幻覚

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『春爛漫』

このところの陽気で桜が見頃を迎え、天気も気持ちの良い晴れとなれば、突発的に宴が開かれるのも当然の流れだった。気分良く盃を傾けて居ると、隣にどさりと腰を腰を下ろした男が居る。

「花なんか見ても酒の味は変わらねェだろうが」

理解できないという声でそう言って煙草を吹かすものだから、上がる口角を隠すように盃を干した。こんな突発的に開かれた宴に出る義理なぞ何処にも無いのに、こうして隣に座るのだから。並べておいた酒瓶を適当に手に取って口を付けて飲み始めるので周囲の者がそわそわし始めたのを手を振って収める。酒は共に飲む方が美味いものだ。

「お前の髪も桜色だよな」
「ア?」

背中に流れる髪を一房手に取る。

「この辺に咲いてるやつより濃い色してんな。山の方のやつに似て」

ばしりと手を振り払われる。歪められた口元から煙草が落ちそうになっている。

「テメェ良くそんな恥ずかしいこと言えるな……」
「そうかあ?」

思った事を言っただけだぜ、と笑えば、照れ隠しだろう、強めに腹を叩かれた。

4/10/2024, 4:47:49 PM