たくみ

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西暦無量大数年

人類は唯一の理想郷へと至っていた。

 太古から続く中性化の波に抗うことができないと判断した人新世の人類たちは、文明の停滞を恐れた。
 その対策として、全ての生産活動ひいては経済をも人工知能と機械に任せるべく新たに機械文明を創造した。

 文明の移行には数極年かかったが、今現在、人類は何不自由ない安寧な人生を送っている。
 食事や睡眠などは脳が欲を知覚すれば、その信号を受信した機械たちが都度対応を行い。
 筋力が低下すれば、薬と外部からの刺激によって適切な身体を保つ。

 意識が覚醒し、重い瞼を重力に逆らい僅かに開ける。
 無機質な白い空間。ほかに見えるのは自然光を取り入れるための小さな窓。
 左側から聞こえてきた音を目で追うと、管を通して何らかの液体が体の中に入ってきた。
 途端、気持ちよさとともに体が沈む感覚にとらわれる。

 理性も感情も揺らぐことのない、まどろみの世界

 今日もまた人類は眠る。
 

『理想郷』

11/1/2024, 9:53:09 AM