『理想のあなた』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
彼女は完璧な存在だ。
その容姿は、まるで芸術作品のように美しく
誰もがその魅力に魅了された。
その姿は、常に自信に満ちていて
強さと威厳が漂っている。
あなたの話し方は、品位があり、
全ての人々を魅了する。
彼女は、まるで天使のようだ。
周りの人々を癒し、励まし、導く存在だ。
彼女の存在感は、圧倒的で、どんな場所においても、
まるで光を放っているかのように周りを照らし出す。
誰もが彼女を追いかけた。
そんな彼女が私の理想。
いつか理想のあなたに私を見て貰えるように
私は私を磨き続ける。
─────『理想のあなた』
【理想のあなた】
憧憬とは、理解から最も遠い感情である――。その文言を目にしたのは、いつのことだったか。いまいちそれは思い出せないけれど、何故か俺の頭の中を昔一度見ただけのそのフレーズがグルグルと回っていた。
目の前で君が泣いている。いつだって明るくて、自由で、何に怯えることもなく世の中のあらゆる困難へと果敢に挑戦し続ける、俺の憧れの人が。
俺は臆病だ。親の期待や世間の考える普通の枠組みから外れることが怖くて、いつだって本心を隠し続けてきた。だからこそ俺とは正反対に、堂々と『自分』を掲げる君の在り方に憧れていたのに。
(俺はいったい、君の何を知っていたんだろう)
もう嫌だ、どうして、何でみんなわかってくれないの。嗚咽の合間にこぼれ落ちる君の悲鳴が、俺の心臓を鋭く突き刺す。立ちすくむ俺に気がついたのか、君はゆっくりと顔を上げ、そうしてひどく歪んだ微笑みを浮かべてみせた。
「ごめんね。君が思うより、強くなくて」
掠れた声だった。頬を伝う透明な涙。それでも必死に笑顔を取り繕おうとする姿に胸が締めつけられる。気がつけば君の身体を抱き寄せていた。
思っていたよりもずっと華奢で、小さな身体だった。震える肩が痛々しかった。ああ、俺の抱いた身勝手な羨望も、君を追い詰めていたのだろうか。だとしたら俺は最低だ。君を傷つけた社会の醜悪さと、何ひとつ変わらない。
「俺は、どんな君も好きだよ」
真っ直ぐに背を伸ばし、社会の理不尽と闘い続ける美しい人。一方的に作り上げた俺の中の理想の君に別れを告げて、目の前で泣きじゃくる本当の君をただ強く抱きしめた。
理想の私は常に穏やかで人に優しく、朗らかでお話上手聞き上手、誰とでも上手く付き合える自分。
だけど実際は、人に対してのあたりが強く、人を馬鹿にしたり、棘がある言葉で相手を笑いにする。
攻撃的で衝動性が強く、相手を不快にさせることが多い。
相手の悪口を言わない
頷いたり、相手の気持ちには寄り添うけど
悪口には同調しない。
例えば、〇〇からこんなことされて嫌だった。と言われると、〇〇ってそんな一面があるんだね。(相手)は、大変だったね。といった感じかな。
理想の自分になれると思うけど意識しないとすぐに楽な方に流れるので、毎日意識する癖をつけないと。
それから、すぐにイライラしてしまう。
何でか分からない。
自分でもおかしいと思う。
人と比べず、自分らしく、余裕を持って生活できる人になりたい。
あなたにとっての「理想のあなた」はきっと私じゃない。真実と事実が違うように、現実と理想は違う。たったそれだけのことなのに、なんで心が痛むんだろう。
その「あなた」って誰のこと?私?
周りが何を考えているか分かんないけど、他人が求めてくる理想通りに生きる義務も義理もないよね。
勝手に期待して、好きに批判して、一方的にがっかりして、知らないうちに消えてくれれば良いんだけど。
せめて石とか毒矢を投げないでくれれば。
それで?
私にとっての理想のあなた?
ん…うん。
いいよ。そのままで、いい。
************
理想のあなた
************
所感:
余分な期待をしないのと未来を諦めるのは
同じじゃない、どころか全く違う。
優しくて
気遣いができて
頭が良くて
面白くて
顔が整ってて
スタイルがよくて…
そんな彼氏を想像しながら
高校を迎えた。
高校の入学式。中学で同じ組だった男の子に告白された。
その子は私の理想とはかけ離れていた。
頭は悪かったし
顔は整っていなかった。
でも、気遣いは出来て、やさしくて、面白い
そんな人だった。
私は経験も大切だと思い付き合った。
最初は理想と違ったけど話していく中で
いい所が分かってきて、なんだか嬉しくなった。
今の私の理想は
あなたです。
生まれてきてくれてありがとう
理想のあなた
あなたは私の理想。
私が欲しいものをもってるから。
みんなの憧れだから。
頭が良くて、優しくて、運動もできる。
全てが完璧なあなた。
私だけじゃない。
みんなの理想。
でも、君は辛そうだ。
なんで?
私が欲しいものをもってるのに。
なんでそんなに苦しそうなの?
●願うは普通●
産まれて、喜ばれて
愛されて、抱きしめられて、
手をつないで、頭を撫でられて
共感し合って、笑い合って
時には叱られて。
ご飯は楽しくお喋りしながら。
辛い時を乗り越えた時
「頑張ったね」と、
また頭を撫でてもらって。
そして
ひとり立ちする時には、
背中を押してもらって、
いつでも存在を感じられる安心感は
いつも心の中に。
そんな、
心の土台がしっかりした、
人間になりたかった。
とある文字書きの
“遺書のような手記” から抜粋。
fin.
#今回のテーマは
【理想のあなた】でした。
あなたが私に理想を押し付けるように
私もあなたに理想を押し付ける。
ほら笑って?こっちを見て。なんで泣いてるの?
どうせ、’’怒られたから’’泣いてるんでしょ。だめだ
こんなの私の理想じゃない。こういうときは、ごめ
んなさい。って謝って、何が悪かったか反省して。
ちゃんと私の理想通りにして。私の言う通りにして
おかないと、大変だよ?社会は甘くないんだからね
ほら、なにが悪かったの?…なんで黙ってるの??
テストの点が良くなかったからだよね。何点だった
の?…70点だよね?、なんでそんな点取ってくる
の!!!!ちゃんと勉強したの??!私、100点
以外は理想じゃないって言ったよね?!理想じゃな
い子は要らないから。次やったらあんたのこと山奥
に捨てるからね。…返事をする!!今日はご飯無し
だからね!!…どうして私の言う通りに、理想通り
に出来ないの。…’’’私はお母さんじゃないから、お
母さんの理想通りには出来ない’’’?何でそんな事言
うの?!わかるでしょ?!!そんなに難しい事か
な!!?、テストで100点を取れて、絵が上手くて
フルートが弾ける、コンクールで金賞を取れて、本
が大好きで、優しい女の子。これが理想なの。私だ
ってこれでやってきたの。常識なの。………………
…え。’’’’でも、お母さんは優しくない。、理想じ
ゃない’’’’?、違う違う違う違う!!私は理想通り、
私は理想通り!叔母さんの言うことは全部守った
し聞いた!何が足りないの!?足りないことない。
私は理想通り。そんなこと言う貴方の方が私の理想
じゃない。消えてよ偽物!!!!
【理想のあなた】
君が望む理想の彼女になれてるだろうか。
と思う時がある。
いや、まぁ好きだからいてくれてるんだろうけど、
できれば理想に近づきたいし、
君はいつも完璧で、、私だってちゃんと、、
『そのままの、今の君でいてほしい。
僕は大好き』
「、、、」
『誰に何言われたかわからないけど僕だってそんなに完璧ではないし、大好きな君に嫌われたくないしね』
「私っ、、大好きだよ」
『じゃあいいじゃん笑、僕も大好きだよ!』
「う、うん、、照」
『かわいいな、本当に笑
いつも行ってるカフェの新作が出て食べに行きたいって言ってたでしょ、行こ?』
「うん!!」
君が良いと言うからもう少し私は私のままで。
理想がそうであるならこのままで。
理想のあなた
自給自足生活をしている
野菜や米、果物を自作できる
家と畑を所有している
最愛のパートナーと新しい家族がいる
猫、うさぎ、ヤギを飼っている
理想のあなたは、と問われると返答に詰まる。
私の理想は常に他者であり、理想と言うならば他者に成り替わることになってしまうからだ。
そんなことを望んではいない。
「ねえ、お皿洗っといて」
「自分でやってよ」
かつて私の理想の人間であった四つ年上の姉は、仕事に忙殺されて自堕落を地で行く性格に変貌を遂げてしまった。
キッチンでフォークにスポンジを滑らしていると、姉はおもむろに話しかけてきた。
「これあげる」
薄々、予感というか期待をしていた。今日は私の誕生日なのだ。
「ありがと。でも今は手が濡れてるから」
後にしてくれ、と言うつもりだったのに。
「代わりに開けてあげるね。まあ私が包んだんだけど」
姉は断りもなく包装紙をバリバリと破き始めた。
「何だと思う〜?」
「本?」
「当たり!」
皿を洗う手は止まってしまっているが、蛇口からは水がざあざあと出続けている。
それを、きゅ、と締めて手を拭き向き直る。
これはただの本ではない、という感じがしていた。
「今日古書店街に行ったんだけど、ショーウィンドウに飾られててさ。めっちゃ高かったけど喜ぶかなぁと思って。いらなかったらまた売っていいよ」
そう言って差し出されたのは未開封のフランス装の古書だった。
「え? 私がそれ探してるって言ったことあったっけ?」
感謝よりも先に驚きが出る。
「卒論に書いてたじゃん、この文献があればもう少し深掘りできたかもって」
「読んだの?」
「読んだよ〜」
姉は何でもないことのように言うが、私は嬉しいような恥ずかしいような気持ちで顔が上げられなかった。
「あ、ありがと」
「うん。お誕生日おめでとね」
姉はひらひらと手を振って自室に引っ込んだ。
残された私は小学生の時に書いた作文を思い出していた。
「いつも明るくて優しい、お姉ちゃんみたいな人になりたいです」
スリムな
理想の自分になりたくて…
鏡を縦に半分こ (*ノω・*)テヘ
細い指がページを捲っている。伏した目は長い睫毛と鮮やかに色づいた瞼が印象的だ。少し持ち上げられた表紙を見るに、読んでいるのは僕が以前勧めた小説らしい。こうして素直に手に取ってもらえるのはなかなか嬉しいもので、司書冥利に尽きるというものだろうか。
図書館の司書と利用者という立場がある手前館内で盛んに話すことは少ないが、僕と彼女は図書館以外でも会うようになり関係を深めていた。知れば知るほど彼女は魅力的で、彼女の方も僕をそう思ってくれていればいいのにと自惚れてしまう。素直で聡明で、本の感想を尋ねるとなかなか面白いことを言った。
本棚に本を並べながらぼんやり見ていると、視線に気がついたのか彼女が顔を上げた。僕に気がつくと花が開くかのように微笑み、軽く手を振ると小さな手を振り返す。なんと無垢なことだろう。君がそんなに純真に笑うものだから、僕の頭は揺れてしまうのだ。
ずっと待ち侘びた君を、二度と僕から離れられないようにできれば良いのに。と願ってしまうのだ。
『理想のあなた』
#理想のあなた…
理想は夢破れるもの…
期待すれば期待するほど
違ってゆく
理想は無いより
あったほうがいいけれど
強く望むものではないわね
理想を押し付けると
その先には破局しかない…
[お題:理想のあなた]
[タイトル:壁になってる暇なんて]
余命三ヶ月を切った邦城舞華が願うのは、もし生まれ変わったら推しの家の壁になりたいということだった。
舞華は男性アイドルグループ『AMUSE』のライブ映像を前に、推しカラーの水色のサイリウムと顔入りの推しうちわを振り回している。そこが病室でさえなければ、多くの人が彼女に向ける目線は好奇なものになっていただろう。
舞華は思う。むしろそっちの方が良かったなと。今は両親も、友人も、その目線には憐れみが混じっている。本当は元気が無いのに心配させまいとしているんだろうとか、だからこっちも一緒に乗ってあげようとか。そんな雰囲気を出している。それするなら察されないようにしろよ、なんて言ったことはないけれど。
狂ったように推しうちわを振り回して、病室の空気を循環させる様を、どうしてそんな風に見られなくてはならないのか。サイリウムが生み出す光の軌跡は、空元気と気遣いで出来てる訳じゃない。
まあ、でもタイミングが悪かったのだろうと思う。舞華が推しにハマったのは、病気が判明したのとほとんど同じ時期で、確かにそこには因果関係がチラリと見える。つまり、重病で沈んでいた心に、するりとアイドルが入ってきたのだと。
けれどそうではないと舞華だけが知っている。きっと病気でなくても、舞華は彼にハマっていた。AMUSEのメンバーである瀬名亘は、それほど舞華の理想だった。
舞華が推しに出会ったのはおよそ一年前、高校の体育の授業で倒れる二日前のことだ。
AMUSEは朝のニュース番組で、新進気鋭の五人組アイドルグループとして紹介されていた。
『皆さんおはようございます!AMUSEです!』
センターの浅倉泰介が明朗快活に言う。服の上からでもわかるほど筋肉質で、ベリーショートの体育会系だ。その両隣が細身でタレ目の江刈亮と、白い歯の笑顔が眩しい宇都美葵。よく話を振られるのが、天然でボケ担当の六岡蓮。そして微笑むことすらしない仏頂面が瀬名亘だ。
中央の三人が人気なんだな、と舞華は思った。パフォーマンスでの歌割りが明らかに多いのだ。六岡蓮もトークでは目立っている。
だからこそ、逆に瀬名亘が目についた。
無口の仏頂面。どうしてアイドルを志望したのかも分からないくらい、アイドルに向いていない。そんな印象だった。
気になって調べ始めたのがターニングポイントだったと、舞華は今さら思う。
アイドルはスカウトされて始めたらしく、アイドル自体に愛はないということ。熱狂的なファンは気持ち悪いと思っているということ。そんなことをネットの配信で言ってしまい、炎上したことがあるということ。
ファンの掲示板で『瀬名辞めろ』の文字が出てこない日はない。
見ているだけで気持ち悪くなるようなその有様に、吐き気すら覚えた。そしてこうも思う。これを直接受ける瀬名亘は、どんな気持ちでアイドルをしているのだろう。
答えは分からない。どれだけ探しても、彼がアイドルを続ける理由を語るシーンは見当たらなかった。
確かにアイドルらしくない。ファンへの態度は最悪で、パフォーマンスも突き抜けているわけではない。トークもお世辞にも面白いとは言えない。ただ──
「顔かっこいいな、瀬名くん」
突き詰めるとそれだけなのかもしれない。じゃないと調べることすらしなかっただろう。徹底的なファンへの冷たさ。アイドルへの無頓着さ。ファンからのバッシング。それでもなお、アイドルを続ける彼が、どこか愛おしく感じたのだ。
それが舞華に始めて推しができた瞬間だった。
ライブ映像を見終わり、グッズを片付けていると、病室に父親が入ってきた。
「今、大丈夫か?」
父親の目線は推しグッズを経由してから舞華に移った。
「うん。大丈夫だよ」
父親は舞華の推し活には寛容だ。どんなグッズも頼めば買ってくれる。理由は病気にある。残り少ない余命を、自由に生きて欲しいという親心だ。
それを分かっていて利用するのは正直、気が引ける。最初の頃は病気様々だと思っていたが、余命が明確になった今ではそんなことは言えなくなった。
かといって、推し活をやめるつもりはない。一生推すと決めて、本当に一生推せる人間がこの世にどれだけいるのか。少なくとも、舞華は一生推すと決めている。一生が終わっても推す。できるなら推しの家の壁になりたい。推しの一生を見ていたい。
「それで、どうしたの?」
なんとなく、父親の態度が落ち着かない。
「あー、実はな、舞華にお客さんが来てるんだ」
「お客さん?」
すると突然、病室の扉が開いた。
「・・・・・・どうも」
そこにはひょっこりと半身を出した瀬名亘がいた。
「ん? え、は!?」
そんな情けない声を出してしまう。いる! 確かにいる! 瀬名亘が仏頂面でそこにいる!
「初めまして」
そんな一言で心臓が跳ね上がる。これはまずい、ただえさえ少ない余命がさらに縮んでしまいそうだ。後ろから入ってきたカメラも気にならない。
「は、はじめまして・・・・・・えっと、あの、あの!」
続きの声が出ない。何もかも上手くいかない。なにせ、聞きたいことが多すぎる。
「実は、お父さんから俺のファンだって聞いて、それでまぁ、サプライズで」
瀬名亘は辿々しく説明する。要するに、父親が彼らの番組に連絡をしたのだ。余命幾許もない娘に、大好きなアイドルを直接合わせてやりたいと。そんなところだろう。
「実際見て、どう?」
「えっ、えっと、すごくかっこいいです」
素直な感想だ。それを聞いた瀬名亘は微かに笑う。
笑っている。瀬名亘が笑っている。その笑顔から目が離せない。でも、どういう理由で?
「あの、瀬名く・・・・・・瀬名さんは、私がファンで嬉しいですか?」
瀬名亘は一瞬きょとんとした顔をして、声を大きくして言った。
「もちろん! 俺を推してくれてありがとう。舞華ちゃん」
その言葉を頭の中で繰り返す。
ありがとう。その文字列を瀬名亘の口から聞いたのは初めてだった。どの映像にもそんな記録はない。
なんか、イメージと違う。
瀬名亘ならきっと「別に普通」としか言わない。そんな優しく微笑まない。それは六岡蓮や、宇都美葵のすることだ。いや、そもそも瀬名亘ならこんなところに来ない。
瀬名亘が言葉を続ける。
「重い心臓の病気なんだってね。大丈夫、きっと諦めなきゃ大丈夫だから」
瀬名亘なら、言わない。そんな無責任に寄り添わない。もっと冷たく突き放してくれる。理想の瀬名亘なら、きっと──
そこから十分ほど話して、テレビクルーは病室を去った。瀬名亘は最後まで笑顔だった。張り付いた嘘の笑顔。帰りに渡されたのはサイン色紙だ。案外、字が綺麗なことを初めて知った。
そして一年後、舞華はまだ生きている。医者は奇跡だと言い、両親は泣いていた。間も無く退院できるらしい。もう既に退院の準備を始めている。
「これどうするの?」
母親が段ボールを指して言う。
「あー、一応、とっとく」
「はいはい。それから、時間あるなら勉強しときなさい。二年も学校行ってないんだから」
「分かってるよ」
そう、分かっている。なにせ未来は続くのだ。いつまでもではないが、それなりに長く続く。
壁になってる暇なんて、無い。
あなたは物静か。誰にも心を許さない。そんな貴方に唯一愛してもらう方法を見つけました。
何も食べず、食べれば吐いて。それを繰り返し、痩せ細った私の前にあなたは静かに佇んでいた。そんなあなたの手を引いて、今度は浴室に入る。カミソリと、溜めた湯と、そこに浸す腕。静かに静かに血の風呂が出来上がっていく。意識が薄れていく中で、あなたはただ私を見下ろしていた。知っている。あなたはこの光景をもう飽きるほど見ている。「死」そのものであるあなたには響かないのかもしれない。それでも、それでも。私が意識を失うその一瞬、あなたが少しでも私を見てくれるのなら。
「ずっと好きでした」
全ての体の力が抜けて、濃い死の匂いが浴室を満たしたその時。あなたはただ、そばにいてくれた。ああ、返事が聞きたいな──最後に思ったのは、そんなことだった。
八方美人でもいいから
誰にでもニコニコと優しい
あなたのように、なりたかったな
嫌いな人間にまで愛想よくできる
そんな余裕がどこにもない
それはまさに思い描いていた姿そのもので、こんなお洋服を探していた! と手を叩きたいほどだった。
けれど、続けて目線でなぞった価格は、理想より桁が多かったので、その余計な最後の0を指で隠してみる。ついでにもうひとつ。
最終的に桁が二つ減ったそれは、まごうことなき完璧な一品。
ただひとつ難癖をつけるとしたら、指をどかせないことくらいだろうか。
(理想のあなた)