『春爛漫』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
出逢いと別れが交差する
清々しい季節に風が吹く
希望という花が心に咲く
淡い色した夢は光り輝き
未来を切り開く力となる
勇ましくそして軽やかに
風は背中を押してくれる
桜が咲く頃に思い出して
心に花を持っていること
永遠に美しくあることを
『春爛漫』
『春爛漫』
「もういい加減にして! 泣きたいのはこっちなの!!」
そう叫んだあと、アパートに響き渡っていた泣き声が一瞬止まったかと思ったが、結果、さっきよりもっと大きな声で泣き出しただけだった。
「もう……どうすればいいの」
ベビーベッドの手すりを掴んだまま床にへたり込む。
目から涙がぼろぼろと出てくる。それを拭う気力もなく、次第に嗚咽が混じった泣き声が喉の奥から込み上げてきた。
ふと自分の中にある掴みどころのないどす黒い塊の影に気づいた。目の前で泣きわめくこの小さな生物をもっと簡単に泣きやませる方法があるじゃないか──
一瞬でもそう考えた自分が怖かった。やり場のない感情を力いっぱいに握った拳に込める。
手のひらに爪がささって痛い。痛いけど当然の報いだ。私はダメな母親だ。母親失格なんだ。
娘が産まれてからのこの半年間、私はなんとか踏ん張り耐えてきた。
初めての子育てに四苦八苦しながらも、最初の1ヶ月は育休を取ってくれた夫と力を合わせ、どうにか乗り越えられた。
あの頃も睡眠時間は充分とは言えなかったものの、まだ娘を見て"かわいい"と思う心の余裕はあった。何かにつけ写真を撮ったり、1日の様子を事細かに日記につける余裕もあったくらいに。
だが、いつからかそんな余裕もなくなっていた。
仕事を再開した夫が帰るのは夜遅くのため、日中は一人で世話をする。夫が帰ってくるまでの間、娘の面倒を見ながら家事をして、夕飯を作った。
飛行機で2時間ほどもかかる場所に住んでいる母に簡単に頼るというわけにもいかず、近くに住んでいる義理の母には気を使って頼ることができなかった。
そして、そのうち始まった夜泣きがさらに私の心に追い打ちをかけた。
昼夜問わず寝れない。気が休まらない。娘に笑いかけようにも、笑い方すら分からない。そんな自分に自己嫌悪した。
こんなはずじゃなかった……何度そう思ったか分からない。
私たち夫婦が待ち望み、やっと産まれた初めての子ども。
病院で初めて娘が笑った時、心に陽だまりができたような言葉にならないほどあたたかい気持ちになった。
そこから、"ひなた"と名前をつけた。このあったかい響きには平仮名の方がいいよね、と2人で相談して決めた。
「ひなた」と呼ぶと笑ってくれた。それがとてもかわいくてたまらなかった。かわいくないはずがなかった。なのに──
仕事終えて帰宅した夫がそんな私をみかねて、「週末3人で出かけようか」と言った。
「え……」
私は信じられない気持ちでいっぱいだった。
「もう外に連れていっても大丈夫なんだろ? 外は桜が見頃だし、ひなたに初めての桜を見せてあげたい」
「──何でそんな簡単に言うの」
夫が不意をつかれたようにこっちを見る。そして戸惑ったように言う。
「別に、簡単なんて」
「そうでしょ! 自分はひなたの世話をずっと私に任せっきり。私は1日生きるだけでこんなに精一杯。なのにあなたはそんなふうにお気楽にして、その上私が悪者みたいに言って」
「俺がいつそんなこと言ったんだよ」
「言ったじゃない。私がひなたを全然お出かけに連れて行ってないって。ひなたが可哀想だって。ダメな母親だって……」
自分でも感情が抑えきれなかった。
分かってるんだ。夫は何も悪くない。悪いのは自分だ。今のは彼に向けてじゃなくて、自分に言いたかったことなんだ。
「──今日はもう寝る。夕飯は明日朝食べるから」
そう呟かれた言葉だけが部屋に残って、そして静寂に消えた。
次の日、ソファでうとうととしていた私が目を覚ますと、もう夫の姿はなかった。
心当たりのない毛布が1枚私にかけられていて、冷蔵庫に入れておいた昨日の夕食の皿は、全部洗って水切りに置いてあった。
ベビーベッドでは娘が珍しく静かに眠っている。
私は起こさないようにそっと近づいた。両手を上げて寝る姿がいつも夫が寝る時の姿にそっくりだ。そうやって静かに寝息を立てる娘を見てると、なんだか無性にかわいくて愛おしくてたまらない気持ちになった。
そう思うと私の頬は自然と緩んでいた。ああ、私にもまだちゃんとこんな感情があったんだ。そう気づいた。
週末になり、私たち家族は初めて3人でちゃんとしたお出かけをすることになった。
友人たちにもらった外出用のかわいい洋服を着せ、母にもらったくまの耳がついた小さな帽子をかぶせる。
「あれはいれたし、これもOK……これで全部かな?」
荷物の多い乳児のお出かけのために、夫がほとんどの準備をしてくれた。
「うん、ありがと」
「よし、じゃあ行こうか」
普段の買い物は夫に任せているため、外に出るのは久しぶりだ。
1歩家から出ると外にはいつの間にかちゃんと春が来ていて、すっかり暖かくなった空気を吸い込むとなんとなく春の匂いがした。
「ひなたーお出かけですよー。桜を見に行くんですよー」
私が抱いている娘に向かって、夫が歩きながらうれしそうにしゃべりかける。
「お父さんの方がはしゃいでるみたいだねーひなた」
娘はそんな私たちに構うことなく、初めて見る景色に目を行ったり来たりさせている。
「ほら、あれ!」
夫の声につられて視線を追うと、そこにはこれ以上ないくらい満開の桜が通り沿いにずらりと並んでいた。
天気も申し分ないほどの花見日和だというのに、まだ少し時間が早いせいか車通りも人通りも少ない。
「こんなにすごい桜なのに、私たちがひとり占めだね」
私がそう言うと、夫が「違う違う」と首を振る。
「三人占めだよ、それを言うなら。この桜はたった今、俺たち三人だけのもの。よし、ひなたおいでーお父さんと一緒に桜を見よう」
夫がひなたを抱きかかえて、桜の枝の方にひなたの顔を向ける。
その時、その枝から桜の花びらが1枚ひらりと落ちた。
それを見てひなたが笑った。それは、この満開の桜にもこの光に満ちた春の陽気にも負けないほどの、まぶしい笑顔だった。
ふと夫の方を見ると、向こうも同じくこっちを見ていた。
「笑ったね」と私が言うと、「うん、笑った」と彼も言った。
娘はきっと、今日見たこの圧巻の桜も、今日感じたこの春のあたたかさも、この瞬間私たちがどんな顔をしていたかも、すべて覚えてないだろう。
でも私たちは一生忘れない。世界中の幸せをかき集めても足りないほどの、溢れんばかりの幸せを。
「来年もまた来ようね」
花びらの影の下で2人に向けて言う。
夫が握る娘の手は、気づかないうちに大きくなっている。きっとこれからもあっという間に大きくなってしまうのだろう。
夫がひなたの顔を私に見せるようにこっちを見た。
「うん。来年も、再来年も。もういい加減いやって言われるくらいになっても、毎年来よう」
「──うん」
春に欄干わたるのね
違うわ~ってかあε=(ノ・∀・)ツ
お題は👉️春爛漫👈️
じゃあ~ってかあε=(ノ・∀・)ツ
外の世界には四季、なんてもんがあるらしい。
暑かったり寒かったりそんなことがあるらしい。
そういうのってなんか凄く不便そうだ。
でも上の人達はそんな景色も好きみたいで、そういう景色を作るために作戦会議をしていたらしい。
珍しく有意義な話し合いだった、なんて話してるのをボクは聞き流した。
でも、結局四季ってなんなんだろうか。
「⋯⋯演奏者くん、四季って知ってる?」
知ってそうだと当たりをつけて彼に聞くと、彼は微笑んでいった。
「四季は知らないけど、春なら分かるよ」
「⋯⋯⋯⋯春?」
「春は花が咲くんだ。色んな色の花が」
「⋯⋯⋯⋯ここだって咲いてるじゃん」
「そうだよ。だから知ってるって言ったろ?」
全く言ってる意味が分からなくて首を傾げたら彼は微笑んだ。
「ここは永久に春なんだよ、権力者」
先日の暴風にも耐えて
山桜も里の桜も誇らしげに満開に咲き誇っている
風がなんとも心地好い
風が、空気が、春に満ち溢れて気持ちも爛漫だ
彼も桜を眺めて、春を感じているだろうか…
咲き誇る光、あぁあれは春の訪れか…
春の訪れと言えば、なにを思い浮かべますか?
私は、切なく、淡い季節だと感じる。
桜は咲き誇り、光り輝き、心を癒し、満ち溢れる。
けど、桜は儚く散る。
ひとつひとつ香り始める…
空の風が迎えに来て、空へと羽ばたく。
そしてまた遠く待ち続け、懐かしい声と共にまた咲き誇る。
切なく、淡い、始まりの季節。春爛漫。
松任谷由実「春よ、来い」引用
君とこの桜をもう一度見ることは叶わなかったね。
どうか安らかに。
今年もまた巡って春が来た
何時もより遅い開花の桜は、貴方と見るには丁度良かった
はらはらと散る花弁
風が舞い上げる花吹雪の中、貴方はただ、
ぼくに柔く微笑みかけている
あまりにも優しい瞳で微笑み掛けるものだから
ぼくは、小さく芽生えたこの感情をどうすればいいか分からなくなってしまう
嗚呼、どうか
ぼくが居なくなっても
貴方の心の中がこの景色のように、
春爛漫でありますように
------、、、
お題 : 春爛漫
🐭🕊️ ドスゴー
やわらかな光が溢れた世界
ふわりとひらく春の訪れ
はじまりは
いつもここから
───「春爛漫」より
『春爛漫』
このところの陽気で桜が見頃を迎え、天気も気持ちの良い晴れとなれば、突発的に宴が開かれるのも当然の流れだった。気分良く盃を傾けて居ると、隣にどさりと腰を腰を下ろした男が居る。
「花なんか見ても酒の味は変わらねェだろうが」
理解できないという声でそう言って煙草を吹かすものだから、上がる口角を隠すように盃を干した。こんな突発的に開かれた宴に出る義理なぞ何処にも無いのに、こうして隣に座るのだから。並べておいた酒瓶を適当に手に取って口を付けて飲み始めるので周囲の者がそわそわし始めたのを手を振って収める。酒は共に飲む方が美味いものだ。
「お前の髪も桜色だよな」
「ア?」
背中に流れる髪を一房手に取る。
「この辺に咲いてるやつより濃い色してんな。山の方のやつに似て」
ばしりと手を振り払われる。歪められた口元から煙草が落ちそうになっている。
「テメェ良くそんな恥ずかしいこと言えるな……」
「そうかあ?」
思った事を言っただけだぜ、と笑えば、照れ隠しだろう、強めに腹を叩かれた。
春爛漫なのに気分は優れません。
何故気分が優れない理由は
家族の事です。
いつか話しします。
川辺で咲き誇る桜
ゆるい湿気と暖かな日差し
飛び始めたシジミチョウ
鳥のボイストレーニングが始まったらしい
眠っていた木々や草花が一気に目覚め
辺り一面緑の生気に満ちる
彼らの吐息が風に乗り
春を告げてまわっていた
あちらこちらで咲く花の
蜜を集めて回る蜜蜂
窓越しに少し見つめ合う
素晴らしい毛皮をお持ちで
彼女は少しだけ様子を見て、去っていった
ああ、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえる
みな、心浮き立つ目覚めの春だ
命溢れる美しい季節
猫と畳に寝転んで
日向にあたりながら微睡む
うん、今日もいい日だ。
「春爛漫」
校門前にて、一世一代の告白。
忘れもしない、高校の卒業式と私の恋が同時に終わった日。あれ以来、私は桜が嫌いだ。
今年も、その嫌いな存在が道の両側に所狭しと並んでいる。ああ、春だなぁ。頭の隅で呟く。
「桜なんて、見たくないのに」
春爛漫。私の思いとは裏腹に、春を代表するそれは光の下で輝いていた。
これまでは満開の桜が目に映っても、「咲いてるねー」ぐらいしか思わなくて、心にはほとんど何の感情も湧かなかった。だけど最近になって、桜を美しいと感じられるようになったのは、たぶん自分に見栄を張って心に蓋をすることが無くなったからなんだと思う。それまでは、「自分が花を綺麗と思うのは傍から見たらキモい」みたいなことを無意識に思っていて、そのせいでちゃんと花を見るってことをしなかった。今となっては卑屈で自意識過剰だなって思えるけど、前は本気でそう考えていた。そこから何で変われたのかは覚えていないけど、変われて良かったと思う。
すすり泣く音。若々しい歌声。堂々とした宣言。
僕達は今日、卒業するのだ。
堅苦しい先生の挨拶。
風に吹かれてやってくる桜の花びらが足元を彩る。
別れと成長の証を受け取った友は、
僕の知らない顔をしていた。
桜の木の下で、最後の集合写真を撮る。
ふざける者も、涙目な者も、みな笑顔だった。
今までお世話になった先生も、
こんな時にまでそんな先生に叱られている彼も、
どこか嬉しそうで、悲しんでいた。
校長先生の長い話は、何故か苦だと思わなくて。
友達といつものように話そうとしても、
声より先に涙が出てきてしまった。
そんな僕をひとしきり笑った後、
一緒に泣いてくれたいつも通りの君に、酷く安心した。
別れは寂しくて、きっと好きにはなれないけど。
変わらない絆とこの先の出会いに思いを馳せて。
春爛漫な世界に、僕達は旅立つ。
わたしは、むかしから恋愛がよく分からなかった。
自分自身の気持ちを聞かれることも、苦手だった。
考えや思ったことは有るのだが、それに感情が乗らないのだと思う。
だからか、『浮気とか不倫は、いや!絶対に無理!』
だと言っている人間の気持ちが、よく分からなかった。
人間は、ゴリラとチンパンジーの間の生物で
ゴリラは一夫多妻制、チンパンジーは乱婚、と、わたしは聞いた。
ならば、不倫や浮気は仕方ない。と、わたしは思う。
そんな常識外れのわたしの夫は、とんでもなく女遊びが好きだった。
お見合いの席で、
「結婚後も、あなた以外の女の人と遊んで良い?」
と、言う程に……。
そんな彼に、わたしはこう返した。
「別に良いよ。わたしは、むかしから恋愛感情が分からないから。
わたしを束縛しないなら、不倫や浮気も大歓迎する。
でも、約束して欲しいことがあるの。」
彼は首を傾げて、微笑んだ。
「どんなこと?」
わたしは、応えた。
「わたしも、相手の女の人も、大切にすること。約束できる?」
彼は、先程と異なり、真剣な表情と声で言った。
「うん、約束するよ。あなたも、他の女の人も、大切にする。」
あれから色々あったけど、夫との関係は良好で、
ずっと約束を守ってくれている。
わたしは、今も幸せな生活を送っています。
こんな幸せな人生を歩ませてくれた夫には、感謝しかない。
改めて、今日は夫に感謝を伝えてみようと思う。
どこもかしこも春爛漫。
私の気持ちとは真逆な景色が広がっている。
辛いことがあった時、
ここはいつでも私を優しく包み込んでくれる。
春には柔らかな光。
夏には心地よい風。
秋には暖かな色彩。
冬には澄んだ空気。
どんな季節でも、どんな私でも、全てを包み込んでくれる。
新しい環境。
初めましての人も、慣れないことも、
全部私を追いかけて焦らせる。
もう無理だと思って逃げた先。
どうしようもなくなって逃げた先。
いつもの場所。
目を開ければ桜の花がいっぱいに咲いて。
柔らかな光をうけて。
優しい桜の色が私を包んで。
大丈夫だと、
逃げる時があってもいいんだと、
焦らなくてもいいのだと、
満開の桜が教えてくれる。
まさに春爛漫。
私の気持ちとは真逆な景色。
だけど、その景色は私の全てを包んでくれる。
春爛漫――――
日本は四季がある故、季節の変わり目がきっちりと存在している。
特に冬から春へ季節が変わる頃、人は春の香りを感じるそうだ。
私にはその香りを感じる事が出来ないが、春というものは視覚的にも嗅覚的にも非常に感じやすい季節なのかもしれない。
視覚的、桜が定番だろう。私は世間一般的な桜も好みだが、枝垂桜なんか特に魅力的だと思っている。日本に生まれた以上、沢山の桜が見られる事を喜ぶべきだろう。満開の桜を見てご飯を食べたり、写真を撮ったり匂いを楽しんだり……人それぞれの過ごし方があるだろう。一喜一憂、一年に一度の春という瞬間を春爛漫と共に。
青空に白い雲が映え、吹き抜ける風がソメイヨシノの花弁を踊らせる。四月の陽気は優しく心臓に溜まっていって、草木の匂いと共に満ちていく。
「なんか、走り出したくなる。裸足で」
そう言って、従姉妹の香織はブルーシートに寝転がった。同じように寝転ぶと、空の高さに目眩がした。
親戚が集まり花見をするのは、我が家の恒例行事になっていた。春休みの期間を利用して、集まれるだけの親戚が一同に会するのだ。
「気持ちは分かるかも」
大人たちは既に出来上がっていて、小学生共は鬼ごっこをやりに行ってしまった。そのどちらにも属さない香織と自分は、こうして寝転がり暇を潰しているというわけだ。
「春って、私一番好きかも」
「冬よりはいいかもね」
春と夏は一考の価値があるだろう。
「ソメイヨシノって、なんで一斉に咲くか知ってる?」
唐突ではあったけれど、状況には合っているクイズだった。答えはもちろん知らない。
「合図でも出してんの?」
「ううん。正解はね、皆んな同じ遺伝子で出来てるからだって」
「つまり?」
「つまりね、ソメイヨシノは皆んな元のソメイヨシノのクローンなの。だから、同じ環境だと同じように咲くんだって」
寝転がって伸ばした右手に、香織の長い髪が触れる。繊維質な手触りが、指先にやけに残った。
「遺伝子が同じ、ね」
そうやって見ると、舞っている花弁がやたら均一なものに見えてくる。彼らは同じ色で、同じような大きさをしている。
「私たちの遺伝子も、他人よりは少しだけ同じなんだよね」
その私たちに、きっと走り回る小学生共は含まれていない。彼女は今、私たちという言葉を使って二人を世界から切り分けたのだろう。
「……血の繋がりとしては薄いと思うけどね」
「いっそのこと、皆んな同じだったら良かったのにね」
同じだったらいいのになと思ったことはなかったので、何も言うことが出来なかった。代わりに風が強く吹いた。
沈黙を否定するように、香織は勢いをつけて起き上がった。ブルーシートは情けない声を上げ、彼女がこちらに手を差し伸べた。
「自分で立てるよ」
言ってから、おもむろに立ち上がる。香織は少し逡巡してから、差し伸べた手を後ろで組んだ。
「戻ろう。あっちもそろそろ片付け始まるでしょ」
「うん。そうだね。」
靴をきちんと履いてから、ブルーシートを丁寧に畳んでいく。遠目に居た両親や叔父さんが手を振っているのが見える。来年、ここに自分は居ないだろうと、何故かそう思った。
春爛漫、いつか散ると知っていたとしてもその日を思わずにはいられないのだ