『月に願いを』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『私たち、ずっと一緒だよね』
控えめで、しかし輝く黄金の髪色の少女が言った。
『うん。ずっと、一緒』
紅く輝く髪色の少女が応えた。
暗い、暗い、先も見えないような闇の中で、あなただけ
が私を輝かせてくれる。あなたが見えなくなるほんの一
瞬でさえ耐えられないくらい、私にとってあなたが大
切で。
暗い、暗い、先も見えないような闇の中で、あなただけが私に応えてくれる。でも、ごめんね。ごめんね。ずっと一緒にはいられないの。
どうか、最期までそれに気づかないで。あなただけは、最期まで笑顔を向けてくれますように。
辺りを見渡すとずっと遠くまで美しい青い花の海が広がっていた。そこに生き物の気配はなく私だけが月明かりに照らされている。来たことがないのにどこか懐かしさを覚える場所。あぁ、これは夢だ。覚めたくない。こことは真反対の現実には戻りたくない。この美しい夢に一生浸っていたい。でも朝は来てしまう。私は静かにこちらを見つめる月に願った。
どうかこの夢が覚めることなく私を沈めてくれますように
地平線近くの
オレンジの大きな月が好き
月を綺麗だなぁと思うことはあっても
月に願いをしたことはない
願いを思い浮かべることはあっても
それを叶えてほしいと
何かに願うこともない
月に願いを
僕は夜が好きだ。
誰にも邪魔されない、昼間のようにうるさくない、静かなこの刻が……
静かで何も考えない夜だからこそ、無意識にあの人のことを考えてしまう。どこに行ってしまったのだろうか。
あの人は、僕の胸と記憶に深く刻みを入れたあと、突然消えてしまった。
満月の日はあの人を思って手紙を書く。本人には届かない手紙を。手紙の内容は、その日その日にあの人に向けて思ったことを書く。そして、最後には
いつも決まって「ありがとう。」この5文字の感謝を書き、封をする。
あの人に会うことができたら1番に伝えたい言葉。
あの人に出会う前の僕の世界は黒白だった。僕のしている仕事にも誇りを持てなかった。でも、あの人に逢えて僕は、僕のしている仕事に誇りを持つことが出来た。世界だって様々な色を放った。あの人には感謝してもしきれないほどだ。
こんなに気持ちがあっても、あの人は僕の前に姿を表すことはなかった。以前より、仕事に誇りを持てるようにはなったが、あの人がいなくなってからの僕の世界はまた黒白の世界に戻ってしまった。
それほどまでにあの人の影響力は大きかった。
「もう1度逢いたい」
だから、満月の日に月に願いながら手紙を書く。
満月に願うと、どの日の月より願いを叶えてくれそうと、そう思ってしまうのだ。
僕の力では見つけ出すことが出来なかった。
僕は、あの人の何も知らなかった。力不足だった。
だから、皆が見えるであろう、月に願ってしまう。
あの人も見ることのできる月に向かって……。
「ここに帰ってきて」と、「逢いたい]と、
「あなたの居場所はここではないのか?」と、
願ってしまう。問いてしまう。あの人ではない月に…。
そして、あの人に会えた日の夜には
「今日は月が綺麗ですね。」とそう言いたい。
こんな膨大な想いや願いさえ受け止めてしまう月なら、僕の願いを叶えてくれると、そう錯覚してしまう。そう望んでしまう。そう願ってしまう……。
「逢いたいから」この理由だけで、がらでもないことをしてしまうほど人間は欲深い者なのか、と自分のことながら失笑してしまう。それでも願ってしまう。人間は真に大事にしたい者の為なら何でも出来てしまう。そういうものなのだと感じた。
「どこにいるの?」「逢いたいよ。」
「ここに帰ってきてよ。」「俺のいる場に……。」
そう願いながら眠りにつく。1粒の涙をこぼして…
fin
月に願いを
願い事をしたいと思う
お金が7億欲しい
仕事が楽しくなりますように
家族で食べ放題に行きたい
家族で旅行に行きたい
親友とたくさん会いたい
願いはたくさんの私の欲の塊だ
この欲を持っていて本当に現実になるのかな?
いやいや現実にしていくのが正解なのかもしれない
願いは行動していく為に
月に宣言をするのだ
きっと言葉にできた時その願いは叶うものなのかもしれない
たくさん月に宣言しよう
月に願いを伝えよう
月といえば何か。
餅つきをしているウサギ
読書をしている老婆
吠えるライオン
カニ
薪を担ぐ男
女性の横顔
幻想的な言葉
月は夜に見るときが多い。
だけど、日中にいないわけではない。
静かに見守っていてくれている。
叶わないことは分かっているが、
どうか独り言だと思って聞いてくれていたら良いな。
#月に願いを
寂しい。悲しい。分からない。そんな辛い気持ちを抱えてはいるけれど、慰めて欲しくない。惨めになりたくない。だから、月には何も言わないで、そっと照らしてくれる存在であって欲しい。いつまでも
【月に願いを】
暗闇の中にぽっかり穴が空いて
そこから流れ出してくるメロディ
『流れていくそれを眺めているだけでそれでよかった』
『届かないことなんて最初から知ってた』から
それなのに
『きみは ひとりじゃないよ』って
『そばにいるよ』って
僕が欲しい言葉をいつだってくれるから
どうしてもその心地よい音に
『触れてみたいと思ってしまったの』
だから『足跡さえおざなり』にして
『走り出すこの思い』もどうしても伝えたくって
こんな何も持たない僕の元に『逢いに来て』くれたから
この音を届けてくれる存在に逢いたくなってしまった
『ほんの少しだけでもいい 支えになりたい』
そう思ってしまったから
『爛れた翅では辿り着けない』こともわかってたけど
『月の裏側には音を出している存在がいてきっと笑っている』のだ
『遠い昔 思いを馳せた この先の宇宙へ』
やっと自分の足で立てるようになった今なら
『子供の頃に描いた歪な落書きを』叶えるために
『一度きりのジャンプで命ごと燃え尽きても』
『何もかも欠けてった 失った 穴だらけの翼』のせいで
『描いた日にはまだ届かなくて泣くんだ』
暗闇の中で吐いた息が白くなってパラパラと落ちていく
それを自然で追って無理やり羽ばたかせた翅の残骸が
積もって少しの山が出来ていることに気がついた
月の向こうへ馳せた拙い言葉がこれを積み上げていたんだ
『想い出がずっと何年も重なって地球を覆った』なら
あのメロディと手を繋ぐことも出来るかもしれない
飛べない翅なら工夫すれば良いんだ
あの光への想いさえうまく言葉に出来ない僕の
唯一の逢いに行く方法
『一生のお願いがここで叶えられるなら』
『都合よく奇跡が起き、この恋手紙を』
直接私に行きたい
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今日は手法を変えて曲の歌詞で言葉を綴りました
『 』内が歌詞は少し言葉を変えているものもあります
使用させていただいた歌詞はTwitterにて投稿します
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2024-05-26
「…月が綺麗ですね」
満月の夜、溜息とそんな独り言を零す
いつかあなたに伝えられますようにと月に願いを込めて
『月に願いを』
願い事。
誰に言っても、
何を言っても、
届かない、この願い。
真っ暗な空にぽつんと浮かび、
ぼんやりと光る、この月夜。
あの少しの光が、
私に一人の時間を与えてくれる。
あの少しの光が、
私の心を浮かせてくれる。
願い事。
星に願いを。
流れ星よりもっと明るく
月に願いを。
太陽よりもっと美しく
この月夜に、
願わくば。
月はいつでも空に輝いて
そっと私を見守ってくれる
辛いときも悲しいときも変わらずに
見守ってくれる
月に願いをこめていつか叶いますように
#25『月に願いを』
星は流れて果ててしまうから、
いつもそこに居てくれる月に願う。
見上げた空
あなたも同じ空を見ているのかな。
月に願いを
月に願いをするなら
縁側に月見団子を
見ながら考える
ウサギって本当にいるの?
お餅ついてるの?
そんなことしか考えられない
私は平和だ
夜中、急に目が覚めた。
時刻は午前三時、月明かりが部屋に差し込んでいる。
横で眠る君を起こさないよう、そっと起き上がり、ベランダから月を見つめる。
静寂に包まれた部屋の中、君の寝息だけが聞こえる。
いつもはお姉さんぶっているのに、寝顔は子供みたいだ。
ふと、そんな状況を幸せだと感じる。
愛おしくてたまらない気持ちになる。
「あぁ、この時間がずっと続けば良いのに。」
月に向かってそう話しかける。
—————-月に願いを
テーマ:月に願いを
私は、昔から手に届かない人ばかりを好きになる。
友達関係であれ恋であれ、私のことをまるで好きになりようがない人にばかり惹かれてしまいます。
今はだいぶ落ち着いたけど、私は私に似た要素を感知すると過敏に反応して避けてしまう。
自分とは全く違う毛色の人間の横顔が美しく見えてしまうのです。
深く交友するわけでもなく相手の中身をきちんと知ろうともせず。あー恥ずかしい。
そうやって、はじめから進展性ゼロの交友関係に憧れを持つことが多かったからか、いつからか月を見ると誰かのことを思い出すようになりました。
そこにいるのに届かない人。
大きな存在で、でもずっと遠くにいるからぼやけてよく見えない人。
夜道で月を見上げる度に、その時その時の好きな人のことを考える。
あの人と友だちになりたいな。と思うとき、まあなれるわけないか。とも思う。関わって傷付けたくないし、傷付きたくない。
勝手に憧れたりして、それすらも人によっては知ってしまったら不愉快だろうな……と思ったりする。
月がきれいだな、と思うときはさみしくて、さみしいな、と思うときは少し気持ちいい。
なんだかんだそれで平気だからなんとかやっていけてるような、そんな気がします。
そこにある 保証のない 新月よ
自ら光れ 陽に頼らずに
【月に願いを】
「おい」
窓辺から身を引き、ギターをケースにしまい、休もうかとベッドに身を横たえてしばらくして、そんな声が聞こえた気がして、俺は身を起こした。
「――」
それは夢か、幻覚か。そう思った。癖の強い髪が月の光に透けているように見えていたから、あるいは、シルエットが光を帯びているように見えたから。もしくは、あまりに甘い気持ちでいたから、それが目の前の影を呼びさました――とすら感じていた。いささか文学的すぎるが、それにしても都合がよすぎるというものだ。たとえ彼女が一流の盗賊なのだとしても。
「何を呆けている?それとも私の姿など憶えるほどのものではなかったか?」
「あの。本当に、」
あなたなんですか?
ベッドからすとんと降り、肩を掴むと、それが実体のあるもの、つまり本物のあのひとであることが分かる。
「どうして」
二歩ほど下がってあのひとの目を見あげる。裸足でいるためか、いつもよりわずかに高い位置にあるブラウンの目が静かにこちらを見据えている。
「呼んだのはお前だろう」
そう、一歩そのひとは踏み出す。俺はそれに合わせて下がろうとして、ベッドに突き当たって体勢を崩すと、目の前の影がしなやかな動きでそれを踏みとどまらせた。そのままいつもよりはソフトに抱かれる。
「危ういやつ」
その振動を感じて、俺はようやく相手の背中に腕を回した。ふたり分の力で引きあっているのに、今日はそれほど苦しくない。ほんの少し月明かりが眩しい。
「聴いていたんですか?あの歌を」
「意味は分からなかったがな。前よりはうまくなったんじゃないか?ああいう歌も」
――前聴いたときは甘ったるくてとても聴いちゃいられなかったぞ。
宿の人に怒られないようにずいぶん音を絞ったつもりだったんですが。そう言うと、私を何だと思っている、とあのひとは返してくれた。
普段とは違う種類の抱擁。あのひとも、俺も、相手の身体を求める気持ちはたぶんない。しばらくそのままでいると、あのひとは来い、と言って窓枠に足をかけ、すぐそばに張り出している屋根に飛び移った。
「ちょっと」
俺は及び腰になりながらもそれに続く、当然、あのひとのように静かに飛ぶことはできなかった。
「まあ、落ちなかっただけでもいいか」
そう言って屋根のてっぺん、棟と呼ばれる場所に腰を下ろし、手で隣に座るようにあのひとは促した。
「今日は飲んでないんですか?」
俺はそう言いながら少し間をとって座る。あのひとはそんなわけないだろう、そういってどこからともなくスキットルを出すと、蓋に酒を注いでこちらに渡し、自身は直接注ぎ口を舐めた。彼女のいつも飲んでいる蒸留酒の匂いが鼻をつく。
「カージェスとポーラを酔いつぶしてやった」
「またそんな――」
ちゃんと部屋まで送ってあげたんですか?と問うと、それは居合わせたやつに押しつけてやった、と応えてあのひとは声を出さずに笑う。そうして、俺はようやくあのひとの息から酒気を感じるようになる。
「ほら、お前も飲めよ」
さらにスキットルをひと舐め。それを見て俺はようやく蓋に口をつけた。
「ん、――ふぅ」
やはり蒸留酒をストレートで口にするのはきつい。こんなところに割るものなどない。そんな風に飲んでいると私に襲われるぞ?そう、あのひとは俺の空いた手に自身の手を重ねる。
「でも、そんな気分じゃないのでしょう?今日は」
分かってますよ。そう言って俺は蓋のふちを舐めた。
深い緑の空を貫く月の光と、遠くを流れる雲。遠くからはまだまだ酒場の喧騒が聞こえてくる。
「お前はまだA****に、私についてくるつもりなのか?」
「はい」
こちらを見ることなく問うあのひとに、俺は短く応える。
「あなたこそ、僕に飽きてしまいましたか?」
「――」
あのひとはこちらの問いには応えず、言葉を重ねた。
「ウッドランドのさる領主とその妻はな、それぞれ夢を追って強欲の魔女に取って食われたそうだ。お前もそうなりたいか?」
「それは、」
どういう意味ですか、と問おうとして留まる。そして考える。
「それは僕にも、そしてあなたにも分からないことなのではないですか?もしそうなら、僕はとっくに『食われて』いるんじゃ?」
そう言うと、あのひとは罠というものは十重二十重に仕込むものだ。自分で手を下したくないなら、仕掛けは大きくなる。逃げ道を少しずつ狭めてゆき、いつの間か逃げられないようになっている。それが罠だ。そう言いながら、俺の手の甲の骨の出ている部分を指先でなぞる。
「それに、あなたはそんなことはしない」
きっと、僕相手なら自分で始末するでしょう。俺は俺の手をなぞるあのひとの手に、空いた手を重ねる。
「そうかな」
「はい」
蓋を慎重に平らな部分に置いて体を少し離すように座りなおすと、俺は両手であのひとの手をとった。こちらを向いたあの人の顔は半分陰になっている。俺はその中に光るあのひとの目を見る。削ぎ落ちかけた耳がじんじんする。
「僕は弱い人間です。よほど頑張らないとあなたに対抗すらできません。でも、あなたのそばにいたい。これからも、今も、きっと当分それは変わらないでしょう」
俺は弱い。だから、でも、あなたのそばにいたいんです。
「あなたさえよければ」
こんな不安定な場所でなければいつものようにすがりついただろうか。
あのひとは俺の後ろからスキットルの蓋を取ると、中身をひと息に飲み干した。
「先々のことは何も約束しないぞ?」
「はい」
距離を保ったまま、あのひとも俺の目を見る。柔らかいが強い眼差し。
「――、―――― ――」
故郷の言葉にふしをつけ、流れと抑揚をもたせる。低く低く、このひと以外に聴かれないように。
「――――、―――― ――」
あのひとは意外そうな顔をしたが、黙ってそれを聴いてくれている。
「――、―――― ―― ――」
それは先ほど歌ったものとは部分的に同じだが、流れも並びも異なるものだ。俺自身覚える気もない、その場限りのもの。
「―― ――、――――」
「――」
「ありがとうございます」
歌い終わると、俺は握ったままでいたあのひとの手に唇を寄せた。
「戻りましょうか。少し冷えますし」
「そう、か?」
「ええ」
俺は腰をあげると慎重に棟を伝い、少し不格好に部屋に戻った。
あのひとは窓辺までついてくると、ではな、とだけ言って音もなくどこかへ消えていった。
またとないほどの月夜はすぐに終わる。陽が多くのものを照らし、暴き、晒す。人々が行き交い、話し、争い、別れる。そんな日がまた訪れる。だから僕らもあんなことをして、あんなことを口にした。それだけの夜だった。
お月さま
あしたは月曜日じゃなくて
日曜日にしませんか?
となりをみると、弟の、少し濡れたズボンがあって、もうすこし見上げると、弟が傘の柄を握っているのが見える。
さらにめをあげると、パツパツ雨が傘をうつ音と、白い街灯の光が、おっこちてくる雨のシルエットと、弟のシルエットを淡く浮かび上がらせている。
よくみると、弟はこっちを見てた。
フシギそうに見てる、弟とバッチシめが合って、
なんでか、おれの口角がぐっと上がってくのを感じる。
また、気持ち悪いって言われる前に、めをもういちど、自分のみのたけにあうとこまで戻した。
雨に濡れた夜道が、街灯のしゃぼん玉みたいなあかりにメラメラ光って、街灯のならぶ反対側には、住宅街が並んでいる。
窓と、玄関、別の家の、窓と玄関にも、せいぞろいで明かりがともってて、窓に伝う結露までは見えなくても、幸せそうな家庭はのぞけた。
「兄ちゃん……ヒトの家をジロジロみるのはよしなよ、なんかわるいヤツみたいだぞ!」
雨の音にはぜんぜん負けない、弟の声はいつでも朗らかだ!
だが、おれは悪者扱いされてるらしい。
「ワルモノが割るものさがしってか……!?」
「わるモノじゃなくて、ボクが言いたかったのはドロボウ!こうすればおまえのサムイギャグは無効だ!まったくもう!」
傘をグラグラゆらしながら、アニメっぽく、しぐさでイライラを伝えてくる。
「ざんねんだったな、ものさがしってとこでもかかってるぜ」
あんま深く考えずに言ったが、弟は意外にも一拍、めをまるくして、そのまんま黙って、前をむいて、腕をくんで、考え込んだ。
おれは、あんま深く考えずに言ったもんだから、考え込んでる弟がおもしろくて、また口角があがった。
「……もうッ!!」
叫んだと思ったら、おれの頭に冷たいモノがどさどさきて「えっ」上をみあげるが、そこに弟の顔も傘も見当たらず、先をみたら、次の次の街灯の下に、走る弟の後ろ姿がみえた。
「ジョーダンキツイぜ……」
おれのパーカーはあっというまにびしょぬれで、三段階くらい暗い色におちてる。
カゼひくまえに、弟の傘にありつくべく追いかけた。
珍しく、きょうは雨だってことで、スニーカーを履いてきたが、それが悪手だった。慣れてないからかバカみたいに走りにくい。
おまけに、背中にはぐちょぬれのフードがきもちわるくのしかかる……
「あ〜、うえ〜」
それでもなんとか、コンクリートの上をおれの影がカタツムリみたいにすべってく。
街灯の中にとびこんで、まだ走って、おれのうしろにまわった影が、おれへおいついて、おいぬく。
走るのがヘタだからか、どうしてもおれの上体は地面の方にかたむいて、前をむくにはわざわざ頭をおこさなきゃならない。
労力つかって、前むくと、弟があとふたつ街灯こしたとこに立って、おれを見てるのがわかった、すると、視界がニュっとのびて……そうのびた。
街灯のあかりが急に尾をひいて、住宅街がとつぜんおれの視界から消えてなくなって、つぎには立派な痛みが額と鼻と、とにかく顔面を襲った。
ガチョッて、ヒドイ音が鳴った気がする。
ずっころんだ。もう一生、スニーカーなんて履かない。
ずるずる重い服をひきずって、荒れて荒れて荒れまくった息と、うるさい雨の音のなかでとりあえずなんとか、起き上がって鼻を触って折れてないか確かめた。
マジで、おれがワルフザケすることはあっても、兄弟がこんなことするのはめずらしい。
くるしい息のなかで、おれはそれだけ考えるのがやっと。
痛みがマシになってきた頃、コンクリートに手をついて、ヒザにも力をいれて、たちあがろうとする。が、運動不足がたたって、コンクリートを四つん這いになって見つめたまま、立ち上がれない……
ぬれた靴、かろうじて上部はぬれていない靴がおれのめにはいってきたかと思うと、雨のうるさい音がマシになって、頭をうちつけて、靴下に水をためてくることもなくなった。
「……ドッキリだ!」
顔をあげると、どうしようもなく面白い、といいたげな赤い顔がみえた。
肩もぷるぷる震えている。
「ドッキリだから、謝んないぞ!」
おれの走って転んだ姿がよほど面白かったのか、めったにみない笑い顔を拝めた。
弟が手をさしだしてくれたから、おれはそれをつかんで、どうにか起き上がって……
弟の足にてのひらをぶつけ、自分もろとも弟をずっころばせる。
「うわっ!?」
「……ドッキリだ」
傘がちかくに転がって、ふたりでずぶぬれになりながらコンクリートにころがった。
弟は、プッと顔を赤くして、ぷるっぷる震えて、やがて爆発したみたいに笑いだす。
おれもそれにつられて、ふたりでお互いをゆらしながらめちゃくちゃに笑った。
「へへ、へへへ!おこるかと、おもったぜ……!」
「は、ハハ、ハハ……!おこってるよ……」
街灯と街灯の間だから、ちょっと暗いが、弟はぜんぜん幸せそうに笑ってる。
おれもたいがいだろう。
傘がなくなった空の上から、雨がもちろんふってきていて、雲の合間合間から、黄色い月がのぞいてて、だのに、雨はおれたちをうちつけて、おれはふう、とため息をついて、弟の腹からどけて、立ち上がる。
すると、弟も、まだ半笑いだが、傘をひろって立ち上がって、ふたりぐしょぬれだから、傘いらないよな、なんて思った。
弟もそう思ったのか、傘をたたんで、手に持つ。
「……ほんとに怒ってるからね!きょうのお風呂掃除は兄ちゃんの担当だッ!」
「おっけー」
びしょぬれの弟にむかって軽くいうと、弟はなにか思い出したらしく、急に焦ったみたいにしだして、フシギだな。雨に散々ぬれてるくせに、汗と雨はみわけがつく。
「やっぱオレさまがやるッ!
……兄ちゃんに任せたら、風呂に苔がはえる!」
「なんだ?いいのか?ラッキーだな」
おおかた、おれが風呂掃除をサボったのに気づかず、ヌメヌメの浴槽につかったときのことでも、おもいだしたんだろう。
もういっかい空を見上げたら、月はもう雲に隠れてなかったが、街灯の白いあかりのおかげで、キラキラうかぶ雨粒が、まあなんか、星みたいだったし、雨の日の夜空も、いいな、なんて思う。
「なあ兄ちゃん!」
みあげると、弟がニコニコ笑ってこっちをみてる。
「こんど、星みれるといいね!」
おれの手をつかみながら言って、つかんだと思ったら、それをブンブンふりだした。
やっぱり怒ってなんかいないだろうな。むしろたのしそうだし。
「きょうだって、月ならみえるよ」
ガグガグ、ゆらされるまんまに体もゆらしながら、言ったら、弟はそこで立ち止まって、大きく見上げる。
おれがつついて……いつのまにか、月のほうを指さすと、弟はすなおに見上げて感嘆した。
「なんか、いつもより綺麗だねっ!」
「だな。卵みたいだ」
「あしたもみられるといいねえ!」
弟は、なにか、胸のわくわくがおさまらなくなったのか、雨のなか、ぐるぐる走り出して、おれはゆっくり歩いて、追うことにする。
カゼひくっていったけど、たぶん大丈夫だな。こういうとき自分の体を自慢したくなる。
おれは、雲にかくれそうな月をひとめみあげて、ちょっと笑った。
ほら、おれの弟がいってるんだから、あしたもときどきは顔みせてくれよ
テーマ「月に願いを」
ごめんね。
今、雨なんだ。
だからね、
月が見えないんだ。
それでもね。
君の幸せを願ってるんだ。