『暗がりの中で』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
子供の頃、
お気に入りのおもちゃと
一緒に寝ていた
時には
掛け布団の中まで
持ち込んで
おもちゃと遊んだ
日中とは、
変わらない遊びだが
自分で作った暗がりの中は
ワクワクできた
今、振り返っても
ワクワク感しか思い出せない
それでいい
それがいい
まー
暗い所が好き
というわけではないけれど
陰を見ていると落ち着く
夜空の下
消灯した部屋
瞼の裏
光のある人生を求めてはいても
その実 光はまぶしすぎて
だからかな
嬉しいのに寂しいのは
陰のあるキミも好きだったのに
~暗がりの中で~
お題 暗がりの中で
暗いのは嫌い。なのに暗くしないと寝られない。わがままだなと思う。
嫌いな理由。何があるのか見えない不安と恐怖。昔行ったお化け屋敷がトラウマになっている。モノが倒れたとか、何かしらが現れたとか。でも一番怖かったのは、最後本物の人が、突然現れて脅かしにきたのだ。思わず母さんにしがみついて泣きじゃくった。
あれ以来暗がりは怖くなった。
だが、暗くしないと眠れない。些細な光でも気になって寝られないからだ。今夜も真っ暗にして寝る。何も出てこないことを祈りながら。
【暗がりの中で】
[ひかり]
ただ盲目に
在ると疑わなかった
目の前に広がる世界
たった一点が
歪んで見えた
ただそれだけで
全てがどろけて跡形もなくなった
今の僕には
在るはずのものも何も見えない
物体を反射し眼に届ける
大事なものが存在しない
前かも後ろかも分からぬままただただ進む
なんて大層な言葉で表すのも笑えるくらい
愚かに彷徨い放浪する
ふと
風を感じた
目には見えぬ
素敵な気が
すうっと首を包み
あまりに小さなその肩に
少しずつ
僕の身を纏う気流を移し替える
それは僕じゃなくて
でも僕の足が連れてきた場所
生かす
ただそこに在る影を信じて
テーマ「暗がりの中で」
俺は暗い所がどうしても好きになれない。
足とか手とか、絶対にどこかにぶつけてしまう。何回タンスの角に小指をぶつけて悶絶したことか…
だのに今日、蛍光灯の寿命が尽きてしまった。予備もない。
買ってこなかった過去の自分を恨みながらも電気がつかないなら無闇に動かないほうがいい。
少し早いがもう寝てしまおう。そう思いベッドに潜り込んだのだが…
喉が渇く。水を飲もうと起き上がれば、電気がつかないことを思い出す。
どうしたものか。ぶつけて悶絶するくらいなら諦めて寝てしまおうか。
いや、水分は大事だ。体をぶつけてしまうリスクを考えても水を飲みに行った方がいい。
深呼吸をしてベッドから降りた途端、足をグネって倒れてしまった。手をつこうとしたら近くのテーブルにぶつけて変な倒れ方をし、起き上がれば壁に頭をぶつけてしまった。
やっぱり暗い所は好きになれない。
昼間は人間の行動を観察し
人の寝静まる頃、噂話に興じる
暗がりのなか小躍りをして
朝日がのぼるとパントマイムのように静止する
陽の光のもとではいつも休園
人の寝静まる頃、開園するおもちゃの国のオモチャたち
「暗がりの中で」
暗がりの中で、君だけが僕の唯一の光だった。
そんな君が、独りで悲しんで泣いているのなら、隣で支えてあげたい。君が愛を望むなら僕の全部で君を愛そう。だって君は僕の光だから。
今まで痛みや暴力が支配していた暗がりの中でしか生きてこなかったから、あなたから与えられる温かい感情にどう返していけばいいのかわからない。
暗がりの中、路地裏の壁に背をつけ座り込んだ俺はポケットからライターを取り出す。タバコでも吸おうかな。何もかもどうでもいい気分になったとき、自分の左の手元に蝋燭を見つける。俺にはそれがここから抜け出す最後の希望のように思えた。手に持ったライターを蝋燭に近づけると火が灯って辺りを照らす。そしてまだ進んだことのない道へゆっくり歩き始めた。
「わ、もうこんな時間だ」
「終電どう?間に合いそう?」
「うーんと、走れば、なんとか」
しかしそういう時に限ってエレベーターの到着が遅い。このフロアにいるのは私達の他には誰も居なかった。きっと、この建物の中にだってもう殆どの人間が残っていないだろう。なのにさっきから呼んでいるエレベーターはいつになっても来ない。
「……階段で降りようかな」
「20階以上あるけど、大丈夫?」
「ですよねぇ。あはは、やっぱ無理か」
冗談なのか本気なのか、言った自分でもよく分かっていなかった。とにかく急がないと帰る術が無くなってしまう。私も先輩も電車だけどお互いに乗る線が違う。私のほうが終電は30分以上も早い。これを逃したら間違いなく帰れない。それだけは絶対に避けたい。
「神崎さんさぁ」
ふいに先輩が私の名を呼んだ。つられて隣を見ると先輩は酷く真面目な顔をしていた。
「隣の部署の……なんて言ったっけ、こないだ中途で入ってきた男の」
「あぁ、瀬戸くん」
「そう、そんな名前。あの彼と付き合ってるの?」
「え?」
最近仕事の内容でわりと話すけど、そんな関係にてはない。何を突然先輩は言い出すのかと思った。
「付き合ってなんかいませんよ、ちょっと仕事でお世話になったりしてて」
「それだけ?」
「はい。そうですけど?」
「そっか」
良かった、という先輩の言葉と同時にポン、という音がフロアに響いた。ようやく来たエレベーターに2人乗り込む。さっきよりも視界が明るい。気になって、先輩の顔をもう一度見た。何故かホッとしたような顔をしている。まさか。もしかして、と思った。
「これで付き合ってます、って言われたらどうしようかと思ったよ」
「えと、あの」
「もしそうだったら、今日は君は家に帰れなかったかも」
にこりと。この小さな箱の中で先輩が笑っていた。いつものような優しい笑い方なのに私には不気味にしか映らなった。自分の心臓がびくんと跳ねたのが分かった。先輩から目がそらせない。この感情の名前は何だろうって考えながら早く1階に着くことを祈る。鼓動は物凄い速さになっていた。数秒前の、“もしかして”を思っていた私は何だったのか。ものすごく恥ずかしい。それよりも、今、怖くて仕方ない。
ようやく1階に着いた。けれど先輩はエレベーターを開けてはくれなかった。このままでは終電に乗りそこねてしまう。いや、その前にここから逃げ出したい。先輩の前から逃げ出したい。
「ねぇ、神崎さん」
先輩がボタンを押して扉を開けた。彼を超えたその先に暗がりの世界が広がっている。でも、そっちのほうがずっとマシだと思った。早くこの箱から出なくちゃ。でもこの人を押しのけて行くのは怖い。どうするべきか困惑する私に手が差し出された。
「俺を選んでよ。そしたらここから出ていいよ」
「……なんで」
そうなるの。意味が分からない。でも先輩の目は本気だった。命を握られているような気分になる。これでもし、彼の言う通りにしなかったら私はどうなっちゃうんだろう。もう終電に間に合うかどうかのレベルの話ではない。
「別に今は俺に興味なくてもいいよ。ゆっくり知ってもらえば。でも誰かにとられるのは嫌だから、一先ず俺のものになってよ。ね?」
ずい、と大きな手が私の鼻すれすれのところに伸びてきた。どうすれば。考えている時間なんてない。早くしないとまた扉が閉まってしまう。でも彼の話を両手広げて受け入れることなんてできない。だけどここにずっと居るのも無理だ。
どうしようどうしようどうしよう。泣きそうになりながら立ち尽くすしかなかった。やがて扉がゆっくりと閉まろうとする。外の世界から閉されてしまう。あぁ、神様、と咄嗟に思った。けれど何も起こることはなかった。完全に閉まる直前、彼の口元が怪しく歪んだのが見えた。
10/28「暗がりの中で」
もがいていた。あがいていた。短い手足で。か細い声で。
兄弟たちはもう動かない。凍える寒さの中、一番下にいた自分は彼らのぬくもりに助けられていた。だがそれも時間の問題だ。
何度目かの黄昏時を過ぎ、薄暗闇が路地を支配し始めた頃。その暗がりに灯る、緑色の光があった。
2つの瞳。
それはゆっくりと近づいてきた。母親、ではない。だがそれに似た匂いを感じた。
「…そうかい。母さんも兄弟も死んじまったんだね」
彼女は鼻をすり寄せ、体を横たえると、乳を与えてくれた。夢中でしゃぶりつく。温かな生命が流れ込んでくる。
彼女は子どもたちを奪われたのだという。子どもたちを探して路地を歩いていたのだという。
「あんた、あたしの娘になるかい?」
こうして、彼女との少し奇妙な親子関係が始まった。
(所要時間:9分)
月の出ない夜更け、使われなくなって久しい廃工場で、たくさんの動くものがあった。
タヌキである。
彼らは、暗がりの中にも関わらず、俊敏に走っていた。
夜目がきかない人間ではこうはいかないであろう。
タヌキたちは工場の真ん中ほどまで進み、そして停止した。
タヌキたちの視線の先には影が2つ。
影の正体は人間である。
背が高い女と背の低い男の二人。
人間たちは無表情でタヌキを見ていた
タヌキたちと人間は睨み合う。
「ブツは?」
タヌキが人間に問いかける。
「ここにある。おい、そのカバンの中を見せてやれ」
背の高い女が、背の低い男に命令する。
男は黙ってカバンを開ける。
その中にはたくさんの葉っぱが詰まっていた。
「最高級の柏の葉、10キロ。確認しろ」
貫禄のあるタヌキが前に出て、カバンの中を覗く。
「確かに。今までのものの中で一番良いものだ」
タヌキは笑みを浮かべる。
「素晴らしい。想像以上だ」
タヌキは変身する時に葉っぱを頭に乗せる必要がある。
葉っぱの良し悪しによって、変身の精度がかなり変わるのだ。
もちろん、普段は最高級品など使わない。
しかし日本中からタヌキが集まるイベント、ハロウィンがある。
そこで全力で化け物に化け、変身の技を競い合う。
去年は他のムレに王者の地位を奪われた。
名誉を取り戻すために、妥協は許されない。
女は、タヌキたちが騒めく様子を見ながら、冷ややかに言い渡す。
「当然だ。次はお前たちの番だ。対価は?」
そう言うと、群れから一匹のタヌキが出てきた。
そのタヌキからはオーラのようなものを感じ取れる。
只のタヌキではないのは明白だった。
「一ヶ月、という約束でよろしかったかな」
貫禄のある、タヌキが言う。
「ああ、問題ない」
女は答える。
「では取引成立だ」
そういうとタヌキたちは、一匹を残し闇に消えていった。
「では、こちらも帰るか」
二人の人間と一匹のタヌキは、タヌキたちと反対の方へ向かう。
工場に出て、外に止めてあった車に全員乗りこむ。
男が運転席に座り、車を発進させる。
「では、目的地につくまで、詳しい仕事内容を教えてもらおうか」
タヌキが言う。
「ああ、事前に伝えた通り、忍者たちの変身の術の講師をしてもらいたい」
「人間の身で変身とは大したものだ。厳しくしていいんだな」
「残念ながら、最近厳しくしすぎると怒られる。ほどほどで頼む」
「人間は大変だな。いや、俺たちもか」
タヌキは、名誉挽回といって燃えていた仲間たちを思い出した。
「一ついいかな」
女がタヌキを見ながら話しかける。
「これはプライベートなお願いごとで、報酬も別に支払う」
「なんだ。言ってみろ。化かしたいやつがいるのか」
女が首を振る。
「触らせてくれ。そのモフモフずっと気になってたんだ。」
【暗がりの中で】
最近、変な起き方をする。
こうやって起きるのが普通かもしれないけれど
変なんだ。
夢なのか、起きてるのか分からない。
でも目を瞑っているから当然真っ暗で、
ずっとここままでいたいくらい気持ちよくて
何もしたくないって感じる。
その時今日やることを思い出すんだ。
課題とか明日の準備とか。
その瞬間、
"ちゃんと全部やったか"って言葉と
"やってない"って言葉が頭を駆け回って
焦る。焦りまくる。
そこからハッと起きる。
それか先輩や友達に名前を呼ばれて起きる。
おかしいよね?これ。
力が抜けてないのかな、休めてないのかな。
どれだけ休もうとしても
やるべきことを思い出して疲れる
ずっと動いているのも疲れる
でも休むのも疲れる。
どうすればいいかな。
学生なんて毎日遊べる、毎日楽しいなんて
大人なったら存在するはずない毎日だ。
早く勉強しなきゃ テストまであと3週間だ
先輩に挨拶しないと 友達に言われたから行こう
疲れた。。
考えすぎは良くないよ
休むのが疲れるのはちゃんと休まってないから
何も気にせず休もう。
なんてできたら苦労しないかな。
お風呂入るとか音楽聴くとか
1人だから色々考えちゃって休まんないし。
―――――暗い暗い夢の中独り。
暗がりの中で目を覚ます。
ここはどこだ。
見覚えのない場所に戸惑いながら体を起こし、辺りを見渡した。
殺風景な部屋は真っ白な壁が四方を囲み、窓は開いていない。
もしかしたら何かしらの事件に巻き込まれたのか……そう思った僕は足元を見る。
そこには慣れ親しんだ、僕の想い人の姿があった−−
【お題:暗がりの中で】
ある人が
読み終えた話が
面白かったので
詳細を調べたら
児童文学の分類で
非常に驚いた
と話していた
主人公の家族が
心の問題を
抱えていたり
社会で
疎外されたり
という設定なのだそうだ
なるほど、
と聞いていたが
考えてみれば
子供が読む話には
案外 昔から
人間の社会を容赦なく
描いているものが
多いかもしれない
小川未明
「赤い蝋燭と人魚」
話の冒頭
人魚が住む、
海の様子が
目の前に浮かんでくる
人魚が住むのは
あたたかい南の海
ばかりではない
北の海、
冷たく青黒く
暗い海にも 住んでいる
ある 身重の人魚は
この暗がりの世界を
寂しく思い
地上という明るい世界、
人間の手に
生まれてくる我が子を
託すことにする
この物語の
面白さのひとつは
人間の弱さが
非情なまでに
明確に、
描かれているところ
だと思う
人の心を
持っていたはずが
あっという間に豹変し
鬼になる
人は欲を刺激され
また
恐怖感を煽られて
簡単に
自分の中の鬼を
目覚めさせてしまう
それは
人間が持つ一面であり
隠す必要もなく
いたずらに
恥じる必要もないだろう
むしろ 子供の頃から
そういった、
私たちの中に眠る
人の弱さを
物語で見せ
触れさせるのは
ゆくゆく
子供たちの助けに
なるのではないか
この世界が天界で
私たちも天人ならば
そんな必要もないだろうが
私たちは
地上に住む人間なのだ
人魚の母親は
自分の姿は
魚よりも人間に近く
きっと
よい繋がりを
持てるだろうと
人間の清浄さを
信じて疑わずに
我が子を
人間界に託したのだが
最後、
人魚の母親が
赤く塗られた蝋燭を
じっと見つめる様子は
息が詰まるほど
哀しく、また
おそろしいのだ
身近な暗がり、ズバリ布団の中
現代人らしく目を痛めながら液晶をベタベタ触ってる
起きたてからずっと布団に燻って、頭が少し疲れたなと思って画面を真っ暗にして、全身から力を抜くと死んだ気持ちになる
暗がりの中で、僕は泣き続けた。
ずっと夜が明けない。いつまでも暗いまま。
どうして、僕はこんな闇の中にいるの。
目を開けても、前が見えない。
怖い。
「もう! 何やってるの!」
空から光と声が降ってきた。
ダンボールの蓋が開けられた。
そうだった。
ママをびっくりさせようって、ダンボールの中に隠れたまま寝ちゃったんだ。
僕は安心して笑った。
『暗がりの中で』
2.暗がりの中で
就寝時に瞑ると兄の納棺姿を毎夜毎夜、思い出してしまう。
我が家は毒親に『教育』『私達の子ども』というだけで身体的・精神的に痛めつけられ、幼少期ながら肉体労働を強い、毒親の意にそぐわねば愚痴をこぼされた。テレビゲームをしている時は私達に聴かせるかよように、とってつけたような大きな溜め息を何度も何度も浴びせてきた。幼少期ながら刑務所にぶち込まれた気分で過ごす羽目になり、毒親の教育の成果が出て、晴れて精神疾患者の仲間入りだ。
「何で我が家の子だけがこんな風になっちゃったの?」
「仕方ねぇわ、ウチらの子だから」
残念な子ということか。ざまぁみろ。お前らの子は失敗作だ。そのまま毒親は苦しんでしまえばいい。
長男という重圧とDV、毒親の過干渉に行動制限で兄がどうなるのか見当もつかないのが阿呆な毒親の、本に載ってそうな程典型的例だ。勿論兄は最初こそ抵抗しようとしたのだが、この毒親である父が家庭を力で掌握するタイプの人間で過剰な圧と古き悪き頑固親父ならではの怒鳴り散らしをするもんだから、幼少期の頃から逆らう事をゆるされなかった。高校卒業と大学入学と同時に一人暮らしを始めた兄は毒親から離れたことで初めて自由と開放感を味わった。『我慢を強いられた人間が急に自由を与えられたら一体どうなるのか』という動画のサムネに取り上げられるような顛末を迎えることに………そう、兄の中で何かが切れた。
人生真っ只中で箍が外れ大学中退、社用車で物損事故、飲酒運転で現行犯、奨学金の延滞続きで山積みの催促状、セルフネグレクト、嘘で塗りたくるしか生存するしかない毒子第一号の出来上がりだ。
毒親の手で地獄の滑車に成り果てた兄は止まるところを露知らず、そして叱ると怒るの区別の出来ん毒親が車輪に暴言エキスの油を注ぎまくった。止まらない。もうどっちも止まらない。止めようとしない。
そして兄はダムから飛び降り自殺した。
身体はぐちゃぐちゃに複雑骨折しており、顔は辛うじて原型を留めていたが、右目が潰れたのかピンポイントに痣ができたのか、泣いているように見えた。それを見た遺族は余計に泣きじゃくる。
あれから毒親は気持ち悪いくらい萎らしくなり大人しくもなった。毒親から離れられるチャンスは今しかない。数ヶ月後、私も旅立った。さようなら。私達を散々苦しめた分まで永遠に苦しめ。
暗がりの中で、ただ1人たたずむ。遊び半分で訪れた「土合駅」。長い長い階段を下りホームに辿り着くと、まさにモグラ駅の異名に相応しいトンネルの中にある1面1線のホーム。「いやぁとんでもない所だ」思わず声を漏らす。その声がトンネルの中を反響すると同時に得体の知れない不安感に襲われる。「本当にこんな所に列車が来るのだろうか…」その不安感が無くなる国鉄型列車115系の汽笛が聞こえるのは………もう少し後の事である。
何も見えない恐怖、先の見通せない不安。そんなことはこれまでもそうだったし、これからもそうだ。千里眼なんて特殊能力もないし、神々だってそれは同じだ。いや、先が分かってしまえばつまらない。はりあいがない。素晴らしい未来が思い浮かべられないのだから、本当に先が分かってしまったら、絶望しかないだろう。そう思う。先が見たいだなんて思うのは、よっぽど満たされているか、盲目的に希望をもっているか、道理の分かっていない者だけだろう。
だから、この暗がりには希望の余地がある。安息がある。そう思う。これが病なら治らないでほしい。
そんなある日のある事件。生きて帰れただけましだった事件。それが転機になるとは誰が想像できたか――そんな事件。
混沌とした頭で思い返し、俺はごろりと転がって腹ばいになる。小柄な俺には大きすぎるベッドだ。
あの人はまだ戻らないのか。
無理やり起きあがってテーブルの上の飲みかけのグラスを手にし、中身を呷る。さらに継ぎ足して、ちょっとだけ口にする。安い酒だ。そんなには美味くないが、それでもなんだか楽しくなってきて、口もとが緩んだ。
――見ているか、じじいども。俺は今、とても幸せだぞ。
俺の貧弱さをあざ笑ってきた老人たちを思い浮かべて笑みを濃くする。
いつかお前たちが俺を捕らえにくるなら、教えてもらったこの力で。
「――燃やし尽くしてやる」
我ながら挑発的で、物騒な台詞だ。でも、俺の言葉だ。言わされたんじゃない。俺の意思だ。思わされたんじゃない。――違うか。
あの惨めな日々があったから俺はここにいて、彼らに牙を剥く気になったのだ。だから、やっぱり言わされたのだ。思わされたのだ。でも、そのあとにはきっと。
俺の「先」があるんだ。