『理想のあなた』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「ねえ、キスしてよ」
彼女はいつもこう言う。自分から言う癖に、自分からすることは無いんだ。
でもそれを言ってしまうと彼女は不機嫌になってそっぽを向いてしまうし、僕も嫌ではないから顔を近づける。
口元がほんの少しだけ結ばれているから、嬉しかったんだと思う。意地っ張りな顔女は、にやけてしまわないようにわざと口角を下げている。
僕しか気付けない、彼女の可愛い姿。愛おしくて仕方がない。僕だけの、誰よりも可愛い人。
「ねえ、僕のこと好き?」
彼っていつも同じことを聞くのよ。心配性なのね。
私もいつも同じ返しをしてあげるの、変化が嫌いな彼の為に。
「嫌いじゃないわ」
そう言うと、彼は笑うのよ。へにゃ、なんて音がしそうな笑い方。おかしな人よね、私が言ってるのは「好き」じゃなくて「嫌いじゃない」なのに。でも彼はそれが一番良いみたい。
優しくて大人な彼が少し崩れる、この瞬間。私、嫌いじゃないのよ。
「あんな奴のどこがいいの?」
彼女を紹介すると、必ず言われる言葉。
傲慢だし、性格悪いし、口を開けば嫌味ばっかりだし。
つらつらと並べ立てられる短所は、どれも覚えのあるものばかり。苦笑するしかない。
けれど、僕が弁明するように彼女のことを話し出すと、みんな呆れ顔で去っていくんだ。
あーはいはいごちそうさま、もう結構だよ
僕は本当に彼女が悪いところばかりでないことを話したいのに、半分も聞き終わらないうちに話を中断されてしまう。
でも、なぜかその日は彼女の機嫌が良いから、気にしないことにする。
「あの人、あんたがいないと生きていけないんじゃない?」
少し嘲笑すら混じった批評も、事実である以上受け止めなければならない。
けれど一つ誤解がある。
彼は私がいなくなれば死んでしまうだろうが、それは私も然りだ。
彼という存在がいることで、私の死にたい感情を留まらせてくれる。私がいないと、彼が死んでしまう事実が、私に価値を生む。
だから、この嘲りも甘んじて受け入れる。それよりも、彼の夕飯を作らないと。
愛してくれるなら誰でもいいの
私を認めてくれる人なら
生きる理由にしたいとかじゃないのに
ただ好きって一言言ってくれるだけでいいのに
私を殴ろうとお金を奪おうと何だっていいのに
愛してるだけでいいのに
それでも誰もいないってことは
誰からも愛される価値のない人間ってこと
辛いなんて一言で片付けられたらいいのにね
誰にも愛されないから死にたいのよ
お題『理想のあなた』
【理想のあなた】
中身は夫で、外見はヒロトで、5000兆円持っている人間がいたら私の理想にピッタリだわ
私自身は、ルーニー・マーラが「ドラゴン・タトゥーの女」で演じたリスベット・サランデルの外見で、やっぱり5000兆円持っていたら完璧!!…なんだけれど、鏡に映っているのはコロコロした小柄なおばさんだし、5000兆円は見当たらないしで、現実ってホント厳しいわね
21時を過ぎる頃。
にゃおんという鳴き声と共に、何か柔らかいものが窓ガラスにぶつかる音が鳴る。
もうそんな時間かと、何となく眺めていた動画サイトを閉じ、早足で音の鳴る方へ向かった。
カーテンを開けるとそこには1匹の白い猫が澄ました顔で佇んでいた。
首輪こそしていないが、綺麗な毛並みと人慣れした様子から飼い猫なのではないかと予想している。
だがどこの誰に飼われているか等はさっぱりわからない。ただ、私がこの家に引っ越してきた当初から毎週金曜のこの時間になぜかやってくる謎多き猫なのである。
カラカラと窓を開けると、まるで挨拶するように猫がひと鳴きする。
「おかえり。帰らないんなら帰らないって連絡してよね、心配したんだから」
怖がらせないよう心がけながら少し怒ったような声で話しかける。
先週のこの猫は怪盗だった。帰り際に私の心を盗んでいったということになっている。
その前は友人。さらにその前は相談相手。他にも恋人、家族、好きな俳優、見ていたドラマの主人公等々。そのときの気分と勢いで猫と私の関係は決まる。
週に1回の一方的な関係。
喋る人のいない一人暮らしがそこまで寂しくないのは、この時間のおかげなのかもしれない。
ちなみに今週は外泊ばかりする同居人である。
「まあ無事だったからいいけど。ちょっと待ってて水取ってくるから」
そう言って私は一度部屋に戻ると、水入れと天然水のペットボトルを持って窓辺へと戻った。
カリカリを用意しようかと思ったこともあるが、推定どこかの家の飼い猫に勝手にあげていいものか悩んだ末、給水所となっている。
「よく買い置きしてた水ってこれでいいんだよね? 違ってても文句言わないでよ」
にゃおと鳴く声は返事をしているようにも、早く寄越せと言っているようにも聞こえる。
当たり前だが水は私が勝手に用意しているものである。インターネットによると猫には中性の軟水が良いらしいので、南アルプス産の水をあげている。
会話しているようなその声に笑ってしまった表情を引き締め、とくとくと水を注ぐ。あくまで私は中々帰ってこないこの同居人を心配しつつ怒っているのだ。
水を注いで猫の前に置けば、待ってましたとばかりに器に顔を寄せはじめる。
「ねえ今回はどこに行ってたの?」
「明日友だちとご飯行くんだけどさ、服が決まらないんだよね。スカートにすべきかパンツにすべきか」
「最近本当に暑くない? もうじめじめして嫌になっちゃう」
他愛ないことを適当に喋っている私を無視して、猫は水を飲み続けている。これもいつものことである。
どうやら猫は私をうるさいだけで無害と判断したようだ。ちらりともこちらを見ない。
ただしこのときに触ろうとしてはいけない。一度あまりにも大人しい様子につい手を伸ばしたら逃げられてしまったのだ。
しばらくしてもう十分なのか猫が顔をあげる。気まぐれな猫は機嫌がよければこの後触らせてくれるが、今日はどうだろうか。
期待を込めて見つめていたが、猫は立ち上がりくるりとこちらに背を向ける。
「あ、もう行っちゃうの」
猫は残念そうな声をあげた私を一瞬振り返り、にゃあとひと鳴きし走り去ってしまった。
「ちゃんと帰ってきてね」
夜に消えてしまった今日限定の同居人に声をかけ、水入れを回収する。
去ってしまった背中を寂しく思いながら、それでも私は来週のあなたが何になるのかを考えると楽しみでしょうがないのだ。
【自分を独身お嬢様だと思い込んでいる既婚女の怪文書】
#1 貴方の理想になりたいの
貴方の理想になりたくてわたし
髪を伸ばしたのだけれど
お手入れが面倒過ぎて煩わしくなって
切ってしまったわ
貴方が好きになる女性をなぞるだけなら簡単なことね
でも内面はどう頑張っても「わたし」のままだから
「わたし」のままを好きって言ってもらえるように
心も体も磨きましょう 背伸びし過ぎずにできるとこから
ちょっとずつね
時間はそんなにないけれど お金もたくさんかけられない
だからできることをするのよ 筋トレ ランニングとかね
中身の磨き方 それは常にニコニコして 悪いものを目に入れないことじゃないかしら?良質なものだけ取り入れる
時には毒も必要ですって?何を仰るのじいや
悪いものに触れてたら蝕まれてしまうじゃない!
ああ難しいわ殿方を振り向かせることって
わたし婚活お嬢様 自己研鑽に余念がないわ
30年前のある日、当時交際していたなかなか本音を言わない彼に、思いきって聞いた
「理想の女性って、どんなタイプ?」
「君だよ」
その彼が、今目の前でゴルフ中継を観ながらコーヒーを啜っている夫
貴方の目に狂いは無かったかしら…?
『理想のあなた』
あなたの理想のお相手をお探しします|
まずはプロフィールをご記入ください|
画面を前にしてため息をついた
こんなもの、どうせ女性登録者はサクラばかりに決まってる
マッチングした所で、結局つきあうまで行かないだろう
そもそも40にもなって交際相手をアプリに頼ってる奴など誰か相手にするものか。
待ち合わせ場所で来ない相手を待ち続ける未来しか見えない
こうなったらいっそ盛りに盛ったプロフィールでも書いてやろうか
身長| 体重|年齢|
は会った瞬間にばれるもんな別に標準だろうしそのまま書くか
年収|は少し盛っても将来性ってことになるかな
次の質問はーーーーっと
理想のあなたはどんな人ですか?|
変な質問だ、嘘を書けということか?
いや、理想なのだからこれから実現可能な未来の自分ということか
そこでふと最初のPRを思い出した
「理想のお相手をお探しします」
相手も同じように理想の自分を書いているならお互いプラス5くらいのプロフィールで、相手に合わせるように成長するのか
面白い
自分の延長線と相手の延長線が交わるマッチングってわけだ
俺は極めて現実的な理想の人となりを書き込んだ
その後、同じように現実的な理想の自分を書いた彼女と交際することになるのだが
それはまた別の話で
お互い、理想の自分にはまだ少し足りない
理想のあなた
人間は欲深い生き物だと聞いた。人間は一つ欲を満たされるとそれだけじゃ満足せず、さらに新しい欲が生まれる。そこで生まれたのは仏教じゃないかと思う。
仏教は欲を捨てないといけない。だから、私はあなたが私の理想になったとしても、さらなる理想を求めてしまうだろう。
だから、あなたはあなたのままでいてね!
画面の向こうにいるあの人はどんな姿をしているのだろう。きっとこのイラストのように、イケメンで高身長で勿論声も性格もいい素敵な人に違いないわ。
だが、現実というものは残酷であり私が溺れていた夢にはヒビが入った。画面の向こう側のあの人は、私の理想とはかけはなれたものだった。
「嘘つき、嘘つき嘘つき!」
理想のあなたじゃない、あなたなんて私いらない。
そんな偽物いらない、私は画面の向こうのあなたを信じてる。ねえ、目の前のあなたは嘘よね。
ちゃんと、確かめてあげる。あなたが本当のあなたになれるように私が助けてあげる。
決意を固めて、部屋のチャイムを鳴らした。
「はーい。」
ガチャリと金属音をたてて開いた扉の先は、やはりあの人ではなかった。
「裏切り者が!」
私は手に持っていたナイフをそいつに突き刺しってやった。
理想のあなた以外は、いらない。
お終い
お題:理想のあなた
『ピエール・ロティ』
東洋人は目が細く、オケアノスにうっすらと青々とした土と葉を盛りつけたような島に住んでいる。背は小さく、不思議なマナーを持っている。それでいて救世主を知らず、ゆえに彼らは善行や悪行を知らず、信仰を知らず、自然と共に暮らしている。鉄の船で海を西から東、北から南となんどもさまざまな国の港による。まるでお針子がレースをフリフリと切り分けるように私たちの船はどの鋏よりも鋭く、波と嵐を切り裂いた。私は欄干からこれからいくパラディソに思いを馳せた。きっと不思議な力がある。パリよりも赤道に近いここは太陽に近く、海はますますキラキラと光を放つ。シルクロードに比肩してここはシルクでできた海と呼ぶにふさわしい。私は東洋の島で理想の妻を娶る。人形のように小さく、椰子の葉のようにたおやかな、理想の妻を。
#理想のあなた
何時だって、何でもスマートにこなす理想の貴方。彼は、何時だって、仕事もプライベートも恋愛も何もかも平等だ。仕事では、自分に責任を強く感じ、「やり遂げなきゃ!」と言う一心で、時に、無理をしてまでも、一人でこなす事がある。私は、だからこそ、彼を心配している。彼は、まるで、“自分の限界“を知らない人だから。自分の限界を知らないからこそ、自分が無理してるって事にさえ気付けず、時に体や体調を壊す事も有る。彼は、とても責任感が強い人だからこそ、最後までやり遂げようとする。ホントに凄いと思うし、尊敬する。プライベートでは、仕事でも、恋愛でも無い一人の時間を満喫。口うるさい彼女の元を離れ、そして、責任感ばかり感じてしまう仕事からも離れ、束の間の滅多に無い一人の時間を使い、彼は、昔ながらの友達や先輩と飲みに行ったり、ランチしたり、ディナーしたり、遊んだり、お互いの趣味の野球観戦に行ったり、推しのオタ活をしたり、ホームステイと言うボランティアをしたりする。恋愛では、まだ色々と情緒不安定になりやすく、甘えん坊で、寂しがり屋で我儘過ぎる彼女の私の言う事を聞いたり、一緒にデートしたり、ショッピングしたり、映画観たり、ジムに行ったり、エステに行ったり、旅行したり、時には、外食したりする。毎日色々大忙しだけど、改めて、いつもありがとう。これからもずっと愛してるよ❤︎これからも愛を誓うよ❤︎
【理想のあなた】
私が思う理想のあなたはね、人に過敏な子なんて思われたり、傷つきやすいから邪魔な子だって思われない子なの。
理想のあなたはね過敏だからっていじめられることも、教師に傷ついたことを話したってノリだって言われて更に傷つくこともないのよ?
それに人間関係が上手くいかないからって転校なんてしない子なの、あなたは。
あと演劇という芸術にも触れずに普通の女の子として生きているし、来世はめったに外に出ないモグラに生まれ変わりたいなんて言って後輩とかに「闇深そうだけど大丈夫?」なんてタメ口で言われないわよ。
あんたねさっきからこの文章打ってるけど、誰のことかわかってる?
そうよ、今、文章を打ってるあんたの事よ。
今まで言ったこと全部あんたに対する理想よ、分かってんの?
理想のあなた
理想のわたし
どちらにもなれない
2『理想のあなた』
先生「佐藤将さんが先日、亡くなりました」
それが始まりだった
佐藤将 彼はクラスの人気者だった。不良から女生徒を守ったり、ひったくりを捕まえたり、彼の武勇伝を挙げればキリがない。小雪とは特に仲がよかった。よく彼は理想の人だと話していたのを覚えている。俺との関係は浅くそこまでショックではなかったが皆は違った。
突然の事に嘔吐する者。あの不良の御崎柊斗でさえ号泣しているのだ。小雪に関しては白目をむいて気絶している。そんな漫画みたいなの状況に思わず笑ってしまった。
すぐにHRが終わり先生とHR長の大塩大斗によって小雪を保健室へと運ばれた。その時の小雪の顔は爆笑物だったが俺は必死に笑いをこらえた。
そんな状況でも時間は待ってくれない、すぐに授業が始まりいつも通り3時に学校は終わる。小雪さんは早退した。涙も枯れたと言わんばかりの顔をしていた。相当ショックだったようだ。
帰り道、スマホを見ながら下校していると、女生徒達の話声が聞こえてきた。
「将くん、殺されたらしいよ」
「嘘~恨みをかうよな人じゃなかったでしょ」
「たしかにそうだけど、いろいろと......」
そこからはよく聞き取れなかった。
殺された?
ばかばかしい。初めはそう思っていた。
翌日、いつものように教室に入ると皆が真剣な様子で何かを話し合っている。聞き耳をたててみると、どうやら「将くんの死因について」話し合っているようだった。いったいなぜそんなことが話題に挙がっているのか疑問に思い、さらに聞き耳をたててみる。
手塚健「佐藤将の死因なのだが多量出血によるショック死だと分かった。出血理由はパイプのような鋭い金属片に転倒した際に胸にパイプが刺さった......というのが警察の見解らしい」
大塩大斗「死体発見現場は工事現場だ。立ち入りが禁止されている場所にあの真面目な健が入るはずがない。」
東雲兎美「そもそもなんで工事現場に入れたんだろう?。誰か人が居るだろうし、いないなら入れないように鍵とかかけるはずだよね。」
「鉄パイプはどこから?」
「鉄パイプを鋭く加工する必要とは?」
次々と疑問が挙がってくる。
たしかにおかしい、高校生でも分かる。それなのに警察は事故として処理しようとしている。
なにか裏があると議論が白熱してきた頃、小雪が教室に入ってきた。いつも元気な彼女だが、まるで幽霊のように虚ろな目をしていた。
将が殺されたと聞くまでは......
つづく
『理想のあなた』
おふくろから薪集めを頼まれてのらりくらりとやる気なく拾っていたら足を滑らせて泉に落っこちた。すると泉の女神様とやらが現れた。
「あなたが落としたのは真面目な男?それともろくでもない男?」
「俺のこと言ってるのなら、ろくでもない方だな」
「あなたは正直者ですね。ではこちらの真面目な男をどうぞ」
残されたのはずぶ濡れになった俺と、ほとりに立つ俺とそっくりの男。ふと思いついて言ってみる。
「今日からお前は俺の代わりに働いてくれ。俺は俺でのんびり暮らすからよ」
俺と同じ声でわかったと返事をした男は俺の代わりに、薪を拾い集めると村へと帰っていった。これはいいものを寄越してくれたものだ。今ごろ家にいる親父もおふくろもいつもよりよく働く倅に驚いていることだろう。
働かなくてもいいのだから、都へ行こうとその日のうちに村を立った。都には村にはないきれいな人や物がわんさとあり、最初は華々しい都にいられるだけで心躍ったが、田舎者にはことごとく冷たい街ということが段々とわかって心は冷えてしまった。
数年ぶりに帰った家の戸を開け放つと中には親父とおふくろがいた。どちらからも怪訝な顔をされる。
「あんたは、どちらさまだい?」
「誰って、あんたの倅だろうがよ」
「倅は薪拾いに出ているが、俺の倅はあんたみてえな顔をしちゃいねえ。叩き出されたくなかったらとっとと出ていってくれねぇか」
有無を言わさず追い出され、村人からも不審な目を向けられる。もう一人の俺を探し出して問い詰めねばならぬ。あの泉のある山へと向かった。
泉へとたどり着いても薪拾いをしている男は見つからなかった。親父はどうして俺のことがわからなかったのだろう。そのことが気になって水面を覗くと、そこには見知らぬ男の顔があった。驚いてもっと近くで見ようと身を乗り出して、泉へと落っこちた。以前は難なく陸へと上がれたのにいつまでも岸に近づけない。
「おい!女神様!助けてくれねぇのか!」
呼べど騒げど助けは来ない。底へ底へと引っ張られているかのように体が重くなっていく。口に鼻にと流れ込む水で息ができず、声も出せない。朦朧とした視界に人影が映った気がして目を凝らすと、それは薪拾いの格好をした俺の姿だった。
「言われたとおりにあなたの代わりをしています。どうぞご心配なく」
「理想はね、可愛くて頭が良くて気が利くような子」
「ふぅん」
「ちょっと。真面目な悩みなんだからもうちょっと真剣に聞いてよ」
「……聞いたところで解決するもんでもねーだろ。解決すんのはお前の努力次第だし」
「ひどっ」
「別に。そんなに躍起にならなくたっていいじゃんか」
「よくないっ」
「どうしてさ」
「だって、私がもっと今言ったふうになってれば、君だって嬉しいでしょ?」
「まぁ」
「もっと可愛くて頭が良くなれば君は助かるでしょ
?」
「助かる、っつーかなんつーか」
「だから真面目に考えてんの。これは君のためでもあるんだからね」
「へーへー」
「……はあ。理想の人間になるのって、むずかしいな」
「だからいーじゃん、そのまんまで」
「簡単に言うなっ」
「俺にとっては今のお前はじゅうぶん可愛すぎるし、そんなに馬鹿じゃねぇし、気も利く方だと思うけどな」
「…………そ、かな」
「まあもう少し泣き虫なのを直せば完璧なんじゃね?」
「それはいいの、性格だから」
「なんだそれ。よく分かんねぇ線引だな」
「ね、もっかい言ってさっきの。可愛いって、本当?」
「調子にのんな!」
自然な笑顔
無理せず人と付き合えて
愚痴があっても自分でどうにかできちゃってて
後回しにしないで
自分を自分で褒めれる
そんな人になりたいなー
久しぶりに朝がきた。
「おはよう!わたしちゃん!」
たくさんの懐かしい顔がわたしに話しかける。
ここは誰でも自由になれる世界。
髪型も顔も性格も、もちろん好きなようになれるし、どんなように過ごしたって自由。
みんなにとってもそれが普通で、それが壊れるなんて思ってもいない。
だけど朝がきたと思ったその世界は、突然真っ暗になった。
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気づけば夜になっていた。
外と部屋の境がわからないほどの暗闇のなかで、私はPCを開いた。
あてもなく画面をみていると、ふいに昔プレイしていたゲームを思い出した。
久しぶりにやってみようか。
そう思い起動すると、懐かしい優しい音楽が流れた。
このゲームでは自分のアバターを作って町の中を探検するのだ。
理想の自分をかたどったそれは、私にとって今でも理想の私だ。
もうずいぶんと前から起動させるのが億劫になっていたけれど。
『ゲームにログインしています……』
久しぶりに何をしようかなぁ、あのキャラは元気かな?なんて考えていた、その時。
『平素より「○○」をご利用いただき、誠にありがとうございます。このゲームは2022年11月をもちまして、サービスを終了いたしました。詳細についてはこちらをご覧ください。』
理想のあなた
理想のあなた
理想って何なんだろうってずっと考えてる
人によって理想像って変わってくるからよく分からない…
でも、私にとっての理想はあなただから
「理想」って言葉、よく使いそうであまり使わないよね。なんか理想って、私の世界から遠いって言うか、別世界のような高貴な感じがするなぁ。
#7 理想のあなた
理想のわたし
冷静沈着、柔軟な思考力。
仕事のデキる人、料理上手な母親。
理想のわたし像。
友人や我が子にも、マンガで描いた
ような動きをすると言われるから
たぶん落ち着きがなく騒がしい。
予定外のことが起こると
思考停止してカッチカチになる。
主婦歴20年になるが
いつまでも料理が苦手。
ダメダメな自分を受け入れて
これでもバージョンアップしてきた。
理想にはほど遠いが
自分を褒めてあげられる。
エラいぞ、わたし。