『時計の針』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
もう今更
引き返すつもりはないけど
もしも あの時に
なんてさ…
そんな
たらればを並べて
君が笑ってる未来を
想像しているよ…。
出逢った瞬間に
恋に落ちた時に…
見上げて数えた夜空の星
無数に浮かんで
重なっていく偶然を集めて
この胸に感じたソレを
柄じゃないけどさ
大袈裟な名前で呼んでいたよ…。
君は今どこかで
幸せにしているかい?
時を刻む音が
君を足早に連れ去っていく
いつか またどこかで
重なる日がきたら
あの時は…
そう言って
また笑ってくれるかな…
ゆっくりしか進めない
こんな僕のことを…。
- 時の音 ~長い針と短い針~ -
過去に想いを馳せる
哀しい記憶を巻き戻す時計の針
懐かしい記憶を巻き戻す時計の針
未来を想像する
哀れな自分を想像する時計の針
誇らしい自分を想像する時計の針
私が大切にする時計の針は、この瞬間の秒針。
我が家で 時計の針を見ることはない
デジタル時計ばかりだから
けど。。。あと何分?
頭の中で 時間を計算するときは
なぜかいつも 頭の中に時計の針がうかぶ
根っからの アナログ人間 笑
時計の針
今日は小学校の同窓会である。高校受験も終わり、就職活動が始まる前の今のうちに久しぶりに集まろうという事になった。同窓会に出席する人間なんて必ず目当ての人間が1人はいるものだが、俺の目当ては佐々木ウミさんだ。
佐々木さんとは小学校4年生の時に同じクラスになった。所謂ちょっと変わった子で、そのせいでバカにされたりイジワルされていたりした。
佐々木さんは、ワラジを履いて学校に来たり、給食に出たシシャモに名前を付けて持って帰るような子だったが、中でも印象に残っているのは針の動かない腕時計をしていた事だ。
「ウミちゃんはなんで壊れた時計をしているの?」
僕と佐々木さんは学童保育に通っていて、周りの友達が帰った後も、いつも最後まで親の迎えを待っていた。
「これは壊れたんじゃないよ。7時で固定してるの。」
「何でそんな事をしているの?」
「お母さんが迎えに来るのが7時だから忘れないようにしているの。」
「でも、それだと時計の意味がないんじゃない?」
「時計って、時間を教えてくれる物でしょ?私にはこれで十分だよ。」
そんな佐々木さんが、親の仕事の都合で引っ越す事になった。学童最後の日、僕はプレゼントを渡す事にした。
「ウミちゃん、これプレゼント。」
「腕時計だ。だけど、4時で止まってるよ。」
「僕らが学童で会うのが4時でしょ、だから今度会う時はまた4時に会いたいなと思って。忘れないように。」
「うん、私、コウスケ君のこと忘れないね。」
今、時刻は18:45。同窓会の開始は19時からだが、まだ佐々木さんは来てなかった。今回、佐々木さんの連絡先を調べて同窓会に誘ってくれた幹事の近藤の仕事ぶりには感謝している。
佐々木さんと会うのは7年ぶりだがすぐに分かった。Gパンにシシャモのイラストが入ったパーカーを着た女の子が会場の入り口にいる。あれは佐々木さんに違いない。僕は入り口に向かった。
「あれ?コウスケ君じゃない?すぐに分かったよー。」
「僕も佐々木さんのことすぐに分かったよ。」
「え?昔みたいにウミって呼んでよ。」
僕は佐々木さんの腕に目をやる。
「ウミちゃん、腕時計の針が動いてるね?」
「やだぁ、子供じゃないんだから、いつまでも動かない時計なんかしてないよ。でも、コウスケ君に貰った腕時計はまだ持ってるよ。どうせなら今日も4時に会いたかったね。」
「そうだね、もう大人だもんね、ウミちゃん大人っぽくなった。」
「嬉しい。化粧のせいかな?コウスケ君もすっかり大人になって格好いいよ。モテるんじゃないの?」
「モテないよ。ウミちゃんこそ、彼氏いるの?」
「いない、いない。私のこと女の子扱いしくれるのコウスケ君だけだよ。私さ、子供の頃嫌われてたじゃない?だから優しくしてくれるコウスケ君のことが好きだった。私の初恋の相手はコウスケ君かな。」
「僕の初恋の相手も、ウミちゃんだよ。」
「本当?嬉しい。」
「そして、僕の初恋は現在進行形。」
僕の止まっていた恋の時計の針が再び動き出した。
声(テーマ 時計の針)
2020年代に生きるユウキという若者がいた。
ユウキは21歳で、大学において、大学院に進もうか、社会に出て働こうか、迷っていた。
迷ったまま、年末年始と時期をずらして実家に帰省した。2月のことた。
実家の仏壇に線香を上げ、7年前の震災で亡くなった祖父の遺影を拝む。
(大学院に行っても、昨今はそれに見合った就職先があるわけでもない。さっさと働きに出た方がいいかもしれない。ただ、もっと大学で研究もしてみたい。)
祖父は、かつて大学で教鞭を取り、研究もしていたので、相談してみたかった。
研究室で崩れた建物の下敷きになってしまった祖父。大学の建物は古く、耐震化していなかった研究棟は脆くも崩れ、地震が夜間であったこともあって救助が遅れ、瓦礫から遺体が発見されたのは、実に震災から1週間後であった。
(じいちゃん。俺、どうしたらいいかな。)
しかし、仏壇に手を合わせても、自分の頭が少し整理されるだけで、当然、亡くなった祖父と話ができるわけでもない。
なにかインスピレーションが浮かぶわけでも、天の声が聞こえるわけでもない。
ユウキは近くの神社に、遅い初詣に行くことにした。
*
神社はそこそこ長い歴史があり、移転前を合わせると1000年前からあるらしい。
しかし、移転したものなので、建物自体はそこまで古いわけでもない。
平日の昼間のため、神社は誰もいなかった。
無人の境内でガラガラと本坪鈴(ほんつぼすず)を鳴らし、手を合わせる。
「お願いがあります。」
ボソッと、ユウキは呟いた。内心だけのつもりが、つい口から出てしまったのだ。
(まあいい。どうせ誰もいない。)
そして、大学進学か、就職か、迷っていることをまた考える。
答えは出ない。
(帰るか。)
5分ほど拝んでいたが、埒が明かないので帰ろうと、境内に背を向けたときだった。
『お願いがあるんじゃないの?言わなきゃわかんないんだけど』
声が、聞こえた。
*
リズは、シミュレーション端末のオペレータだ。
担当するコンピュータを使用した、シミュレータを操作している。
大量のシミュレータを構築し、少しずつパラメータを変えて並行稼働させ、どのパラメータにしたらもっともいい結果が出るのか観察するのが目的だ。
シミュレータは、設定した物理法則とパラメータからコンピュータ内部で計算を繰り返し、内部で一つの世界を構築する。
しかし、リズ自身は操作といっても細かいことをしているわけではなく、上司の指示に従って何百台も稼働しているコンピュータを操作しているだけだ。コンピュータも仮想化しているため、そんなことをしていても、現実のリズの前には端末が1台あるだけだ。
この仕事を初めて2年になり、退屈していたリズは、つい魔が差す。
端末に、シミュレータハック用のソフトを入れたのだ。シミュレータはあくまでシミュレータでしかいないので、本来、パラメータに沿った計算を行うだけだ。しかし、このソフトは、リズと同じようにこの仕事に退屈し、しかし技術が有り余っていたプログラマーが作ったフリーソフトで、端末用のマイクでシミュレータ内部と話ができるようにするものであった。
(えっと、対象の時間を現実と同じにするために、一旦計算サービスを停止して、計算のスピードを「現実と同期」に設定してサービスを再稼働させる。)
リズはマニュアルを見ながらたどたどしくソフトを入れ、シミュレータの設定を変えていく。
「よし、映った。」
端末内のウィンドウに、単なる数字ではない「映像」が映る。本来コンピュータ内部で計算している粒子を画像として再構築したのだ。時間を現実と同期したので、内部も同じスピードで時間が流れている。
これで、シミュレータ内に声を届けたり、内部の音を聞いたりできる。
映像内でシミュレートされた生物が、よくわからない言葉を喋っている。
(おっと。言語の自動翻訳も設定しないと分からないや。)
翻訳はフリーソフト側で設定があった。選択するだけであっさり理解できる言葉になる。
「おおー。なんだか感動。」
リズは数日間、ソフトを入れた世界を眺めて暇を潰していた。
そして、次の段階として、シミュレータ内部の生物に声をかけてみたのだ。
(「神社」という神様の家に来て、お願いしているんだし、他に生物もいないから邪魔も入らないでしょ。)
「お願いがあります」と言いつつ、声に出さずに帰ろうとした生物――ユウキにマイク越しに声をかけた。
「お願いがあるんじゃないの?言わなきゃわかんないんだけど」
*
周りを見回すユウキに、リズは更に声をかける。
「見回してもいないよ。」
『誰?・・・ですか?』
「神様みたいなものかな?」
単なるオペレータであるリズは、それでも、シミュレータ内部の生き物ユウキに「神」と名乗った。
『え?マジ?』
「マジマジ」
ユウキが慌てる姿を見て、リズはちょっと楽しくなってきた。
『え、と。お願いを、叶えてもらえるんですか?』
「まあ、今、暇だし。聞くだけ聞いてみようかな、と。」
ユウキは改まって境内に向き直ると、言った。
『金ください。一生、働かなくてもいいくらいの大金。』
「え?金?」
『そう。お金です。』
リズはシミュレータの計算を一旦停止した。これでシミュレータ内の時間は止まる。
その間にリズは考える。
(シミュレータ内部の金。なんだっけ。検索して・・・。紙幣か。結構精密だな。粒子単位でコピーすればいくらでも出せるけど、これ通し番号が付いてるよね。コピーだと全部同じになっちゃうし、一つずつ変えていくなんて無理。粒子単位のシミュレータ改変なんてできないし。)
リズは停止を解除した。
「お金は無理。札束、出せるけど、全部同じ札だから、君、偽札作った犯罪者になっちゃうよ。」
『え。・・・神様だからなんとかできないんですか?』
「無理。できることとできないことがあるの。」
『じゃあ、永遠の命とか。ずっと若いままでいたいです。そうだよ。神様に頼むならお金よりこっちだ。』
また一時停止して考えるリズ。
(細胞分裂を繰り返す生き物を永遠に、とかできるのかな?テロメアとかいうのを操作する?この生物の若い頃のDNAデータを昔の世界から拾ってきて今のこの生物の細胞に入れてみる?いや、それ、粒子単位でどうやって操作するの?こっちはプログラマーでもDNA研究者でもない単なるオペレータだし。ムリムリ。)
リズはひとしきり考え、また解除する。
「それも無理かな。きみの命は限りあるものとして元々作られている。」
少し偉そうに言ってみる。
『・・・じゃあ、何ならできるんですか?』
「ていうかさ、さっき「お願いがあります」って言ってたじゃん。金とか永遠の命とかお願いしてたわけ?」
ユウキはハッとした。
『死んだ祖父と話をさせてください。その、大学卒業後の進路相談がしたいので。』
*
リズはサービスを停止した。
(死んだ祖父と話。話かぁ。どうしたらできるかな?)
ソフトをインストールして、同期しているのはこのシミュレータだけだ。もう一つのシミュレータも同期させて、そちらのシミュレータの時間を、ユウキの祖父が生きている時間まで戻して同時再生し、音声をやり取りさせれば会話もできるだろう。
しかし、元々暇つぶしのために始めたことだ。そこまでやりたくない。
(もういっそ、時間を戻して再計算して、声をかけなかったことにしようかな。)
一瞬考える。
(いやいや、我ながら、飽きるのが早すぎでしょ。)
リズは更に考える。
(このシミュレータを一旦この時間アルファで停止して、時間軸をユウキの祖父が死ぬ前ベータに戻す。私が話しかけ、未来の孫の相談に乗って欲しいと言って、話ができるならまた一旦停止し、アルファでユウキの声を端末で録音し、ベータで再生。その後、返事をアルファまでまた戻し、再生。これを繰り返せば、会話できる、かな?)
「よし。やってみましょう。祖父に話しかけて見て。」
『えっと、じいちゃん。聞こえる?ユウキだよ。』
*
(ベータ時間)
『突然、失礼します。』
一人で大学の研究室にいたユウキの祖父――総一朗は、その声に驚いて周囲を見回した。
「・・・誰もいない?」
『突然、失礼します。今ちょっとお時間よろしいですか?』
(といっても、あなたはどんなに忙しくても、あと1時間くらい経つと地震で建物の下敷きになるから関係ないんだけどね。)
リズにとって、ユウキも総一朗もシミュレータ内部の生物であり、現実ではない。特に関心はなかった。
「あなたは誰だ?」
『神様みたいなものです。未来のあなたの孫が、あなたと話をしたいと言っているので、繋いでみようと思うんですが、協力してくれますか?』
「神様?・・・というか、未来の孫?」
『ユウキという名前の人間です。』
「ユウキか!」
総一朗は懐疑的であったが、イタズラにしては手が込んでいる。孫の話を大学でしたことはない。ユウキの名前が出てくることに驚いていた。
『ユウキさんは大学を卒業後の進路についてあなたと相談したいそうです。』
「・・・神様がなんでそんなことをしているんだ?」
『暇つぶしみたいなものです。』
呆れた顔をした総一朗は、一瞬後に目をギラつかせた。
「・・・暇つぶしにワシを億万長者にしたり、若返らせたりして見る気はないか?」
『孫と同じことを言わないでください。どっちも無理です。・・・いいですか?』
「このまま電話と同じようにすればいいんじゃろ。構わんよ。」
リズは、ユウキの音声を再生した。
『えっと、じいちゃん。聞こえる?ユウキだよ。』
「聞こえる。ユウキか、声が少し大人っぽくなったか。今いくつだ?」
(さあ、ここから大変だ。)
リズは、ユウキと総一朗の会話を成立させるため、会話を録音してはシミュレータの時間軸をアルファとベータに交互に戻しつつ、録音・再生を繰り返した。
*(アルファ時間視点)
「今は21だよ。あと1年で大学を卒業するんだ。」
『おお。こちらではまだ中学生なのにな。もうそんな歳か。』
神様と言うには威厳も何もないやり取りだったが、死んだ祖父と話ができていることにユウキは涙が出そうになった。
「じいちゃんは、元気?」
『ああ、元気だ。といっても、こんな時間にまだ働かないといかんのだ。大学勤務も楽ではないな。』
(こんな時間?)
さらに、さっき祖父は「まだ中学生」と言った。つまり、この祖父は死後の祖父ではなく、過去に生きている祖父ということか、とユウキは思った。
しばらく、雑談した後、本題に入る。
「それで、実は院に進むか、就職するか迷っていて。」
『お前は、どうしたいんだ。ワシが言うのも何だが、どっちも楽ではないぞ。楽ではないんだから、行きたい方、やりたいことをやるべきだ。』
「でも、就職は昔よりずっと厳しくなっていて、院を出ても働く先がないかもしれない。」
『それは、院に行った分を「取り戻せる」高給を貰える就職先がない、ということだろう。そんなところは、昔から少ない。研究なんてのは、だいたい報われないことが多い。そういう生き方だ。ワシはかなりマシな方で、博士号は取ったが、教授にどころか席も貰えずに細々と外部講師を続けている者もいくらでもいる。』
「じゃあ、就職したほうがいいのかな?」
『就職は、やりたい仕事があるのか?』
「いや、給料がそこそこで、ホワイトなところを探すつもり」
『ホワイト?どんな業種だ?』
「あ、ホワイトってのは、勤務時間とかがきっちりしていて、働きやすい場所って意味だよ。」
『働きやすい、か。やりたいこと、ではないか。』
「まあ、そうだね。」
『最初はそれでもいいが、数年すると、実際に「やりたいこと」であるかどうかを悩み始めると思う。ワシもそうだった。ワシは一旦民間で働いて、その後大学に戻ったのだ。結局、自分の人生、やりたいことがやりたい、とね。』
(じいちゃんも転職してたのか。勝手に大学からそのまま博士になったと思っていた。)
ユウキは、生前に祖父の話をこんなに聞いたことがあっただろうか、と戻らない時間に、少し胸が狭まるような思いがした。
「そっか。結局、やりたいこと、か。」
『ワシはそう思う。人間いつ死ぬかわからんのだ。我慢して後からやりたいことをやろう、と言い聞かせても、明日があるとは限らない。後悔しても何も得ることはないんだ。』
(話ができて、良かった。)
「じいちゃん、ありがとう。もう一回考え直してみるよ。・・・神様にも感謝しないとね。」
『力になれたら良かった。これがどういうものか分からないが、元気でな。お前が大学生になったら今の話もできるのかな?』
「・・・さあ、どうかな。ところでさ、あの。」
『なんだ?』
ユウキは、つばを飲み込んだ。声が、少し震える。
「こ、今夜さ。実は、月がすごく珍しい光り方をするみたいなんだ。星空がよく見える場所で、外で写真を撮っておくことをおすすめするよ。」
リズは時間を停止した。
*
「! やりやがったアイツ!」
リズは試しに、そこで会話を終了して、そのままシミュレータを再生してみる。
総一朗はカメラを用意し、防寒着を着て外に出て、星を探している間に震災が起きたのだ。
元々、震度の大きさの割に人的被害は大きくなかった地震であった。研究等は崩れたが、外に出ていた祖父は尻もちをついただけで済んだ。
総一朗は死なないことになった。
そのまま祖父が生きている状態で時間が進むと、高校生になったユウキは、本来行くはずであった大学ではなく、生きて祖父が教鞭を取っている大学へ進学してしまった。
歴史はあっさりと変わってしまった。
そうあると、ユウキは帰省も神社へも来ない。
リズと話をすることもなくなった。
ただ、ユウキは、総一朗の記憶にいるのみである。
ユウキの悩みは、ユウキの存在ごと書き換えられたことになる。
時計の針を無理やり戻し、更に書き換えた結果であった。
ユウキは祖父と感動の再会はしない。そもそも死別しなかった事になったから。
それが幸せかどうかは、分からない。
総一朗はユウキの在学中に定年退職し、ユウキは大学院に進学したが、博士課程途中で総一朗が認知症になり、面倒を見るために休学することになった。
それでも、もしユウキに以前の記憶があれば、「こちらの方が幸せだ」と言うかもしれないが、そのユウキはシミュレータの再計算によって消えてしまったのだ。
見ているリズが、ユウキは満足だろうか、と小さな感傷に浸ることしかなかった。
*
そして、リズもそんな感傷はすぐに忘れることになる。
「さて、お愉しみはここまでだ。」
「え。」
リズの背後から、警備員を連れた上司が現れる。
「端末に変なソフトを入れて、シミュレータで不要な再計算を繰り返していたね。その再計算にもリソースを消費していることは理解しているかな?」
「え、いや、その。」
「まあ、再計算しているのはそのシミュレータだけだから、そこまで影響は大きくない。きみの給料からリソース消費分を差っ引けば、一回目だし、まあ大目に見ようじゃないか。」
「ひ。いや、その。私にも生活が。」
「大丈夫。全額一気にとは言わないから。ただ、しばらくきみの月給が半分になるだけだよ。」
リズは減給処分となった。
おしまい
『時計の針』
壁掛けの時計が、カチコチと時を刻んでいる。
独りぼっちの夜には良く響くその音に、早く眠れと急かされている様に感じて、時計の針を睨みつけた。
(少しは寝ないと。)
目を瞑っても、耳は運針の音を拾う。
羊を数えようにも、規則正しいその音に沿って数えてしまうので、目が冴えるだけだ。
(寝よう。)
ごそごそと布団を頭まですっぽり被った。
布団の中まで、追い駆けてくるその音は、まだ少し小さく鳴っていた。
私の1歩は、あなたの60歩。
あなたの1歩は、誰かさんの60歩。
時計の針が進んでいるように思いますか? あなたの中で時計の針が進んでいるように思っても、実際には動いていません。
この静寂の中にとどまってください。 あなたの内側から湧き出る情熱とアイデア、そして私たちの声を聞いてください。
そして、安らぎの中でくつろいでください。 いつでも無限に時間はあります。 どんな瞬間でも可能性が広がっています。 今この瞬間から未来を創造しているのです。
時計の針が進んでいないことに気がついた。
よくよく観察すれば動いたかと思えば同じところでかくり、かくりと動くのみ。
電池切れか。
そう裏を確認すれば単一が収まっている。
電池はその都度買い足してるような家だ。単一などあるわけもなく明日の朝まで時計は臨時休業である。
さて買い物をする口実ができた。
教室にある時計は気まぐれ
あの先生の授業のときだけ
ゆっくり時間が過ぎてゆく
だんだんまぶたが重くなる
あの先生の声が遠く小さく
隣りの子がガタと音を立て
私は、ぱちりと目を開けた
あの先生の瞳が私を見てた
私眠ってた?話聞いてたし
その時にチャイムが鳴った
今日の授業は随分早かった
教室にある時計は気まぐれ
あの先生の授業のときだけ
『時計の針』
その瞬間、時計の針で刺されたように動けなくなった。
進んでいく時間。何も最後までやりきったことがない自分。段々と自分が見る世界が汚くなっていくんだ。と笑っていた幼なじみの彼が昨日、死んだことを母から告げられた。
隣に私が居なくてもこれからの道、幸せな人生を歩んで欲しいと願っていた彼が。
彼はいつも明るいから「弱音を吐くなんてらしくないね」なんて言葉が大事な、大切な彼を追い詰めてしまったのだろうか。どくどくと心臓が早まりぐるぐると頭の中が掻き回される。
あの日から時計の針はずっと刺さったまま、
秒針が あなたに落ちるその前に 手を伸ばして 円を見た
『時計の針』
遅々として進まない時計の針を、貴方と眺めて死んでいこう。進まない時間はもういらないの。
祖母の家は、午後3時なのにとても薄暗かった。
なぜか周りには誰もいない。
3時ちょうどの重々しい振子時計の音だけが、室内に響き渡る。
幼い私は、恐怖心とも違う、切なさに似た感傷を感じながら、光が差し込む南側のカーペットの上でうとうとしていた。
大袈裟な時計の針の音ともに目が覚める。
ふと顔を上げると、手拭いを頭に巻き、青いもんぺを履いた祖母がタンスの前に立っていた。
私は強い瞼の重みを感じ、またそっと眼を閉じ眠る。
私は微睡みの中で、会った事の無い祖母を「祖母」だと認識していた。
時計の針の音と共に、幼い私が初めて感じた感傷だった。
【時計の針】
私の部屋にある、壁に掛かった時計は壊れている。
電池を入れ替えても10分程度しか進まずまた止まってしまう。いや、止まってしまうという表現は少し違う。秒針だけは動いている。8を少し過ぎたところを指し続けながら、懸命に時を刻んでいるのだ。カチコチカチコチと音を出し時間の流れを刻みながら、時計そのものは決して動かない。
特に気に入っている訳でもなかった。中に描かれた絵も今や色褪せているし、過去についでで貰ったものだったので金を出してもいない。時間を確認しようとふいに目を向けるたびに、ああそうだ処分しようと思った。
しかし今も私の部屋で秒針だけを動かし、音を立て続けている。
同じ時刻を示し続ける時計、クセでつい見てしまう進歩のない面倒くさがりな私。似たようなものだと思う。
配置の決まった変わらないこの部屋で、どちらも音を立てながら似たもの同士が住んでいる。
お題:時計の針
止まってる。私の時計だけが。
みんな前に進んでいるのに。
就職、進学、恋愛、趣味…
私の時計の針はいつ動くのだろう。
頑張って隠しているつもりだが、実はまだ、心にはぽっかり空いた穴が。
感じる悔しさと淋しさはいつ埋まるのだろう。
でも幸せを諦める訳にはいかない。
どーんと構えて、時計の針が動くのを待ち続ける。
2024/02/07/(水)
カチ、カチ、カチ、カチ、ゴーンゴーン
時計の針が午前零時を指した時、肉と肉のぶつかる鈍い音がした。
そしてすぐ後にコンクリートに肉体が打ち付けられた--
パトカーはランプを点灯し急いで走っていた。
1月1日午前5時15分
桜庭は相棒の設楽と共に現着した。
2人は遺体に合掌してから状況を聞いた。
「第一発見者は二十代男性。朝のランニング中に発見したそうだ。」
「なるほど。随分と早い時間から走っているんだな」
「ああ、毎朝仕事の前に走っているそうだ。で、解剖の結果を待たないと詳しいことは分からないが、遺体の硬直具合から見て死亡推定時刻は1月1日午前零時だろう」
「死因は激しく殴られたことと地面に打ち付けられたことによる頭蓋骨折と見られる。」
そこまでとは相当だ。
「身元は所持品の免許証から割り出されており、地元のヤクザグループのメンバーだそうだ。」
「身元のわかるものを置いていくなんて犯人も焦っていたのか」
「しかし、揉み合った痕跡はあれど指紋は本人のもの以外ついていなかったんです。」
「“犯人は口論になって衝動的に殺してしまったのではなく殺すつもりで現場に来た”ということか」
【時計の針】
時計の針
「ひとごろし!」
辺りがざわっ、とした。
人で溢れ返る、午後のフロアに、
響き渡る少女の
いや、それよりもっと幼い女の子の声。
何歳かは自分にはわからないが。
その声が自分に向けられたものと
わかるのに、少々時間がかかった。
女の子の横には両親と思われる男女がおり、声の主は足を踏ん張り、唖然としている
母親のスカートを握りしめて立っていた。
「え、と、君は、なんでそう思うのかな?」
目線が合わないので屈(かが)む。
「そのせいふくのひとは、ひとごろしだってお兄ちゃんが!」
そう、制服の人、自分は警官だ。今日はショッピングモールのパトロールに来ている。
「お兄ちゃん?」
「そう、お兄ちゃんは凄いんだから!みんなを助けるために、爆弾とかも作れるの!」
爆弾とは穏やかでは無い。
ようやく事態を把握したらしい母親が、
「カオリ、お兄ちゃんって、隣の…?」
「そう、右手に、星の印の火傷のあるお兄ちゃん!人を助けた時に、神様になったお兄ちゃんの弟がくれたって印!」
…何度時計の針が回ろうと、
俺はお前を許さない。
俺はまたお前の前に現れて、弟の仇を…
脳裏に蘇る、奴の声。
「先輩、そのお兄ちゃんて、まさか…」
自分は出来るだけ声を柔らかくして言った。
「カオリちゃん、そのお兄ちゃんの名前、もしかして〇〇、とか、××かなぁ?」
奴がよく使う偽名を言った。
カオリちゃんの顔がパッと明るくなる。
「そう、〇〇お兄ちゃん!…ひとごろし、
じゃなくて、お友達?」
カオリちゃんが首を傾げる。
「そう、お友達だよ、
ずいぶんと昔からのね」
すっと立ち上がり、後輩と目で会話し、
無線で連絡を入れた。
連続爆弾魔、〇〇の潜伏先がわかったと。
時計の針が刻むその無機質的な音と携帯の光
しかない部屋で私は思うままに文字を打ち込む。
今の状況をそのまま文にしたらどうなるのかな、
まとまらなくなりそう。というか眠い、なら携帯いじるなって話。分かってるけど辞められない、もう2時42分だ、明日課題あるんだよなぁ…
あ、43分だ。60秒でこんなに私は思考を動かしてるんだ…いや多分実際にはもっと動かしてるけど…
今このお題がなかったら私は今の考えを書き出そうなんて思わなかったし…不思議な気分。
#時計の針
時計の針は左には進まない。分かっていた。分かっていたはずなのに。
おれはおまえを、針の左側に置いてきてしまった。