『放課後』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『放課後』
一日の終わりを示すチャイムが人の声に包まれた教室に鳴り響いた。
[はい。じゃあ、気をつけて帰るよーに。]
[あ、中野はちょっと残って。じゃあさよーなら。]
え、嘘。えぇ…まじかぁ….。
何かしたかなぁと思いながら、私は散りゆく人を掻き分け先生の元へと向かった。
「なんですか?」
[ぁあ中野。お前さ、この前の図書委員サボっただろ。]
「あ。すいません、忘れてました。」
[司書の神田先生が資料渡したいって。]
「分かりました。ありがとうございます。」
口ではそう言いつつもわざわざ別の校舎の図書室に行くのはめんどくさかった。重たい足を動かし、私は窓から見える校舎に向かって歩いていた。
「し、しつれいしまぁす。」
中に入ると、中には誰もいなかった。先生を待つついでに、暫く本棚を眺めていた。
普通の人なら行けない受付にも行ってみた。
コロコロつきの椅子でぐるぐる回ってみたりもした。
あれ?何これ。
カウンターの下の方に、DVDのようなものが落ちている。ケースが茶色くなっているから長い時間ここにおいてあったのだろう。目をクラクラさせながら、私はケースを拾った。DVDにはキレイな字で〈あなたへ〉と書かれていた。
『あ…中野さん?放課後に来て貰っちゃってごめんね。』
「あ、いえ。暇だったので、全然。」
先生に言えばよかったのだが、私はDVDをカバンの中に入れていた。
――私が貴方と図書室で出会ったのは、きっと運命だと思う。
誰もいない教室で一人、迎えを待っている。
窓の外から聞こえる運動部のかけ声。吹奏楽部の練習の音。
何一つ変わらない。いつもの放課後だ。
一人足りない事を、誰も気に留める事などいない。
存在しないとはこういう事かと、どこか呑気に考えながら、使う者のいない机の縁をそっとなぞった。
窓の外を見遣れば、赤い空が段々に色を黒に染めている。
すっかり日が沈むのが早くなってしまった。こうして待つ時間も、少しずつ短くなっていく事だろう。
椅子を引き、腰掛ける。
誰からも気に留められない、この机の前の席は、自分の席だ。
席に座り、後ろを振り返って色々な話をした事が、遠い昔のように思える。実際には、二月ほどしか経っていないというのに。
ふふ、と思わず笑う。過去を懐かしむなど、大人のような気がして可笑しくなってしまった。
「夏休みは大分濃かったから、待つ時間はこれ位がちょうどいいのかもね」
誰にでもなく呟いて、伸びをする。
待つのは嫌いじゃない。
約束をした彼女を信じているから。
彼女は彼女ではなくなるのだと言われた。神との契約によって、新しくなるのだとも。
正しく理解は出来なかった。
だから会いに行った。会って、時間の許す限り話して。
そして約束をした。
今度は会いに来てほしいと。待っていると。
待つのは嫌いじゃない。
時間が掛かる事など、分かっている。
覚えていないだろうと言われたのだ。自分の事だけを忘れず会いに来てくれるなど、都合の良いおとぎ話を信じたりはしない。
けれど、約束をしたから。
きっといつか思い出して、会いに来てくれると信じている。だから、待っているこの時間は、嫌いではなかった。
「そういえば、学生の時はここで待てるけど、卒業になったらどうしよう。いっそ留年した方がいいかな」
「それはやめて。というか、なんでそういう選択肢が当たり前のように出てくるの」
誰にも拾われる事がないであろう呟きに、返る言葉。
呆れたような、懐かしい声音。
「えっ?なんで?」
教室の入り口。声のした方を見ると、約束をした彼女が呆れた顔をして立っていた。
「なんでって、約束したからに決まってる」
慌てて駆け寄ると、小さく笑われる。
姿もその表情も、変わらない。
理解が追いつかず、頭にたくさんの疑問符を浮かべると、彼女の笑顔が、少し困ったようなものへと変わる。
「なんで?てっきり年単位で待つんだと思ってたのに」
「なんでだろう。割とすぐに思い出せたんだよね」
「なにそれ。あたしの覚悟をどうしてくれる。でも、早く来てくれたおかげで、留年するかどうかの究極の選択はなくなったから良かったけど」
「だから、なんでその選択肢が当たり前のように出る」
はぁ、と溜息を吐かれる。
そんな所も変わらない。夏休みが訪れる前に戻ったようだ。
「なんか、変わらないね。もっとこう、きらきらしてたり、すごい美人になったりとかも想像して、会えても分かるか少し心配だったんだけど」
「人並みで悪かったね。これでも新しくなったんだけど。元の体は厳重に封印されてしまったから」
だろうな、と頷いた。
普通の人には耐えられない程の呪を抱えて、長い年月を生きてきたのだと聞いた。
新しくなるならば、その呪とやらもなくなってしまうのだろう、むしろなくなってしまえと思っていたのだから、何の不満もない。
けれど、彼女はその肯定を別の意味で捉えたようだった。
「外側も中身も変わってしまったから、会うべきか悩んだのだけれど。一応約束だったからね」
来た事を申し訳なく思っているようなその表情に、むっとした。
頬を両手で包んで、目を合わせる。
「変な勘違いをしないで。約束する時に言ったけど、人でも呪でも関係ないの。外側がぐちゃぐちゃしてようが、中身がどろどろだろうが、あたしの親友なんだから、堂々とあたしの側にいればいいの」
目を逸らさず言い切れば、どこか幼い瞳が不思議そうに瞬く。
変わっていないように見えたが、どうやら新しく生まれたのは確からしい。
そんな事を思いながら名前を呼ぼうとして、まだ新しい名前を聞いていなかった事に気づいた。
「名前。まだ聞いてなかった。教えてくれる?」
頬から手を離し問いかければ、彼女はとても嬉しそうに笑う。
名前を聞かれるのが、それを答えるのが幸せだと、彼女の笑顔が告げていた。
「黄櫨《こうろ》」
黄櫨。新しい彼女の名前。
音の響きでしか分からないはずのそれが、正しく認識出来て少しだけ苦笑する。
名付けた神の主張の激しいその名に、呆れに似た感情が浮かんでしまう。
彼女が幸せである限りは、言葉にする事はないだろうけれど。
「じゃあ、黄櫨。改めて、会いに来てくれてありがとう。これからもあたしと親友でいてくれる?」
「もちろん。これからもよろしく、曄《よう》]
くすりと、どちらからともなく笑い合う。
「おかえり、親友。ここにはどれくらいいられるの?」
「ただいま、親友。卒業まで一緒にいられるよ。人らしく生きるのが、神様の望みだからね」
手を差し出せば、当たり前のように手を重ねて繋ぐ。
待っていた日常が戻ってきた。
それが嬉しくて、繋いだ手を揺らしてもう一度声を出して笑った。
202401013 『放課後』
「あ! 王子~。やっと戻って来た~」
ホームルームの終わった後。
クラス全員の提出物を職員室まで届け終わって教室へ戻ると、僕が一歩足を踏み入れるのを見計らったかのようにして声をかけられた。
顔を上げてそちらを見遣れば、少し前まで行動を共にしていたクラスメイトたちが手を振って僕を呼んでいた。
ああ、しまった。声をかけられる隙を作ってしまったよ。
望んで輪に入った訳でもない。無理矢理僕を組み込んで、スクールカーストの上位を気取る。横柄な態度の彼らに嫌気が差して、最近は距離を置いていたというのに失敗した。
こうなるなら、提出物だけじゃなくて、鞄も全部持って教室を出れば良かったな。
「あれ。まだ残っていたの? もう皆帰ったかと思ったよ」
本当はもう彼らと関わりたくは無かったのだけれど、ここであからさまに避けたら角が立つ。
嫌悪感は表に出さず。笑顔を張りつけてあくまでもにこやかを意識して彼らに近付いた。
「王子帰って来るの待ってたんだよ。なあ、久しぶりにカラオケ行こうぜ。最近全然一緒に行かねーじゃん」
「ええ? 今日?」
悪びれもなく僕を誘う彼らに、うっかり少し本音が漏れてしまった。
勘弁してほしい。テスト期間を控えて、ただでさえ勉強に集中したいのに。
そつなくこなすが故に、皆僕のことを何もしなくても勉強が出来ると勘違いしている節があるが、僕だって苦手はあるし、テストは万全に備えたいんだ。
遊ぶ余裕は持ち合わせていない。
「何だよ、行かねーの? 最近ノリ悪いじゃん。つれねーな」
「ああ、うーん。ごめんね」
僕の都合などお構いなしに不機嫌になる彼らに嫌悪が増す。
必死にポーカーフェイスを崩さないように心がけるが、駄目だ。気持ちが追い付いていかない。
ああ、だから距離を置いてフェードアウトしようと努力していたのに。
仕方がない。今度こそ、これっきりだと区切りにしよう。
今日が最後だと諦めて、彼らの遊びに付き合うしかないか。
我慢して、彼らの望みに応えようと口を開きかけた。
「お前ら、先約あるのに困らせてんじゃねーよ」
けれども、僕の言葉を遮るようにして後ろから声がかかった。
振り返れば、同じ料理部所属の彼が仏頂面で仁王立ちしている。彼も帰るところだったのか、肩には既に鞄を担いでいた。
気が付かなかった。一体いつから側に立っていたんだ?
呆気に取られる僕を尻目に、彼はすらすらと嘘を吐いた。
「王子はこれから俺に勉強教えてくれる約束なんだよ。分かったらさっさと帰してくれねえ?」
「はあ? 真面目ちゃんかよ。最近お前ばっか王子独占して狡いぞ」
「良いだろ別に。俺だって王子に部活で料理教えてるんだ。交換条件なんだから関係ねえだろ」
彼は怯むこと無く言い切ると、踵を返してそのまますたすたと教室を出て行ってしまう。
そうして教室の入り口で一度だけ振り返ると、「ほら、早く来いよ」と僕を急かした。
いつになく強引な彼のやり口に、思わず声を出して笑ってしまった。
ああ、可笑しい!
君、そんな真似も出来たんだね。
思わぬところからの反撃に、言われた彼らも驚いている。
予想外の展開だが、僕にとっては渡りに船。
煙に巻くなら今のうち。彼らの威勢が戻る前に立ち去ってしまうのが吉と見た。
「えっと、そういう訳だから。ごめんね」
不満げなクラスメイトたちに手を合わせて取り繕う。
そして急いで荷物をまとめると、教室を出て先を行く彼を追いかけた。
ああ。彼の側を、選んで良かった。
きっかけは、ただあの集団から離れたくて、都合良く理由をつけて近付いたのが始まりだ。
料理を教わりたかったのは本当さ。
けれども、所詮は僕の事情を優先して、一方的に結んだ友人関係。
本当は、ずっとそこに引け目を感じていた。
だからこそ、こんな形で彼からのアンサーを得られたことが、今、とても嬉しい。
どうしよう。にやける顔を抑えられる気がしないよ。
「ありがとう。助かったよ」
下駄箱で追い付いて礼を言うも、彼は「別に」とだけ言って何食わぬ顔だ。
「それで、どうするの? これから勉強会?」
茶化すようにして問えば、顔を歪めつつも、意外にも彼は素直に頷いた。
「今回の範囲、数学ガチで解ける気がしねーんだよ。迷惑じゃなかったら、頼んで良いか?」
あくまでも謙虚な姿勢の彼に、可笑しくてまたもや笑ってしまう。
さっきはあんなに強気で啖呵を切ったのに、何とも面白いことを言ってくれるものだ。
「いいよ。普段のお礼に、喜んで。じゃあ、図書館に行こうか」
「うん。でも図書館て、私語禁止なんじゃね? 俺、教えてほしいんだけど」
「最近、会話とか飲食オッケーの自習スペースが出来たんだよ。僕も行ってみたかったし、一緒に行こうよ」
「へえ。だったら部長も誘おうぜ。まだその辺りに居るかもだし。どうせなら、三人で行こう」
そう言ってスマホを弄る彼に心が踊る。
まだ付き合いは浅いけれど、気が知れた仲間と過ごす放課後の時間に、わくわくとした気持ちが止まらない。
やっぱりさ。無理に付き合う相手より、楽しい友人と居るのが一番だよね。
(2024/10/12 title:058 放課後)
放課後……
大人になって見ると、放課後の部活の声だったり、楽器の音、季節の虫の声、鳥の鳴き声…
その時に聴いてた音は、大人になったら何故か、とても強く懐かしいと感じれるし落ち着くおと、だった。
放課後とはその時にしか感じられない特別な何かがある。
私は放課後にある部活が好きだ。
後輩みんな面白いし優しいし、誰が来なくても責めないし、
優しい雰囲気のこの部活が好き。
でももうあと少しで、3年生は引退しないといけない。
周りの運動部より終わるのは遅いので一緒にいれる時間は
他の部活より長かった。
運動部やめて良かったかも。こんなにいい仲間と出会えて、
楽しい放課後ライフ送れて、最高の青春だった。
あと少しの放課後青春ライフ、精一杯楽しんで終わってやる。
「放課後」
放課後児童クラブで
一言間違えたら
6年間虐められるだなんて
思いもしてなかった
帰りに何処に寄ろうか
なんでもないおしゃべりが
楽しくて居心地よくて時間を忘れる
宿題もムカつく先生も
めんどくさいことはほっといて
笑い合って今日を終えよう
今日が楽しければそれでよし
そして明日はまた
みんなと楽しくおしゃべりするんだ
「放課後」
お題、放課後
学生時代には戻りたいとは思わないけど、もう一度体験してみたいなあとは思います。
ネタは思い付きませんでした
放課後
チャイム。あの子の机、消しかすと椅子の温度、チョークの匂い全部ひとりで僕だけの教室になる時間
「この放課後という絵はどういった意味を持って描かれたのでしょうか?」
個展に取材に来た雑誌の記者は、一枚の絵を指さして私に問いかけた。
美術室の壁一面をマリーゴールドで埋め尽くしたその絵は、オレンジや赤が主張して、まるで燃え盛るようだった。
「あぁ、この絵ですか。1番の思い出なんですよね」
コンクールに出るという理由で借りていた美術室。
当時高校生の私は、高校生活の放課後を1人で過ごしていた。
大きな窓から入る夕日が綺麗で、グラウンドにはサッカー部と野球部。
そして手を繋いで帰るカップル。様々な青春の形を見て来たのだ。
「卒業前日ももちろんそこで過ごしてました。そしたら今まで見たことないくらいのオレンジのような赤のような綺麗な夕日が差し込んできたんです。
私にはそれが、一面のマリーゴールドの花畑に見えて」
ポジティブもネガティブも持ち合わせた、特別な「放課後」
『放課後』
放課後、私は水くれ当番のみくちゃんと一緒に教室に残っていた。3年生になって、自分用の青い鉢に植えたホウセンカを眺めるのは毎日の楽しみだったが、水くれ当番は外水道が遠かった為あまりやりたくない作業だった。
2階の窓から真下を覗くと、クラスの鉢が校舎に沿って1列に並んでいるのが見える。2人で顔を見合わせよからぬ事を考える。
‥もうここから水を撒けばいいんじゃない?
それから2人でコップを使い、水をジャージャーと鉢に目掛けて流した。時々下教室の出窓に当たって上手く水が入らなかったがそのまま作業を続けた。
数分後、下の1年生の先生が顔やメガネに水しぶきを浴びた姿で怒鳴りこんでくることを、2人はまだ知らない。
放課後のチャイムが鳴る。毎日聴く音で毎日感じるこの開放感。時が一刻一刻過ぎていると感じさせるこの音に慣れてしまったせいで時間の流れが分かりにくくなってしまった。
またチャイムがなると思った。いつもの。放課後の。合図の。
だが鳴らなかった。どうやらスピーカーが故障したらしい。周りのヤツらはさほど気にせずはちゃらけている。普通なのだろう。それが。
だが自分は違った。毎日聞く音で毎日感じる開放感がチャイムが鳴らない、と言うだけで感じなくなってしまい途端に焦燥感でいっぱいになってしまった。
明日が待ち遠しい。
放課後になれば自分は「無敵」になると思っていた。
あの頃の僕は小学生だった。
校門から出て速攻家へ帰って、玄関からランドセルだけを放り投げる。宿題なんて二の次三の次。
友だちのところへ行ってくる。
チャリの鍵を取って外へ出た。
門限まで二時間もなかった気がした。
だから、当時の僕は無敵になるしかなかった。
自転車に跨り、ペダルを漕ぐ。
車輪が回り、回転が調子に乗ってくると、頭の中はいつもマリオカートのBGMが鳴っていた。
ててて〜、てれっててって。
今の自分はスターを取っている。
いわば無敵モード。
周りの景色が止まって見えていた。
速い、速いと自分は一段と急いでいた。
でも、大人になった今。
無敵などというものは、人生においてないのだろうと分かってきた。
あっても一瞬であり、その時は過ぎ去った、と思いたい。
あ〜あ、どこかにスターが落ちてないかな。
そんな風に地面ばかり見ているから、月や空や雲などの他のアイテムに気づかず過ごしているのかな、なんて。
一日の授業が終わり、勉強から解放される放課後。
友だちと遊んだり、部活をしたり、バイトをしたり、過ごし方は人それぞれだけど、一つ言えることは、その過ごし方は、その時しかできない。ってこと。
何年か後に同じメンバーで遊ぼうにも、来れない人がいたり、くたくたに疲れるまで遊び倒したり、若いからできることができなくなったりする。
何気なく過ごしている放課後。
楽しく過ごしてほしいな。と思います。
ウチの学校の下校時間、校内放送で
ドヴォルザークの「新世界」第二楽章
いわゆる「家路」が流れていた。
結構気に入ってたんだろう。
別に放課後なんの用もないのに
よく、曲を最後まで聞いてから
校門を出て行ってた記憶がある。
(放課後)
高校生の時、『りっくん』という友達がいた。
身長170センチほどの痩せ型、塩顔のイケメンで、将棋部かテニス部に入ってそうな感じなのに、なぜか柔道部に入っていて、クラスではいつも気怠そうにしていて、学校もサボりがちで、だからといってヤンキーというわけでもなく、正義感が強くて、陽キャがイジメてる子の机を教室の外に出してクスクス笑ってると、無言で立ち上がってその机を教室の中に戻すことができるような不思議なヤツだった。
イジメられてる子を助けて、陽キャから「かっこいい~」と、からかわれても、「だせーことすんなよ」とボソっと返すのがかっこよかった。
記憶が正しければ、りっくんに話しかけたのは俺からだ。
「俺も空手やってたんだ」みたいな感じで。
りっくんは柔道部なのに、なにが『も』なのかは不明だが、とにかく、それをきっかけに仲良くなったのを覚えている。
りっくんは不思議なヤツで、見た目はそれなりに良くて、陰キャがつけないヘアーワックスをつけてバシっと髪をキメてたし、なんかダルそうな感じもヤンキーぽかったし、学校の校則で禁止されているにも関わらず関係ねぇよってロックな感じで原チャで通ってきてたけど、ヤンキーじゃなくて、陽キャグループにも入ってなくて、俺みたいな陰キャグループにも入ってなくて、かと言って一匹オオカミ!って感じで尖ってるワケでもなくて、休み時間はいつも寝たフリしてるような人だった。なのに、二人きりで話す時は芸人みたいに面白いヤツだった。
だから好きだった。変な意味じゃなくて、個性的でカッコいいなぁと思ったのだ。
なにより前述したように、陽キャ連中がイジメられてる子の机を教室の外に出してニヤニヤした時、俺だって「こいつら……!」と思ったけど、助けてからかわれたり、バカにされるのが怖くて、なにもできず見てみぬフリをして友達とどうでもいい会話をして気づいてないフリして、あえて知らんぷりしたのに、りっくんは動いた。
今になって思う。りっくん、彼は大人だった。
この歳になって思うのが、後になって後悔して、自分を嫌いになるくらいなら、やれることをやるべきなのだ。誰に嫌われようが恥をかこうが馬鹿にされようが、そんなものは過ぎ去ってみれば本当にどうでもいいことなのだから。
……で、本題。
今日のテーマ『放課後』
あれはたしか、文化祭だか体育祭だかが終わった後の放課後だったか。
陽キャ主催の、クラスの男子全員参加の腕相撲大会が開かれた。と、いうのも、その時の担任の先生が、なんか分からないけど皆頑張ったので、全員にお弁当を奢ってくれるという話になって、一人500円までで好きな弁当を選べということになったのだが、陽キャがそれだけじゃつまらないと言って、腕相撲をして優勝者はどれだけ高い弁当でも頼んでもいいことにしようというミニゲームが催されたのだ。
こういう時、やっぱり強いのはヤンキー連中だ。たぶん普段、喧嘩してるからだろう。
いっぽう、陽キャはあんまり強くない。なんなら恰幅のいい陰キャに一瞬でのされることもある。しょせんヤツらは勢いだけだ。いや、ベツに俺が陽キャを嫌ってるとかそういうわけではなく、真実として。
そして、俺も、それなりに強かった。なにせ中学までは伝統派空手を習っていて、こう見えて黒帯もとっているのだ。現にクラス19人の男子のうち、11位という高成績を納めた。
そんで散々、書き連ねてきた『りっくん』の成績は、ここまで書いたのだから当たり前というか一位だった。
陽キャも陰キャも女子も関係なく、皆が応援する中、勝ち残った『りっくん』とクラスのヤンキーの一騎打ち。あの時じゃないだろうか、文化祭や体育祭より、クラスが一丸となった感じがあったのは。
結果は『りっくん』の圧勝だったけど、ヤンキーも「つえーわ」とか言って笑ってたし、陽キャも陰キャも盛り上がってて、女子も楽しそうで、先生も笑ってて、そこにイジメやからかいなんか1ミリもなくて凄く良い雰囲気だった。
腕相撲大会が終わって、弁当を先生が買ってきてくれた、すっかり夜の学校の放課後。物凄い非日常感があった。
「楽しかったな」
一人だけ1000円近くする、すき焼き弁当みたいなのを喰いながらりっくんが言う。
普段そんな気配りなど絶対しないくせに、陽キャ連中がペットボトルのお茶を皆に配ってくれる。もちろん、ふだんイジメられてる子にも。女子が「お疲れ」と笑顔で声をかけてくれ、飴やお菓子をくれる。ヤンキーが「結構やるやん」と俺の肩を叩いて笑う。
「うん、楽しかった」
あの頃、300円いくかいかないかくらいだった高菜弁当をくらいながらりっくんに答える。
こんなふうにクラス全員、仲良い日がずっと続けばいいと素直に思った。皆、普段、かっこつけたり大きく見せようとしたり、子供ながらに駆け引きしたり、いろいろあるけど、一皮むけば子供で仲良くなれるのだ。
だけど楽しいのは今日だけだ。明日から、また日常が始まる。
陽キャは、やはり誰かをからかってイジメるだろうし、ヤンキーもフンって感じで冷たくなる。俺達もそちら側に関わろうとはしない。
楽しかったけど、無性に切なくなった。
……と、いうような昔話を、一昨年のお正月に帰省した時に久しぶりに会った『りっくん』に居酒屋で飲みながら話して聞かせた。
俺としては、あの時の『りっくん』の心情などを聞きたかったのだが……
「はは、あったなぁ、そんなこと」
そう言って笑うと、りっくんはスマホの画面を俺に見せた。
「これ、こないだうちの妻と子供とお義母さんで旅行に行ってきたんだけど、ゴーカート乗ってさ……」
俺の話はさらっと流され、幸せな画像を見せつけてきて、なにか、自分語りまで始まってしまった。
まったく、大人の放課後はつらいぜ……
《 放課後 》
放課後はいつも放送室に入り浸り
友だちとおしゃべりしたり遊んだりしてた
今でも覚えてるのは、
一人が真ん中にいて、他の四人が指組んで、
左右の脇の下と左右の膝裏に四人の指を差し込んで
持ち上げようとすると
真ん中の人がふわって浮くのよ
四人の指で人が簡単に浮くの
これやるのが楽しくて好きだった
放課後
生きている
まだ、生きている
息をしている
雑巾は、血を全然吸ってくれない
あ、喋った
人間って、不思議
放課後の暗い教室で
必死に血を拭いている私を想像して
くすりと笑った
【放課後】
放課後、また補習を受ける
この時間が好き
だって好きな人と一緒だから。
これがわざとだってことも、
先生、わかってないのかな?
放課後
クラスには馬野先生というスパダリイケメン先生がいた。
私をよく気にかけてくれて、良い先生だ。
「鹿山、いつもの空き教室で、補習だからね。」
そう、呼びかけたのは馬野先生。
あぁ、私は今日も馬鹿になる。