『泣かないよ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
泣かないよ
泣きたくないよ人前で
自分の涙を見せたいわけじゃない
泣けばいいと思ってるわけでもない。
でも悔しいな。
声が震え始めたとき、自分の想いにきがついてしまって
涙をコントロールできなくなることがある。
前に、演技?っていわれたことがある。
泣けばいいと思ってるよね。って言われたことがある。
逆に、泣けよって言われたこともある。
人の泣き顔が好きなんだって。
その涙が辛くて悲しい涙ほどイイんだって。
だから人前で泣きたくないんだよ。
泣くのは簡単。
確かにそう。
泣いてる理由も、他人からしたらわからないと思う。
口に出す言葉がすべてて、
その言葉に泣いてるわけじゃないから。
かっこよくキメたかったんたけとな
せめて泣かないように
でも君の嬉し涙を見ると
僕も我慢できなくて
一緒に泣き崩れてしまった
ともに人生を歩む同志として
君をずっと守っていくよ
泣かないよ
泣かないよ。
今はまだ、泣かない。泣けない。
泣かないよ
深夜3時、着信の音で目が覚める。けたたましい音に飛び起きて、眼鏡をどこかにやってしまったから、視力の悪い目に画面の表示を近づける。ベッドで携帯をいじりながら寝落ちたのは何時間前か分からず、目のピントはなかなか合わない。ただ、この時間にかけてくる知り合いなんてごく僅かで、いや、1人しかいなくて。瞬きを繰り返した目で予想通りのその見慣れた名前を確認してから通話ボタンを押した。
「はい、もしもし?」
深夜であろうと、朝であろうと、いつであろうと、電話の第一声にイライラや呆れを出すと不機嫌さを増して次会った時に詫びを迫られるのでなるべく穏やかな声を出す。自分から不機嫌さを引き出すような行動をしといて、こちらが不機嫌さを見せると怒って金品をせびるなんてもはや当たり屋ではないか?それが許されてしまうのが女王であり、お嬢様であり、お姫様であり、彼女なのである。ここでいう彼女はsheであり、girlfriendではない。そもそも友達ですらない。何と形容していいのか分からないが…少なくとも彼女の都合の良いように使われていることは自負している。
「…もしもーし?」
応答がないのでもう一度もしもしと伝え直す。いつもならここでマシンガントークのごとくひとりでに話し出すはずだけど。そう、深夜の着信の半分はバイトの愚痴。いや、バイトと言っていいのか…彼女のお小遣い稼ぎの話。新しい人はあの新作も買ってくれないぐらいケチで〜とか、あそこのコース料理なんて食べ飽きたし〜みたいなことをダラダラ僕に喋っては途中で「もう眠いしじゃあね」と適当なことを言って切るのだ……ってあれ?
「もしもし?あれ、聞こえる?」
普段はうるさいぐらいにおしゃべりな彼女の声があまりにも聞こえない。電波の不具合だろうか。落ちていた眼鏡をかけ、スピーカーのボタンを押すと先ほどまで聞こえていなかった雑音が耳に届いた。おそらく相手の音は届いていそうだ。
「あかねちゃん?」
急に怖くなって名前を呼んだ。何か緊急事態だろうか。一気に空気がピリつくような感覚があった。本来危ないはずの橋を自由気ままに独自のルートで渡っている彼女のことを心配していないわけではなかった。しかし、彼女の生まれ持った才能と、どんな我儘を言い出しても憎めないその愛らしさで、自分を含めて大抵の人は丸め込まれてしまうのだろうと納得していた。しかし、やはり彼女のすることに目を瞑れないほど怒る人だっているかもしれない。なんてわがままなんだ、期待させておいてふざけるな、って怒りたくなる気持ちも分からないことはないし。恨みを買われても仕方ないよなと思う。ただ、それで彼女に危害が及ぶとなると別の話で。とにかく安否を確認するために彼女の名前を呼び続ける。
「あかねちゃん、どうしたの?なんかあった?大丈夫?あかねちゃん?」
そんなふうに声かけを繰り返していると向こうから小さい返答が返ってきた。紛れもなくあかねちゃんの「うるさい」といういつもの調子の言葉。緊急事態では無さそうだと理解してほっとすると同時に、うるさいの後に鼻を啜るような声が聞こえて疑問を持つ。
「…あかねちゃん、泣いてるの?」
よく考えてみたら先ほどの「うるさい」は少し低く掠れた声だった気がするし、薄く聞こえる雑音に先ほどのような鼻を啜る音も聞こえる。少し間があった後に「…泣かないよ。」といういつもより落ちたトーンの声が聞こえた。泣いてるじゃん。いや、通話は音声だけだし、彼女の赤い鼻も涙で濡れた目も見ていないのだから、泣いていると断定することはできないけど。泣いてないと否定するのではなく、泣かないよと自分に言い聞かせているようにも思えた。
「どうかした?」
今までこんなにも彼女が話さない電話が無かったから若干戸惑っているものの、いつも通りを装って優しく声を出す。そして彼女の他愛もない話を聞いて。徐々にいつも通り話すようになって、笑うようになって、安心して眠りにつくまで、コーヒーをお供にしながら相槌を打つのだ。
「泣かないよ」
もう泣かないよ
世界は苦しいものだから
泣かないよ
親しい人が亡くなった。私にとってかけがえのない人が
でも、私は泣かないよ。泣いてしまったらそれは
私の悲劇になってしまうから。あの人の物語を
私が塗り替えてしまうから。
とっても悲しいけれど、もうあなたと会えないのは辛いことだけれど…
私は、あの人の物語を終わらせてあげなくてはならないから。だから「泣かないよ」
『泣かないでよ』
「泣かないよ」
こちらに背を向け、彼は言う。
その視線の先には、小さな墓石。石を積み上げただけの簡単なその墓に、けれど埋まるものは何もないのだと知っている。
「泣きたいのはこの子たちだもん」
この子たち、というのは、今も彼の周りで漂ういくつもの小さな光のことだろう。
人の叶わなかった願いや後悔でできた光。彼はずっと、この光を見て、思いを聞いて生きてきた。
元来優しい子なのだろう。感受性が豊かであるが故に、こうして光が集まってくるのかもしれない。
また一つ、光が空から落ちてきた。見上げる空の果てに、流れた星の名残が白の線を描き、夜に解けて消えていく。願いを託された星が抱えきれず、あるいは受け取れずに溢れてしまったのだろう。
「ごめんね。お墓を作ることしかできなくて」
漂う光に優しく告げて、彼は作ったばかりの墓に手を合わせる。幼いなりに必死に考え、叶わぬ願いのための供養をしているつもりなのだろう。その純粋な心が痛ましく、泣くまいと耐える小さな背をそっと抱きしめた。
「泣いてもいい」
静かに告げる。大丈夫だと頭を撫で、それこそ願うように囁いた。
「泣いていいんだ。泣けない思いの代わりではなく、自身の心の望むままに泣いて叫べばいい」
「でも……」
「感情に蓋をして閉じ込めるな。でなければまた一つ、星に還れぬ光が増えてしまう」
戸惑い迷う彼を包み、大丈夫だと繰り返す。周囲の光もまた、同意するように瞬いた。
気づけば周囲には光が溢れ、まるで星空の中にいるかのようだ。腕の中で彼が感嘆の声を漏らすのが聞こえた。
「――きれい」
「元は星だからな」
星から溢れ、地上に落ちてしまったもの。叶わぬ願いの重さに大地に繋がれ、空に還ることもできない残り香。
その意味を理解して、彼はぽつりと呟いた。
「お星さまにはもう、戻れないのかな」
彼はやはり、どこまでも優しい。
苦笑して手を離し、近くの光を手に取った。振り返り、不思議そうにこちらを見る彼に微笑んで、そっと光に息を吹きかける。
「っ、わぁ……!」
ふわりと浮き上がり、ゆっくりと空へ上っていく光に、彼は目を輝かせた。食い入るように夜空に解けていく光を見つめ、頬を上気させて手を伸ばす。
「今の、どうやったのっ?僕にもできる?皆、お星さまに戻れるの?」
「落ち着け。そんなに一気に聞かれても答えられない」
矢継ぎ早の問いかけに口元を緩ませながら、伸ばされた手に自らの手を添えた。
ぺたぺたと手のひらや指の先に触れ、時に裏返して真剣に考えている。問う形はとっても自分で考えようとする姿勢はとても好感が持てた。
「手から何かが出てたのかなぁ?でも、ふって、息を吹いてたし、その時にお星さまになったのかなぁ……」
「星から溢れたものが、星そのものになるわけではないよ」
色々と考えることは良いことだ。彼の思考を否定するのは忍びないが、一つだけ訂正する。
「違うの?」
「正確にはね。星になるのではなく、空や星に解けて還ったんだ」
違いがよく分からないのか、彼は首を傾げて眉を寄せる。
「それは……この子たちにとって、幸せなこと?」
「幸せかどうかは分からないが、本来あるべき形には戻れるな」
「そっか……」
周囲の光を見つめ、彼は柔らかく微笑んだ。
握られたままの手を逆に取り、その手のひらに光を乗せる。目を瞬く彼の前で、もう一度光に息を吹きかけた。
「あ……」
瞬く光の中に浮かぶものが見えたのだろう。ふわりと浮かぶ光を目で追いながら、彼は小さく声を上げた。
叶わぬ願いを映した光。膝を抱えて蹲る少年の姿を浮かばせたそれは、息を吹きかけた瞬間に外を自由に走り回る姿に変わった。
「願いが叶った?」
「現実は変わらない。この光の中の子は今も、走ることはできないだろう……私がしたのは、ただ夢を見せているだけだよ」
「夢……?」
空へと解けた星を見届け、彼は切なげに目を細めた。
何を思っているのだろうか。泣いているようにも、安堵しているようにも見える横顔からは、正しく感情を推し量ることができない。
ややあって、彼はこちらへ向き直った。
真っ直ぐで純粋な目。強い意思を湛えて、願いを口にする。
「それは僕にもできる?」
「やり方は教えよう。やってみるといい」
そう告げると、彼は頷いて光を手のひらに乗せた。
光の中に一人きりで泣いている幼い少女の姿が浮かぶ。その痛ましさに彼は息を呑んで悲しげに眉を顰めた。
「この子の悲しみが伝わっているか?」
「うん。ひとりぼっちで寂しくて泣いてる」
「その悲しみを吹き飛ばすように息を吹きかけるんだ。それだけでいい」
手を包み込み、目を合わせて告げる。
「それだけ?」
小さく漏れた言葉に、苦笑しながら頷く。
それだけと彼は言うが、それがどれだけ難しいことか彼はまだ知らないのだろう。
「やってみる」
そう言って、彼は光を見つめた。
薄く浮かんだ彼の笑みは、しかしすぐに消えて眉が寄る。
悲しみだけを吹き飛ばすイメージが浮かばないのだろう。それは叶わぬ願いの根源を理解していないからだ。
この少女の願いは、かつてのように家族の側で愛されていたいこと。それが理解できたのなら、自ずと叶わぬ理由も理解ができる。
そろそろ手伝うべきか。そう思い口を開きかけるが、その前に彼は真剣な顔をして静かに息を吸い込んだ。
そっと息を吹きかける。悲しみだけが光から消え去り、泣いていた少女は家族に囲まれ微笑む姿へと変わる。
「っ、できた」
空へ上っていく光を見つめ、彼は笑みを浮かべた。その姿を見ながら、内心で驚く。
初めてで、正しく光を還らせることができるとは正直思ってはいなかった。だが彼の背後に作られた墓を思い出し、当然のことかと認識を改める。
誰よりも光に心を傾けていた彼ならば、理解できぬはずはない。
「よかった」
心からの言葉。
気づけば光を見つめる彼の頬を、一筋の滴が伝い落ちていった。
「よくできたな」
その涙には何も触れず、微笑んで彼の頭を撫でる。
上出来だと褒めると、彼はくしゃりと顔を歪めて抱きついた。
声もなく泣いている。強くしがみつき泣く彼を抱きしめ、その背を撫でる。
優しさ故に光に繋がれていた小さな魂。その繋がりを解きながら、そっと囁いた。
「還るのならば、途中までは一緒に行こう」
答えを察しながら告げれば、やはり彼は泣きながらも首を振る。
「ここにいる。皆を還してあげたいから」
それは永遠にここに留まることを意味している。
人の願いは尽きず、叶わぬものもまたなくなることはない。
どう説得すべきか。内心で悩んでいれば、それを察して彼の抱きつく腕の力が強くなった。
「ここにいたい。一緒にいたいよ」
そう願われてしまえば、何も言えない。溜息を飲み込んで、空を仰いだ。
夜空を駆け抜けていく星。時折溢す光が、またこの地に降ってくる。
「――ここにいるのならば、覚えることがいくつかあるが守れるか?」
辺りの光を見渡しながら、彼に言う。
いくつか混じる、仄暗い光。あれらに宿るものは重すぎて、夢を見せても浮かぶことはない。
彼はそれを受け入れられるだろうか。泣いてしまわぬだろうか。
「守れるよ」
迷いのない、はっきりとした声。
自分の不安を掻き消すように、顔を上げて彼は笑った。大丈夫だと、強く頷いてみせる。
「もう泣かないよ。一緒だから頑張れるもん」
無邪気な笑顔。
それ以上何も言えず、言葉の代わりに力強く彼の頭を撫で回した。
20260317 『泣かないよ』
【泣かないよ】
迷子になったような不安げな顔をするから、泣いているあいつの顔は苦手だ。
慌てて目をそらしたくなって、でもそんな逃げている自分が嫌になる。
きっとあいつの中でも言語化できていないようなもやもやが抱えきれなくなって、それがぽろぽろと涙になって溢れる。
不器用だな、と言ってしまえばそれまでで、そんなところがどこか愛おしくもあった。
「泣かないよ」
fin.
「男の子でしょ、泣かないの!」って言ってた昭和。
泣き止ませたい時、令和の親御さんたちはなんて言うのだろう。
#泣かないよ
何も考えることも できなかった
考えることが 必要だとも 知らなかった
人間という長く生きる命を簡単に生み出した
生み出して いろんな人と 関わって 突きつけられた現実
強制的に 自分を 常識ある人間に 変えるしか無かった
最初は すごく違和感があった
半年ぐらい経った頃 だんだん 変えた自分に慣れていった
それでも足りなかった
現実は 厳しかった
いろんな物も買った
でも 買う物は 全て 食べ物にすべきだと気付いた
命を 大きく育てるために
その二つの命を 大きな愛で 育んだ
育んで 5年...離婚した
現在 15年が経つ
大きな愛で育んで ご褒美が 貰えている
二人とも 反抗もない とても とても優しい子に育った
厳しい環境で働いて 資格も取った
独身時代から 無駄遣いもしてきた自分への罰として
厳しい環境でも 自分を働かせ続けた
よく頑張ったね
これからも 頑張らなきゃね
と 自分に言いたい
泣かないよ
周りの子の方が頑張ってるから、
わたしは泣かないよ
その子どもは一歩歩くごとに立ち止まっていた。壁に貼られたポスターの亀や、床に伸びた黄色のタイルを、速度を落としてあたしも眺めた。トーマスのリュックを右肩にかけ、父親らしき男性はすれ違う人の邪魔になりそうな時だけ、息子をさり気なく通路の端に誘導した。
あたしも、真っ直ぐには歩けない子どもだった。この世界は刺激に満ちていて、ひとつひとつ明らかにしないでは先になど進めなかった。母はたびたび大声を出し、私の腕を強く引いては真っ直ぐ歩かせようとした。
腕時計にチラと目をやった男性が、両手をじゃんけんのチョキにして横歩きをし始めた。
「あ! パパ、かにさん!」
気づいた子どもが真似をしてカニ歩きで傍に寄る。
「ちょっと急ぐカニ。ついて来れるカニ?」
子どもが楽しげに「いけるカニよー!」とスピードを上げる。おむつで膨らんだ尻が揺れる。
羨ましいと思う気持ちと良かったねと思う気持ち。そのどちらもあたしの真実で今だ。
遠ざかるカニ親子がぼんやり滲む。泣かないよ、こんなことで。こんなことくらいで今更。
『泣かないよ』
僕よりも君が泣くから泣けなくて
上向けば慈雨 浄化さる 春
#泣かないよ
「泣かないよ」
泣かないよ。
あなたになんて見せてやるものか。
私が涙を見せるのは、恋人にだけだから。
あなたはもう違う。
"泣かないよ"
天国からずっと、見守っているから
確かに君はそう言って、私の頬を撫でた
なんて馬鹿らしい
見守って欲しいんじゃない
そばにいて欲しかった
受け入れることも、手放すこともできない黒く染まった感情を抱えている
ドラマで聴くような薄っぺらい希望的観測
そんな言葉を投げかけられて、どう生きていけばいい
悶々として、静かな夜が続く
まるで呪いのようにかけられた言葉。
確かに心にまとわりついている
きっと、私が覚えている限りそれは
事実にしかなり得ないんだろう
君の真意と言葉の抑揚全てを頭の中に巡らせて
私は初めて、君を思い出して涙を流した。
泣かないよ
「泣かないよー泣かない」「いい子だね」
「ミルクはたっぷり飲んだでしょ」
「おしりもサッパリかえたでしょ」
泣きの気配がみえ始めた今日この頃
目出度い赤ちゃんの成長の証
桜の開花にあわせるようにこの子は魔の3週目を迎えた
昼夜のリズムができるまでの辛抱だから
後3ヶ月…いつ泣き止むともわからない手探りの時期は必ず終わりが来るからね
みんなが通る子育ての試練だからと
育児本片手に自分にエールを贈る
桜に見守ってもらいながら新一年生ママは君に今日も手を差し延べる
夜桜や赤子の泣きにうち震え
祝福の花吹雪を見せる宵
題名:泣かないよ
君のために我慢した。
泣いてる君を慰めるために。
大丈夫って何回も言って。
涙をこらえて、君を励まして。
君のために連呼した。
泣いてる君が笑顔になるために。
偉いねって何回も言って。
涙をこらえて、君を落ち着かせて。
ごめんなさいって君が言う。
我慢の時間を無駄にするように。
涙がポロリ。
君は余計に泣き出して。
ごめんなさいって僕が言う。
慰めた時間を無駄にするように。
涙がポロリ。
君は笑顔を忘れてしまって。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさいって何回も。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫って何回も。
聞き飽きたんだ。
あきれてしまった。
分からなくなってさ。
ぐちゃりと混ざる心の声がする。
諦めないといけない恋があった。
嫌いなところを並べたって、諦めなんてつかないから
大好きなところを思い出してみよう、
私は彼を嫌いになんてなれないからさ
どうせなくならない想いなら、大好きな記憶だけ。
そしたら私、これを綺麗な思い出としてしまっておける
38「泣かないよ」
こんな夢を見た。半魚人の友人たちが追いかけ回されているというので家に匿った。理由を聞けば、人魚の涙を求めて人間が痛めつけてこようとするらしい。
「だから逃げていた、と」
「そう」
「そうだな」
人魚のような見た目の少女マリンはしょんぼりと答える。その横で、上が魚で下が人間のアクアはため息を漏らす。
「ボク人魚みたいだけど、人魚の涙なんて知らないよ。人間たちが言ってるのって宝石のことでしょ?」
「魚が眼から宝石なんか出せるか。オレたち半魚人は人間と一緒で塩辛い液体しか出せねえよ」
「え?ボク、出ないし泣かないよ?」
「え、そんな人間みたいな見た目してるのにか?」
「うん。あ、もしかして陸に上がったかどうかじゃない?ほら、アクアは陸上で過ごしてるじゃん」
「そりゃ人間の足じゃ常に泳げないからな。足つるし。…いや、マリンの方が陸に上がるべきじゃないのか。人間は水中で息できないだろ」
「人間の上半身だけど、エラは退化してないから。ほら、ちゃんとあるでしょ」
たしかにマリンの首に三本赤い横線が入っている。
「それ言うなら、アクアの方が…」
話が脱線してきた気がする。
「ええっと、アクアとマリンはこれからどうするつもり?」
声を掛けると、アクアとマリンはお互い顔を見合わせた。
「どうしよっか…」
「そのうち、人間たちも諦めて帰るだろ。それまでオレは寝る。散々追い回されたんだ」
アクアは勝手に私のベッドに横たわり、目を開けたまますぐにいびきをかき始めた。嗚呼、干したばかりのシーツにぬめりと鱗が…。真っ白のシーツにアクアが寝ていると、まな板の鯉と言う単語がチラつく。
「うーん…ボクも体乾いてきたし、お風呂場借りてもいい?」
「いいよ」
私の横を通るマリンの耳にキラリと何かが光った。
「あれ、マリン。何か光ったよ?」
「ああ、これ?」
マリンは私に近づくと、耳飾りを見せてくれた。小さな真珠とドロップ型の大きな水色の宝石が、マリンの耳で揺れている。
「ママがボクのために作ってくれたの。ボクの名前と同じ石と真珠でね。ボクがどこかにお嫁に行くときに着けなさいって」
マリンは照れくさそうに話す。
「ママはすごく有名なデザイナーでね、こういうアクセサリーを作る仕事をしてたの。いつも忙しそうでボクは心配してた。案の定、病気になって死んじゃったんだけどね。でも、後からボク宛の手紙とこの耳飾りが見つかって」
愛おしそうに耳飾りを触る。
「不謹慎だけど、ボク嬉しかった。ママはボクのこと忘れてなかったんだって」
初めて聞くマリンの母の話に口ごもっていると、マリンはにっこりと微笑みかけた。
「…なんて、しんみりさせちゃった。ボク、もう大丈夫だから。お風呂場行ってくるね」
「う、うん」
マリンがお風呂場に引っ込むと、途端に静かになった。ベッドの方からアクアのいびきが聞こえるくらいだ。
「…テレビでもつけよう」
テレビをつけると、ニュースが流れ始めた。
「…美術館に寄贈された『人魚の涙』が盗まれ、犯人は未だ逃走中…」
人魚の涙…。アクアとマリンが言っていたが、まさかこれのことではないだろう。あの二人が盗みなんかするわけない。それでも気になって、ニュースの続きを見る。『人魚の涙』は有名デザイナーの遺作であり、家一軒が建つほどの値がつくらしい。画面の『人魚の涙』は、マリンが着けていた耳飾りにそっくりだった。
「見たな」
背後から低い声が聞こえた。振り向くと、アクアが立っていた。
「どうして盗みなんか…」
「盗んだんじゃない。あれは元々マリンの物だ。手紙には娘への贈り物だと書かれていた。にも関わらず、勝手に美術館に寄贈されていたんだ。『人魚の涙』としてな」
「だから、取り返したの…?」
アクアは頷く。
「オレもマリンもお前のことを友だちだと思っている。お前もそうだろ。オレたちに協力することなんてわけないことだよな?」
私は頷くしかなかった。
#泣かないよ
3月18日。
今日は私の誕生日。
私、ひとつお姉さんになったよ。
これからも、前を向いて頑張ります。
…泣きたくなったら、泣いちゃおうかな。
こんな、私だけど、よろしくね