マハーシュリーの夏巳

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【お題:暗がりの中で】

ある人が

読み終えた話が
面白かったので

詳細を調べたら
児童文学の分類で
非常に驚いた

と話していた

主人公の家族が
心の問題を
抱えていたり

社会で
疎外されたり
という設定なのだそうだ

なるほど、
と聞いていたが

考えてみれば
子供が読む話には

案外 昔から
人間の社会を容赦なく
描いているものが
多いかもしれない

小川未明
「赤い蝋燭と人魚」

話の冒頭

人魚が住む、
海の様子が
目の前に浮かんでくる

人魚が住むのは
あたたかい南の海
ばかりではない

北の海、
冷たく青黒く
暗い海にも 住んでいる

ある 身重の人魚は
この暗がりの世界を
寂しく思い

地上という明るい世界、
人間の手に

生まれてくる我が子を
託すことにする

この物語の
面白さのひとつは

人間の弱さが
非情なまでに

明確に、
描かれているところ
だと思う

人の心を
持っていたはずが
あっという間に豹変し
鬼になる

人は欲を刺激され
また
恐怖感を煽られて

簡単に
自分の中の鬼を
目覚めさせてしまう

それは
人間が持つ一面であり

隠す必要もなく
いたずらに
恥じる必要もないだろう

むしろ 子供の頃から
そういった、
私たちの中に眠る
人の弱さを

物語で見せ
触れさせるのは
ゆくゆく 
子供たちの助けに
なるのではないか

この世界が天界で
私たちも天人ならば
そんな必要もないだろうが

私たちは
地上に住む人間なのだ

人魚の母親は
自分の姿は
魚よりも人間に近く

きっと
よい繋がりを
持てるだろうと

人間の清浄さを
信じて疑わずに
我が子を
人間界に託したのだが

最後、
人魚の母親が
赤く塗られた蝋燭を
じっと見つめる様子は

息が詰まるほど
哀しく、また
おそろしいのだ

10/29/2023, 4:23:33 AM