時計の針
「ひとごろし!」
辺りがざわっ、とした。
人で溢れ返る、午後のフロアに、
響き渡る少女の
いや、それよりもっと幼い女の子の声。
何歳かは自分にはわからないが。
その声が自分に向けられたものと
わかるのに、少々時間がかかった。
女の子の横には両親と思われる男女がおり、声の主は足を踏ん張り、唖然としている
母親のスカートを握りしめて立っていた。
「え、と、君は、なんでそう思うのかな?」
目線が合わないので屈(かが)む。
「そのせいふくのひとは、ひとごろしだってお兄ちゃんが!」
そう、制服の人、自分は警官だ。今日はショッピングモールのパトロールに来ている。
「お兄ちゃん?」
「そう、お兄ちゃんは凄いんだから!みんなを助けるために、爆弾とかも作れるの!」
爆弾とは穏やかでは無い。
ようやく事態を把握したらしい母親が、
「カオリ、お兄ちゃんって、隣の…?」
「そう、右手に、星の印の火傷のあるお兄ちゃん!人を助けた時に、神様になったお兄ちゃんの弟がくれたって印!」
…何度時計の針が回ろうと、
俺はお前を許さない。
俺はまたお前の前に現れて、弟の仇を…
脳裏に蘇る、奴の声。
「先輩、そのお兄ちゃんて、まさか…」
自分は出来るだけ声を柔らかくして言った。
「カオリちゃん、そのお兄ちゃんの名前、もしかして〇〇、とか、××かなぁ?」
奴がよく使う偽名を言った。
カオリちゃんの顔がパッと明るくなる。
「そう、〇〇お兄ちゃん!…ひとごろし、
じゃなくて、お友達?」
カオリちゃんが首を傾げる。
「そう、お友達だよ、
ずいぶんと昔からのね」
すっと立ち上がり、後輩と目で会話し、
無線で連絡を入れた。
連続爆弾魔、〇〇の潜伏先がわかったと。
2/6/2024, 5:45:15 PM