんな事を考えつつ私は軽い用事を終えて、彼の執務室へ戻る。
この状況も監視の一環なので、今ではもう毎日のルーティンになってる。
「今戻りました。」
そう声を掛けて入室すると、彼が机で書類の束を纏めている。今日の業務が一段落したみたい。
「おかえりなさい。ちょうど切りのいいタイミングなので、今日はこれで終わりにしてコーヒーでも飲みに行きましょう。」
トントンとリズミカルな紙束の音をさせながら、ふんわりとした笑顔で彼が私に言った。
こうして効率よく仕事が片付くと、どこかで気分転換をすることが増えた。
私と同居をしていなかった一人の頃は、真っ直ぐ帰宅して勉強や自主訓練をしてたらしいけど。
「最近、元気がないように見えましたので。」
彼が書類から私に視線を向け、こう言ってくれた。
態度には出ないようにしてたつもりだったんだけど、見抜かれちゃったか。
でも、私に気を使ってくれてる彼が本当に優しくて、嬉しい。
さっきの出来事で萎れた心が、彼のおかげで元気になった。
「ありがとうございます、喜んで。」
その嬉しさから、私も思わず顔が綻ぶ。
そうして彼と一緒に本部の外に出て、並んで道を歩く。
今日はいつもと違う店に行ってみようかと、いつもとは違う道を辿って行った。
大通りからは少し外れた奥まった所に、ひっそりと目立たないけれど美味しいコーヒーを淹れてくれるお店があった。
帝都どころかこの世界に来て間もない私がこのお店を知るはずもなく、彼も最近初めてこのお店の存在を知ったそう。
お店の外まで漂うコーヒーの香り。雰囲気も凄く素敵。
店に入ると、穏やかそうなマスターが丁寧な仕草と挨拶で私達を迎えてくれた。
マスターの案内で、彼と私は奥の席へと誘導される。
お店の中は空いていて、ほとんど誰もいない。今はピークタイムじゃないし、これから混んでくるのかな。
奥へ進むと、そこから私の視界に入る席に座る人がいる。目立たないように入口にひっそり背中を向け、その人はコーヒーを目の前に夢中で本を読んでいた。
え…あの人…さっきの女の人だ。
「…あ…」
私はつい、その視界に入った情報に反応してしまった。
ふと脳裏に蘇る、本部でのやり取り。
不意を突かれたので、感情が自分の表に出るのを止めることもできなかった。
「どうかしましたか?」
そんな私に気が付いて、彼が同じ方向に視線を送る。
さすが、元実戦で動いてた軍人。彼の視線は素早く正確に、私の視線を追っていた。
そして、何かに気が付いたように彼の動きがそこで止まった。
まずい。これはあくまで、私の問題なのに。
そうは思ったけれど、既に時は遅し。
あの女の人に、彼も気が付いてしまった。
自分の未熟故の反応に後悔を抱きながらも女の人から視線を逸らせずにいると、コーヒー店のテーブルとしては相応しくない情報が目に入った。
20cmくらいかな。そのくらいの高さに積み上がった本が、女の人のテーブルに置いてあった。
本1冊の厚みとしては、5mmもない。ページ数の少ない本。
見える背表紙は、全部同じ紙で同じ配色。
…もしかして、全部同じ本?
その異質さに私は眉を顰めて、とりあえず彼の方を見る。
どうも彼もその妙な状況に気が付いたみたいで、女の人からテーブルの上の本に視線が移動してた。
何かこう、引っかかる。
私が記憶の奥底からその引っかかりの情報を抜き出そうとしていると、それの隙を縫うように女の人の独り言が耳に入った。
「ふふ…ふふふ…『あの方』にはこんなお相手が相応しいのですよ…」
彼の名前だ。
何かの本を読みながら、女の人は嬉しそうに恍惚とした声色で彼の名を呟いている。自らの想いを露わにして。
私だって、自分が彼に相応しいとは思ってない。でも…何も知らない人に私のこの想いを否定はされたくない。
私は、悲しくなってついと視線を反らした。
その瞬間、私の肩にポンと暖かい感触が。
そこに視線を向ければ、ずっと隣に立ってた彼の手が。
どうしてこんなことを。でも、その手の温もりが凄く嬉しい。
切なさと嬉しさでないまぜになった気持ちをその手に向けていると、続いて独り言がまた聞こえてきた。
「ここにこそ、あの方の理想郷はある…『あの方』はこんな人に愛されるのが幸せなのですよ…年下、ましてや女など笑止千万…」
んんん?
最後ちょっと聞き捨てならないような、聞き捨てたほうがいいようなフレーズが耳に入りましたが?
あまりのとんでもない情報にバッと隣を見ると、彼が呆然としてる。
それはそうよね。私も意味が分からな…くはないけど。分かりたくなかった。私も呆然としたい。
すると、少しの後に意識を取り戻した彼が素早く動いて女の人に呼び掛けた。
「ちょっと失礼します!!」
彼はそう叫ぶように呼び掛けて、女の人の本を取り上げた。
「…! あなたは…!」
女の人は目元を赤らめつつ、叫びかけた声を自分の手で口の中に閉じ込めた。
先程呟いていた張本人が、目の前に突然現れた。そしてここは、他人の施設内。騒ぎを起こすのはまずいと踏んだみたい。
口調からそれなりに上の方の位の女性なんだろう、その悲鳴を防いだ判断は位に見合った正確なものだった。
一応ですが、彼はそれなりの地位にいるので不審な行動の取締もできる立場ではあるのです。
あるけれど…ちょっとその権限の利用が正当かどうかの線引の意見は、今の私からは控えさせていただきます。
ただ、彼自身に直接関わる事態ではあるので…。
それはともかく。
彼は取り上げた本にサッと目を通した。私も並んで、横から覗き見た。
どうも今回の騒動の一端のようだもの。私は確認する権利、ありますよね?
そして目にした本の中身は、かなり細身に描き上げられた彼がいわゆるガチムチの男性と抱き合っているものだった。
※相当控えめに表現させていただいてます。ご了承ください。(お辞儀の画像)
女の人は、慌ててテーブルの上の本に手を伸ばしている。
見たところ、同じ表紙のもの。
あ、このイラスト集…薄い本だったのね。この世界にもあるのか、そういうの。
いや、人がいるところに創作あり。文学でも普通にあるしね。
というか、この相手の男性、そもそも誰?
そして、今までのこの人の態度も理解ができた。
恋愛感情ではない。それでも彼を信奉するような口調。
そんなこの人が、私に彼から離れてほしいと言った理由。
なるほど、そういうことだったのね。
納得はしないけど。
「あ…、あ、あ…。」
私の隣では、彼が顔を真赤にさせながら慄いている。その身体を震わせる様は、まるで誰も応答しないスマホのバイブレーション。
それはそうよね。
私も驚きはしたしその内容の濃さにかなり引いているけれど、隣の彼の心情を思えば不思議と冷静になれた。
動揺している人がそばにいると、自分は冷静になれるの法則。
本人が一番ショックだよね。自分が題材になってる、年齢制限最高値の本だもの。これは、シンプルに怖い。
あとは本人の恋愛観の問題だけど…そこを彼に真正面から聞けているなら、私は自分の片思いをここまで拗らせていない。
と、私が状況を分析していると。
「嬉しい! あなた様御本人にこれを見ていただける日が来るなんて!」
顔を紅潮させたあの女の人が、テーブルの上の本を1冊手にしながら彼に迫っていた。
それはもう鬼気迫る勢いで彼に詰め寄り、持論を捲し立て始めた。
「美しくて賢くて強いあなた様には、この彼のような逞しい男性こそがお似合いなのです! こちら私の自信作で…」
ちょちょちょ。待ってーー!!!!
あまりの怒涛の展開、女の人の迫力に、私は頭も身体も動かなくなった。
これ、止めたいし止めたほうがいいんだろうけど、どうしたらいいの?
彼も何が何やらどうしたものなのか、動きが止まってる。
止めなきゃ…止めないと…彼が困ってる…それ以上彼に近寄らないで…触らないで…
私の頭の中が暗い思考に満たされ始めた、その時。
ぷちーん。
私の隣から、そんな音が聞こえたような気がした。
「発禁! この本は発禁に!!」
冷静さを失った彼が、手にしていた本を片手で握り潰しながら訴え始めた。
鬼のような形相…こんな彼の顔、初めて見た。
物凄く必死になって女の人から距離を置きつつ、彼は全ての薄い本を取り上げようとし始めた。
女の人も自分の描いた本が彼自身から否定されたからか、これまた強い調子で『自分の考える彼の幸せ』について主張を始める。
「あなたの思想を否定するつもりはありませんが、僕の考えや意思とは全く違う内容の本を発行するなど言語道断です!」
そう言いながら、彼は女の人に説教をし始めた。
そっか…。少なくとも、あの本のような男の人やあの女の人がライバルになることはないわけか…。
こんな時に、自分の心を守りに掛かってホッとしてしまう。
嬉しいけれど、こんな自分はやはり彼には相応しくない。
目の前の喧騒とは真逆の音のない暗闇に心が呑まれそうになった時、背後からふわりと芳しい香りがした。
「来ていただいてありがとうございます。こちら、サービスです。」
振り向くと、マスターが私達の座るはずだったテーブルにコーヒーを2人分、ことりと置いていた。
ミルクピッチャーと砂糖の入った小瓶、そして美味しそうなクッキーが乗ったお皿まで一緒に。
ただのサービスにしては立派過ぎる内容に、私は逆に尻込みした。
「いえ、申し訳ないです。ここまでしていただく理由もありませんのに…。」
カップを見つめると、香り高い黒がそこには広がっている。
色に罪はないのに、私は自分の心の醜さをまた思い起こしてしまった。
「とんでもない、理由はおおありですよ。本当に助けられましたからね。これぞ神の采配というものでしょうか。」
そう言ってお辞儀をするマスターの横から、げっそりと窶れた彼が戻ってきた。お説教も終わったらしく、大量の本を小脇に抱えている。
彼はその本を私達のテーブルに置くと、またさっきと同じようにポンと私の肩に手を置いてくれた。
その手の暖かさは優しくて心惹かれるけれど、今の私にはあまりにも勿体なさすぎる。
そんな私達を見て、マスターはまた丁寧に深くお辞儀をした。
そして渋く響く低音で、優しく私達に話してくれた。
あの女の人は、話によるとマスターのオーナーのお嬢様らしい。
男性同性愛を外から眺めるのが大の趣味らしく、今までも同じような騒ぎを何度もこの店で繰り返してきたのだそう。
それが原因でなかなかお客さんも寄り付かなくなってきたところ、今日は女の人が持つ本の表紙の人物を見てさすがにマスターも頭を抱えた。
今までは女の人の家の権力で相手の男性を黙らせてきたけれど、今回の表紙の人物は邪神討伐の功労者。
元々この国の皇帝に仕える家系の彼は、その働きから今や国での立場は以前よりもかなり高い位置にいる。権力でどうこうできる相手ではない。本が出回ってからでは、遅過ぎる。
どうしようかと悩んでいたところへ、物凄い偶然が重なってちょうど彼がやってきた。彼は以前から身分に拘らず色々な場所に出入りして交流を持っていた人なので、このお店に来ること自体は珍しくはない。
これなら、あの年齢制限最高値の彼の本が出回る前に何とかできる。
そう踏んで、マスターは神に感謝しつつ私達をこの席に誘導したそう。
わざと彼にあの本を見つけさせ、あちこちに出回る前に止めるために。
自分では止めることの出来ない彼女を、止めるために。
…うわー、謀られた…。
ただ、あの本が売り捌かれる前に止められたのは僥倖と言うべきなのか。
心の底からスッキリしたようなマスターに代わって、今度は私が頭を抱えた。
これは、どう処理すればいいのやら。
向かいの席に付いた彼も、魂の抜けたような表情をしている。激しい議論があったという日でも、そうそうない表情だ。
彼の心境とこの後の心労を思えば、確かにこれはいただいても問題ないか。
とりあえず状況を把握した私は、いただいた自分のコーヒーにミルクを入れた。
カップの黒に注がれた白は芳しい香りに優しい甘さを加え、柔らかなセピア色になった。
「…本当に全てを止めることが出来てホッとしました。あなたにも苦労を掛けてしまいましたね。」
ぽつりと零すように、私にそう言ってくれる彼。
彼は珍しく私と目を合わせることがなく俯いて、頬を少し赤くして自分のカップの中身を見続けながらコーヒーを飲んでいる。
あんな内容の本を他人である私に見られてしまったんだもん、無理ないよね。
「いえ、気に病まないでください。気にしてませんから。結果止めることができたんだから、よかったですよ。」
私は努めて明るく、そう答えた。
どこまでも私を気遣ってくれる、優しいあなた。
目の前のそんなあなたが、気に病まないように。これからも、私に気を使い過ぎないように。
すると、ふと顔を上げた彼と目が合う。
あなたに元気になってほしい。私が願いを込めて微笑むと、彼はほんの少し困ったような表情の後ににこりと微笑み返してくれた。
今日のこの騒動も私の暗い心の中も、いつかは思い出になってあなたと笑って話せる日が来るといいな。
そう思いながら口にしたコーヒーはとても美味しくて、丸くて優しい苦みだった。
…皆様、せめて公式にはバレないようにひっそり活動しましょうね…
理想郷
いくつ思い浮かべただろう
何度思い浮かべただろう
全て霧散してしまった
今はもう目の前しか
見えるものは無い
昔思い描いたと
その記憶だけ
理想はもう
何も無く
今日を
過す
…
彼女が願った理想郷。完成された世界。
わたしはそれを受け入れられなかった。彼女にとっての理想郷に発展が見られなかった。
完成した社会、世界はどのようなものなのだろうか。人は、社会は、世界は成長を、発展をする余地はないのだろう。
それは確かに理想かもしれない。
ただ、わたしにはそれが受け入れられない。
理想郷
頭の中から離れなかった人が、急に目の前に現れて、私にこう言う。
「ずっと君を探してた。ずっと忘れられなかったんだ、別れたあの時から」
「私も、、、あなたのこと、忘れられなかったの」
長い時間を経て私たちは想いが通じ合う。その場で2人は抱き合ったあと、誰も来ない路地裏でキスをする。
なんて、全部理想郷の出来事。早くこの理想郷から離れないと、忘れないと。
理想郷?
生きている私達は踏み入れることのできない領域。
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理想郷を言ったらどうだ、って。
誰かに囁かれた気がした。
夢は夢のままでいたら、いつまでたっても夢のまま。
いわばその状態こそが「理想郷」と言える。
頭のなかで想像すれば創造となる。
だから神の思想について考えるのだ。
頭のなかはいつも完璧だから、ゆえに人間の頭のなかも完璧で埋め尽くされている。
しかし、現実に解き放とうとすると、一気に陳腐なものになる。時間とともに廃れる事が分かってしまう。
頭のなかはすべて完璧。その正体は、時間が流れないことなのだ。
現実世界では、何かに触れようとする時も時間は流れ、それをいくら細分化しようとも時間は流れ、止めることはできずに流れ続ける。
だから、ついさっき聞こえた言葉はブラフとなる。
幻聴の類。化け物の遠吠え。
理想郷は、頭のなかに留めることが大事なのだ。
しかし、物事には限度というものがある。
その通り。
理想郷について考え込み、追加要素を付け足し続けると理想郷にはならぬ。
しかし、完璧であるがゆえ、理想郷=理想郷、理想郷≠理想郷が共存共栄する。
その事を考えると、人間社会はそれの通りではないか、と思った。
桃源郷に思いを馳せるロマンチストも
理想郷に手を伸ばす革命家も
歴史となった有名な偉人も
私にとっては誰も彼も同じその他の人間だ
あなたは例外
私にとっての全て
お題『理想郷』
萌香達が入学する数年前の話。
萌香の担任が新任教師になったばかりの頃、教員だけの朝礼が行われていた。
校長「おはようございます。さて、先週連絡した通り本日からアデレード先生の代任を紹介します。酒枡(さかます)先生〜」
酒枡「先ほどご紹介された。酒枡リオンと申しマス!担当は英語デェ〜ス。よろしくお願いマァス」
時折カタコトな日本で話す酒枡という教師は日本の大学に入るまでアメリカに住んでいたという。挨拶の後酒枡はとんでもない発言を皆の前で発表した。
酒枡「私(わたくし)、リオンはこの学校で私の求める理想郷(ユートピア)を作り上げたいと思っていマス!」
数年後酒枡の副担任になる教師が目を輝かせて質問してきた。
副担任「どういった理想郷ですか?」
酒枡「アメリカスクールのような服装、髪型、髪色全てにおいて自由な学校を作ろうと思いマス」
温厚な校長が後にも先にもこの時初めてブチギレたのは酒枡ただ1人だけだったという。
End
「空が見たいな」と、君が言った。
何の話? と首を傾げたら、君はとても儚げに笑った。そんな顔はこれまで見たことがなかったから、今まで霞んでいた目の前の景色が、急に現実味を帯びてきてしまった。
ああ、そっか。本当に終わりなんだ。もうすぐ全部が終わるんだ。
「理想郷って、あると思う?」
理想郷、か。そうだなぁ。
きっと、空が青くて、空気が美味しくて、自由にどこまでも行けるんだ。
お腹いっぱい食べられて、暖かくて、誰も傷つかなくて。皆が笑って暮らせる、そんな理想の場所。
けど、きっと現実にはないよ。あったとしても、私たちは行けないよ。
こんな体じゃ、もうどこにも行けないよ。
火の勢いが増してきた。床も壁もオレンジの炎に煽られて、焦げ臭さが鼻につく。
地上に出る階段は、倒壊した瓦礫におおわれて通れなくなってしまった。他にここから出られる道は無い。ここで終わり。全部終わり。
嫌いだったな、この研究所。
連れてこられたその日から、来る日も来る日も実験ばかり。人体実験ばかりされるから、身も心もぼろぼろになって。
でも、いいか。許すよ。どうせもうすぐなくなるものね。
膝から下の感覚がない。さっき降ってきた瓦礫に潰されたから、たぶん、もうぐちゃぐちゃだ。痛みは思った程でもないけれど、見るときっと酷くなるから、見たくない。
最後に空が見たかった。
いつか全部が終わるのだとしても、それはここじゃないどこかが良かった。
「理想郷はさ、天国にあると思うんだ」
隣で君が言う。それに応えたいけれど、声は出ない。だから、心の中で返事をする。
双子だから、伝わるかもしれない。そんな淡い期待を込めて。
君は信じてるの? 天国。
「信じる者は救われるんだって」
なあに、それ。
「一緒に行こうか。天国」
そう言って、手を握られた。繋いだ君の手はとても温かくて、いつの間にか自分の手が、とても冷たくなっていることに気がついた。周りは燃えてて暑いくらいなのに。
私は、死んだら全部そこで終わりなんだと思っていた。天国とか地獄とか、そんな都合のいいものはなくて。しょせんは全部、人がつくり出した想像なんだって。
でも、どうなのかな。あるのかな。
もし死後があるのなら、私たちが行く先は、きっと地獄の方だろうけど。
「大丈夫だよ」
繋いだ手が温かい。声につられて君を見あげると、優しい瞳と目が合った。
「天国でも地獄でも。どっちみち、行き着く場所は一緒でしょ」
独りじゃないなら、寂しくないね。そう言って笑う君に、じわじわと胸が暖かくなるのを感じた。
そうだね。生まれる前から一緒だったもの。生まれてからも、この先もずっと一緒だね。
だんだん目の前が霞んでくる。手を包む温もりを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。
どうせ全部が終わるなら、最期くらい、いい夢見ながら終わろうか。
/『理想郷』
存在しないから理想郷というのかもしれない。
この世界には人も動物も残酷なくらい我儘で自分勝手ばかりで、名ばかりの金持ちと偽りの弱者。その人達にとっては理想郷だろうけど。
その裏側は理想とは程遠いものだ。
妥協した箱庭に無理矢理、納得させられている。
結局は人間性が狂ったやつしか、理想郷へはいけない
だがそれは人の棲家ではないのだろう。
だから私達は理想郷を築きあげるしかないんだ。
行けるものなら行きたいな
何もかもが叶うなら
「何もかもは叶わない」ことまで叶うなら
求める気力がなくならないくらいに程よく満たされて、のんびりも忙しくも過ごせて、誰にも本気で怒られないけど注意はしてもらえるくらいの
それくらいなら、現実でも叶う?
そんなことはない
これが実はとんでもなく難しい
探して、求めて、求めずに待って、目を逸らして、また探し直して、作ろうとして、結局辿り着けないのだ
夢と呼ぶには小さいけれど、現実に求めるのは強欲と言われるような
私の
お題「理想郷」
昔クソガキの頃辺り、知り合いその1に貸したら全部読めるはずもないのに1日で返ってきた1984って言う本を読んだのを思い出す。
ビッグブラザーってやつが絶対的トップを務めるディストピア社会に住まう一市民、ウィンストンの生き様?(なんで言えばいいんだろうかこういうの)を描いた結構有名らしいSF小説。
日本よりもイギリスとからへんの方が知名度高いんだっけあれ。
それを読んだ当時、小5ぐらいだったかな。
当然ながらアイムクソガキだったもんで内容ぶっちゃけ小難しい&海外文学特有の独特な翻訳&シンプルに耐え性ないから文読めないというなぜこの本を読もうとしたのか甚だ疑問に思うような三重苦を抱えた状態で残念、本を読んでました。
でもちゃんと最後まで読んだんだよ偉くね?(ニュースピークの説明に関しては飛ばしちゃったけど)
まあなんていうか読んだ当初の感想としては、そこそこ面白かったなって。
クソボケビッグブラザー社会がどんな様相を呈しているのかを日々のウィンストンの生活を通して描かれていた内容もよかったし、その世界観もとい社会構造が割とみんながよく想像するようなど定番のやつながら、その構造を維持するための仕組みがよくできてる。
さっき言ったニュースピークとか、あと二重思考とかってもすごく面白かった。
ニュースピークっていうのは元の言語から大幅に語彙を削除した新しい言語様式のことで、これを市民に強要することで既存の社会に反発するような思想をさせないはたらきがあるらしい。
例えばニュースピーク内では「悪い」って言葉が「NOT良い」に置換されてその役割を果たしているみたいで、要するに市民が政府に楯突くようなこと考えないよう、考えるのに必要な言葉全部消してやるってノリのよう。
ビッグブラザー社会では反社会的な思想さえもアウトなのだ。あとエッチなのとかも。やだな。
二重思考とかもね、なんかあれやたらリアルだよなぁ二重思考に限らず。
実際に実践できそうというか、意図的でないにしろ自分リアルの方で一回なぜか二重思考できちゃったことあるんだよななんか。
二重思考っていうのはなんというか……説明ムズイな。
矛盾する考え、例えば2足す2は4って考えと2足す2は5っていう考えが頭の中で同時に存在していて、それをおかしいと思わないようにする思考方法の一種?なんだろうか。
何言ってんだおめぇ。ホントこれ説明していて我ながらそう思うような支離滅裂具合ですよ。
でもコレが作中内で真面目に取り扱われてるってなんだから大混乱。
模範的市民はみんなコレできるらしい。できてたまるか。
なんでこれが普及したかっていうと、まぁこれもビックブラザー政府の陰謀と言いますか、なんと言いますか。
政府が矛盾した二つの事実を報道したとしてもそれをなんの違和感もなしに真実だとして鵜呑みにさせるためにだそうです。
いやいやいや無理だろ流石にそうはならんだろおめぇ。
いやだってそんぐらいの辻褄合わせぐらい頑張れよtheビッグブラザー、あんた一応はディストピア国家だろうが。
いや政府からしたらそらゃ利便なんだろうけどさ、バチくそ市民対応雑なんよアホか、よくそれで今の今まで罷り通ったなおい。
最初読んだ時はいやいやいや流石に無茶だろって思ってたんですよこの設定。
リアルで体験してからあぁこれマジでできるんだなんで……?って大困惑してましたねハイ。
なんの話してたんだっけ、あそうそう。
ウィンストンの日々を過ごす中での思考やら迷いやらが子供心になんかおもろかった気がした。って言おうとしたんだ。
なんか急に文章書く気力沈んだから今日はここでやめときます。
要約すると1984中々面白かったなってことです。
あれこれテーマ理想郷(ユートピア)だよな?
今回ずっとディストピアの話しかしてなくないかおい?
書いてて楽しかったからいいか。
以下ネタバレ。
そういやあれって結局ハッピー……ハッピーエンド?なのだろうか。
いや、ウィンストンが最終的には党をビッグブラザーを愛するようになった下りとかじゃあなくって。
そうあのニュースピークの諸原理のその辺り。
あれ全部過去形で書かれているから、党が廃れた後に書かれた説明なんじゃないって言われているらしい。
知り合いその2に読ませたらそういう感想が返ってきた。
もっと言うとあれはウィンストンが書いたとかなんとか。(流石にそこまで言われるとパチくさく聞こえる)
なのであれ多分ハッピーエンド……らしい。
あんま明確に記述されてないと不安になる雑魚読者でさーせん。
そう言われたらそんな気はするものの、どうにも確定というにはちょっと不確かな曖昧さがあるような気がした。
でもそれこそがウィンストン達が未来に抱いていた希望の表れなのかもしれない。
理想郷
女性たちは
体力がある限り強制的に妊娠出産を繰り返させる
生まれた赤ん坊たちは
年齢ごとに隔離して集団で育てる
成長した子どもたちのうち
男性は「理想郷」の数ある仕事のどれかに従事する
年老いたら男も女も使い物にならないので
いつか薬を飲んで 安らかな眠りにつく
二度と起きないその体は
細かく刻まれ
「理想郷」の住人たちの食糧になる
そんな国を統治する権力者たちは
みんなロボット
不死なので未来永劫同じ政策を続けられる
何一つ無駄のない
これぞ「理想郷」
(参考 東直子 著「甘い水」)
理想郷
私は理想を追い詰めすぎてよく現実逃避してしまう
現実と理想の葛藤が激しいからだ。自分の理想通りに行かないと現実に葛藤してしまう。
それでも現実と向き合って生きていく。受け入れていくしかないから受け止めていくしかないから。そうしていけばいつか現実を受け止めることが徐々にできていくだろう