10/28「暗がりの中で」
もがいていた。あがいていた。短い手足で。か細い声で。
兄弟たちはもう動かない。凍える寒さの中、一番下にいた自分は彼らのぬくもりに助けられていた。だがそれも時間の問題だ。
何度目かの黄昏時を過ぎ、薄暗闇が路地を支配し始めた頃。その暗がりに灯る、緑色の光があった。
2つの瞳。
それはゆっくりと近づいてきた。母親、ではない。だがそれに似た匂いを感じた。
「…そうかい。母さんも兄弟も死んじまったんだね」
彼女は鼻をすり寄せ、体を横たえると、乳を与えてくれた。夢中でしゃぶりつく。温かな生命が流れ込んでくる。
彼女は子どもたちを奪われたのだという。子どもたちを探して路地を歩いていたのだという。
「あんた、あたしの娘になるかい?」
こうして、彼女との少し奇妙な親子関係が始まった。
(所要時間:9分)
10/29/2023, 5:21:51 AM